せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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57.思い出のイヤリング

 

 

  

 流れる汗、綻ぶ笑顔、最強無敵の歌声。気持ちがひとつの塊となったpoppin'partyの音楽は、キラキラとワクワク未来へのドキドキを全ての人へと届ける夢先配達人に違いありませんよ。

 

 

 

 オーディションを目前に控えた最後の蔵練の日、演目予定の『前へススメ!』の通し練習を終えたメンバー達は満足したように燃え尽きた視線を少し離れた位置で腕組みをしながら観覧していたわたしへと向けてきました。

 

 メンバーの一員であり総監督であり只のマスコット(おまけ)でもあるわたしは、厳しい表情を崩さずにゆっくりと右腕を前に出して捻挫をする程の反りと勢いで親指を天に向けて突き上げてやります。

 

 

「最高オブ最強。やりやがったなコンチクショーですよ」

 

 

 わたしの言葉を切っ掛けにして全員が緊張を切らしたのか息を吐きながら脱力したように肩から力を抜いていきました。

 

 

「なんだよ変な表情すんなよな、ちょっと不安になっただろ」

 

 

 半笑いの表情のまま愚痴を言う有咲の姿にみんなが釣られて笑い出してしまう。そんな何気ない光景を眺めていられる事が何よりの贅沢なのだと最近は思えてきたのですよね。

 まだ感慨に耽るような年齢でもないのですが、こんな時間が永遠に続けば良いのにと本気で願わずにはいられませんよ。

 

 

「みんなお疲れサマンサですよ」

 

「まだまだ、ギターなら一日中でも弾けるし楽しいよ」

 

「おたえはギターが好き過ぎだろ、私はもう無理だわ」

 

 

 蔵のソファーで休憩がてらの雑談を始めたのですが、元気の有り余るおたえと比べ有咲は背もたれに身体を預けながら疲れ切ったという表情を隠そうともしていません。

 

 

「有咲ちゃん頑張っていたものね」

 

「べ、べべ別に頑張ってねえし。そろそろあの婆さんに一泡噴かせてやりたいだけだ」

 

「ふふっそうだね有咲。でも良くなってきたのは実感しているよ、一体感とか」

 

「沙綾笑うな、でも確かに悪くはない……とは思う」

 

 

 ふと思ったのですが、有咲ってポピパのメンバーには弱過ぎではないですかね。

 

 

「わたし、今なら宇宙でもライブが出来そうな気がする」

 

「香澄、調子に乗り過ぎ」

 

「いやいや全国ツアーくらいなら既に視野に」

 

「優璃、寝言は寝て言え」

 

 

 ふと思い知ったのですが、有咲ってわたしと香澄に強気過ぎではないですかね。

 

 雑談をするに香澄達が座るソファーには既に空き場所も無かったので沙綾の膝を枕にして直に床へと座っているのですが、沙綾がときおり頬を両手でぷにぷにと摘んでくるのが少しばかり厄介です、きっと無意識なのでしょうがやれやれ困ったちゃんな嫁でございますよ。

 

 

「オーディション大丈夫かな?」

 

 

 りみりんが不安そうに口にした言葉に蔵の中が静まり返りましたが、それは一瞬の杞憂に終わりそうです。

 

 

「大丈夫だね」

 

「おたえ、急に断言とかどうした?」

 

「でも言いたい事は解るかな、私もいけそうな気がする」

 

「何でこれで解る。あのさ別に否定とかしても良いんだぞ沙綾」

 

 

 おたえの謎自信はさておき有咲のツッコミがタイミングといいスピードといい練度が段々と増してきているような気がします、これには同じポピパのツッコミ担当として負けてはいられない気がしてきますね。

 

 

「でもありさだってそう思っているでしょ?」

 

「いやまぁ、そのだな……そうだけど」

 

 

 問い掛けに恥ずかしそうに身体をくねらせながら答えた有咲に微笑みを送った香澄は、突然ソファーから立ち上がりまるで正義のヒーローが登場する時のような『トウッ』という叫び声と共に楽器達の置いてある演奏スペースの前に踊り立った。

 

 

「わたしね、これからもいっぱいキラキラドキドキしたい。ポピパで……この六人で沢山のトキメキを届けたい!」

 

 

 本当に不思議な娘です。落ち込んだり悩んだりする事はあれど基本的には前向きで明るく、放たれる言葉は周りの人達を不思議と笑顔にしてしまう魅力に溢れ輝いているようにも思えます。

 やはり香澄は女神。この純真無垢な高潔さは誰にも穢さしてはならない神域なのです、守りたいこの笑顔というやつなのです、危険な男共などあっち向いてゴーホームなのですよ。

 

 高頻度に頬をぷにぷにする沙綾の魔の手から逃れるように立ち上がり、香澄の元へ飛ぶように移動してその肩に手を乗せます。

 

 

「みんな、素敵な演奏をしてオーナーにキャインと言わせてやってくださいよ」

 

 

 わたしの煽り言葉にメンバー達全員が笑顔の返答をしてくれました。

 

 

「オーナーもだけど、優璃を感動で泣かせるくらいの演奏はしたいな」

 

「でも優璃ちゃんが泣いたら私まで釣られて泣いちゃいそうだよぉ」

 

 

 いや急に何を言っているのですかおたえさんにりみりんさんや、わたしがそんな女の子みたいに泣く訳が無いではありませんか。

 

 

「確かにビービーと泣く優璃は面白そうだな」

 

「いつもゆりには泣かされているからね、偶には泣かせてみたいかも」

 

 

 有咲の妄言は放っておくとして沙綾さんや、さして泣かせた記憶などありませんがもしやわたしの知らぬ間に何かしでかしていたのなら言ってくださいな、嫁に遠慮は無用ですぞ。

 

 

「わたし達のライブで絶対に泣かせてみせるよ、ゆり」

 

 

 香澄まで気合いの入った顔をしないでくださいよ。まったく、関係ないところで変な団結力を見せないで頂きたいものです、オーディションが始まってもいないのにもう瞳が潤んでしまいそうになっちゃいますよ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 決戦のオーディションを翌日に控えた夜、香澄の部屋で二人並んでベランダから星空を見上げた。

 高い湿度のせいなのか薄い幕を張ったようにぼやけた星明かりは、まるで蛍の群れのような淡い光りで街の景色を幻想的な美しさで浮かび上がらせています。

 それでもわたしにとっては天空の星々よりも淡く照らし出された香澄の横顔の方が余程に綺麗に思えて、このままずっと夜が終わらずに香澄を見続けられたら良いのにと少し乙女チックな感傷に浸ってしまいそうです。

 

 

「いよいよ明日だね」

 

「ちゃんと見届るから精一杯やっちゃってくださいな」

 

 

 此方を向いて微笑んだ香澄の無垢で透き通るような瞳は本当に綺麗だなって思うし、隣に幼馴染が居るという安心感が心の中に暖かい何かを満たしていくような気がしてわたしも自然と笑顔になってしまいます。

 香澄が以前に言っていた気持ちが今はとてもよく解ります、わたしだってもしも香澄が側から居なくなれば途轍もない喪失感に苛まれそうな気がしますからね。

 

 

「ねぇ、明日はゆりの部屋に飾ってあるイヤリングを貸してもらってもいい?」

 

「あの思い出のイヤリングですか、勿論オッケーに決まっていますよ」

 

「やったね、これでゆりと一緒にステージに立てている気分になれる」

 

 

 えっ何ですか可愛い過ぎですか健気過ぎですか、やはり人智の及ばぬ女神か何かではないのですかこの娘は。

 

 

「ゆりは覚えていないものね、あのイヤリングをわたしの誕生日プレゼントで買った時の事は」

 

「えっとね、不思議とそれは薄っすらと思い出せるような……イヤリングを付けてあげたら凄く恥ずかしがっていたような気がする」

 

 

 色褪せてセピア色に染まった記憶には、今よりも少し幼い香澄が嬉しそうで照れたような上目遣いを向けている記憶が残っています。これは優璃の記憶ですかね、とても可愛らしい香澄の姿がとても印象的です。

 

 

「そうか、やっぱりそうだったんだね」

 

「えっ⁉︎ どうしたの香澄?」

 

「何でもない……から」

 

 

 先程まで優しい笑顔を見せていた香澄の瞳から突然降り出した雨のように涙が溢れ出し、口からは堪えきれない嗚咽を漏らし始めてしまった。

 何が起こったのか混乱しきりの思考は捨て置いてとりあえず落ち着かせる為に頭を撫でてあげると崩れるように膝をつき、わたしのお腹の辺りに抱き付いたまま暫く嗚咽を漏らし続けた。

 その態勢のまま頭を撫で続けてあげると落ち着きを取り戻したのか嗚咽は収まってくれたのですが、抱きついている腕が背骨を軋ませる程に食い込んでいる事にそろそろ気が付いて欲しいのですよ、苦しくて今度はわたしの方が泣いてしまいそうです。

 

 

「ゆり、ちゃんと守ってくれる?」

 

「そんなもの当たり前ではないですか。香澄に変な虫など寄り付かせませんよ、殺虫処分です許すまじですからね」

 

「意味が解らないよ……でも今度はわたしもゆりを守るね」

 

「わたしにはそんな心配は要らないと思いますがねぇ」

 

 

 漸く腕の力が弱まってきたので気を失わずに済みそうですが、それにしても先程から窓がコンコンと五月蝿いですね、カナブンが執拗に窓へボディアタックでもかましているのですかね。

 

 

「ゆ〜り〜お姉ちゃ〜ん、もしかしてお姉ちゃんを泣かせたの?」

 

 

 開き放たれた地獄への扉から現れたのは大魔神こと我等が愛しの妹君あっちゃんでございます、いやはやこれはもしかせずとも死へのカウントダウンが始まってしまった予感がしまくりなのですが。

 

 

「ち、違うよあっちゃん、こ、これは誤解でして」

 

「もう、ゆりが泣かすから明日は目が腫れちゃうかもだよ」

 

「やっぱりじゃん!」

 

 

 香澄さんこのタイミングでその台詞は無いですわ。違いますよ、これは冤罪なのですよ裁判長殿。

 

 

「はい、罰を与えます。受刑者は室内へどうぞ」

 

「いや何罪なのそれ?」

 

「お姉ちゃんの笑顔を損ねた罪、極刑です」

 

 

 あのですね、今更ですが戸山家法典ってとんでもなく厳し過ぎだと思うのですよ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 静かな、それはそれは静かな極限の緊張と確かな決意が、薄暗く静寂に包まれたCiRCLEライブスペースの中を満たしていた。

 まるで天空から差し込む後光に照らされたように明るいステージの上には五人の天使達が集い、ステージから少し離れた場所にはパイプ椅子に座りステージからの間接照明を浴びて浮かび上がるような存在感のオーナー。その横には『さ〜くる』と大きく文字がプリントされたとても、とても悪趣味なスタッフシャツを着せられたわたし。えっと、もしかして嫌がらせか何かの類いですかね。

 

 

「表情が違うね。美月、何かあったのかい?」

 

「何もありませんよ、ただ……」

 

 

 香澄がマイクを握ると、それを合図にメンバー達の表情が変わった。

 

 

「ただ自分達はpoppin'party(ポッピン パーティー)であると知っただけです」

 

 

 そうわたし達はpoppin'party。ポップでステキな、誰もがゴキゲンになれちゃうキズナのミュージックをお届けするバンドなのですよ。

 

 

 聴いてください、わたし達の……。

 

 

 やっちゃえ香澄、弾けようみんな。

 

 

 前へススメ!

 

 

 

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