せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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54.BanG Dream!:①

 

 

 

「デカくね?」

 

「有咲がそれを言いますか」

 

 

 おたえの発案で開催される運びとなったポピパピポパ合宿会。初めてメンバー全員で伺う花園邸を前にして有咲がその立派さに驚いておりますが、平屋の日本家屋に広い裏庭や離れに蔵まであるツインテール胸デカ美少女さんに言われたところで説得力は全くございませんよ。

 

 訪れた花園邸の大きさは一般的な住宅サイズとはいえ、ひと際目を引く芝の敷き詰められた広い庭に色とりどりの綺麗な花たちが咲き誇るプランター。リビングから続くステージかと思う程の大きさがある木製のベランダ等々こういう余暇スペースに惜しげもなく敷地を使えているというのは、おそらくですがそれなりの裕福さをお持ちである事はまず間違いないと思うのですよ。

 

 

「あらあら可愛い女の子達が盛り沢山じゃない。オッちゃん、お嫁さんも来てくれたみたいよ、良かったわねぇ」

 

 

 お母さんがウサギのオッちゃんを胸に抱きながら出迎えてくれました。流石に美人なおたえのお母さんだけあってとても綺麗な方なのですが、明らかにわたしの方向へとオッちゃんを向けている姿に何かを察してしまいました。

 おたえさんや、大変に申し訳がないのですがいったいお母さんにどのような紹介の仕方をされたのか後でじっくりと聴取させて頂けますかな。

 

 冷ややかなジト目をおたえに向けると満面の笑みを返してくれました。

 どうやらですがこの母娘は悪意なく本気で飼いウサギの花嫁にと考えている節がその視線から伝わってきましたよ。ウサギと人間の婚姻を画策するなど狂科学者か悪の秘密結社の思想ですぞ、そんな事は薄胸(はくきょう)の名探偵ことユリンが許しませんからね。

 

 

「お母さん、今日はハンバーグがいいな」

 

「今日は豪華にしゃぶしゃぶの予定よ、お嫁さん達みんな手伝ってくれるかしら?」

 

「やったー、お肉大好き」

 

 

 お肉大好きおたえとりみりんコンビが万歳をして喜んでおりますが、この名探偵ユリンはお母さんの独特な雰囲気に決して丸め込まれたりはしませんよ。しれっとお嫁さん達と宣言しているあたり、悪の秘密結社花園家がポピパ全員をウサギの花嫁にする気満々なのは既にお見通しなのですからね。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

「番号一番、ギターボーカル戸山 香澄(とやま かすみ)です」

 

「番号二番、リードギター花園(はなぞの)たえです」

 

「番号三番(とおと)いの伝道者、美月 優璃(みづき ゆり)です」

 

「良し、三人にはリビングでの待機を命じる」

 

 

 非情な命令を下した有咲隊長を敬礼で見送り、わたしを含む美少女三人娘はリビングでウサギ達とモフモフタイムを楽しむ事となりました。

 

 わーい、やったーと喜びながら大量のウサギ達と戯れ始めるウサギ星人二人組。いやいやちょっと待ってくださいな、見渡す限り何羽いるのですか花園家のウサギ達って数が多すぎではないですかね。

 

 それはそれとして有咲隊長殿、まさかこれは平和な夕食の為に家事が苦手そうなメンバーを隔離したという訳では無いですよね。もしそうならばこの優璃様をあまり舐めないで頂きたいものですよ。

 こう見えましてもわたくし、最近女子力アップの為に瑠璃姉さんのお手伝いを始めたのでございましてよ。

 稀にテーブルを磨いたりですね、偶にはお皿なども並べたりですね、時々ですが姉さんが洗った食器の水気を拭き取ったりもするのですよ。

 毎日のトイレとお風呂掃除はわたしの担当で勿論ピカピカにしておりますし、もはやこれは完璧に女の子と言っても差し障りはないでしょうや。

 

 ソファーに腰を預けながらフンスと鼻を鳴らしたわたしの膝の上で、物言わずに真っ直ぐな視線を向けてくるウサギのオッちゃん。何だかとても虚しい気分になるのでとりあえず首を傾げるのだけは止めて頂けませんかね。

 

 ぼんやりとキッチンを眺めるとお母さんの横でエプロン姿の沙綾が何かを切っている様子が見て取れます。それにしても実家の安心感のような沙綾の母性というか女性らしさはどこから湧き出しているのでしょうかね、エプロン姿も似合っていてとても綺麗で羨ましくなりますよ将来の旦那様が……許すまじ。

 

 ふと顔を上げた沙綾と目が合ってしまい、恥ずかしさから慌てて顔を下げてしまった。

 何といっても衝撃のキスをしたのが昨日の今日ですから意識をするのも仕方がない話で、唇に残る柔らかな感触と温もりは未だに生々しい記憶として心に刻まれたままなのです。

 そんなわたしとは違ってキッチンの沙綾は普通に微笑んでいましたが少しは照れやがれですよ、とはいうものの所詮は同性同士の他愛もない触れ合い、沙綾にとっては親愛の情たるスキンシップのひとつ程度なのかもしれないですね。

 

 ところで有咲隊長殿、役に立たなそうというだけでわたし達を隔離しておきながら、しかもりみりんが不慣れながらもパタパタと忙しそうにお手伝いを頑張っている最中に何をキッチンの隅で恥ずかしそうにモジモジと縮こまっているのですか。流石にコミュ症乙女過ぎませんかね、あまりにも可愛い姿で萌えれてしまいそうですよ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 美味しい夕食に世俗の汚れを落とす爽やかなお風呂、そして美少女達と枕を並べて語り合う夜のひと時、これを尊いと言わずして何が百合の真髄かという気分です。

 

 夕食時は特に問題も無く和気藹々とした雰囲気を楽しみました。しかしお風呂の際には一悶着ありまして、おたえは全員で仲良く入浴するつもりだったようなのですが恥ずかしさから強行に反対する有咲とりみりんに押されて渋々と個別に入る事を了承しておりました。

 

 いやそもそも一般家庭のお風呂に六人で入るのは最初から無理があるのですが、わたしもどちらかと言えば有咲りみりん陣営なのでこれで良かったと心から思いますよ。わたしの背後で二人づつなら大丈夫でしょと意見の一致をみせていた若干二名の同調圧力がやたらと恐ろしかったですがね。

 

 みんなで居間に布団を敷いていたら空き場所の関係から一組だけ横向きにせざるを得ないお布団が確認されました。当然ながらポピパ五人の美しい並びを穢す訳にはまいりませんので、全部を敷き終えた瞬間にスライディングさながらの即行で横向きのオフトゥンを確保した次第です。

 

 

「今日の沙綾はずっと機嫌が良いよな」

 

「そうかな、まぁみんなでお泊まりは楽しいからね」

 

「それめっちゃわかる。私もこういうの夢にみていたんだぁ」

 

 

 何かを取りに自室へと向かったおたえを除いたみんなで並べたお布団の上に座りわちゃわちゃと雑談を始めた辺りで、伺うような表情で沙綾に軽く言葉を向けた有咲へ優しく笑顔を返した沙綾の姿に、りみりんも両手を合わせながら同調するような可愛い笑顔の花を咲かせてくれました。

 

 わかります、わかりますよ二人共。りみりんは内気な大人しい娘でしたし、沙綾も今までは友達と一定の距離を取っていたようなので中々こういう機会も無かったのでしょう。本当にポピパが結成されて良かったですよ、わたしも尊い目撃チャンスが増えてとっても幸せなのですよね。

 

 

「わたしも楽しいよ、あーりさ」

 

「ぶわっ、突然抱きついてくんなぁ!」

 

 

 思っていたそばから急に香澄が有咲に飛び付きそのままお布団の上に押し倒すように転がっていきました。

 おっと何ですかねこれは、早速のご褒美タイムですか今日は人生最良の日なのですか久しぶりの尊いご馳走様でございますよ。

 

 

「ただいま、みんなちょっとこれを見て」

 

 

 部屋へスキップをしながら戻って来たおたえが、輪になって座っていた中央の場所に一冊の写真アルバムを置きました。

 おたえさんやりますね。自ら黒歴史詰め合わせセットとも言える写真アルバムを持ち出すとは、既に幼少期から自分は美少女であると認識していたという事で宜しいか。

 

 

「おたえって弟さんが居るの?」

 

「いないよ、これは私だよ」

 

 

 アルバムの前半部を占めていた全身小麦色の肌をしたショートカットの可愛らしい少年を指差しながら訊いた沙綾の質問に、平然とした態度に爽やかな笑顔を添えて言葉を返したおたえに向かってメンバー全員が声を揃えて『えええええぇ』と大きな声をあげながら驚いてしまった。

 

 

「小さい頃は髪が短かったから結構男の子に間違われたんだよねって、そんな事よりも見て欲しいのはこっち」

 

 

 アルバムの最後の見開きページ、おたえが瞳をキラキラと輝かせながらドヤ顔で見せてきたのはノートから雑に切り取られたような一枚の紙でした。

 深く皺が入り時間の経過を表すように色褪せていたその紙には、音符のようなものと文字のようにも見える不可思議な絵がまるで暗号文書のように描かれています。

 おやおやもしかしてこれは謎解きというやつではないですか、やれやれ仕方がないですこいつは名探偵ユリンに対する挑戦状とお見受け致しましたぞ、良いでしょうやってやられてやりまくりしてあげますよ。

 

 

「おたえちゃん、これってコード譜?」

 

 

 えっとりみりん、『コードフ』って初めて聞いた気がするのですが誰ですかね、名前の響きからするとロシアのスパイっぽい人だとは思うのですが。

 

 

「そうだよ、それに此処を見て」

 

「んなっ、マジか!」

 

 

 おたえが指で指し示した箇所、紙の上部に書き殴られたその文字に有咲は驚きの声を漏らし、香澄とりみりんは瞳を丸くしてわたし自身は武者震いという物を感じ取ってしまった。

 

 

「私の全てはこの紙。違うや、(オジサン)の予言から始まったんだ」

 

 

 其処にはまるで曲の題名のように、魂の息吹のようにこう書かれていたのです。

 

 

 

 In the name of BanG_Dream!

 

 

 

 香澄がよく口にしていた、わたし達の胸の奥を何度も撃ちぬいていたあの言葉、そうBanG Dream(バン ドリーム)という言葉が確かに記されているのです。

 

 

「おたえさんやこれはいったいどういう事ですか、この古ぼけた紙にいったい何が有ったというのですか」

 

「あっ、そういえば次の蔵練って」

 

「いやそこ自分語りをする場面!」

 

 

 思わず有咲と同時にツッコミを入れてしまいましたよ、まったくもって天然と言うかマイペースにも程があるというものですおたえさん。

 

 わたし達のツッコミで思い直したように語り始めたおたえの昔話に、まさか再び全員が瞳を丸くさせられる事になるとは流石の優璃さんもこの時に知りはしなかったのです。

 

 ところで今更ですが結局コードフさんとは何者なのですかね、どなたか種明かしをして頂けると迷探偵ユリンさんも助かるのですよ。

 

 

 


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