せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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62.魔女裁判を女子会とは呼べない

 

 

 【女子会】

 淡白とも思えるその甘美な響きには、乙女達の微かなる秘め事と最強無敵のキャッキャウフフが入り混じる男子禁制夢空間の戯れがあるのですよ。

 

 

 昨日開催された香澄の誕生日会は、まさに至高の女子会と言わざるを得ないイベントでした。

 和気藹々とした雰囲気の戸山邸リビングにはクラッカーの派手な音と大きなバースデーケーキ。

 喜色に満ちた美少女達の笑い声が響き渡るなかで必死にお嬢様猫を被り続けようとする有咲、そんな偽お嬢様を天使の微笑みで優しく見守るりみりん。

 香澄は言うに及ばずですが普段は落ち着いた雰囲気を持つおたえや沙綾さえも珍しくはしゃいでいます。

 そんな浮かれきったポピパのメンバー達を若干の呆れ顔で眺めているあっちゃんの隣に座り、最上のキャッキャウフフを生暖かく鑑賞して満喫するわたし。

 この夢空間で過ごすひと時を至福の刻と言わずしていったい何と呼ぶのですかね、そろそろ尊いという概念は世界文化遺産に登録されて然るべきだと思うのですよ。

 

 

「優璃ゴメン、半分も理解が出来ないわ」

 

「なんでや美咲、お主なら伝わると思ったのにぃ!」

 

「勝手にそちら側の住人にしないでくださーい」

 

 

 放課後の練習の為に弦巻こころ宮殿を訪れていたハローハッピーワールドのメンバー達とわたしは、黒服のお姉さん達に通された防音が施された特別室にてボーカルのこころを中心としたハロハピのメンバー達や美咲の分身ともいえる着ぐるみのミッシェルは各々の担当楽器の練習を、わたしの仮初めの姿であるアンジェラは結衣を講師として着ぐるみダンスの特訓をそれぞれ終え、着ぐるみのせいで汗に塗れたわたしと美咲は結衣を交えてシャワーを浴びてから打ち合わせという名の休憩の為にメンバー達が先に待つ部屋へと連れ立って向かっております。

 

 

「それにしても戸塚さんはダンスも出来るんだね、凄いなぁ」

 

「この戸塚結衣、優璃お姉様の為なら踊りだろうと囮だろうが何でもやりましゅよ」

 

「そんな事を言っている美咲こそ着ぐるみのままDJプレイをするとか大概な超人ですがね。とはいえ確かに結衣は頼りになりますよ、練習後に一緒にシャワーを浴びようとしなければ更に最高な女の子なのですが」

 

「時間の効率化でしゅよ、そして裸のお付き合いでお姉様との親密度アップでしゅ」

 

 

 小さくガッツポーズをしながら隣を歩く結衣は傍目には大人しそうな眼鏡っ娘という雰囲気なのですが、いざ接してみれば意外や積極的な距離感で懐いてくれるのが可愛いくてついつい甘やかし気味になってしまうのが最近の悩みなのです。

 

 

「それにしても優璃が肌を見られるのが苦手なのは意外だわ、裸でも平気で走り回るイメージだったのに」

 

「どんな幼児ですかねそれは。確かに見られるのは苦手ですが見る方は好きですよ、美咲も結衣もとても綺麗な身体ですからね」

 

「そう言われたら何だか気持ちが悪く思えてきた」

 

「美咲さんや、少々わたしへの扱いが悪すぎではないですかね?」

 

 

 他のメンバー達が待つ部屋の扉が見えてきた所で早足をして、美咲と結衣の前で跳ねるように反転してから笑顔を向けた。

 

 

「でも二人に出会えて本当に良かった。これからもハロハピをよろしくお願いしますね、大好きですよ二人共」

 

 

 何となく二人も笑顔を返してくれると悠然と待っていたら、勢いよく返ってきたのは美咲からの容赦のないデコピンでした。

 

 

「こういうところに戸塚さんはやられたの?」

 

「はうぅ、お姉様の笑顔は最高でしゅ」

 

「痛いですよもう、美咲が酷いです」

 

 

 デコピンを炸裂させた後に今度は両手で頬をぷにぷにと弄ばれる。とくに嫌われている雰囲気などは感じないのですが、何故だかこのダウナー系のやれやれ娘は少々わたしに当たりがきついように思うのです。

 

 

「そうやって色々な事を私達に押し付けて逃げようとしても無駄だからね。絶対に逃がさないでおこうって戸塚さんと話しているから」

 

「別にそんな気はありませんよ、見守りたいだけです」

 

 

 視線を逸らすように拗ねた表情を見せたら、美咲はやれやれと言いたそうなため息を吐いてから頭上に手を乗せてきた。

 

 

「せっかく出来たミッシェルの妹を簡単に手放すつもりはないから、潔く諦めなさい」

 

「おのれ手強き女子ですね、まぁアンジェラを演るおかげでミッシェルへの恐怖心が和らいできた事には感謝をしていますがね」

 

「お姉様笑顔でしゅ、可愛いお顔が勿体無いでしゅよ」

 

「そうそう、恥ずかしがってシャワー室の床で縮こまっていた優璃は可愛いと思っ……」

 

 

 結衣に釣られて笑いながら喋っていた美咲が急に言葉が詰まったように黙ってしまったので覗き込むようにしてその表情を窺うと、わたしと視線が合うと同時に驚くような早さで顔全体が鮮やかな朱色に染まっていった。

 

 

「どうかしたのですか、美咲?」

 

「あー、ほらほら皆さんがお待ちかねですよー」

 

 

 照れくさそうな表情の美咲が急に右腕を、その姿を確認した結衣に素早く左腕を拘束されたわたしは、さながら連行される凶悪犯のように己の足先を滑らせながらメンバー達の待つ部屋へと強制的に運ばれて行くのでした。

 

 

「あら優璃と美咲も来てくれたのね、とっても嬉しいわ!」

 

 

 豪勢な扉を開けるやいなや輝くような笑顔と飛ぶような勢いで駆け寄ってくるお姫様の姿に、わたしと美咲は顔を見合わせながら苦笑いを浮かべあった。

 

 

「二人が来てくれたらミッシェルとアンジェラもきっと喜ぶわ、とってもハッピーな出来事ね」

 

 

 やれやれ流石に慣れてきたとはいえ弦巻こころさんや、いったい何度説明すればミッシェルとアンジェラの中身はわたし達と御理解いただけるのでございましょうかね。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 夏休みも近づき、茹だるような暑さと若干の浮わついた雰囲気に包まれ始めている花咲川女子学園。

 普段のお昼休みを中庭で過ごす事の多い我等がpoppin'partyなのですが、猛暑日に降り注ぐ強烈な日差しから逃れる為に本日は高等部1年A組の教室でお弁当タイムを楽しみ、その後は来るべき初ライブに向けての団結力を高める為に他愛もない雑談に興じております。

 

 

「はぁ、早くライブがしたいねぇ」

 

「少しは緊張とかしろよな、もうすぐ本番だぞ」

 

 

 力無く机の上に突っ伏しながら呟いた香澄の頭を仕方がない奴と言わんばかりの表情で有咲がポンポンと軽く叩き続ける。そしてそれを見ながら天使の微笑を振り撒くりみりん、何を思い立ったのか慌ててギターを取り出そうとしている不思議娘のおたえ、椅子に座るわたしの背後から当たり前のように抱きつきながら頭の上に顎を乗せてリラックスしている沙綾。

 わたしはこのポピパの如何にも仲が良い女子高生感というか友達感がとても尊い雰囲気で大好き、ずっと永遠にこの五人を眺めていたいなぁと本気で願っていたりもするのです。

 

 

「あぁゆりも笑ってる、ぶうっ」

 

「違いますよ、やっぱりポピパのみんなが大好きだなぁって思っただけ」

 

「おいおい急にどうした、もしかして熱でもあるんじゃねぇのか?」

 

 

 膨れっ面の香澄とわたしを心配しているのか馬鹿にしているのかニヤニヤとした有咲の表情を見て他のメンバー達が笑い出す。

 とくに何て事のない日常の光景かもしれないけれど、安心できるメンバー達との些細なやり取りの積み重ねをいつかきっと青春の日々と呼ぶのでしょうね。

 

 しかしそれにしてもB組の有咲が隣のクラスであるA組に馴染んでいるのは冷静に考えれば凄い事ですよ。あの引きこもり属性持ちでコミュ症全開だった有咲たんがまさか成長の兆しをみせてくれるとはこの美月優璃、友達としてもポピパのメンバーとしても感涙に咽び泣く程の感慨深さがありますぞ。

 

 

「優璃ぃぃぃぃ!」

 

「あー、あー、美月さーん、ちょっとお願いしまーす」

 

 

 教室中に響き渡る高音でビブラートの効いた呼び声に反応して顔を向けると、教室の入り口でブンブンと手を振る弦巻こころとまるで表情の薄い招き猫のような風体で手招きをしている奥沢美咲の姿がありました。

 

 こころの賑やかな動作とは反比例に段々と静けさを増していく教室内から降り注ぐ物言わぬ視線にクラス内での立場を危惧したわたしは、いつの間にか抱きしめるような形となっていた沙綾の手を優しく解いてからこころ達の元へと平静を装いながら滑るように向かった。

 

 

「優璃! 久しぶりね」

 

「いや先日にみんなで会ったばかりだと思いますがね」

 

「今日は初めての出会いよ」

 

 

 教室の出口まで近付いたら楽しそうな笑顔のこころが風に舞う羽毛のような身軽さで飛び跳ねながらハグをしてきましたが、取り敢えずバランスを崩さないようにしっかりとその身体を受け止めて普段通りに優しく頭を撫でてあげると、近付いてきた呆れ顔の美咲に黙ったまま背中を押されて教室の外へと連れ出されてしまいました。

 

 

「あのさ此処は日本、むやみにハグとかはしない文化なの」

 

「あらハグはしたい時にするものよ、だから美咲にもしてあげるわ」

 

 

 今度は美咲にハグを試みたこころが慣れた手付きで頭を押し返されるように阻止される、ハロハピで集まった時にはよく見られる光景なのですが美咲という娘は面倒臭そうな態度を取るわりにはこころと普段から一緒に居る事が多いのですよね、同じクラスという事もあるのかもしれませんが本当は面倒見の良いヤレヤレ系女子というのはもはやメンバー間では公然の秘密と化しておりますぞ。

 

 わちゃわちゃとした美咲とこころの触れ合いを生暖かい視線で堪能していたら、左腕にポスッという柔らかい感触が走った。

 

 

「ゆーちゃん、あの、あのね、久しぶり」

 

「いやはぐみちゃんとは同じクラスでしょ」

 

 

 左腕に抱きついて来たのはベース担当でショートカットがチャームポイントの北沢はぐみちゃん。

 恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながらも慣れない手付きでしがみつくその姿は言葉に出来ない程の愛らしさに溢れていて、ポピパのりみりんが癒しの天使とするならばハロハピのはぐみちゃんは元気で無垢な妖精といった風情がありますね。

 

 

「こころんがね、ハグしたらゆーちゃんが喜ぶって教えてくれたんだよ」

 

「そうよはぐみ、優璃はハグをしたらとっても笑顔になるのよ」

 

「まぁそれ自体は否定しませんがね」

 

 

 はぐみちゃんとこころによる両側から挟まれる形のおしくらまんじゅうハグ地獄に身動きを塞がれていたら、三人揃って美咲に後頭部を軽く叩かれてしまいました。

 

 

「何をやっているの君達は。はいはい優璃もデレデレとしない」

 

「おっとそういえばハロハピの一年生組が勢揃いではないですか、いったいどうしたのですか?」

 

 

 ハロハピはミッシェルとアンジェラを加えた六人体制がメインで、そこに裏方としての美咲と幽霊隊員なわたしも何故か勘定された総勢八人となる意味不明なメンバー構成なのですが、わたし達四人組を除いたギターの薫先輩とドラムの花音先輩は一学年上の二年生組なのです。

 

 

「聞いたのよ優璃がもうすぐライブをするって。うーんとっても素敵な出来事と思ったわ、だからハロハピもライブをしようと思うの」

 

「えっとこころさんや、会話の中身がツッコミどころしかないのですがね」

 

 

 わたしの両手を取りブンブンと上下に振り回しながら楽しそうに金色の瞳を輝かせる美少女さんと言葉の意味を理解しているのか些か不安になる弾けるような笑顔の無垢な妖精さん、その二人とは対照的に疲れ切った表情でため息を吐いている美咲と中々に混沌とした光景でこれはこれで尊いとも思えますね。

 

 

「いや普通に無理でしょ、まだ一曲目を仕上げている途中だよ」

 

「やってみないと分からないわよ美咲、歌ならいくらでも湧き出してくるものよ」

 

「いやそれ鼻歌じゃん、バンドの曲じゃないって」

 

 

 ふむふむやはり美咲は普通の人間とは思えないですね。ハロハピの作詞作曲を手掛けていながら着ぐるみを纏ってDJプレイもこなし、更にツッコミのキレは市ヶ谷有咲級とはもはや人間業ではないですよ。

 

 

「もう優璃もこころを説得してよ」

 

「いやぁ、美咲って凄いですなぁ」

 

「どうして他人事の顔をしているのかなアンタは」

 

 

 美咲に両頬を引っ張られながら怖い顔色をされたので慌てて痛いですアピールをすると、あっさりと手を離して優しく頭を撫でてくれました。

 

 

「もう痛いですよ、少しは容赦をして頂きたいところですね」

 

「ごめん、でも優璃はもう少しハロハピの事を考えて」

 

「ポピパの初ライブを乗り越えたらちゃんと手伝うつもりですよ。あっ、ところで美咲?」

 

 

 ふいに問い掛けられた美咲が可愛らしい女の子みたいな仕草で首を傾げた。

 

 

「美咲はハグをしてくれないのですか?」

 

「す、す、する訳がないでしょ、バカなの⁉︎」

 

 

 少し揶揄っただけなのに、とても激しい勢いで何度も腕を叩かれてしまいました。

 美咲はどうやら普段のヤレヤレ系ダウナー女子とは違ってしっかりと乙女の部分も持っているようでして、これは中々に可愛くて弄り甲斐のあるキャラクターに出会えたのかもしれないですね。

 

 

「でもでもゆーちゃん、ライブって何をするの?」

 

「おっとはぐみちゃん、そこからだと長くなりそうですのでハロハピ会議の時にでも話しますよ」

 

 

 わかったぁと屈託のない無邪気な笑顔を見せるはぐみちゃんに、懲りずに再びハグを仕掛けようとするこころを全力で阻止しようとする美咲。うん、今日もハロハピは通常運転の模様ですね。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 教室の中に戻りはぐみちゃんと軽く手を振って別れてからポピパの所に戻ろうとしたら、急に腕を引っ張られて無理矢理に空いている席へと座らせられた。

 驚いて周りを見渡すと対面には腕組みをしたクラス委員長のみっこ、その眉間に皺を寄せた表情はどうみても上機嫌とは伺えない雰囲気を纏っております。

 

 

「ちょいと美月さん、いい加減にしていただけませんかね」

 

「みっこさんや、身に覚えは何も無いのですが取り敢えず無実を主張させていただく所存にて」

 

「そちらに身に覚えが無くても関係ないのよ」

 

 

 腕組みをしながら座った椅子ごとにじり寄ってくるクラス委員長に若干の恐怖を覚えた。

 

 

「私達、いや『カユサーの微妙な距離感を慈しむ1ーAの会』としてはポピパのホンワカとした雰囲気を遠くから眺めていたいわけ、なのに他所でハーレムを構築しようとするとか何なの? 美月は歩く愛され製造機か何かなの?」

 

「いやそれよりもカユサーって何ですかね、お粥を楽しむサークルか何かですかね」

 

「テメェ、フ、ザ、ケ、ル、ナ」

 

 

 顔をにじり寄せてきた委員長とおでこ同士を突き合わせて激しく睨み合う。まさに一触即発といった状態ですが、そもそも何故にわたしが怒られなければならないのですかね。

 

 

「あの子達はポピパとは違うバンドのメンバー、変な誤解をしたら可哀想ですよ」

 

「おやおや他所のバンドに浮気とは。ちゃんとポピパに集中してくれませんかねぇ、この中途半端ロリボディガールが!」

 

「はぁなんとも失礼な言い草でございますな。言われなくてもポピパが一番に決まっとるやろがい、この絶壁美少女委員長が!」

 

 

 側から見れば喧嘩のようですがみっこ委員長とはこれがいつものやり取りで、最近ではクラスメイト達からのもっとやれ等の煽り言葉も散見するくらいのクラス名物と化していたりもするのです。

 お約束のような委員長とのおでこ相撲を楽しんでいたら、先程から制服の背中を小刻みに引っ張り続ける謎の存在が無性に気になり始めた。

 やれやれ香澄が待ちくたびれて呼びにでも来たのでしょうかね、やれやれ仕方がないのでポピパのみんなの所にでも戻るとしましょうか。

 

 委員長のおでこを手の平で押し返してからひと息つき、ニヤつきそうになる表情を必死に抑えながら後方へと身体を向けると、目の前に現れたのは香澄ではなく羞恥に染まった顔を俯かせながらも何かを言いたげな瞳を向けている結衣の姿でした。

 

 

「あ、あの、お姉様、あの……」

 

 

 消え入りそうな程の弱々しい声で発せられた『お姉様』という単語に教室の中に張り詰めた緊張感が走る。興味津々といった好奇な視線が突如現れた眼鏡美少女へと向けられ始めた事を敏感に察知したわたしは、結衣を高速で回れ右させてから全力で背中を押して再び教室の外へと脱出しました。

 結衣の背中を押している際には、背中越しにみっこ委員長の「お、おね、おね、おっ、おねぇ」というリズミカルでゴキゲンなラップもどきが炸裂していましたが取り敢えず聞こえていない風を装っておきます。

 

 

「はぁ、知らない人が多いと緊張するでしゅ」

 

「わたしはある意味で戦慄しましたがね。ところでいったいどうしたというのですか、わざわざ隣のクラスまで来るなんて」

 

 

 廊下に出た事で緊張が解けたのか、結衣はいつもの柔らかい微笑みを見せてくれた。

 

 

「はい、弦巻 花様からの言付けで『偶には顔を見せなさい』と」

 

「いやハンナとは顔を合わせてからそんなに日が経ってはいないような気が」

 

「お姉ちゃんに伝言を頼まれただけでしゅので。それに私としては優璃お姉様と学校でお話が出来るチャンスなので願ったり叶ったりなのでしゅ」

 

 

 嬉しそうな笑顔の眼鏡美少女を見ていると理不尽な状況に追い込まれている不満を口にする気力を削がれてしまいそうですが、それはそれとして薄い青色の夏制服を無慈悲な程に圧迫している御立派な胸を三回ほど右手の人差し指でツンツンと懲らしめておきました。

 

 

「もうお姉様、触るなら優しくが嬉しいでしゅ」

 

「何を訳の解らない事を言っているのですかねこの美少女は。それよりもハンナに伝えてくださいな、夏休みに入ったら遊びに行くかもしれません、いや行けたら行きますと」

 

「それって絶対に行かないやつでしゅ、私が怒られるやつでしゅ」

 

 

 わたしの返答を受けて慌てたように胸の前で両手を振り始めた結衣の頭を、背伸びをしながら腕を伸ばして優しく撫でた。

 

 

「人見知りなのにわざわざA組まで来てくれたのですよね。結衣は本当に可愛くて良い娘です、これからもわたしと仲良くしてくれたら嬉しいな」

 

「おおおお姉様、それはずっとお側でお仕えしなさいという、結衣はもはやお姉様の眷属であると」

 

「論理が飛躍し過ぎていますな」

 

 

 呆れながら頭を軽く叩くと結衣が悪戯っ子のように軽く舌を出しながら笑ってくれた。

 実の姉が世界的富豪の令嬢である弦巻こころの専属ボディガードを勤めているだけあって、その妹である結衣の秘めたる能力も高い事は何となく察知が出来るのですが時折見せる暴走気味の挙動がその……まぁ可愛いのですがね。

 

 

「さてそろそろ教室に戻るとしますね。これよりわたしは修羅共との戦い、おそらく待ち受けているであろう1ーA特別魔女裁判を生き抜かねばならないのです」

 

「御武運を、お姉様」

 

 

 魔女裁判の主な原因はこころ達と結衣が生んでいるのですが、それを語るのもまた野暮というものです。

 御立派な胸の前で祈るように手を組み深く頷いた結衣に、わたしも決意を固めた頷きを返してから教室に入る為の扉に手を掛けた。

 

 ただ戦場へと赴く前にひとつだけ愚痴を吐いても宜しいか、聞いてくだされ心の内に棲まう空想妖精モヤット君。

 

 結衣もこころ達も連絡程度ならメールっていう便利なツールもあるのですよ。クラス内序列はともかく、こういう時に香澄達が向けてくる乾いた笑顔は本当に寒気がくる程に恐ろしいのですよ。

 

 

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