せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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51.わたし達のリーダー

 

 

「あたしゃ乙女かい!」

 

 

 最近すっかりと馴染みになってしまった感のあるCiRCLEのカウンターに突っ伏して声を押し殺すように叫んでしまった。

 

 先日の蘭に相談した時の自分をふと思い起こしてしまい、あまりの恥ずかしさに悶絶もやむなしといった気分です。

 もし痛くなくて死ぬ事が無ければ切腹したいですし、仮に水圧で潰されないのなら深海にでも潜って隠れてしまいたい程の恥でございますよ。

 

 確かに普段から蘭と仲良くなりたいとは思っているのですが、あの時のわたしは完全に乙女脳に占有されて普通ではなかったのです。

 

 なーにが『蘭に触れられるの、好きみたい』ですか!

 

 馬鹿ですか、愚か過ぎますよ。

 蘭もノンケなのですよ、そんな女の子相手にあんな甘えっぷりを披露してしまったら最悪に決まっているではないですか。蘭は優しいから黙って微笑んでくれてはいましたが、内心ではきっとコイツキモチワルイとか思っていたに違いありませんよ。

 

 その証拠に先程アフターグロウのみんなが帰っていった時にも他のメンバー達は笑顔で大きく手を振ってくれていたのに、蘭だけは此方に一瞬だけ顔を向けた後に小さく手を振っただけでした。

 

 これは引かれていますよね、ドン引きされちゃっていますよね。

 

 自業自得とはいえ距離を置かれてしまったのかと思うと悲しくなります。

 蘭が想像以上に良い人だったので、これから先も良き友人として末永く仲良くやっていきたいなと思い始めた矢先だったというのに、もう優璃ちゃんのバカバカと言いたくもなるってものです。

 再び仲直りをしたいとの思いもありますが、どう修復の機会を伺ったら良いものか難しい事態ですよまったく。 

 

 とはいえ落ち込んでいても仕方がないのでここは気持ちを切り替え次のオーディションへ向けて、蘭やまりなさんから貰ったアドバイスを無駄にしない為にもポピパのみんなをしっかりと見守っていく所存でございます。

 

 しかしそれにしても詩船オーナーはポピパに不合格を連発する割には、一向にオーディションを打ち切る気配はありませんね。

 有難い事ですがいつオーナーの気分が変わるやも知れませんので、一期一会の精神で気合いを入れて本番を迎えなければなりませんよ。

 

 落ち込む気分を切り替えるように顔を上げてフンスと鼻を鳴らしたところで、急に音を出す程に震えだしたハーフパンツのポケットからこっそりとスマホを取り出して画面を確認をしてみると、なんとあの蘭からメールが届いているではありませんか。

 

 

(美竹 蘭)

[さっきは素っ気なくしてゴメン みんなが居ると恥ずかしくて]

 

 

 はう、いまだに気に掛けてくれるだなんて、やっぱり蘭ちゃん尊いです。

 

 

【わたしこそゴメンね 話すのに遠慮しちゃって】

 

(美竹 蘭)

[優璃も同じだったんだ それなら今度は家に来る? あたしの部屋なら遠慮なく話とか色々出来るし]

 

 

 蘭の部屋で遠慮も無し……もしや説教ですか? やはりこの前の事を怒っていらっしゃるのですか?

 

 

【お手柔らかにお願いします】

 

(美竹 蘭)

[そういう意味で誘ってないから]

 

 

 はう、怒られました。それはそうですよね、説教を受ける前から手心を加えてくれなどと言われたら反省していないのかと思われちゃいますよね。

 

 

【蘭と仲良くしたいです】

 

(美竹 蘭)

[ちなみに部屋は防音だから別に何かあっても大丈夫だとは思うけど]

 

 

 えっと防音って、そんなに怒鳴られる程の説教なのですか?

 もしかしてわたしが泣いてしまうくらいの強烈なやつなのですか?

 

 

「おーい優璃ちゃん、表情の乱高下は見てて楽しいけれど、仕事中のスマホは程々にね」

 

「うぐっまりなさん、人生とは何故にこうも乗り越えなければならない壁が多いのですかね」

 

「いや急にそんな哲学的な事を訊かれても……」

 

 

 まりなさんの注意もうわの空、わたしは世を儚む不幸なマッチ売りの少女のようにスマホを両手で握りしめ、悲しみを紛らわすように顔を上げて天井を眺めた。

 でもあくまで前向きに捉えてみれば、説教をしてくれるという事は友人関係の修復への道を模索してくれているという事ですよね。

 ここはその優しさを汲み取りまして、説教という辛苦の刻を耐え抜き再び蘭との友情を取り戻す為に、あえて優璃さんはこの細き足で刑罰へと向かわせてもらいますよ。

 

 

【覚悟を決めて蘭の部屋に行くね】

 

(美竹 蘭)

[あくまでもしもの話だけど痛くしたらゴメン]

 

 

 あのですね蘭さん、暴力を伴うのは説教ではなくて最近では体罰と呼ぶそうですよ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 安息日はポピパの練習日という事で今日は有咲の蔵に全員で集合をしております。

 こころのバンド活動など最近は色々と首を突っ込んでおりましたが、あくまでわたしの居場所はポピパの中にこそ在りなのです。大好きなメンバー達を支え、生温く鑑賞していく事こそがわたしのあるべき姿なのですからね。

 

 沙綾が持ち込んだドラムセット、りみりんの丸くて可愛いベース、おたえによく似合う澄んだ青色のギター、名前を聞いたけれど忘れた有咲の何か白っぽいキーボード、そして香澄の腰には眩い深紅の星型ギター(ランダムスター)

 

 広々としている訳でもない蔵の地下室で存在感を放っているソファーにひとりで座り、視線の先には五人もの楽器を持った可愛い女の子達が居る光景というのもまた、なかなかに贅沢と言うか臨場感が凄まじいものがありますよ。

 若干の緊張感が漂うなか、沙綾の刻むカウントから『前へススメ!』という新曲の通し練習が始まった。

 

 それは演奏が始まってから暫くして気付く事が出来た。

 

 まりなさんや蘭から切っ掛けを与えられていたからなのか、今までは気にも留めていなかった、気付く事さえ出来なかった違和感がわたしの表情筋を僅かながら強張らせてしまったのです。

 メンバー達の演奏の善し悪しなどは当然わかる筈もないのですが、ひとりだけ、香澄の様子だけがどうも普段とは違うように感じてしまいます。

 

 普段の歌声は歌うのが好きという気持ちの乗った伸びやかで晴れやかな、聴いている此方までもが楽しくなってしまうような声なのです。

 それが今は軽いというか気持ちがちっとも届いてはくれませんし、注意深く観察してみればやけにランダムスターの事を気にしている素振りが多いようにも見受けられます。

 なる程どうやらこれは『名探偵ユリン』の出番がやってきたようですね。やれやれ仕方がないです、ここはわたしの誘導尋問で見事にこの難局を切り抜けてみせましょうぞ。

 

 

 真実はいつもテキトー! なのですよ。

 

 

 ひと通りの練習が終わり、メンバー達が休憩の為にわたしの元へと集まったところでいよいよ名探偵ユリンの出番です。おっと、その前にみんなにタオルを配らねばですね。

 

 

「香澄、お前なんか様子がおかしくねえか?」

 

 

 わたしからタオルを受け取った有咲が顔に浮かんだ汗を拭き取りながら怪訝そうな表情で香澄に問い掛けた……って有咲たん、それはわたくしこと名探偵ユリンの大事な台詞なのですよ、推理小説の犯人でさえ探偵の話を聞き終えるまでは大人しくしてくれているというのに、いったい何を先走ってくれているのですか。

 

 

「別に普段通りだよ。もうありさ、何でもないって」

 

「全然大丈夫じゃないよ、私達リズム隊はみんなの音を聴いているから香澄の音が普通じゃないって自然と伝わるんだよ」

 

「そうだよ香澄ちゃん、もしかして体調でも悪いの?」

 

 

 タオルを渡している合間も沙綾やりみりんから香澄に心配の声が投げ掛けられる。ところであのですね、この状況って今のわたしが名探偵ではなく只のタオル担当の人になっているような気もするのですが。

 

 

「心配しなくても大丈夫だって。わたしってまだまだギターが下手だから、オーディションの為にもっともっと頑張らなくっちゃ」

 

 

 漸く全員にタオルを配り終わり、強がりを言いながらも俯いてしまった香澄の隣で正座をして肩に腕を廻します。さてと、いよいよ満を持して名探偵ユリンの出番とまいりますかな。

 

 

「香澄さんよぉ、お天道様(てんとさま)は誤魔化せたとしてもこの優璃さんの目を見て同じ事が言えるってのかい?」

 

 

 おやおやあれれぇ可笑しいですよ。他のメンバー達が感嘆どころか揃いも揃って冷たいジト目を向けてきますが、ひょっとしてですが間違えましたかね。探偵の喋り口調って確かこのような感じだったと思うのですが。

 

 

「わたしが駄目だから。だからもっと頑張らないといけないの」

 

「なっ、香澄……」

 

 

 俯き拳を握りしめながら絞り出すような言葉を口にした香澄に、有咲を始めポピパの面々は絶句したように口を半開きにして驚いた。

 わたしも普段とは違う香澄の様子にみんなと同様に言葉を失い、馴れ馴れしく肩に腕を廻した姿が今更ながらに場違いである事を察してしまいましたよ。

 

 

「そんな事ないよ、ギターを始めたばかりにしては上手だと思う。ねぇ、おたえ」

 

「香澄は頑張っていると思う」

 

 

 沙綾が慌ててフォローに入ると真面目な表情のおたえも同意の言葉を返し、りみりんも同調するようにコクコクと子猫のような可愛さで頷いていた。

 

 

「香澄、私達だってまだ上手とはとても言えねぇ。みんな一緒だろ、だから六人で頑張ってんだろ」

 

「そうだよ香澄、オーナーだってね……」

 

「わたしのせいだよ、わたしのせいでオーディションに受からないの」

 

 

 わたしの言葉を遮って顔を上げた香澄は、今までに見た事が無い苦悶の表情を浮かべていた。

 突然の出来事に何が香澄の身に起きているのか誰も理解が出来ぬまま、いたずらに沈黙の時間だけが蔵の中を満たしていった。

 ところで話は変わりますが、香澄の肩に廻したままの腕を回収するタイミングを見失って恥ずかしいポーズを披露したきりの優璃ちゃんを誰か救っていただけませんかね?

 

 張り詰めていた雰囲気の中で、沙綾がゆっくりと香澄の前に移動して膝を折るように座り優しく頬に右手を添えた。

 

 

「ねぇ香澄。私ってね、昔からとっても我慢しちゃう子なんだ。でもポピパなら、この仲間達なら何でも言い合えるようになれるかもと思っているんだよ。そう思わせてくれたのは香澄や、有咲や、りみりん、おたえ、ゆりのおかげ」

 

 

 少し瞳を潤ませた香澄が沙綾を見つめ返したたタイミングで、雰囲気に馴染む為にわたしも肩に廻していた腕をコッソリと解いてから何食わぬ顔をして再び肩に手を添え、したり顔をしながら何度も頷いておきました。

 

 

「だから香澄も、悩みがあるのなら私達だけには相談して。ポピパみんなで一緒に悩んで、一緒に頑張ろうよ」

 

「さーや、あのねオーナーに何が駄目なのか訊きに行ったの。詳しくは話をしてくれなかったけれど、あんたが一番出来てなかったって言われて……」

 

 

 沙綾が優しく諭すと観念したのか香澄が声を絞り出すように言葉を紡ぎだすと、その告白に有咲が瞬時に反応して血相を変えながらソファーから立ち上がった。

 

 

「はぁマジでか! 香澄だって完璧じゃないにしろ日々成長しているってのに、あの婆さん何を見てんだよ」

 

「わたしが楽器を扱うのが駄目だからオーディションも受からない。だからもっと頑張るの、もっと、もっと……」

 

 

 強く握った拳を震わせながら怒りを露わにする有咲に向かって、香澄が力の抜けた微笑みを向けた。

 誰もが無言になってしまった中で、わたしは心の奥底から湧き上がる酷い違和感に苛まれて混乱しそうになっていた。何故なら以前にオーナーから聞いていた事と香澄が話す内容にあまりにも齟齬があり過ぎるのですよ。

 

 

「ちょいと待って、わたしは前にオーナーからオーディションは演奏のレベルを重要視していないって聞いたよ」

 

「わ、私もお姉ちゃんにオーナーはバンドそのものを視ているって言われたよ」

 

 

 わたしとりみりんが思わず口走った香澄とは相反する言葉に他のメンバー達は余計に困惑したような表情を浮かべた。

 ダメだ、考えろ、もっと考えろわたし。あの時にオーナーは何を言っていた、りみりんが言ったバンドそのものを視ているの意味は?

 

 

「それだとゆり、わたしの何が駄目なんだろう?」

 

「まだ全部は解らないけれど、ひとつだけ確かな事はありますよ」

 

 

 香澄の前に座ったままだった沙綾の隣りに座り、添えられていた沙綾の手とは逆側にわたしもそっと手を添えて、二人で頬を包み込むような形を作った。

 

 

「香澄は駄目じゃない、オーナーは出来ていないって言っただけですよ。それはきっと演奏以外でわたし達に欠けた物で、そのピースを埋める事が出来るのはバンドリーダーの香澄だってオーナーは言いたいのではないですかね」

 

「わたしが、ポピパのリーダー?」

 

「そうだよ、香澄」

 

 

 わたしの言葉に同意を示した沙綾と一緒に立ち上がり、香澄を取り囲むように有咲、りみりん、おたえも横に並んだ。

 

 

「香澄の歌声は、わたしにいつも元気をくれる」

 

 

 ちょっぴり恥ずかしいけれど、いつも思っている事を言葉にして香澄の前に手と一緒に差し出した。

 

 

「香澄の背中を、いつも頼もしく見ているよ」

 

 

 沙綾がわたしの差し出した手の上に自分の手を重ねた。

 

 

「香澄ちゃん達がいつも私に勇気をくれているよ」

 

「香澄の星の鼓動をもっと私も感じたいな」

 

 

 りみりんも、おたえも。

 

 

「いつも巻き込んでくれて大変だ、でも別に嫌じゃねえからな」

 

 

 有咲も顔を紅くしながら優しく手を重ねてくれた。

 

 

「みんな……」

 

 

 重ねられた手を見ながら大粒の涙を流し始めていた香澄は、瞳を閉じて大きく深呼吸をした後に立ち上がり、頬を伝わる涙を拭いながら震える手を一番上の場所に重ねてくれた。

 

 

「わたしも、わたしもこの六人でもっとキラキラドキドキしたい!」

 

 

 全員の気持ちを確かめ合うように頷き合ってから、わたし達はいつもの掛け声を盛大に発した。

 

 

「一、ニ、三、わっしょーい!」

 

 

 まだ見ぬ星の欠片に向かって弾かせるように、全員で重ねていた手を勢いよく上に伸ばす。

 まだ何も解決した訳ではないけれどみんなで探していこう、明日を、未来を、夢を、わたし達はまだまだ走り始めたばかりなのですから。

 

 

「なぁ、そろそろまともな掛け声を考えた方が良くねえかな」

 

 

 有咲の提案に全員が吹き出すように笑い出してしまいました。そうですかね、江戸っ子風で良き物だと思っていたのですが。

 

 

「あっ、そうだ!」

 

「はわわ、急にどうしたのおたえちゃん」

 

 

 先程まで大人しくしていたおたえが思い出したように急に大声を張り上げた事で、隣りに居たりみりんが子兎のようにぴょこんと飛び跳ねながら驚きの声を上げた。

 

 

「私の家で合宿をしよう。きっと楽しいと思う」

 

 

 おたえさんあのですね。いきなり前後の脈絡もなく突発的な提案をしたせいで、混乱したりみりんが今度は驚いた猫のように瞳を丸くしながら固まってしまいましたよ。

 まったく、まぁこれはこれで可愛い姿なのでいつまでも見ていられますけれどね。

 

 

 

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