せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
人は過去の時間へと戻る事は出来ない。
思い出という足跡と後悔という経験を残しながら今という可能性の只中を歩いていく、遙かなる尊いの頂を目指し歩き続けて行くのだ。
【美月優璃著:ユリスキーによるなんとなく名言っぽい語録集より抜粋】
などとくだらない妄想をしたところで雰囲気が和らぐ訳ではないのですがね。
ベッドに並んで座り香澄の右手を両手で包み込むように握ってみても幼馴染みの表情は一向に固いままで、いたずらに過ぎていく時間は心配よりも不安の感情へと心の天秤を傾かせていった。
どうしたのと声を掛けてみても唇を噛み締めるばかりで何も応えてはくれない、様子を横目で伺うに何かを口にするのを躊躇っている雰囲気は感じられても、それが何かまでは全く見当がつかなかった。
「えへへ、そんなに大袈裟なお願いじゃないのにね」
気持ちのこもっていない言葉を聞いて衝動的に両肩を掴むようにしてベッドに押し倒してしまった。
わたしは香澄が作るこの表情が苦手だ。無理矢理に作った笑顔、そんな表情をさせてしまった自分の無力さが腹立たしくて仕方がなくなってしまうのですよ。
「わたしは香澄の事を大切な親友だと思っているのです、そんなわたしに遠慮などしてほしくはないのですよ」
勝手とも言える気持ちを吐露しながら自分は今、いったいどんな表情をしているのだろう。悔しそうなのかそれとも悲しんでいるのか、複雑に揺らいだ気持ちは色々な絵の具を無造作にぶち撒けたキャンバスみたいに思えた。
顔に垂れかかる髪をひと束だけ手に取り、香澄は瞳を閉じてその存在を確かめるように唇へ強く押し当てた。
普段の香澄ならしない行動にドキリと心臓が跳ねる、不思議な艶やかさまで感じさせるその仕草が同時に不気味な予感さえも運んでくるような気がして、無意識とはいえ喉を鳴らすように唾を飲み込んでしまった。
「ゆり、明日は朝から晩までずっと一緒に居て」
「ふへっ?」
シリアス全振りの雰囲気に反した簡単なお願いに、限界まで張り詰めていた緊張の糸が道路の開通式よろしく盛大なファンファーレと共にプツリと切れた気がした。
「明日はわたしライブの準備を手伝うから、みんなより一足先にCiRCLEに行かなければなのですが」
「ダメなの、明日はずっと一緒に居るの」
明日のポピパ初ライブは有咲の蔵に集合してからメンバー達はCiRCLEに向かう予定なのですが、お手伝いを頼まれていたわたしは先にお店へ直行するとみんなには伝えてあるのです。
「明日だけだから、明日だけ、お願い」
縋り付くような震える声は懇願とも思える程の必死さに満ちている。
初めてのライブだけに不安に思うところがあるのかもしれないけれど、それにしては追い詰められたような視線と表情が気にかかる、いったい何が香澄をそこまで追い立てているというのでしょう。
「わかりましたよ、まりなさんには謝るので明日はみんなでCiRCLEへ行くとしましょうか」
わたしの言葉を聞いて安堵したのか、いつもの微笑みを見せながら強引に抱き寄せられてしまいました。
普段通りの温もりと落ち着ける甘い香り。わたしが頬を寄せ合うように顔を動かすと香澄も背中越しの腕に力を籠めて、暫くの間は無言でお互いの存在を確認するように抱き合った。
香澄が抱えている不安の正体までは分からないけれど、取り敢えずあまり気にはしない事にします。
理由を言ってくれる雰囲気ではないですし、わたしが側に居て気分が和らぐというのなら今はそうするだけですので。
「おやっ? 今日はブラをしていないんだ」
「いや香澄さんちょっと、アヒャヒャヒャ!」
ブラ紐を探すように背中を弄る手の感触がこそばゆくて、乙女としては決して出してはいけない類いの変な笑い声をあげてしまった。
そんなくすぐったがる様子に興が乗ったのか、香澄はわたしを抱きしめたまま身体を回転させて上に乗る体勢をとるとニヤリと怪しげな微笑みを浮かべた。
「夏は暑いので着けない事にしたのですよ、別に大きくもないので支障も無いですしね」
「フムフム、ナルホド」
納得したような台詞を吐いたと思いきや香澄はわたしのパーカーとキャミソールを無理矢理に捲し上げ、露わとなってしまった可憐な左胸に躊躇もなく唇を寄せてキスマークを付けるべく力強く吸い始めた。
「別に良いけれど、心の準備があるので先に確認をして頂けませんかね?」
んーんーと言葉にならない呻き声を発して小刻みに頷きながらも唇を離そうとはしない、表情までは見えないけれど必死の勢いで胸に吸い付いたままの香澄が何だかとても可愛いらしく思えてしまった。
暫くして身体を起こした香澄は満足そうな表情を浮かべ、残されたわたしの左胸には小さな赤い印が刻まれていた。
ここ最近の香澄は折に触れてキスマークを付けたがる気がする、蘭も頬にキスをするし沙綾は最近その……慣れてきたのかちょっとだけ積極的になってきたから少し照れる。
これもやはり女の独占欲ってやつなのでしょうか。それにしても不思議なのは女の子同士の友情にも独占欲って湧くものなのかなって、おっとそういえばわたしもポピパのみんなに彼氏が出来るのは嫌でしたわ偉そうな事は言えませんね。
自らの唇で付与した痛々しい印を満足気に眺めていた香澄の視線が、キャミソールによって崖っぷちでなんとか露出を免れていた右胸の方へゆっくりと移動していく様を見逃すわたしではなかった。
「させませぬよ。流石に両胸露出はやらせはせん、やらせはしませぬぞ」
「ほらちゃんとお揃いにしないと、右胸ちゃんが可哀想だよ」
「何故にひとりでお揃いを完結させなければならないのですか!」
両腕を使って必死の抵抗を試みるも所詮は完全なるマウントを取られている有様、最後には口を使ってキャミソールを捲し上げられてそのまま胸に吸い付かれるという惨めな敗北を喫してしまいました。
とはいえ負けっ放しというのも口惜しいのでキスマークを付ける事に夢中になった香澄が無意識に腕を離した隙を見逃さず、無防備となっていた背中に手をまわし神業的な素早さでブラジャーのホックを外してやりましたわ。
「わたしは駄目だよ、ステージ衣装に着替える時に見られちゃうもん」
「えっと……それを言うのは狡いと思うのですよ」
ひと仕事終えて体を起こした香澄は肌に触る感触が不快だったのか馬乗りの姿勢のまま急にパジャマを脱ぎ出し、露わになった外れかけの薄桃色のブラジャーをそっとベッド脇に落として何事も無かったように直ぐにパジャマを着直してしまった。
一瞬だけ覗き見れた香澄の柔肌は相変わらず輝くように綺麗でした。お風呂に一緒に入る事もある香澄と沙綾は裸体をよく知っているけれど二人共にバランスが良い美しさでとても羨ましいです、何と言ってもわたしは二人と比べるに胸が少々儚いものでね。
それにしても見た目には何も変化が無いとはいえ今の香澄はノーブラパジャマ姿。字面には少々卑猥な響きを覚えますが、香澄の持っている爽やかな雰囲気のせいか大人なエロスからは程遠い清純さを感じてしまいますよ。
香澄が薄桃色の布を外していた合間に捲り上げられていたパーカーを急いで下げ戻したら、ポケットからするりとスマホが落ちてしまったのであらためて枕の側へと置き直すと、それを見ていたらしい香澄が抱き合うような形になるように自分のスマホを重ね合わせた。
「こんな風に、わたし達もずっと離れないでいようね」
「当たり前ですよ、そんなの」
横になった香澄に寄り添うように、わたしも片腕の肘をついて頭を乗せる姿勢で横になった。
腕を伸ばして優しく髪を撫で始めたら、香澄はその手に自らの手を重ねて瞳を閉じ満足気な表情を浮かべた。
その姿はまるで物語に出てくるお姫様のように繊細で透明感のある美しさだ。
気のせいか鼓動が少しだけ急ぎ足に感じた、自分の顔が熱いのはきっと夏のせい、そう思う事にした。
この美しい女の子は優璃が誰よりも大切に思っていた親友、わたしが生きていた世界に居た香澄とは違う存在。
だから、だから親友以上の感情を持ってはいけないのです。
それに香澄がノンケなのはもはや周知の事実なのです、変に邪な感情を抱けば厚い友情にヒビが入る恐れさえもありますからね、優璃の為にも気を引き締めねばならぬのです。
それでも……。
こうして繋がっていたいと深く願ってしまうのは優璃の気持ちなのかそれともわたしの気持ちなのか、もう自分の中でも判別はつかなくなっていた。
体温を確かめたくなって手を繋ぎ、柔らかな胸元にそっと頭を埋める。
香澄から伝わる鼓動と呼吸音が心なしか速さを増した気がする。繋いだ手に薄らと滲んでゆく汗も、漏れ伝わる押し殺した声も、恥ずかしさに泣き出してしまいそうな表情も、照れながらも嬉しそうに見つめてくる視線も、わたし以外の誰も知らない表情仕草その全てをもっと見ていたいと願った。
わたしが繋いでいた手を離してしまう度に、香澄は迷子になった子供のように懸命に探しまわっては何度も指を這わせ絡み付かせてきた。
一度目は草原を吹き渡る風のように優しく。
二度目は打ち付ける波のように強く。
三度目は凍える朝のように震えながら。
四度目はふわふわ生クリームのような甘さを添えて。
そして五度目で数えるのを止めた、夜光に浮かぶ月のように潤んで澄み切った香澄の瞳に魅入られてしまったと自分に言い訳をして……。
「うぅ、もうお嫁にいけないよ」
「それはわたしが言いたい台詞ですが?」
荒い呼吸を繰り返す香澄に抱き寄せられ頭を優しく撫でられる。
香澄と沙綾、わたしは二人から感じる温もりと香りが大好き、自分の心臓の鼓動をハッキリと感じれてしまうくらいの心地良い安心感も好き。
まだ女子歴が浅いせいで女の子特有の距離感とやらは上手く掴みきれてはいないのですが、だからと言って周りがノンケばかりでも絶望してはいられませんよ、まだまだ百合百合を眺める事に満足してはいませんのでね。
「あんな恥ずかしい所にキスマークを付けるんだもの」
「わたしの胸に絨毯爆撃の跡を残していった娘に言われたくはないですな」
攻守入り乱れる激しいキスマーク攻防戦の結末としては何個か数を増やされてしまった胸の爆撃跡と、香澄の太腿の付け根にひとつだけ刻まれた紅くて小さな戦利品だけだったのです。
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いよいよとなったポピパ初ライブの当日。
晴れ渡る大空の光は青い硝子の欠片を世界中へと撒き散らし、灼熱の大地に反射した煌めきの破片は眩しいくらいに今日の主役達をキラキラと照らし出していた。
各々の担当楽器を背負ったメンバー達と比較的荷物の少ないわたしとドラマーの沙綾は着替え等の入ったみんなのバッグを持ち、一個の塊となって有咲宅から決戦の場となるライブハウスCiRCLEへと向けて出陣を果たす事と相成ったのです。
先陣を飾るは大将たる香澄と軍師の有咲、中団にはりみりんとおたえが控え、軍団の殿を務めるはわたしと沙綾という隙の無い布陣で通行の妨げにならぬよう進軍中にて御座候。
「香澄ともお揃いなんだね」
「ふへっ?」
気合いの入った大股で歩いていたせいか、唐突に投げかけられた沙綾の言葉に反応しきれず我ながら間抜けな返事をしてしまいました。
「イヤリング、片耳づつのお揃いでしょ」
「あぁこれですか、香澄にそうしようと言われましてね」
「お揃いは私だけかと思ったのになぁ」
可愛らしいヤキモチかと思い沙綾に顔を向けたら、想像していた以上に頬を膨らませていたので思わず吹き出してしまいそうになった。
香澄から並べばひと組に見えるからとお願いされて、お互いの家で大切に保管していた星のイヤリングをわたしは右耳に、香澄は左耳にとそれぞれ片耳づつ着ける事にしたのです。
ちなみに確認はしていませんが沙綾とは事前に約束していたので下着がお揃いの筈です、夏休みにお泊まりの予約もありますがその時もお揃いにしたいと言っていましたね。
「沙綾さん、もしかして拗ねているのですか?」
「ゆりも明日からポニーテールにしようか」
「唐突な無茶振り」
普段はお姉さん風の落ち着いた言動をする沙綾がトレードマークであるポニーテールの髪をぴょこぴょこと揺らしながら苦笑いをしている様は、言葉は悪いのですが子供のような幼い可愛さを感じてしまいますね。
「沙綾ともお揃いをしていますぞ」
「そうだけどね」
荷物を持ちながら沙綾の腕にエイッと肩を当てると沙綾も同じように返してくれた。
笑い合いながら暫くメトロノームのように揺れつつ肩をぶつけあっていたら、くるりと振り返ったりみりんに笑顔で危ないよと注意をされてしまいました。
りみりんの天使な笑顔はいつも素敵で……と何だか今日の笑顔はやけに硬い気がします、やはり本番も近づき緊張しているのでしょうか。
これはポピパを支える身として放っては置けない事態ですね、後程りみりんにはヨシヨシタイムを設ける事といたしましょう。
「ポピパピポパ、ポピパパピポパー!」
「うおっいきなりどうした、おたえ」
いきなり真後ろから呪文のような言葉を叫ばれ、有咲は微かな悲鳴を挙げながら飛び跳ねるように振り返った。
「新しい掛け声、どうかなりみ?」
「可愛いと思うよ、おたえちゃん」
「いいよおたえ、最高」
りみりんと香澄が笑顔で応えている横で、有咲は口を開けたまま顔を左右に振り続けるという挙動不審者のような動きを繰り返した。
「沙綾と優璃はどうかな?」
「ポップな感じがポピパらしくて良いんじゃないかな」
「わたしも異議なしですね」
「ではポピパの新しい掛け声に決定!」
香澄が右腕を突き上げながら叫ぶと全員が同じように右腕を上げて応えた、ただひとりだけを残して。
「いやみんな、ノリが軽すぎじゃね?」
「えー、ありさは嫌なの?」
「べ、別に嫌じゃねぇけど、ただそんな簡単にだな」
「それじゃ決定!」
「最後まで話をさせろ、まったくしょうがねぇな」
本当に有咲は香澄に甘いというか押しに弱いというか、まぁこの二人の関係性も中々に尊いので御馳走様な光景をいつも有難うなのですがね。
和気藹々と談笑しながらみんなで歩き続ける。
刻む歩幅は短いのかもしれないけれど、この一歩は特別なステージへと至るカウントダウン。
poppin'partyの歩む道程は真っ直ぐな道ばかりではないのでしょう、でもそれでも良いのです。
病める時も、健やかなる時も、きっとこの五人となら素敵な思い出と呼べる日々なのは間違い無しなのですから。
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無事にCiRCLEへと到着し、息つく暇もなくフロントメンバー達はPA担当である
凛々子さんは物腰柔らかですが物怖じしない性格で、正式なCiRCLEアルバイトを外れたわたしを今でも弟子と呼び、何かと事あるごとにコキ使ってくれています、ハイ。
「何か言ったかな、優璃ちゃん?」
「滅相もございませぬ、師匠」
よろしいと言いながら微笑む表情も恐ろしいです、思い返せば以前ライブリハーサルの音響調整時に柔らかに微笑みながらアンプをミリ単位で動かしてと指示された時には半分泣きそうになりましたからね。
凛々子さんといい詩船オーナーといい、ライブハウスには鬼しか居ないのですかね、まったく。
救いは優しいまりなさんだけですかっと、そう言えばあの人も変な被り物を強要してくる鬼でしたわ、いやはや渡るCiRCLEは鬼ばかりというのも世知辛い世の中でございますな。
簡易なリハーサルを終えて、一足先にメンバー達は控え室でステージ衣装に着替える事となった。
初ステージの衣装はpoppin'partyのロゴが入ったTシャツにチェックの柄が入ったミニスカート、美脚を隠す膝上ストッキングから伸びる足先は各人のイメージに合わせた色のスニーカーと高校生らしい爽やかで可愛らしい出立ちとなっております。
普段から着替えを見ているので特に感慨などは無いのですが本日はポピパにとって特別な日、ここは特段の気合いを入れてパイプ椅子に陣取り生着替えを凝視させて頂く所存。
鼻息荒くパイプ椅子に腰掛け後方監督面で腕組みをしたところで、衣装を手にした香澄がニヤニヤと含み笑いをしながらわたしの目の前に立った。
「ジャジャーン、これがゆりの衣装だよ」
香澄が広げたシャツにはみんなと同じpoppin'partyの輝くようなロゴ、驚きながら他のメンバー達を見渡すと全員がしてやったりの笑顔をしてやがります。
まさか知らない間にこんな粋なサプライズを準備しているとは参りましたね。ヤバい泣きそうです、というかもう泣いているかもしれません。
「ゴキゲンでサイコーなメンバー達ですねまったく、ライブ前に泣かそうとしないでくださいよ」
溢れそうになった涙をしっかりと拭いてから、あらためて衣装を受け取る為に腕を伸ばそうとした矢先に控室の扉がノックの音と同時に開いた。
「優璃ちゃーん、ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」
「あっハイ、何かあったんですか?」
廊下から顔を出して手招きをするまりなさんに呼ばれて席を立った。
後で着替えるねと香澄に声を掛け他のメンバー達にも手を振ってから控室の扉を閉める、閉じゆく視界の狭間で香澄がとても不安そうな表情をしていたのは少し不思議な感じがしたけれど。
「これを知り合いのライブハウスまで持って行ってほしいんだよね」
ライブハウスの裏口に用意してあった手押し台車には既に段ボールが三箱程積まれていたので中身を覗き見ると、つけ髭やら蛙の被り物やらウサ耳やらのパーティーグッズがこれでもかと詰め込まれていた。
「ハロウィンはまだまだ先の話では?」
「何かパーティーグッズが沢山必要なんだって、どうして私に言ってきたのか分からないけれどね」
普段からコスプレをさせて遊んでいたのは誰だったかお忘れのようで。お店の倉庫スペースを圧迫させてオーナーによく怒られているのもお忘れのようで。
「手押し台車は向こうのだから、帰りは手ぶらで大丈夫だよ」
軽快なサムズアップをかますまりなさんに苦笑いを浮かべながら台車を押し始めた。小刻みに揺れる段ボールは幸いにして崩れそうにもない、舗装路をゆっくりと進めば取り敢えずは大丈夫そうだった。
それにしてもあのタイミングでまりなさんが声を掛けてくれたのは有り難かったのかもしれませんね。
もしあのままメンバー達の前で着替える展開となっていたなら、沙綾とは下着がお揃いだわ我が胸には香澄が残していった絨毯爆撃の惨劇があるやらで色々と冷や汗の流れる空気感となった予感も、いやぁ実にまりなグッジョブです。
ガラガラと音を鳴らす手押し台車は蒸気機関車のように力強く荷物を運ぶ。
空は青く視界も良好、初ライブが近付いたわたしは安全運転を心がけながらも浮かれた足取りで未来への線路を突き進んで行ったのでした。