現代日本に転生したと思ったら、ペルソナ5だった。 作:ずばば
そのまま家に帰宅し、自室のベッドで寝転んだ。
天井を見上げながら、これからのことを考え始める。
このままだと最悪、原作の事件に巻き込まれるかもしれない。巻き込まれるだけならいいが、もしパレスにまで引っ張られるハメになれば、大した意志もなく生きている俺は間違いなくペルソナの力になんて目覚めることは無いだろうし、シャドウと戦うことになれば命を落とす可能性だってあるだろう。
折角拾った2回目の人生を捨てたくはない。出来るだけ原作には介入しないようにしなければ。
まず、坂本との関係はどうするか、ということだ。これに関してはこちらから積極的に関わら無ければ問題ないはずだ。この後坂本は陸上部に所属して、友達もそれなりに出来るはず。こちらから関わらなければ、徐々に坂本の意識からも無くなっていく...と思う。
次に他の怪盗団メンバーについてだ。とは言っても学年の違う新島真や奥村春、学校の違う喜多川祐介なんかとはこちらから関わらなければ特に何が起きることも無いだろう。
だとすれば、問題は同学年の高巻杏と主人公だろう。
主人公は確か2年になってから転校して来るはずで、冤罪を受けて周りから避けられていた筈だ。少し可哀想ではあるが、こちらから避けたとしても特に不自然ではないだろう。
そして高巻杏だが...確か坂本とは中学時代からの同級生だったはずだ。坂本からの繋がりで接触する可能性はあるかもしれない。
逆に言えば関わる可能性はそれくらいで、坂本とあまり関わらなければ特に関わることもないだろう。クラスの名簿を見たところ、幸いにも別のクラスのようだ。
とりあえず大まかな方針を決め、適当に風呂と夕飯を済ませて早めに寝た。
次の日。
秀尽は歩いて通える距離にあるため、少し遅めに家を出て、学校まで歩いた。
学校まであと半分くらいの距離で
「おーーーい!」
という後ろからの大声に驚き、思わず振り向く。
後ろから坂本が手を振りながら走ってきていた。
まずい。と思ったがどうすることも出来ず、そのまま坂本が追いつき話し始めた。
「昨日はありがとな。お前も今から学校行くとこだろ?一緒に行こうぜ!」
こういう時、スパッと断ることが出来る性分ならどんなに楽だったか。なし崩し的に一緒に行くことになってしまった。
陸上部に入れば陸上部の友達と登下校するだろうから、問題ないはず。と自分に言い聞かせながら、学校へと向かっていく。...問題ないよな?
そうして他愛もない話をしていると学校に着き、授業が始まる。今日は簡単な授業が行われた後、部活動の見学があるようだ。
何となく察していたが、坂本に一緒に見学に行こうぜ!と言われ、当然断れず一緒に部活動を見に行くことに。
坂本は一直線に陸上部に行き、活動内容を聞く前から入部届けを書いてその場で出していた。...見学に行かなくてもよかったんじゃないだろうか。
お前はどの部活に入るんだ?と聞かれたが、そこまで入りたい部活動も無かったし、バイトをして自分のお金を作りたいと思っていたので、
「俺はバイトするつもりだから、部活動には入らなくてもいいかな。」
と坂本に答え、そっかーと坂本が返事をして、その場で解散した。
...まぁ、これで坂本は部活動に入って友達を作るだろうし、俺のことも忘れていくだろう。そう思っていた。
が。
その次の日にラーメン屋に連れていかれたり、また別の日にはシューズの買い物に付き合わされたりと、一向に俺との関係が切れる気配がない。それどころか、どんどん仲良くなっている気がする。
非常にまずいとは思っているが、坂本と話す時間は心地よかったし、あいつの誘いを断るのも気が引けた。
まぁ、主人公と関わらなければ大丈夫だろう。とやや強引に結論づけ、今では普通に話したり遊んだりする関係になってしまっている。
ある時、なぜ俺と友達でいようとするのだろうと疑問に思い、聞いたことがあった。坂本は明るく誰とでも仲良く出来るタイプだと思う。わざわざ俺と関わらなくても、もっと口数が多かったり、話の面白い人と関わればいいのでは。そう思ったからだ。
すると坂本は考えながら、
「そりゃーお前、あれだよ...あれ。」
「なんつーか...そう!友達になるのに理由はいらねーからな!」
と、いまいち答えになってない答えを自信満々で言った。
その時のドヤ顔がおかしく感じて、思わず吹き出してしまった。
「あ!お前笑ってんじゃねーよ!」
坂本が不服そうにこっちを見てくる。
多分、こいつは理屈とか、損得で考えてないんだろう。それがきっと坂本のいい所で、彼の居心地の良さを形作っているのだろう。そう思った。
そんなこんなで結局、時々一緒に遊んだりしながら、何ヶ月かの高校生活が過ぎていった。
そんなある日。
放課後、今日はバイトも無いし、坂本の様子でも見に行くか、と陸上部のグラウンドまで歩いて行った。
すると、陸上部の方から坂本の怒鳴り声が聞こえてきた。驚いて、急いでグラウンドへ走った。
「てめぇ...もういっぺん言ってみろ!」
坂本が物凄い形相で、教師を睨んでいた。
睨まれている教師は確か...鴨志田。
そう、鴨志田だ。ペルソナ5における、最初の事件の犯人。バレー部に体罰を行い、女子生徒に手を出し...坂本を陸上部から退部にし。暴力事件として大袈裟に広め、坂本の居場所を無くし。...坂本の足を潰した男。
坂本はよく、鴨志田の愚痴をこぼしていた。
...止めるべきか?
坂本はおそらく、このままだと鴨志田を殴るだろう。そうなれば彼は退部になり、学校からの居場所も無くなる。
だけどそれで終わるわけじゃない。主人公と出会い、結果的に鴨志田の事件を解決して、怪盗団として新しい仲間と人生を歩む。
だから...このまま黙って見ていればいいのだろうか?
しかし、止めれば俺の居場所が無くなるだろう。鴨志田はゲーム内でも、前科持ちとして主人公の悪い噂を広め続けた。自分に歯向かう可能性があるやつを、徹底的に潰すのだろう。
だから...今動かないのはしょうがない事なのだろうか?許されることなのだろうか?
頭の中で思考がぐるぐると回る。考えている間にも鴨志田は坂本の家族のことを罵り、さらに坂本の怒りを強くしていく。
止めるな。見捨てろ。巻き込まれたくない。
黒い考えが頭に渦巻いていく。これで坂本を見捨てれば、友達としての関係もすっぱり辞めれるかもしれない。そうなれば、もう巻き込まれる心配もない。
「てめぇ!!」
坂本が鴨志田に向けて走り出して、拳を振りかぶって、ニヤけた顔の鴨志田に向けて_______________
拳が振り抜かれる前に、俺が鴨志田の頬を殴った。
「...は?」
呆気に取られたように鴨志田が口を開く。
「お前...海人...なんで...」
絞り出すように、我に返った坂本が声を出した。
やってしまった。これで、俺の学校生活は終わるかもしれないな。
そう思ったが、それほど後悔はしていない。やりきった顔でざまぁみろ、と言わんばかりに鴨志田に笑ってやると、顔がみるみるうちに赤くなり、こちらを睨みつける。
「貴様ァ!!!」
怒鳴り声を上げ、俺のみぞおちを殴ってきた。
ぐぇっ、と潰れた声を上げながら、その場に倒れた。
「あと少しという所で!お前は!このクソガキが!!」
続けざまに声を荒らげ、俺を強く踏みつけ続ける。
流石運動部顧問というべきか、蹴りが重い。踏まれた所が青くなっていく。
俺のことを殺す気なのではないか、と言わんばかりのあまりの迫力に、近くにいた陸上部員達の顔は真っ青になっている。
痛い。人生で味わったことの無い苦痛だ。
...いや、1度目の人生では死んだわけだから、これ以上の苦痛を味わっているのだろうか。
朦朧とする意識と鋭い痛みの中、現実から目を逸らすように思考を続ける。
意識が遠のく中で、
「やめろ!!!」
という坂本の叫び声の中、俺は意識を手放した。
次に目が覚めると、俺は白い天井を見上げていた。
「お!起きたか!」
横から坂本の声がする。
辺りを見回す限り、どうやらここは病院のベッドのようだ。
スマホの時計を見ると、今は7時頃のようだ。
鴨志田のことを殴って、ボコボコにされた所までは覚えている。その後はどうなったか。坂本に聞いてみる。
すると、坂本はどこか申し訳なさそうに、話し始めた。
簡潔に言えば、坂本はあの後俺を蹴り続ける鴨志田を止めるため、殴りかかったらしい。それを待っていたと言わんばかりに鴨志田が騒ぎ立て、周りの教師を呼んだ。坂本が暴力を振るった。そう言って。暴力事件を起こした生徒として、親と学校に広められた。
ついでに、俺の怪我は全治1週間だそうだ。それほどかからないみたいで良かった、と思うべきだろうか。
「...お前は、俺を止めるために鴨志田を殴ってくれたのに。ごめんな。」
「でも、友達が殴られてるのを見て、黙って見てるなんて出来ねぇ。どうしても、止められなかった。」
事の顛末を話した後、坂本は怒りと謝意を滲ませながら、俯きがちにそう言った。
正直、坂本に対して怒る気持ちはない。俺が勝手にやって、勝手に殴られただけのことだ。むしろ、坂本が手を出す程に怒ってくれたことに、嬉しい気持ちさえあった。
「気にするな。」
「怒ってくれて、ありがとう。」
こういう時、気の利いたことが言えない自分が恨めしい。とにかく、気にしていないことと感謝の気持ちを伝えるために、そう言った。
坂本は驚いた顔をした後、
「!...おう! いいってことよ!」
そう言って、ニッと笑った。
やはり明るい方が坂本らしいな。
その後、坂本とはこれからのことを話した。
「多分、鴨志田はこの事を学校中に広めるぜ。暴力事件を起こした2人、ってな。」
「俺らは明日から不良扱い。お前なんて、あんなに殴られたってのに...ふざけんじゃねぇ。」
「でも、あいつは元オリンピック金メダリスト、そんでもって自分のバレー部を全国にまで行かせてる。教師の連中は、あいつが何言っても首を縦に振るんだ。お前の怪我のことも、事故だとかなんだとかで丸め込まれちまう。」
悔しそうに、坂本はそう言った。
まぁ、やはりそうなるだろう。ゲーム内での鴨志田も相当な悪事を働いていたが、周りから咎められるようなことは一切無かった。
覚悟していたからか、これといった悔しさや怒りは無かった。
「俺も陸上は続けられねーだろうし、親になんて言ったらいいんだろうな。」
ため息がちに呟いた。坂本は陸上で親に恩返しをしようとしていた。しかしこの1件でそれも不可能になっただろう。
俺は坂本のようにひとつの事に夢中で打ち込んでなどいない。せいぜいこの事件で怪我を負って、学校に居場所が無くなる程度だ。怪我なんてそのうち治るし、友達は元々大していない。
「なら、俺とお前の親にちゃんとあった事を伝えよう。」
俺は坂本にそう言った。驚いた顔をした坂本に構うことなく続ける。
「お前は正しいことをしたと、俺は思う。悪いのは鴨志田だし、それをお前が気にする必要なんてない。」
「だから、ちゃんとあったことを伝えよう。お前の親だって、本当のことが知りたいはずだ。」
「あと、俺に申し訳ないと思うなら...退院したら、萩窪のラーメンでも奢ってくれ。トッピングも合わせてな。」
言い終わると、坂本は少し考えた後、
「...そうだな。そうする。ちゃんと何があったか、親には知ってもらいてぇ。...ありがとな。」
と言い、続けて
「ていうかお前、いつもラーメンのトッピングめちゃくちゃつけるじゃねーか!俺はバイトしてる訳でもねーのに、いくら払わせるつもりだっつーの!」
と言って笑った。
とりあえず、坂本の悩みはある程度解消されただろうか。
俺も親に伝えなきゃな、と考えていると、
「そうだ、この機会だから言っておくけどよ。お前俺のことちゃんと名前で呼べよ!こんだけの事件起こしちまったんだから、もうただの友達でもねーだろ?」
笑いながら言った。そういえば坂本の事はずっと苗字で呼んでいたな。
「分かったよ、竜司。これからもよろしく。」
そう言うと、おう!と言って、その後しばらく話した後、竜司は病室を出ていった。
今思い返してみると、本当にやっちゃったなぁ。このままだと主人公とも関わることになるのは間違いなさそうだ。
ま、仕方ないか。そう考えて、とりあえずはもう一度寝ることにした。
ちなみにその後親に電話したが、まるで心配されていなかった。「事なかれ主義のあんたが暴力事件起こすなんて、どうせ相手が悪いんでしょ?」だそうだ。話が早くて助かるような、もっと心配してくれ、と思うような。