せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
①。チョコレイトの甘さはどこまでも優しく、けれど少しだけほろ苦い【牛込りみ】
私はどこまでも臆病だった。
会話も得意じゃないし注目される事も苦手だった、だって恥ずかしいもん。
失敗が怖かった、笑われるのが怖かった、嫌われるのが怖かった。
目立たないように殻に閉じこもって現実を見ないようにしている、それがいつもの私だった。
『りみりんって何か楽器やってる?』
桜の花が新緑の葉に衣替えを終えた頃、それまで話をした事も無かったクラスメイトが瞳を輝かせながら急に私の手を握ってきた。
綺麗な長い黒髪の女の子と二本のツノが特徴的な髪型の人懐っこい雰囲気の女の子、そして優しいお姉さんのような柔らかい空気感の女の子三人が何故か一斉に微笑みかけている。
突然の出来事にその時は何が起こっているのか理解が出来なかった。
でも今なら解るよ。きっとあの時に聴こえていたんだ、私の閉じこもっていた殻にヒビが入った音が。
何かが動き出す予感がした。それでも私の足は動かない、ずっと止まっていたせいで歩き方を忘れてしまったかのように。
華やかな舞台に上がれるなんて思っていなかった、臆病な私に素敵な物語なんて用意されていないって諦めていたから。
『素敵な曲、りみりん凄いよ』
私が作った曲を香澄ちゃんは驚きながらも本当に喜んでくれた。
自作の曲を自分以外の人が歌うなんてバンドなら当たり前な事かもしれないけれど、今でも私にとっては新鮮でちょっとだけ感動したりもする。
明るくて行動力もある香澄ちゃんはポピパのリーダーでもあり、内気な私が秘かに憧れている存在でもあるんだ。
『はいりみりん、チョココロネひとつオマケだよ』
高校生になって通い詰める事になったやまぶきベーカリー。元々チョコが好きだった私は、いつしかお店特製のチョココロネが大好物となっていた。
程よい弾力のパン生地とまろやかで優しい味のチョコクリームの相性は抜群でやみつきの美味しさ、なんて考えていたらまた食べたくなってきちゃった。
お店の看板娘でもある沙綾ちゃんはとっても優しい女の子。その暖かな雰囲気でみんなを優しく包み込んでくれるバンドのお姉さん的な立場だ。
そんな沙綾ちゃんのお気に入りはバンドメンバーの優璃ちゃん。
教室でもくっついている事が多いし、蔵でも座る時は決まって優璃ちゃんの隣だ。
仲が良いのは微笑ましいけれど、私だって優璃ちゃんと並んでお話をしたい時もあるから香澄ちゃんと沙綾ちゃんでのお隣席独占は少しだけズルいと思っちゃう。
『べ、別にそんなんじゃねえし』
私達の練習場所兼溜まり場でもある蔵の持ち主の有咲ちゃんは、普段はぶっきらぼうだけど根はとっても優しい女の子。
面倒くせぇや何で私がなんて文句を言いつつも、いつもお菓子や飲み物を差し入れしてくれる。
差し入れのお菓子の中にチョコが有ったら優先的に手渡してくれる優しさを持っていて、受け取りながらありがとうってお礼を言うと照れて顔を背けてしまうのも凄く可愛いくて、私の中では最近の密かなお楽しみになっているんだ。
ポピパのギタリストのおたえちゃんはとっても格好いい女の子。
美人だし身長も私より遥かに高くて手足も長くそして細い、まるでモデルさんみたいに素敵な人。
前向きでいつも笑顔な性格とかも羨ましいな、私は引っ込み思案な性格だからそんなおたえちゃんに憧れているし、何よりお肉大好きの同士でもある。
ギターとお肉の話をしている時の無邪気な子供っぽい笑顔もとっても大好き。
『おたえちゃんは牛肉と豚肉と鶏肉のどれが好き?』
『うーん……ハンバーグかな』
時折会話が噛み合わない時もあるけれど、それもまたおたえちゃんの可愛さが増す良いスパイスになっていると思うんだ。
『可愛いし作曲も出来るしで、りみりんはまさに最強の天使さんですよ』
優璃ちゃんはいつも褒めすぎだから恥ずかしくなる。
最初に声を掛けてくれた高等部で最初の友達、もし優璃ちゃんが私に興味を抱かなかったならきっと今でもクラスに溶け込めてはいなかったのかもしれない。
優璃ちゃんは美人寄りの可愛い顔立ちなのに言動がまるで少年のような、その見た目とのギャップが不思議な魅力となっている女の子。
以前の事故で記憶を失くしたらしいのに、それを全く感じさせないくらいに明るくてみんなの人気者になっている。
幼馴染みの香澄ちゃんとはベストコンビで、二人が居るだけで場が華やぐような素敵な間柄なんだ。
私も、香澄ちゃんと同じくらい仲がよくなれるのかな?
私はポピパの中ではみんなよりちょっとだけ背が低い。そのせいか集まっている時は視線を上げる事が多いけれど、優璃ちゃんとは同じくらいの身長のせいか見上げなくても済むんだ。
そのせいか優璃ちゃんが視界に入る事が多い気がする……違うよね、無意識に優璃ちゃんを目で追っているんだ。
少しだけ前に、私は優璃ちゃんにキスをした。
なんて本当はキスなんて呼べるものじゃなくて、蔵で二人きりの時に私がドジをしちゃって優璃ちゃんの頬に唇が触れてしまっただけ。
それでも凄く慌てちゃって、必死に謝りながら二人だけの秘密でって訳の解らないお願いまでしてしまった。
いくら事故とはいえ怒られるかもと身構えていたら、優璃ちゃんは優しく頭を撫でながら謝らなくてもいいですよって言ってくれた。
その時の優しい瞳と柔らかな手の感触に、不思議と心臓がバクバクと激しく反応してしまったのをハッキリと覚えているんだ。
優璃ちゃんの両隣はいつも埋まっている。
でも今度のライブが無事に終わったら打ち上げで優璃ちゃんの隣を狙ってみようかな、なんちゃって。
もうすぐポピパの初ライブ。
臆病な私はひとりでは動けない、だけどこの六人となら華やかな舞台にも立つ事が出来る気がする。
臆病な私でもほんの少しだけ勇気を出せれば、もしかしたら素敵な物語が幕を開けてくれるのかもしれない。
とても甘くて少しほろ苦い、そんなチョコレイトな青春の物語が……。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
②。花園ランドの野望【花園たえ】
飼いウサギのオッちゃんに彼女が出来た。
とっても可愛い娘でオッちゃんには勿体ないくらいだけどお似合いだと思う。
「残念ながらウサギと付き合うのはちょっと無理ですな」
まったく、優璃はまだ気付いていないだけなんだよ。
オッちゃんは可愛い、優璃も可愛い、だからお似合い、以上。
「いや以上ではなく異常事態、おたえには申し訳ないですがわたしはケモナーではないのでね」
オッちゃんの可愛さを未だに理解しきれていないみたい、どうやら私は飼い主としてまだまだ未熟らしい。
もっと英才教育が必要だ。これも優璃の飼い主としての責任だと思う、そして花園ランドの支配人としての責務だとも思う。
ウサギ達の楽園である花園ランドは壮大な夢だ。今はまだ頭の中にしかないけれど、いつかは実現させなければならない私の使命なのだ。
その象徴として二人には……ひとりと一羽には是非とも幸せな家庭を築いて頂かなければならない。
「とりあえず愛の巣は私の家で良いかな?」
「おたえさんや、他の人が聞いたらあらぬ誤解を招くような表現は止めてくだされ」
やはりまだまだ教育が足りないようだ、これからも頑張ろう。
それにしても人生って不思議だ。
自分のギターの音色を他の人に聴いて貰いたいという願望は少なからず持っていた、けれどそれがバンドという形になるとは思っていなかった。
仲間という存在も初めて知った。
小さな頃に友達と呼べる存在は居た、でもその子が引っ越してからは知り合い程度の人しか居なかったし、そもそも知り合いと友達の境目ってどこなんだろう。
ウサギとギター、今までこの二つがあれば自分の人生は概ね満足だったのだ。
けれど今年、そんな私にも友達が出来た。
新しく出来た五人の友達は、その後すぐにメンバーという呼び名に変わる事となった。
不思議だ、今はこの六人で居る事が当たり前と思っている私がいる。
単独のギターという音色にもう一本のギター、ベース、ドラム、キーボードが重なってメロディになり、そこに香澄の声が加わって歌になり曲になる。
ギターはひとりで弾いている時も楽しい、けれどポピパの曲を演奏している時は震える想いをいつも感じるんだ。
何かが生まれて弾けるような期待感、楽しいが何倍にもなるような高揚感、何もかもが新鮮でいつまでもこのメンバーで演奏していたいなと思ってしまう。
そんな特別な居場所のスタートがもうすぐ始まる。
きっと震えてしまう、これは予感じゃなくて確信なんだよね。
オジサンが言ってくれた夢にはまだ出会えてはいないみたいだよ。
それでもね、願いというものには漸く出会えた気がする。
ありがとう、新しい私に出会わせてくれて。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
③。
思い返してみれば、高等部に進級してからの日々は慌ただしいというか実にとんでもねえ。
唐突に現れた賑やかな二人組の勢いに流されていたらマジかマジかという間に人が増えていき、気が付いたら私個人の憩いの避難場所になる予定だった蔵の地下空間は、沢山の楽器と五人の同級生達によって無慈悲にも占拠されてしまっていた。
どうしてこうなった?
私の未来予想図では面倒な人付き合いから解放されるパーソナルスペースとなる筈だったのに。
素敵な音楽を流しながら快適で孤高なネット環境を楽しむ、そんな天国のような場所になる筈だったのに。
本当にどうしてこうなった?
最近は蔵練が終わってみんなが帰った後も個人練習なんかしちゃったりよ、個人練習中にひとり残った蔵の中を見渡して寂しく感じちゃったりしてよ、朝も香澄と優璃が迎えに来るからって早めに準備とか始めちゃったりよ……。
こんな人間だったか私?
人と話すのも不得意なコミュニケーション下手だったから学校もサボりがちだったじゃねえか、ばぁちゃん以外に聴かせる人も居ないからってピアノも辞めたんじゃねえのかよ。
でも正直に言うと今はこの生活を少しだけ楽しいとは思っている。
トモダチっていうのも悪くない響きだし仲間って呼べる存在も、まぁ嫌いじゃないのかもしれない。
それでも香澄は私に甘え過ぎだ。勉強も教えてやっているし直ぐに抱きついてくるし好き好き言ってくるしで面倒臭え、まぁ別に嫌じゃないけれど。
それよりも最近は自分の立ち位置に悩む。
香澄と優璃は幼馴染み故に普段から非常に仲が良い。それはとても良い事なんだが沙綾と優璃の関係性が悩ましくて難しい。
沙綾が優璃を恋愛的な意味で好きなのはほぼ間違いないだろうが、優璃は香澄と同じで周囲に好き好きと言いまくるから今ひとつどうだか分からない。
もし仮にだ、あの二人が両想いで付き合うという事になったのなら応援するけれど……いやそれも微妙か。
自分が大切にしていた幼馴染みの隣に自分以外の人が居る。
香澄なら笑顔で祝福するだろうが内心は複雑だろう、アイツは繊細な一面があるからな。
それにしてもよくよく考えれば何で私が頭を悩ませる必要があるんだ。ただでさえコミュニケーションが苦手なタイプなのに人間関係で悩むとかマジで勘弁してくれ。
もうあれこれ考えていても仕方がないと、もしもあの二人が付き合う事になったら香澄の隣には私が居てやろうと最近は思うようになった。
深い意味はない、ポピパというせっかく見つけた自分の居場所を失いたくはないだけだって……あぁそうか。
私は自分の居場所を見つけたのか。
蔵でも自分の部屋でもない、知るのが怖かった外の世界へと連れ出してくれる魔法の馬車を手に入れてしまったんだ。
あの日、りみの為にライブもどきをしたあの日。
歌う香澄を見て確かに感じたんだ、私が知らなかった
気合いを入れろ、集中しろ、迷うな私。
ポピパの初ライブはもう間近だ、何があったってこのライブは成功させるんだ。
客席から眺めるのは今じゃない、舞台に立って物語を紡いでいくのは私達poppin'partyなんだ!