せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
女の子って自衛には本当に気を使わなければならないのですね、もう遅いですが身をもって勉強する事が出来ましたよ。
「ハロハピ会議を始めるわよ!」
軽やかな金色の長髪を躍らせながら鼻息荒くホワイトボードの前に立った弦巻こころには、もはや何をか言う気力も言葉も見つかりませんがまぁそれは良しと致しましょう。
「まさか結衣が弦巻家に魂まで売っていたとは思いもしませんでしたな」
「こころ様から頼まれただけでしゅ。それにこうでもしないとお姉様が私の相手をしてくれないからでしゅよ」
アルバイトに行く為に気怠い足取りで放課後の校門から出た直後に制服姿の結衣を筆頭とした弦巻黒服隊のお姉様方に取り囲まれ、驚く間も無く逃げる隙も与えられずそのまま簀巻き同然の姿に拘束されてワッショイワッショイさながらの神輿状態で連行された先は弦巻こころの宮殿、いや宮殿のような自宅の一室でした。
高い天井には落ちてきたら確実に死ねるような大きさのシャンデリア、磨き上げられた大理石のように輝く床面、壁には高級そうな額縁に入れられた高額そうな絵画にホラー映画でしか見た事が無いような西洋風の甲冑とまさに宮殿と呼ぶに相応しい内装ですね、もしかして此処は重要文化財か何かの建物ではないのかとさえ思わされますよ。
「学校ではちゃんと話をしている筈ですがね」
「足りないでしゅ、圧倒的な欠乏でしゅ。お姉様専属の従者としてもっと愛されという名の支配を全身で感じたいでしゅ」
「いや従者とかいったい何を言っているのですか。あくまでもわたし達は普通のフレンドリーな友達ですよ、もしや弦巻家に教育という名の怪しい洗脳でも施されてしまったのではないですか?」
部屋の中央にある豪勢なテーブルに陣取るはハローハッピーワールドのメンバー達。ギターの瀬田先輩にベースの北沢さん、椅子に座らせられたわたしの右隣には水色のふわふわとした髪を揺らしながら結衣とのやり取りを微笑ましい表情で眺めておられたドラムの松原先輩、そして左隣には圧倒的な存在感で鎮座しておられる……。
『初めまして優璃ちゃん、ミッシェルだよお』
「奥沢さんや、もうすっかりハロハピに馴染んだみたいで何よりですな」
「そんな訳がないでしょ。それよりも小耳に挟んだけれどミッシェルの生みの親が美月さんって本当なの?」
ピンク熊の着ぐるみであるミッシェルの中の人こと奥沢 美咲さんにいきなり確信を突かれてしまい、驚きで思わずビクリと身体が跳ねそうになりましたが何とか堪えきって後に立つ結衣に冷ややかなジト目を送ると、視線の先の女狐はわざとらしい程の角度で顔を背けて口笛など吹き始めて誤魔化そうとしています、えぇ許すまじです。
ところで何故に結衣は全身黒色のクラシカルなメイド服を纏っているのでしょうかね。かろうじてサングラスだけはしていませんが雰囲気が弦巻黒服隊みたいですし、やはり弦巻家に怪しい洗脳でもされてしまったのではと本気で名探偵ユリンは疑ってしまいそうですよ。
「あらあらそんな話は初耳でございますわ、奥沢さんも御冗談が過ぎましてよ」
「本当に?」
「あの、ちょいとミッシェルさん、あまり顔を近づけないで頂けますかな」
押し付ける程に寄せてきたミッシェルの大きな瞳に見つめられると、痙攣のような身震いと共に全身の汗腺から冷たいものが吹き出してくるような寒気に襲われてしまいます。いくら可愛くなったとはいえこの着ぐるみの見た目の克服はどうやらこの先も叶いそうにもありませんね。
『優璃ちゃんどうしたの? ハロー、ミッシェルだよお』
「はふぅ、い、いやぁ……」
頭をグルリと動かして下方から覗き込んでくる恐怖の象徴たる着ぐるみ。おのれ奥沢 美咲め、わたしがミッシェルを苦手としている事を薄々勘付きよったな。
「あら優璃ったら恥ずかしがって下を向いてしまったのね、大丈夫よミッシェルはとっても優しいんだから」
「ゆーちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだね。大丈夫、笑顔、笑顔!」
いや明らかに怯えているのですがね、頭ハッピーワールドなのですかこころさんと北沢さんや。
「震える子猫ちゃんも愛おしいものだが安心したまえ、かのシェイクスピアもこう言っている。運命とは、もっとも相応しい場所へと貴女の魂を運ぶのだと……あぁ、儚い」
いや瀬田先輩、徹頭徹尾何を伝えたいのかさっぱりと解りませんよ。
もしかしてこの愉快な集団で普通の人と呼べるのはわたしの頭をずっと優しく撫で続けてくれている松原先輩だけですか、美人で優しいとか救いですよ有難うございます。
「大丈夫? トイレだったら我慢しなくてもいいからね」
いや松原先輩、ちょいとピントがズレている気がするのですよ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「みんなは決まったから後は優璃だけよ、さぁ好きな楽器を選んでちょうだい」
「こころさんや何故にわたしが演奏メンバーに組み込まれているのですかね、ハロハピに加入した記憶はございませんが」
「何を言っているのかしら、優璃は最初からハロハピのメンバーじゃない」
腰に手を充てながら満面の笑顔を向けてくる弦巻こころ。巻き込まれる事を恐れていたとはいえやはりそうきましたか、だがしかしここで流される訳にはいかないのですよ。いま漸くポピパがひとつに纏まりこの良い雰囲気のまま鬼オーナーが待ち受けるオーディションへと立ち向かわなければならないのです。こころには申し訳がないのですが、アニメの主人公でもあるまいしバンドを掛け持ちして青春ヒャッハーなどという超人モチベーションは持ち合わせてはいないのですよ。
「応援はするけれど活動は無理ですよ。わたしは既に他所のバンドのメンバーに名を連ねているのでね」
「どうして二つのバンドをするのが無理って言うのかしら?」
「いやだからその……」
こころが小首を傾げて本気で不思議そうな表情を見せていますが普通に無理でしょ、そもそも演奏が出来るのならば既にポピパでやっているに決まっていますしね。
「やってみなければ解らないしやればきっと出来るわ、それに優璃がいればもっともっと世界を笑顔に出来る気がするのよ」
あっこれヤバイっす、こころのカリスマ性とやらでいつの間にやら有耶無耶にされて巻き込まれるやつっす、トイレに行く振りをして逃げ出しても良いっすかね。
とりあえず会話を打ち切るようにお花畑に行ってきますと言いながら立ち上がったところで、有無を言わせぬ勢いでミッシェルに腕を掴まれてしまいました。
『そうそうみんなに言い忘れていたけれど、今日は妹が遊びに来るって言っていたんだあ』
ほほぅミッシェルに妹設定があるなんて初耳ですよ、ハンナも色々と遊び心を入れてくるのですねって、奥沢さんそろそろこの手を離して頂かないとわたしの百戦錬磨の逃げ足をお見せする事が出来ないのですが。
「ささっ、お姉様こちらへ」
「ちょいと結衣さん、童顔で可愛いらしい笑顔がとても恐ろしく感じるのは何故ですかね?」
気が付けば黒服隊のお姉様方に取り囲まれ、あっと言う間もなく口を塞がれて簀巻きにされてしまいました。
本日二度目という事で少々慣れてはしまいましたが、やはり一言だけは叫んでおきますかね。
「
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
『紹介するね、妹のアンジェラだよお』
『オ、ノ、レ、ユ、ル、ス、マ、ジ』
二度目の御神輿ワッショイで運ばれた先であれよあれよという間にピチピチのスポーツウェアに着替えさせられ、その勢いのまま両脇を抱えるようにして連行された部屋に既に用意されていたオレンジ色でひとまわり小さなミッシェル型着ぐるみに投げ入れられるようにフェイドインされまして、はいはいこのザマでございますよ。
「まさかとは思うのですが、これは奥沢さんの策謀ですかな?」
『みんなあ、アンジェラもハロハピを手伝いたいって言っていたよお』
「ムキー! やはりミッシェル奥沢、貴様の差し金かぁ!」
「あたしだけ巻き込まれるのは不公平でしょ」
おのれ、おのれ許すまじですミッシェル奥沢。この身に沸々と湧き起こる怒りという名の八つ当たりをそのまんまるの体で受け止めるがいいです。
「発現した自分勝手の極意、世界を破滅に導くその場凌ぎ、尊きをもって邪悪を挫く自己正当化。はあぁぁ喰らうがいい、何となくいま思い付いたアンジェラの必殺技を」
〝ギャラクティカピストンマグナムパンツィィィィ!〟
さぁ唸れわたしの両手、巨悪を撃ち砕く聖なる拳となって叩きつけてやるのです。右、左、右、左、この音速を超える拳で後悔をという痛みをその魂に刻み込んでやるのですよぉ!
「見て見てこころちゃん、アンジェラちゃんが照れてミッシェルにポカポカと駄々をこねて甘えているみたい、可愛いね」
「本当だわ花音、二人はとっても仲良しなのね」
『いや違いますけど!』
それにしても重い、着ぐるみって重いし暑いし何なのですかこれは。こんな物を着て動き周れる奥沢さんはやはり普通の女の子ではないですよ、絶対に改造人間の類いに違いないです。
慣れていない着ぐるみのせいで早々に体力の限界を迎えて力無く椅子に体を預け脱力してしまいました。そんなわたしの肩へミッシェルが優しく手を置きましたが、何だか勝ち誇られたようでとても悔しくて泣いちゃいそうです。
「燃え尽きちまったです。あたしゃ真っ白な灰になっちまったですよ」
「これ以上ゴネるなら抱き付いて延々と見つめてあげるから」
「美咲の鬼、ミッシェルの悪魔」
「逃げられないのはお互い様。呉越同舟という事でヨロシクね、優璃」
打ちひしがれるわたしの前方には本当に楽しそうに笑っているこころ達の姿。とても微笑ましくて思わず和みそうになってしまいますが、残念ながらポピパの正念場に寄り道をしている暇は無いのですよ。えぇ必ずや美咲とこころの魔の手から逃亡を果たしてみせますからね。
「うふっ、これでお姉様と付かず離れずでいられましゅ」
「結衣さんや、後でじっくりとお灸を据えさせて頂きますぞ」
「ご褒美でしゅ、お姉様からの愛されを全身で受け止めてみせましゅ」
黒色のメイド服のスカートを軽く摘み深々とお辞儀をした結衣に向かって、ミッシェルが不思議そうに頭を傾げた。
「えっと、二人はどういう関係なの?」
「ミッシェルさん、それはとても口に出しては言えない間柄で……」
「誤解を招きそうな言い回しをしない! 友達です、美咲と同じ花女の同級生ですよ」
結衣は当初の雰囲気から随分とかけ離れてきたようにも感じますがそれだけわたしに慣れてきたという事ですかね。深く考えると危険な香りがするので遠慮がなくなるのは良い事と前向きに捉えておく事にします。
「さぁアンジェラも加わったハロハピで、世界中を笑顔にするわよ!」
こころの叫びに呼応してわたし以外のメンバー達全員が、わーい、ふえぇ、あぁ儚い、嫌だ面倒臭い、などと揃わない掛け声を発しながら右腕を掲げました。
世界を笑顔にを目標とするハローハッピーワールド。弦巻こころを中心とした摩訶不思議な笑顔の力で、きっとこれから沢山の人達に幸せを届けていくのだろうなと蒸し暑い着ぐるみの中から確信してしまったのでした。
あのところで美咲以外のハロハピの皆様方、まさかとは思うのですが優璃ちゃんの存在をすっかりと忘れ去っているとかは無いですよね。それはそれでちょっと寂しいと感じる十五才の夏なのですよ。