せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。   作:月白猫屋(つきしろねこや)

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64.【幕間】恋は羞恥心と共に(美竹 蘭視点)

 

 

 

 あたしは他人との距離感を計るのが苦手だ。

 

 別に人間嫌いという訳でもなく、気を遣ってまで仲良くするのが面倒くさいと思ってしまうタイプなのだという自覚も持っている。

 あたしにとって特別なのは四人の幼馴染み達、After glowのメンバー達だけ。他の人達は適当な距離感でお付き合い出来ればそれでいいとさえ思っていた。

 

 

「ちょっと蘭、どうしたのですか?」

 

 

 そんな不器用なあたしが、何故かCiRCLE練習スタジオの室内で同い年の女の子相手に壁ドンをかましていた。

 どうかしている、いったい何がどうしたというのだろうかあたしは。

 

 

「もしかして怒っているのですか?」

 

「誘ってこないからって別に怒ってない」

 

 

 困ったような、それでいて伺うような視線を向けてくる、可愛い。

 

 

「色々と忙しくてですね。それとあの、あまり見つめられると恥ずかしいのですが」

 

「優璃って直ぐに目線を外すよね、嫌なの?」

 

「違うよ。蘭の瞳って大きくて力強くて格好いいからその、見つめられると照れるのです」

 

 

 頬を紅くしながら恥ずかしそうに視線を逸らす優璃、とても可愛い。

 

 

「あたしの事が苦手なの?」

 

「そんなのある訳がない」

 

 

 優璃が頭を振りながら身体を寄せて首元に顔を埋めてきた、最高に可愛い。 

 

 

「蘭の瞳に弱いの、ドキドキしちゃうから」

 

 

 はぁそれってあたしに惚れているって意味じゃん。もう焦らさずにサッサと告白したらいいのに、こちらは優璃が自白してくるのをキリンくらいに首を長くして待っているんだからさ。

 

 優璃がリズムよく零す吐息が首筋に甘く掛かる度に蕩けそうな気分になる。

 落ち着けあたし、ここで取り乱したりしたら全てが水の泡、ここはあくまでもスマートに、息を整えて、震えそうになる手を落ち着かせて。

 両肩を掴んで少しだけ距離を開けて真剣な表情を作り、優璃の瞳を見つめ続けた。

 

 何かいい雰囲気だしこれなら大丈夫だよね、早く言っちゃいなよ私と付き合って……って全然言ってこないし。

 

 それでもあたしを見つめる瞳は見惚れているかのように微かに潤んでいたって、可愛すぎるでしょ滅茶苦茶に可愛すぎるでしょ、ずっと見ていたいわこの表情。

 ヤバいキスしたい欲求が凄い、でも無理矢理にキスをしようとしたら嫌がられるかもしれないしそういうのは求めていないって言われたら傷付きそうだし挙げ句の果てに避けられるようになったら再起不能かもしれない(自分が)。

 

 

「優璃……」

 

「やっぱり蘭の瞳は素敵だね」

 

 

 優璃の微笑みが可愛すぎて衝動的に片側の頬へ手を添えてしまった。

 ダメダメ自制が効かなくなっているじゃん。お願い早くそっちから告白して、せめて合意という既成事実をあたしに頂戴。

 あーヤバい、これ完全にキスしたいってオーラが出ているかも、ダメだって止まってあたしその先に避難口はないんだってば。

 

 

「待たせたな蘭って……お、お邪魔しましたぁ」

 

「いや違うから!」

 

 

 ドラム担当の(ともえ)がスタジオの扉を開けた瞬間に咄嗟の判断で優璃の身体を離したけれど、正直に言えば心からの感謝を捧げたいくらいには助かった。あのままならば絶対にキスをしていたかと思うと冷や汗が滲む、色々なものが崩壊する直前で助けてくれた巴は正に救世主様だよ。

 

 

「わたしそろそろ行くね。頑張ってね、蘭」

 

「あっうん、またね」

 

 

 別に居てもいいのにと言う巴を肘で制しながら、慌てるように立ち去る優璃に向かって軽く手を振った。

 頑張ってね、蘭か……語尾にハートマークが見えちゃったよもう、まったくあの娘あたしの事が好き過ぎじゃないかな。

 

 

「邪魔しちゃったか?」

 

「いや助かった、ありがとう巴」

 

 

 お礼を言われた理由が解らずに首を傾げる巴の肩に優しく手を乗せた。

 あたしは自らの欲望に打ち勝った、優璃の反応からして告白も近いだろうし勝利の宴も間もなくだねって……次のデートの日取りを決めるつもりだったのにすっかりと忘れていたじゃん、何をやっていたのだろうかあたしは。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

「うそ、まだ付き合ってなかったの?」

 

 

 学校帰りにバンドメンバーで立ち寄った『羽沢珈琲店』、あまりオシャレ過ぎず落ち着いた雰囲気の居心地が良い喫茶店で、うちのキーボード担当の羽沢つぐみの実家でもある。

 

 そんな居心地の良い空間でアイスティーを嗜んでいるあたしの向かいの席で、これでもかと瞳を見開きながら呆れ顔を晒しているのがバンドのリーダーでベース担当の上原ひまり、あたしとは違って人当たりも良く誰からも好かれるような明るい女の子、ただしいつも声が大きいのは唯一の難点だ。

 

 

「だから、何で付き合っている前提なの」

 

「とっくに蘭が告白済みかと思っていたのに」

 

「はぁ? あたしがいつ優璃を好きって言った?」

 

 

 急に全員が押し黙ってしまった。

 あたしは別に優璃に恋愛感情を抱いていない。そりゃ可愛いなって思うし抱きしめたいなって思うしキスもしてみたいかなって思うけれど別に惚れてはいない、あくまでも惚れているのは優璃の方だと思っている。

 

 

「まぁ蘭は告白出来そうもないよねぇ、モカちゃんは薄々と察していましたよ」

 

「モカ、うるさい」

 

 

 ニヤニヤとした表情と飄々とした態度を見せてきたのはギター担当の青葉モカ、のんびりとした雰囲気のモカとせっかちなあたしは不思議とウマが合うようで、仲が良い幼馴染み達の内でも親友のような存在だと今は感じている。

 

 

「さっさと告白しちゃえよな、あたし達の事なんか気にすんなって」

 

「巴ちゃんそんなに煽るような言い方しちゃ駄目だよ、暖かく見守らないと蘭ちゃんも告白しづらくなっちゃうよ」

 

 

 下町っ子の巴は高い身長とスラリとした体型も相まって頼り甲斐があるけれどいつもデリカシーが少しだけ足りない、そのせいであたしとぶつかる事も多々あるのだけれどその間を取り持つのが何時もつぐの役目になっていた。

 つぐは生真面目で優しく気遣いもマメな、まるで優等生を絵に描いたような女の子だけれど無理をしてしまう性格でもあるのでそこだけは心配している。

 

 それにしてもライブの予定が無い時期はみんな暇なのか、最近あたしに関してはこの手の話題が増えた気がする。

 当事者とはいえこういう女子トークのような話題は苦手だ、出来ればバンド関連の話で盛り上がれる方があたしとしては喜ばしい。

 

 

「あたし達の事は放っておいて、進展したらちゃんと教えるから」

 

「そんな悠長な事を言っていたら、いずれ彼氏が出来たとか言われて泣く事になるって」

 

「それは無い!」

 

 

 ひまりは何を言っているのだろう。あれだけ明確な好意を示している優璃に彼氏が出来るとか有り得る筈もないし、仮に彼氏が出来たのならば脅されているに違いないのだからあたしが助けてあげるだけだ。

 

 

「どうして蘭は告白とかしないのかなぁ?」

 

「優璃からの告白待ち……ってだから、何であたしが優璃を好きって前提で話を続けてんの!」

 

 

 モカからの問い掛けに答えたら、何故か再び全員が押し黙ってしまった。

 自分から告白なんて絶対に嫌だ。ネットでも『恋愛は先に告白した方の負け』なんて書かれていたし、勝負事なら負けるなんてあたしの性分(しょうぶん)に合わないし何より好きなんて恥ずかしくて言える訳がない、それにそもそも恋愛感情を持ってはいないのだから告白の必要が無い、まぁ優璃に告白されたら付き合うけれども。

 

 

「みんなを驚かせてやるから黙って見ていて、あたしが完璧に勝利したところをちゃんと見せてあげるからさ」

 

 

 自信満々の勝利宣言予告を聞いて、全員が無表情にも見える能面のような顔をしながら押し黙ってしまった。

 みんなひょっとして打ち合わせとかしていないよね、いくら幼馴染みとはいえあたし以外の全員が何度も息が合うとか流石におかしいでしょ。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 

 混乱とは突然やってくるものだ、例外なんてありはしない。

 

 今日はメンバー達が気を利かせたらしく、CiRCLEから優璃が乗車をする最寄駅までの道程を二人で帰る事になったのだけれど、所属しているバンドの初ライブが近付いて浮かれた様子を見せていた優璃が道すがら発した言葉に我ながら素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

「はっ、えっ、何? 意味が分かんない」

 

「だからですね、幼馴染みから恋人禁止令が出されたのですよ。まったく、そんな心配は無用だと思うのですがね」

 

 

 優璃は笑顔だけれど、いくら幼馴染みとはいえ恋愛は駄目とか勝手に決めるなんてあまりにも身勝手が過ぎる。

 優璃の自由を束縛するなんて、優璃からの告白を阻害するなんて、この先に優璃が味わう筈だった色々な体験を遅延させるだなんて可哀想だしあまりにも酷過ぎる。

 

 

「いくら幼馴染みでも酷い、そんなの守る必要はないよ」

 

「でも嬉しかったのですよ、それだけわたしとバンドがしたいのかなって。ですからわたしもバンドを見守る間は恋人を作らないつもりなのです」

 

 

 あたしだったら幼馴染みからそんな事を言われても即時で却下だ、自由を束縛されるなんてロックを愛する人間には到底受け入れられない。

 きっとその幼馴染みは優璃が他の人に取られるのが嫌なのだろう、その気持ちは解るけれど優璃のあたしを好きっていう気持ちまで蔑ろにするのは流石に我慢がならない。

 でもそんなツラい思いをしてまで幼馴染みとの絆を優先させるんだよね、優璃は本当に健気で可愛い……あたしが支えないとね。

 

 

「好きを我慢するのってキツくない? だからさ、そのさ、あたしにはさ……」

 

 

 此方に顔を向けた優璃が不思議そうに瞳を丸くしながら首を傾げた。

 あぁもう伝え方が難しい、あたしに告白しても大丈夫だよ守ってあげるからって言いたいのに。

 

 

「好きは我慢しませんよ。幼馴染みも、バンドのみんなも、そして」

 

 

 優璃がはにかむように微笑む、ちょっと待ってそういう笑顔は反則。

 

 

「蘭の事も大好きですよ」

 

 

 やられた。

 たった今、あたしのハートはマシンガンで粉微塵にされてしまった。

 砕け散ったハートの欠片を優璃の笑顔が優しく纏めていく、そして出来上がった新しいハートはきっと美しいピンク色に輝き続けるのだろう。

 そう、愛という絆と共にね……って優璃が可愛い過ぎるだろうが勘弁してよマジで。

 

 

「あたしも好き、かな優璃の事」

 

「嬉しいですよ、そう言ってもらえると」

 

 

 違うからこれは告白じゃないから、優璃が先に好きって言ったからそれに応えただけだから。

 あたしは優璃とは違って別に恋愛感情なんて抱いてはいない。でも付き合ってと言われたい感情は無きにしも非ずだから、だからね、早く告白してくれないかな。

 

 楽しい時間は瞬く間に過ぎ去り最寄駅が見えてきたところで、優璃の手を引き人気のない建物の影で優しく抱き寄せながら頬へキスをした。

 いつの間にか定着した別れ際のお約束のようなものだけれど……。

 

 

「えへへ」

 

 

 今日は優璃が初めてキスを返してくれた。

 

 

「じゃあまたね、蘭」

 

「あっ、うん、また、またね」

 

 

 手を振りながら駅に向かって走り去る優璃を何をする訳でもなく、ただ呆然と立ちすくむように見送った。

 姿が見えなくなっても動けない、頬に残る感触の爆心地を指で何度も確かめる事しか出来なかった。

 ヤバい嬉しくて死にそうだあたし、家に帰ったら思い切りシャウトしよう。

 

 

「結局告白しないんだ、なーんだ残念」

 

「うわっひまり? それに何でみんなも居るの?」

 

 

 建物の影から唇を尖らせたひまりが現れたと思ったら、その後ろにはちゃっかりと他のメンバー達全員の姿も見えた。

 

 

「まさかずっと見ていたの? 趣味が悪過ぎでしょ」

 

「悪りぃ、やっぱ気になってな」

 

「私は止めたんだけど、ね」

 

 

 バツが悪そうに頭を掻く巴とあからさまに視線を逸らし始めるつぐ。つぐは真面目だから嘘がつけない、誤魔化したとしても顔に興味津々と書いてあるんだよね。

 普段のあたしだったらこんな尾行みたいな真似をされたら怒鳴り散らすところだけれど今夜は何だかとても寛容な気分なんだ、みんなには本当に命拾いしたと思って欲しいね。

 

 

「いやぁまさか幼馴染みを見て共感性羞恥心に苛まれるとはねぇ、モカちゃんは(じれ)ったくて()げちゃいそうでしたよぉ」

 

「モカ、何を言ってんの?」

 

「頬にキスとかさ、女だったらガツンと唇でしょうに」

 

「ちょっとひまり、他人事だと思って気楽に言ってない?」

 

 

 相変わらず口を尖らせたままのひまりは不満気だ。

 たとえ頬チューだろうがあたし達の想いは通じ合っているの、その証拠に優璃は別れ際に抱き寄せた時にも嫌な素振りひとつとして見せない、しかも最近はちゃんと背中に手をまわしてくれるし、今日なんか頬とはいえキスを返してくれたしでこれってもう恋人同士みたいなものでしょ、まぁ付き合ってとは一向に言ってくれないのだけれど。

 

 

「ところであんた達さ、もしかしてキスしたところも見ていたの?」

 

 

 全員があたしから一斉に顔を背けた。

 オッケーとりあえず全員死刑、そこんとこヨロシク。

 

 

「でもずっと見ていたけれどさ、蘭はともかく優璃の方はもしかして」

 

「ひーちゃん、それは言ったら駄目なやつだよぉ」

 

 

 何かを言いかけたひまりの口をモカが素早く手で塞ぎそのままひまりを引き摺るようにしてあたしを除いた四人が輪を作り何やら密談らしきものを始めたかと思っていたら、モカがまるでお偉い代表者のような嘘くさい咳払いをしながらあたしの前に立った。

 

 

「えーコホンコホン、我々After glowは満場一致にて蘭の恋を応援すると決定したのであります」

 

 

 得意気な表情で宣言をしたモカの後方で、他の三人はワーワー言いながら賑やかな拍手の音を鳴り響かせた。

 ところであたしがカウントされていないのにメンバー満場一致って変だとは思わないのかね、この幼馴染み達は。

 

 

「ちょっと待って蘭の恋って、いつあたしが優璃を好きって言ったよ」

 

 

 夜の駅周辺は昼間とは違い少しだけ静けさを増す。そう、まるで時の流れに取り残された古墳のような静けさに……。

 

 

 ねぇちょっと、やっぱりあたしに黙って打ち合わせとかしているよね。

 いくら何でもこんな綺麗に全員が表情を失うとか普通に有り得ないって、流石にここまでの仲間はずれをされるといくらあたしでも多少は傷付くからね!

 

 

 

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