せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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59.並んで歩こう

 

 

 

 下校途中に立ち寄った有咲の蔵からの帰り道、わたしと香澄は川沿いの土手をのんびりと歩いて帰る事にした。

 夏の夕暮れは日差しを弱めながらもまだまだ明るくて気温も高く、すれ違った買い物袋を提げたおばさんもまるで戦場(バーゲン)から勇ましく凱旋したばかりのように顔を上気させ鼻を豪快に鳴らしながら力強く歩いています。

 

 そんな人通りも賑やかな土手沿いの道を歩きながらふと真横を眺めてみれば、川面から反射した夕陽に照らされた幼馴染みの横顔がやけに眩しく見えて、心なしかコツコツと鳴っている靴音も見惚れてしまったのか普段よりもペースが落ちているようです。

 

 

「それで新曲の作詞はどうですかな?」

 

「順調だよ、今度は明るい感じにしようかなって思ってる」

 

「初ライブ用ですからね、ポピパらしくキラキラな感じに出来たら良いね」

 

「タイトルは決めたよ、〝 Yes! BanG_Dream! 〟」

 

 

 柔らかい逆光に照らされた香澄が可愛らしく右手で拳銃を構えたポーズを向けてきました。

 わたしには馴染みの深い言葉な筈のBanG_Dream、でも以前に脳裏によぎった横たわる香澄らしき女の子と見知らぬ男の子の声を観てからは、今までの知識が本当にゲームで得た情報だったのかという疑念が頭の中から離れなくなってしまいました。

 新しい経験と共に見えなくなっていくゲーム知識だと思っていた記憶。この世界に来たからには優璃として生きていくと決めた筈なのに、何故か段々と自己を喪失していくような焦燥感に我ながら矛盾を覚えてしまうのです。

 

 

「もうすぐ誕生日だよね、何か欲しい物でもありますかね?」

 

「うーん、そうだなぁ」

 

 

 香澄は人差し指を顎に添えながら暫く思案したかと思ったら、急にわたしの手を引きだして土手の斜面に広がっていた草むらに腰を降ろしてしまいました。

 取り急ぎハンカチを取り出して香澄のお尻の下に敷いてあげてから、わたしも自分の鞄を椅子代わりにして並んで座った。

 二人で眺める陽の光を浴びてキラキラと光っている川辺の景色はどこか幻想的で、流れゆく夏の風は感じる筈のない海の匂いさえも運ぶようにわたし達の髪を優しく揺らし続けた。

 

 

「ゆりがずっと側に居てくれたらいいよ、それが最高のプレゼントだもん」

 

「またそんな格好良い風な事を言う」

 

 

 笑うように語った香澄は、まるで沈みゆく太陽を名残むように彼方の空へと視線を向けた。

 

 

「あのね、ゆりは帰る場所なの。例えどんなに無茶をしても例えどんなに無謀だったって、わたしには帰る場所があるから安心して走り続けられるんだよ」

 

「これからはポピパも香澄の帰る場所になりますよ」

 

 

 此方を向いて白い歯を見せながら笑った香澄は本当に可愛いと思った。

 その姿を見てから両手を後に伸ばして背中を反らせながら天を仰いだ。まだまだ明るい夏の夕暮れは青色が色濃く残り、素敵な星空の訪れは足踏みしままま白い雲の輪郭を茜色に縁取っています。

 地面に伸びた長い黒髪、座りながらもスカートを気にして無意識に閉じてしまう両足、無駄毛がまさに無駄と思えてしまう感覚。きっともうわたしは女の子に適応しつつあるのかもしれません、それでもこの胸を疼かせる小さな罪悪感は多分いつまでも消えはしないのでしょうね。

 

 

「香澄、わたしって事故で記憶を失くしちゃったではないですか。それってもう以前とは別人みたいなものですよね、そんなわたしに戻る場所なんて言ってもらえる資格などあるのですかね」

 

「ゆりは優璃だよ」

 

 

 座ったまま両手足を伸ばした香澄は、うーんと軽く唸ってから身体の力を抜いて優しい眼差しを向けてきました。

 

 

「昔の優璃も、少しだけ雰囲気の変わった今のゆりもわたしは大好きだよ。ずっと一緒に居たいっていう気持ちが二倍になったって思えば凄く素敵でお得だと思うんだ」

 

「前向き過ぎますよ香澄は、だからかなわたしも……」

 

 

 棚ぼたな地位を得ているわたしにはきっと資格なんて無い。だけどそれでも望む事は許される筈だ、頑張る事は否定されない筈だ、例え欺瞞でも自分の心に宿る気持ちを誤魔化すのはもう無理になってしまったのですよ。

 

 

「わたし、わたし香澄の帰る場所になりたい。昔の優璃みたいには出来ないかもしれない、それでも今のわたしでも親友って思ってもらいたい、ずっと香澄の事を親友って思いたい!」

 

 

 きっと今のわたしは恥ずかしい程に真っ赤な顔をしているのでしょうね。でも別に良いのです、どんな表情や姿だって香澄になら見られても良いとさえ今は思えるのですから。

 

 

「えへへ、ゆりは本当にわたしの事が大好きなんだからぁ」

 

「えっと、せっかくの甘酸っぱい青春的な雰囲気がぶち壊しなのですがね」

 

 

 勢いよく立ち上がった香澄はスカートに付いた草を手で払い、夏の明るい夕陽を浴びながら優しく手を差し出してきました。

 

 

「並んで歩こうよ、今までもこれからも」

 

 

 香澄の手を取って立ち上がりお互い恥ずかしそうに微笑みあった。

 本当に男前というか主人公然というべきなのか、元男のわたしなんかよりも余程に格好良いではないですかね香澄さんや。

 

 二人で手を繋いだまま両手を高々と空に向けて突き上げた。

 それはまだ見ぬ未来への宣戦布告、明日への挑戦状、失った可能性への鎮魂歌。空を見上げたわたし達の胸で激しく高鳴り続ける星の鼓動はポピパの道筋を照らし、世界中のみんなの心に眠る夢の欠片を撃ち抜いてゆくのですよ。

 

 

「おやおや、何やら青春っぽい雰囲気で」

 

「身長が足りなくて背伸びをしている恥ずかしい姿を見られるとは何たる不覚おのれ何者、ってなんだ美咲と結衣ですか」

 

「青春っぽいのは恥ずかしくないんだ」

 

 

 急に声を掛けられて驚きながらも振り向いた先には、土手沿いの道で冷めた視線を向けているミッシェルの中の人こと奥沢美咲さんと、眼鏡の奥の大きな瞳を丸く見開いている自称わたしの専属従者らしい戸塚結衣ちゃんの姿がありました。

 

 

「ふにゅにゅ羨ましいでしゅ。私もお姉様と手を繋ぎ、いや腕を組み、いやいやいっそ抱きしめてしまっ」

 

「はいはい戸塚さんそこ迄にしてくださーい」

 

 

 的確なツッコミを見せるとはやはり奥沢美咲は只者でありませんが、この二人の組み合わせというのも雰囲気的には意外と感じます。

 

 

「それにしても美咲と結衣が一緒とは意外性があって良きですな」

 

「まったく呑気な、いったい誰のせいで苦労していると思っているの」

 

 

 小首を傾げながら思考を巡らせてみれば思い当たるのは弦巻こころでしょうか、確かに暴走天使なあの娘の制御は大変だろうとは察してしまいますね。

 

 

「私はなるべくなら平々凡々な高校生活を送りたいの。それなのにただでさえ変な集団に巻き込まれて大変なのに最近はまとめ役みたいな感じになってきてさ、元々そういう役回りは優璃がする筈じゃないの?」

 

「いや美咲が適任でしょ」

「奥沢さんが適任でしゅ」

 

「なにこの二人、酷い」

 

 

 小刻みに制服の袖を引っ張る感触に釣られて横を見ると、瞳を輝かせながら何かを期待している香澄の姿を見て慌てて美咲との初顔合わせをしてもらいました。

 

 

「それじゃ戸山さんが優璃の言っていた幼馴染みなんだね。ゴメンね、優璃に二つもバンドを掛け持ちさせちゃって」

 

「掛け持ちって……?」

 

「はいはーい違いますぅ勘違いですぅ、ハローハッピーワールドに所属しているのはミッシェルの妹のアンジェラですぅ、ですよね結衣さんや!」

 

「はい、お姉様の仰る通りハローハッピーワールドにはアンジェラ様が加入しておられましゅ、ねっお姉様」

 

 

 あっぶねぇです。よくよく考えたら未だにポピパのみんなにはハロハピの存在を話していなかったです。ポピパの大事な時期に他所のバンドに首を突っ込んでいたなんて知られたら今まで築き上げた信頼も地に落ちるというものですよ。

 

 

「と、ところで二人は鶴巻邸からの帰り道ですかな、お疲れ様ですなぁ」

 

「はい、先程までお姉様を取り込……アンジェラ様の迅速な加入の為に色々な打ち合わせをしておりました。でもその必要性も今は無くなったようでしゅ」

 

「イヤータイヘンダナァ。それじゃお疲れのところを長話もあれなのでわたし達はこれにて失礼いたしますでございますわよ」

 

 

 これ以降の示し合わせの無い会話は危険と判断して香澄の手を引いて取り急ぎ立ち去る事にしました。

 美咲達に向かって手を振ると香澄も同じように手を振ってくれて、どうやらですがあまり気にも留めていない様子でとりあえず安堵ですよ。

 

 明るい夕暮れの中を手を繋いで歩く。焦ったせいで手汗の心配はありますが何はともあれ、今は二人で仲良く前を向いて全身全霊で初ライブを成功に導いていきましょうね、香澄さん。

 

 

「やっぱり誕生日プレゼントは指輪とかの方が良いのかなぁ」

 

「シルバーリング的な感じ?」

 

「ううん、星の形のダイヤが乗っている感じで」

 

「高校生に向かって無茶振りが過ぎますよ!」

 

 

 困らせようとしたのか瞳を見開いた小憎らしい笑顔を向けてきました。それにしても流石に高級な指輪は無理ですがミサンガくらいなら良いかもしれませんよね、わたし達ポピパの願いが叶いますようにって、なんてね。

 

 沈みゆく太陽さんは寂しく見えても、きっと世界中のみんなが抱いている明日への夢を解き放つ為に眠りについてくれるのです。

 そんな夕陽に照らされて色濃く伸び続けるわたし達の影のように、この果てしない道をどこまでも並んで歩いていこうと心に誓うわたしなのでした。

 

 

 ちなみに何故かこの夜は香澄が遊びに来て頑なに帰ろうとせず、結局は勢いのまま一緒に眠る羽目となってしまいました。普段はあっちゃんに怒られるからとあまり泊まる事はないのですが偶には香澄にも寂しい夜があるのでしょうね、そんな幼馴染みの心境を察して二人で手を繋ぎながら横で眠る事にしました。

 

 あのそれよりも香澄さん、繋ぐ手の力がやたらと強いようですがこれだと痛くて眠れそうにないのですよ。

 

 

 

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