せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
むかーし、昔のことじゃった、とある寂れた公園でひとりの
大きな町とはいえ長閑かなこの土地に越してきたばかりなその幼児には馴染みの者も居らず、公園でひとり遊んでいる姿がよくよく見掛けられたそうな。
「ちょっと待っておたえさんや、頼みますから普通に喋ってはくれませんかね」
「せっかくだから昔話っぽくしようかと思って」
「絵本の読み聞かせじゃねえから」
わたしと有咲にツッコミを受けて、漸くおたえは普通に話を始めてくれるようです。
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その日、私はいつものように公園のブランコで遊んでいた。
友達もまだ居なかったしひとりで遊ぶのも別に嫌いじゃなかった、でもひとりで漕ぐブランコのキー、キー、という音は少し寂しく聞こえたけれど。
前後にゆっくりと揺られながら、雨上がりの日差しが水溜まりをスポットライトみたいにキラキラと綺麗に輝かせているのを眺めていたら、いつの間にか知らないオジサンが近くのコンクリート造りのベンチに腰を降ろしてギターを弾き始めたんだ。
「オジサン、何をしているの?」
「見て解らねえのか
皺だらけでヨレヨレのシャツに継ぎはぎだらけのジーンズ、顔は顎ひげがあったくらいしか覚えていないけれど今から考えれば怪しさの塊みたいな人だった。
だけどそんな怪しいオジサンの指から奏でられるアコースティックギターの音色はとても綺麗で、滑らかに動き続ける運指と複雑に絡み合う音の世界に直ぐに私は魅入られて目が離せなくなってしまった。
「オジサンスゴーイ!」
「観客が一人のライブか。まっ、それも悪くねえか」
気が付けばオジサンの前に座ってギターの音色に酔いしれていた。瞳を閉じながら演奏している怪しいオジサンがまるで音を操る魔法使いのように格好良く見えて、その時に私もいつかこれをやってみたいと直感的に思ったんだよね。
「スゴーイ! オジサンスゴーイ!」
「ありがとよ坊主、だがな俺の事をおじさんと呼ぶんじゃねえ。そうだな、俺の事は
「うんわかった、神オジサン」
「このガキ……」
それが私と
それからオジサンはふらりと公園に来てはギターを弾いてくれるようになって、段々と仲良くなってからは神オジサンが休憩の時にはギターを触らせてくれる事も増えた。自分の指を使ってギターから溢れ出す素朴な音はまるで包み込むように優しくて、ひとりぼっちだった心の隙間を感動という震えで埋めるには充分過ぎる代物に思えた。
だけどそんな二人だけの楽しい時間が永遠に続く事は無かった。
「今日でお別れだ坊主、ささやかな休息を終えて俺はこれから西へ旅立たなくちゃならねえ」
急なお別れの宣告に動揺しちゃって今から考えれば通報されていても不思議じゃないくらいに泣き喚きながら引き留めていたら、神オジサンは黙ったまま自分のノートに何やら書き始めた。
「おい坊主、お前にこれをやる」
涙を流し続ける私にノートから雑に切り取った紙を渡し、神オジサンは今迄で一番優しい顔をしながら頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
「ピーピー泣くんじゃねえ、男ってのは常にロックを背中に担ぎながら歯を食いしばり格好つけるもんだ。いいかこれは予言の書だ、お前がギターを気に入ったのならいつかこいつを弾けるようになれ」
「ギターを、弾く?」
立ち上がりギターケースを肩に掛けた神オジサンは、いつも見せてくれていた片側の口角を上げた不敵な笑みを浮かべた。
「これが弾けるようになった時、お前は夢に出会うだろう。その書は夢を叶える〝約束〟だ、絶対に無くすんじゃねえぞ」
「絶対に無くさない。ねえ神オジサン、いつかまた会える?」
「坊主の夢に俺は入ってねえよ。じゃあな、素敵な夢と出会える事を祈ってるぜ」
背中を向けて歩き出した神オジサンは、右手を上げながら二度と振り返る事もなくライブ会場だった公園から旅立ってしまった。
そんな神オジサンとの別れから程なくして私はエレキギターを始め、それと同時に髪も伸ばす事にした。それまでは特に気にも留めていなかったけれど、結局最後まで男の子だと思われていたのが今から思えばちょっとだけ悔しかったのかもしれない。
音楽教室に通い本格的にギターを習い始めると、直ぐにその魅力の虜となって夢中で掻き鳴らすようになった。
練習で指を痛めても平気だった、少しづつ弾けるようになっていくのが楽しくて仕方がなかった。
そうしてギターにのめり込んでいく程に、私の中で段々と夢への片道切符と神オジサンの存在は薄れていった。
でも高校生になって、すっかりと忘れてしまっていた神の予言を再び思い出す事になってしまった。
『BanG Dream!』
有咲の蔵で香澄が何気なく放った言葉の弾丸は、子供の頃に渡された神の予言書に記されていた一片の詩。
その時に不思議と感じたんだ。忘れていた記憶を呼び覚ますように吹いた暖かい風の強さと、ギターに初めて触れた時のような全身の震えを。
これが神の言っていた夢なのかは今でも解らない。でももしかしたら、もしかしたらだけど私は出会ってしまったのかもしれない。
地図もコンパスもない、まだ何もかも見えてはいない霧中の道筋なのかもしれない、それでもたったひとつだけ解った事はあった。
私の中で、心の震えと共に何かが動き始める序曲が確かに鳴り響いたという事だけは……。
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「それでバンドをやってみるのも良いかなぁって思ったんだ」
「何か不思議な繋がりだね、これが縁って言うのかな」
「ええ想像以上ですよ、おたえさんがこんなに真面目な話をするとはね」
想像以上に良い話で場がしんみりとしてしまったので、雰囲気を明るくする為に軽く冗談を言ってみたら隣に座っている沙綾に頬をつねられました。調子に乗りました御免なさいです怖いですわたしの嫁。
「私も、ちょっとみんなに見て欲しい物がある」
おたえの話が終わり訪れた束の間の静寂の間も何故か不思議と険しい顔をしていた有咲が、自らのスマホを操作した後にみんなに向けてとある画像を見せてきました。
「これは以前にランダムスターが入っていたケースなんだけど」
「あうぅ、ごめんなさい」
以前に壊してしまったケースの画像を見たせいか隣りに座る香澄が落ち込むように顔を下げてしまったので、とりあえず慰めるように頭を優しく撫で撫でしておきました。
「いやそれはもう済んだ事だから気にすんな。見て欲しいのは次の画像、江戸川楽器店でケースを処分してもらう前に気になったところを写した一枚なんだけど」
有咲が人差し指をスライドさせて映し出された画像に、まさに全員が息を呑むように言葉を失ってしまった。
「香澄はこれを見た事ある?」
真剣な表情で問いかけられた香澄は、瞳を全開に見開きながら頭を何回も横に振った。
「だろうな、これは緩衝材代わりで中に敷かれていた沢山の新聞紙を取った後に姿を現した物だ」
擦れてしまったのかうっすらと消えかけてはいましたが、そこには間違いなくこう描かれていたのです。
『BANG DREAM ! 』
その文字を確認して誰もが信じられないという表情をしながら有咲を見つめると、照れてしまったのか真剣だった有咲の表情がみるみる紅みを帯びてきてあからさまに視線を外されてしまいました。
まぁとりあえずですが胸の奥で思っておくとしますかね。有咲たん、美少女ギャップ萌えは卑怯でござるぞ。
「これって、ランダムスターの持ち主がおたえちゃんの言っていたオジサンだったって事なのかな?」
「うーん、わたしは違うと思いますね」
「私もそう思う。神オジサンにランダムスターは似合いそうもないもん」
りみりんがそう考えるのも仕方がないとは思いますがこの名探偵ユリンにはちょっぴり違う景色が見えているのですよ、おたえさんとは違う観点から結論を導き出したものでね。
「この二つを見比べると決定的に違う箇所があるのです。よく見てくださいギターケースの方は大文字で書かれているのですよ、これは別人による犯行に間違いはありませんね」
「えっ、根拠ってそれだけ?」
「なんやて有咲。よう見てみい、筆跡もちゃうし間違いあらへんやろ」
「いや何処の誰だよそのキャラ」
この名探偵の推理に疑問を呈するとは、まだまだお互いに意思の疎通が足りぬようですな有咲たん、同じポピパのツッコミ担当としては寂しい思いですぞ。
「でもそうなら凄く素敵だよ。まるで運命みたいにひとつの言葉が色々な人から受け継がれるように繋がって、導かれるように私達が集まったみたいだもん」
「そうだねりみりん、この出会いが運命で結ばれているって私も思いたいな」
りみりんも沙綾もとても素敵な考えだと思いますよ。
わたしも転生という経験上、神様や運命というものを否定する事は出来ないのですが、これから先も全てが神様の掌で転がされ続けていくとは何故だか思いたくはないのですよね。
舗装された道を歩いていくだけではつまらないのですよ。道なき道を歩いた足跡を振り返る時、人はその道程を人生と呼ぶのです。
勿論これまでの事は感謝をしていますがそもそもわたしの信条は神様許すまじですからね、踊らされ続けるのはやはり癪というものです。
ポピパの明日はわたし達で選び、進み、感じたいのです。例え捻くれ者と呼ばれようとも構いません、あえて簡潔に言うならば思春期を甘く見るなという事ですよ。
繋がれる絆のような言葉に不思議な巡り合わせを感じて全員が神妙な顔つきで押し黙っていた最中に、ふと顔を上げると沙綾と目線が重なってしまいました。
その表情はいつもの頼もしいものではなく、お泊まりした時によく見た甘えてくる時の優しい視線をしていますね。おやおや沙綾さん今日はみんなでお泊まりの日ですよ、あの甘えた姿は流石に他の人に見られてはいけないものだと嫁は直感的に思うのですがね。
「わたし、今のこの気持ちを歌にしたい。わたし達のBanG Dreamを作りたい」
何かを考え込むように押し黙っていた香澄が発した言葉にメンバー全員が驚いたような、でも妙に納得したような表情をわたし達のリーダーに向けた。
「うん、私も良いと思うよ」
わたし達の頼もしいドラム担当は素敵な笑顔を作った。
「私達のBanG Dreamってめっちゃ素敵だね、香澄ちゃん」
作曲、ベース、癒しの天使担当は綻ぶ笑顔を作った。
「どうせなら神のコードも使おう」
天然で真っ直ぐなリードギター担当は無邪気な笑顔を作った。
「バン、ドリームの名のもとに……」
ツンデレで口が悪いけれど誰よりも優しい心を持つキーボード担当は、訳の分からない事を口走り始めた。
「有咲どうしたのですか、いきなり詩的な事を言いだしたりして乙女な気分なのですか?」
「
「ほえぇ、てっきり〝名前の中にバンドリームがある〟かと思っていましたよ」
「それだと意味不明過ぎるだろ」
香澄が輪になって座っていた中央に置かれていたアルバムの上へ、何かを約束するように手をかざした。
「決まりだね。バンドリの名のもとに、創ろうキラキラドキドキなわたし達のBanG_Dream!」
「香澄、何で
「えーだってー、言いやすいし」
ツッコミを入れながらでも、有咲は誰よりも早く香澄の手に自分の手を重ねた。
「どうせならCiRCREでの初ライブで披露したいですな」
「いくら何でも気が早いだろ、まだオーディションにも受かってないのに」
「まぁ良いんじゃない、次の目標が出来るって事で」
「沙綾は優璃に甘すぎだぞ」
わたしが手を重ねるとメンバー達も次々に手を重ねてくれました。
今まで全員で何度も重ね合わせた手の温もりは回数を増す事にお互いの絆も深めてくれているような気がして、実は内心とても気に入っている行為なのですよね。
「みんなで前へ進もう、オーディションにも受かってポピパの夢を撃ち抜いていこうね」
他人のお家なので掛け声は上げませんが、香澄の言葉を受けてから全員で頷き合い手を空に向けて弾かせました。
何かいまポピパの意思がひとつに纏まったような、まるで無限のエネルギーの塊となって銀河の果てまで行けちゃいそうな、そんな不思議な興奮と感覚に包まれたのです。
「ではそろそろ枕投げ合戦のお時間ですかね?」
「なに言ってんだよ優璃、する訳が無いだろ」
「えーしようよありさ、楽しいよ?」
「どういう組分けする? 私はウサギさんチームが良いなぁ」
「うるせえ三馬鹿共、私はもう寝るぞ」
んなっ有咲たん、みんなでお泊まりなら夜更けに枕投げというのは古来より続く日本の伝統行事ですぞ。
可愛い女の子達がキャッキャウフフと枕を投げ合う光景に興味は無いのですか、それで人間と呼べるのですか、内なる魂に尊いの補充は必要ではないと仰るのですか。
おのれ許すまじ有咲たんですよ。
それと言い忘れておりましたが、わたし達は三馬鹿ではなく三人の頭文字を取って〝