せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。 作:月白猫屋(つきしろねこや)
続き書かないと、というヤルキスイッチに繋がっております。
小説初心者ゆえ書き間違いも多く、誤字報告もありがたく利用させて頂いております。
うーん、と思わず背伸びをしてしまう爽やかな朝晴れです。
昨日の帰り道では、わたしが男の子とデートをする予定だと勘違いした香澄に無慈悲にも白状するまでずっとくすぐりの刑に処されました。道行く人達がやたらと生暖かい目で見守ってくれていたけれど、出来れば助けて頂きたかったものですよ(女性限定)。
沙綾と一緒に帰る約束と白状してしまえばどうと言う事もなく、なーんだと軽く応えた香澄は何事もなかったかの様に笑顔を取り戻してくれた。それよりも軽く乱れた制服と髪型をどうしてくれるのかね。
「いやぁ、半泣きのゆりも可愛いよねぇ」
いやいや、慰めになってねぇからな。
玄関で靴を履きながら昨日の理不尽な出来事を思い返してみる。そもそもわたしが彼氏など作るはずがないでしょうに、それに香澄の方が可愛いから余程に危険だと思うのですよ。
しかしよくよく考えてみれば沙綾と帰ると言うだけで何故に手汗をかく程に緊張してしまったのだろう?
これはまさかあれか、もしかして親しくしていた女友達とは別の女友達と仲良くなってしまい、なんだか最初に仲良くなっていた女友達に悪いなぁ、とか思ってしまうという童貞男子にありがちな勝手な妄想を繰り広げてしまったのかも。
実際には相手には何とも思われていないのに、コイツもしかしてオレの事を……とかいう自惚れ全開の勘違い系ムーブをしてしまっていたのかもしれない、いやきっとそうに違いない。
はぁ恥ずかしい、女性経験値が足りていないとはいえこれは恥ずかし過ぎるわ。
女の子である事を少しずつ受け入れてこれたかと思えていたのに、頭の中は依然として男の思考回路のままとは……香澄や沙綾の顔が恥ずかしくて見れませんよ、いや見るけど。
気分がショボーンとしたまま瑠璃姉さんに行ってきますと告げて外に出ると、既に香澄が笑顔で待ち構えていた。
待ち構えていたというのも玄関を閉めて挨拶をしようとしたら、それよりも早く香澄が飛びついてきたのだ。
「ゆり、おっはよ」
「わぷっ、香澄どうしたの?」
「えー、いつもの事だよ」
いやいや普段はわたしが抱きつく係ですよね?
「ゆり、早く行こうよ!」
「ふにゃ、近い、近いって!」
うわっ! 香澄の顔が目の前まで迫ってきてる。うわぁ、瞳が大きい……じゃなくて普段よりも距離が近いって、思わず覚悟を決めて瞳を閉じてしまいそうになったわ。
にへら、と笑った顔も可愛いなまったく、なんでも許してしまいそうだぞ。
だがしかし香澄はノンケ、いま向けられている笑顔もあくまで幼馴染みに対する親愛の情だ。いやいいんですよ彼氏を作っても、ただし大人になってからですけどね。残念ながら高校生の間はバンドをしてもらいます、そしてキャッキャウフフを眺めさせていただきますので悪しからず。
少し強い春風の中を並んで歩く。もう慣れてしまったけれども、これもよくよく考えれば不思議な光景だ。もしわたしが男の子のままだったなら、いくら幼なじみでも他人から見ればカップルに見えてしまうだろう。だけど今のわたし達ではどう見てもただの友人にしか見えない、わたしは本当に女の子になってしまったんだとあらためて自覚してなんだか少し物悲しい気分になってしまった。
駅に着いて通学に使っている電車に二人で乗り込む。そこまで混雑はしていないのだけれど、いつもわたし達は座席には座らずに立ち乗りをする事が定番になっていて香澄がつり革を掴み、わたしは香澄の制服を掴むのがいつものスタイルだ。いやわたしもつり革には届くんですよ、ただ腕がピーンとなりますけど。
「ゆり、いつも思うけど座ったら良いのに」
「いやもしかしたら痴漢とか現れるかも、香澄は絶対にわたしが守るんだから」
もしかしたら油断した隙に電車が揺れて、たまたま通りかかった格好良い男の人がバランスを崩して香澄にぶつかったりとかしてさ、あっ、いま心臓がキラキラドキドキした……とかいうベッタベタな恋愛物語の始まり、なんて駄目ですからね。この世界の神様ならやりかねないのであらゆる可能性は排除です。
「じゃあわたしがゆりに痴漢をする」
「はいはい、人目を考えてくださいな」
「人前じゃなければ良いんだ」
「なんでそうなるの!」
あーもう、近くに座っているおばさんに微笑まれちゃってるよ。わたしがこういう事を言ったら顔を真っ赤にして怒るくせに自分は平気で言うんだもんなぁ、本当にずるいと思う。
「ひゃう!」
罰としてお尻を強く握ってあげました。こういう事をしても捕まる心配が無いというのは幼なじみの強みですな、はっ、はっ、はっ……ヤバイ、女の子のお尻を触ったの初めてかもしれない。
なんというか柔らかいのに弾力があるというか、触ったら幸せな気分になれる魔法のクッションというか、うーん、確かめる為にもう一度くらい触っといた方が良いのかもしれないね。
「なんで触られたわたしより、ゆりの方が赤くなってるの!」
えー、だってー、経験値が足りていないんだよぉ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
電車から降りて新緑に彩られた通学路を並んで歩く。道路に色濃く映し出された樹々の葉影が幾何学模様を描き、暖かな春風に揺らされる様はまるで楽しそうに遊んでいるようにも見えた。
通学路を歩く他の生徒達も心なしかみんな楽しそうに見えてしまう、春っていう季節は本当に不思議な生命力をみんなに分け与えてくれるみたいだ。
「ゆりにお尻を触られたぁ」
あの香澄さん、折角の爽やかな朝の雰囲気が台無しですよ?
「香澄が変な事を言うからでしょ」
「痴漢から守るって言っていたのに、実際はゆりが痴漢だった」
「人聞きが悪いわ!」
笑顔で人を痴漢呼ばわりするものではありません。こういうのは幼なじみの他愛もない戯れ、別に他意はないんですよ。えぇ、あの感触は忘れませんけどね。
笑顔だった香澄が顔を赤くしながら急に真剣な表情になってしまった。そんなにお尻を触られたのが恥ずかしかったのか、いやこれは本気で反省しなければ。
「本当にわたしをずっと守ってくれる?」
「大事な幼なじみだもの、守ってみせるよ(男から)」
「じゃあわたし、ゆりにずっと守ってもらおうかなぁ」
「任せて! 絶対にやり遂げてみせるからね(バンド結成)」
「……でもそれには幼なじみを卒業っていうか、その……」
「あっ、沙綾を発見。香澄、沙綾と合流しようよ」
前方に沙綾の姿を見つけたので合流をする為に香澄の手を引いて駆け足で走りだす。
「沙綾! おっはよ」
後から声をかけると、沙綾はふわりとポニーテールをなびかせながら笑顔で振り返ってくれた。
「二人共おはよう、相変わらず仲が良さそうで」
「まあね、今日は爽やかな天気で気持ちが良いね」
「確かに気持ちいいね……ってなんで香澄は膨れっ面なの?」
ふと横を見ると香澄は風船のように頬を膨らませていて、半目でわたしの方を恨めしそうに睨んでいた。
「どうしたの香澄?」
「ゆりが悪いんだからね」
わたしと沙綾は香澄が何を言いたいのかまったく理解できず、顔を見合わせて同時に首をかしげる事しか出来なかった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
授業も終わり、帰り支度を済ませた沙綾がわたしの机まで迎えに来てくれた。わたしも準備を終えて席を立ち、この後の予定について話し合う事にした。
「ゆり、どうする? 私は特に予定は無いから時間があるなら何処かに寄っていこうか?」
「あー、そうだねぇ……」
「はいはい! わたし、行きたい所があります!」
横から飛び込んできた元気な声の主を見やると香澄が意気揚々と右手を掲げている。突然の乱入に驚きながらも沙綾は香澄にどうぞと発言を促した。
「わたし、三人で有咲の蔵に行きたいです!」
「ありさのくら?」
沙綾の頭上にクエスチョンマークが見えそうなので簡単に事情を説明すると、なるほどと納得してくれて今日は三人で蔵に立ち寄る事に相成りました。
「やった! わたし、さーやともいっぱい話をしたかったんだよね」
「あはは、それじゃ三人で行ってみますか」
なんとなく香澄は乱入してくるだろうなという予感はあったけれど、沙綾はそれを優しく受け入れてくれた。沙綾は良い人だ、まるで菩薩様だよ、女神様のような優しさだよ。
仲良く三人で教室を出ようとした時に、沙綾に肩を引っ張られてコソッと耳うちをされる。
「ゆり、この埋め合わせはちゃんとしてもらうね」
あれっ? 気のせいかな優しい菩薩様かと思っていたら、何か段々と阿修羅様に思えてきましたよ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
有咲の家に向かって三人で通学路を歩く。美少女に挟まれる形は中々に気分が良いものですよ、自分が男だったら石を投げつけられても文句は言えないかもしれないね。
「それで、有咲って子とは昔からの知り合いなの?」
「ううん、昨日初めて知り合ったんだよ」
「えっ⁉︎ それで今日もお邪魔して大丈夫なの?」
「うーん、わかんない」
香澄の明らかに文字数の少ない説明に流石の沙綾も不安に陥ったようで、助けを求めるようにこちらに視線を投げかけてきた。
「まぁ有咲は言葉はキツいけれど内面は優しいっぽいから、多分大丈夫じゃないかな」
「そうそう、なんだかんだ言っても優しいんだよねぇ」
「あっ、そ、そうなんだ」
御免なさい沙綾、本当は行ったら酷い目に合う予感しかしていないの。
有咲の家に着いて裏口から中を覗くと、エプロン姿の有咲が蔵の前で途方に暮れたように立ち尽くしていた。
「あーりさ♪」
香澄が裏口から声をかけると、こちらに気付いた有咲は左手でシッ、シッ、と追い払うような仕草を見せた。
わたしと香澄は顔を見合わせて頷き合うと、沙綾の手を引いて庭の中へと足を踏み入れた。わたし達はあの仕草を早く来いよという気持ちの裏返しと思う事にしたのである。
「ちょっ! 見えてねぇのかよ! しかも人が増えてるじゃねぇか」
「まぁまぁ有咲、ところで何をしているの?」
「あーりーさー、昨日ぶり!」
「おまえらなぁ! 人の話をちゃんと聞けぇ!」
わたしが問いかけるのと同時に香澄が横から有咲に抱きつく、目の前で繰り広げられる混沌とした光景に、沙綾はただ苦笑いをするしかない様子だった。
「あのさ、自己紹介をさせてもらっても良いかな? 私は
「あんたはマトモな人みたいね、私は
「
「
「おまえらには訊いてねぇ」
冷たい事を言う有咲には両サイドからの抱きつき攻撃です。
「あぁっ、もう、うぜぇぇぇ! ところで何をしに来たんだよ」
「あぁそうだった! 香澄がまたランダムスターを見たいんだって」
「はぁ? お客でもない人にそうそうお見せする訳にはいきませんね」
有咲つれないなぁと思っていると、話を聞いていた優しい沙綾がわたし達の間に入って助け船を出してくれた。
「まぁまぁ、ところで市ヶ谷さんは何をしていたの?」
「蔵の片付けをしようかと思っていたの、ばぁちゃんが蔵を綺麗にしたら好きに使って良いって言うからさ」
「じゃあさ、私達も片付けを手伝うから香澄にギターを見せてあげてよ、女の子ひとりじゃ重い荷物とか大変でしょ」
「……仕方ねぇなぁ、ちょっとだけだぞ。その代わり片付けはしっかり手伝ってもらうからな」
沙綾に言われた事が図星だったのか、有咲は渋々といった表情で沙綾の提案を受け入れてくれた。
みんなは気付いていないみたいだけれど、わたし達は誰もランダムスターがギターだなんて言っていなかった。だけど沙綾は初めからランダムスターがギターである事に気付いているみたいに話をしている。流石はバンド経験者だと思うけれど、今ここでそれを沙綾に訊く訳にはいかない。わたしはゲームをしていたから理由を知っているけれど、沙綾が音楽を辞めた理由は気軽に触れてはいけないし、今はまだその時期じゃない気がする。
沙綾の横顔を見つめながら、わたしはひとつだけ心に決めた事があった。
「うんっ? どうかしたの、ゆり」
「なんでもないよ……沙綾、ずっと仲良しでいようね」
「私達、もうすっかり仲良しでしょ」
何があっても沙綾にドラムを再開してもらって香澄達と一緒にバンドをやってもらう。
そしてわたしはモブキャラとして影から尊い光景を間近で堪能させてもらうんだ。
その為にもこの子達に男は近寄らせてなるものか、尊い楽園はわたしが護り抜いてみせるんだから。
あっ、心に決めたのひとつだけじゃなかったわ。