せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
「ゆり早く、あっちにもシールがあるよ」
手を引かれて陽が傾き始めた道を早足で歩く。最初の頃に見せていた乗り気の無さは何処へやら、始めてしまえば香澄は夢中になって星の導きを手繰り寄せ始めてしまった。
わたしの努力が報われた気がしてなんだか気分が良いや、それにとっても楽しそうに星のシールを探している笑顔がとても可愛いらしい、やっぱり香澄には笑顔が似合うよ。
あともう少しで目的地の『
これから起きる出会いは本当に大事だ、香澄達が組む事になるバンド『
だからこのイベントだけは、血反吐を吐こうが何があろうが絶対にクリアしないといけないのですよ。
可憐な尊きの為にわたしは走り続ける、それが青春というものでしょ。
意思を込めて香澄が握ってくれている手を強く握り返す、離れてしまわないように、見失ってしまわないように……。
「ここ、なのかな?」
「多分そうだと思う、星に導かれちゃったね」
辿り着いた先には『流星堂』と書かれている古風な看板が掲げてあるお店、ここが有咲の実家で確か質屋さんだったと思う。
そのままシールを追っていくとお店の裏手まで続いて、年季が入った和風の門がある所で途絶えていた。ちょうど開いていた門からこっそりと庭を覗くと、昔ながらの日本家屋と離れには立派な蔵が見える。事前に星のシールを確認してまわった時には門が閉まっていたから中を見るのは今日が初めてなんだよね。
離れにある堂々とした蔵、ここでバンドを組んだ香澄達は練習を重ねたり、キャッキャウフフの尊い日常をおくったりする場所。言わば聖地であり、これは聖地巡礼の旅なのですよ。
「あっ、ゆりってば勝手に入ったら怒られるよ」
不法侵入上等といった風情で敷地に入り、ずんずんと蔵を目指す。男の人だったら問答無用で通報されてしまいそうだけれど、可愛い女子高生達ならまず大丈夫でしょ。いやぁ本当に女の子って無敵で最強だわ。
きょろきょろと辺りを確認しながら香澄がおそるおそる後に続いて敷地の中に足を踏み入れた。
ちょっと不思議に思う。ゲームの香澄って良い意味でも悪い意味でも猪突猛進なキャラだと思っていたんだけれど、この世界の香澄はそれに比べると少し大人しくて女性っぽい気がする。香澄の行動力が未来を切り開く展開も多かったから、その辺りは気をつけておかないといけないのかもしれない。
蔵はありがたい事に扉が開け放たれていた。
いよいよだ、星型ヘアと共に香澄の代名詞とも言える
これからの出会いを予感して胸がふくらむ、まぁ実際に胸が膨らむ訳じゃないんですけどね、ショボーンですわ。
「あのー、すいませーん! 誰か居ませんかぁ!」
おそらく近くに居るであろう有咲に聞こえるように、わざと大きな声で問いかけてみる。
そのせいか香澄がわたしの制服の袖を引っ張りながら不安そうな顔で見つめてきた。ごめんね、フラグ建ての為にはこれが必要なの。
蔵の中に入ると古い建物独特の匂いが出迎えてくれた。視線を巡らせるといかにも蔵らしく色々な物が散乱している。きっと質流れ品とかなんだろうけれど骨董品なんか価値がわかるはずもないし興味もない。頭をきょろきょろとさせながら探すとありましたよギターケースが、きっとあれだ、あの中に深紅の星型ギターが……。
「両手を挙げろ!」
突然の声にわたしと香澄は条件反射で両手を上げる。あぁもう、こうなるとわかっていたのに完全に油断をしてしまっていた。
二人でゆっくり振り返るとやはり居た、『
有咲は眉間に皺を寄せながら剪定ハサミをわたし達に突き付けている。ちょっと有咲さん。こんな美少女達が悪い事をする訳がないじゃないですか。
「わっ! ハサミは危ないよ」
「逃走経路も確保していないなんて間抜けな泥棒ね、って
「同じ学校なの? 何年生? わたし一年A組だよ、この子も同じ」
「両手を挙げろ!」
「はいぃぃぃ!」
はぁ、なんか良いなこの絡み、香澄と有咲は本当にいいコンビだわ。
「あんた達、名前は?」
「
「あんたは? ちょっと、何をぼぅっとしてんの! 名前は?」
無意識に有咲に近づいてツインテールに括られた髪を触る、金色に近い髪色はとても綺麗で毛の量も多いせいか思っていたよりもずっと存在感がある。
「髪、とっても綺麗だね」
「はぁ? ちょっ、おまえ何を……」
身長は同じかちょっとだけ有咲の方が高いかもしれない。小さな顔に意外とパッチリとした瞳、口調はアレだけどやっぱり美少女だよなぁ。
それに何より瑠璃に負けず劣らずのインパクト抜群な胸、この身長でその大きさだとさぞや肩凝りが酷いんだろうなと心配になる程の膨らみだ。
「髪とか女に褒められても嬉しくねぇし……あんた、名前なんていうの?」
はいはい、女に褒められても嬉しくないとかそういう意味ですよね、男から褒められたら嬉しいという事ですよね。いやもうこの展開には慣れていますから大丈夫ですよ。ただ彼氏を作るのは諦めてくださいね全力で阻止しますから、彼氏なんて大人になってから作ればいいんですよ。
「……いつまで触ってんの、ねぇ、名前は?」
「あぁごめん、わたしは
無意識に髪を触り続けてしまっていた。髪から手を離して次に頬に手をあててみると、驚くほどに顔が小さいし肌もすべすべだった。いやぁゲームで人気があったのも納得だわ、ツンデレ金髪ツインテールの美少女なんて破壊力抜群だもんね。
「ちょっ、何?」
「人に名前を尋ねる時は自分も名乗らなきゃだよ」
「……
顔を真っ赤に染めながらも答えてくれる。流石は天性のツッコミ体質、嫌がりながらもノリが良いんだよね。
有咲が可愛くてついつい抱きつくと顔がさらに赤くなり体を硬直させてしまった。隣に居た香澄も負けじと抱きついたら、なにやら恥ずかしさで有咲は体をぷるぷると震わせ始めた。いやぁこの反応は楽しいです。
「おまえらなんで急に抱きつくんだよ! 意味がわからねぇから!」
いやまったく、ごもっともでございますよね。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「あの有咲ちゃん、蔵の中を見せてもらってもいい?」
「はぁっ? それよりもなんで友達みたいな空気を出してんの? 私からしたらあんた達はたんなる不審者なんだけど」
「まぁまぁ有咲、そんな細かい事は気にせずに。さぁさ香澄、探検、探検」
「いきなり呼び捨てか! 少しは私の話を聞けよな」
ツンデレのツンも美少女だと腹も立たないものだね、って有咲の方が腹を立ててたんだった。とはいえ目的はひとつだけ、ランダムスターが入っているギターケースに迷う事なく直行する。ギターケースの前に座り、香澄を呼び寄せていよいよ舞台は完成です。
「ねぇねぇ有咲、これ中身を見るね」
「まず先にケースを開けていいかを訊いてくれ、先に」
有咲のツッコミはスルーしてケースに手を掛けて勢いよく開ける。
よく見よ香澄、あなたがその青春を共に駆け抜ける事になる相棒、深紅の星型ギターことランダムスターの降臨である。
「…………」
言葉も出ないか。よく見てこの木目の美しさ、女体のように滑らかな曲線を描くボディに年季を感じさせる薄汚れたネック、これこそが……アレレェ、オカシイゾォ。
「ギターだね」
「質流れのアコースティックギターね」
「…………」
そっとカバーを閉じてゆっくりと立ち上がる。ふふふっ、それはそうよね、神が我に与えた試練がこんなに簡単な訳が無いよね。あまりにも事がうまく進み過ぎて思わず神様ありがとうと言うところだったわ。
神様許すまじ!
首振り扇風機のようにぐるぐると辺りを見渡すと、あったもうひとつギターケースが、しかも星のマーク入りだ今度こそ間違いない。
アコギの入ったギターケースを壁際に押しやり、猛ダッシュで星のマーク入りのギターケースを二人の前に置く。今度こそお願いしますよ神様(嫌いだけど)。
「ねえねえ有咲」
「少しだけだかんな」
もう以心伝心じゃん優しいなぁ。
有咲がギターケースのカバーに手を掛けてゆっくりと開けてくれた。
「えっ? 何これ凄い、ゆり、星だよ! 星のギターだよ!」
マジ神様サイコー! ありがとうございます、ありがとうございます。香澄が瞳をキラキラさせながらランダムスターを見つめている。これですよ、この光景が見たかったんですよ。
しかしよくよく間近でランダムスターを見ると、輝く深紅のボディはギザギザで鋭角的なデザインだ。確かに星といえば星なんだけれど女の子が持つにしてはやっぱり攻撃的な印象を受けてしまう。
「はい、おしまい」
「え〜、ありさ〜、もう少しだけ」
「あぁもぅうぜぇ、わかったよ」
有咲がすぐにカバーを閉めるというイジワル攻撃を繰り出すと、素早く香澄は腕を掴んでぶんぶん振り攻撃で反撃を試みる、結果はどうやら香澄が勝ちのようです。気持ちはわかるよ有咲、あの攻撃は色々と破壊力がヤバいよね。
渋々と有咲が再びカバーを開けると、香澄は赤ちゃんを抱き上げるような手つきでランダムスターをケースから取り出した。
瞳を閉じてゆっくりとギターを抱きしめながらその感触を確かめ始める。なんか良い雰囲気、少し感動しちゃうよ。
手を伸ばしてランダムスターを奪い返そうとしていた有咲の手を掴んで、動けないようにしっかりと握っておいた。
「ちょっ、優璃なにを」
「シッ! このまま、ね」
香澄の邪魔をされないように有咲の手をしっかりと握り締める。有咲もわかってくれたのか、わたしの手をキュッと握り返してくれた。
「お前ってちっちゃいわりに、結構大胆なんだな」
「いや身長は同じくらいじゃん、それとも胸か! 自慢か!」
「いやそういう話じゃ……」
空いた手で香澄の方を指差すと、有咲も理解してくれたのか喋るのをやめてくれた。わたし達は手を繋いだまま、しばらく香澄の尊い姿を黙って見守った。
それより有咲の手汗が凄い、もしかしてどこか体調が悪いのかな?
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「あのギター凄かったね、なんかすっごくドキドキした」
「香澄、めちゃくちゃ瞳をキラキラとさせていたよね、よっぽど気に入ったんだ」
「うん! なんか運命を感じちゃったよ」
市ヶ谷邸からの帰り道、上機嫌でわたし達は会話に花を咲かせていた。
結局あの後すぐにもう来んなって蔵から追い出されてしまったんだけれど、あの顔はまた来てねという顔だった。うん、そうに違いないとしておこう。
「ねぇゆり、明日も見に行こうよ。わたし、ありさとも仲良くなりたい」
「いいね、有咲とも友達になりたいし。明日ね……明日……あした?」
「ゆり、どうかしたの?」
明日、そう明日は沙綾と一緒に帰る約束をしていたんだった。
まぁ沙綾も誘って蔵に行けばいいか、沙綾は優しいしきっと付き合ってくれるでしょう。
いや待てよ、よくよく考えたら沙綾はお家の手伝いがあるから寄り道なんてしている時間は無いのかもしれない。
仕方ない香澄の方を断ってと、いや待てよ、ここまで良い流れが続いているだけにもっと香澄と有咲の尊い絡みが見たい気もする。
うーん、仕方がない迷った時は先約順、明日は沙綾と一緒に帰るとしますかね。
「香澄、明日はわたしちょっとだけだけだけど、帰りに用事があったんだわさ」
「えっ? じゃあわたしも付いて行こうか?」
「いやいや、それはちょっと訊いてみないとだわさ」
「ふーん、誰かと何処かに行くんだ。男の子? デートなの?」
「いやいやいやいや、そんな訳が無いってばよ」
「ふーん、あ、や、し、い」
いやただ沙綾と一緒に帰るだけなんですけどね。
あれっ? わたしなんだか手汗が凄い、もしかしてどこか体調が悪いのかな?