現代日本に転生したと思ったら、ペルソナ5だった。 作:ずばば
1週間後、俺は無事退院することが出来た。入院中も毎日竜司が病室に来てくれたこともあって、退屈はしなかった。
予想通り、鴨志田が噂を広めて竜司は学校ではやや孤立してしまっているらしい。更に、竜司の一件から難癖をつけられて、陸上部は無くなってしまったようだ。
ゲームの通りではあるが、全国大会に出場させたというだけでよくもまぁそこまでの権力を手に入れられるものだ。と、不謹慎にも少し関心してしまった。
陸上部が無くなることは竜司も予想していたようで、部員達に負い目を感じている様子だった。
しかし、話を聞く限りだと、原作ほど部員達との仲は悪くなってはいないようだ。
これについては、何となく理由は思い当たる。原作では、すごく意地の悪い言い方をすると、怒りを抑えきれなかった竜司が手を出してしまい、部活動を解散させた、という状況だったはずだ。
しかし今回の竜司は、友達が殴られているのを助けるために思わず手を出してしまった形で、部員達もさすがに責めるのは気が引けるのだろう。
そのお陰もあってか、元陸上部とは今でも話すくらいの仲ではあり、その影響で原作ほど周りから孤立はしていないようだ。
比較的孤立していない理由は他にも思い当たる。竜司自身が母親と今回の暴行事件の真相を話したことだ。俺が退院してすぐに提案し、2人で話に行った。ついでにその時、竜司が母親のために努力してきたことを、竜司の母に話した。
その時の竜司の母はよく話してくれた、頑張ってくれてありがとうと、泣きながら竜司に話していた。それを聞いた竜司も、同じように泣いていた。
その後、竜司には本当に何度も感謝された。最近はよく竜司に感謝される気がする。
そんなことがあって、竜司は特にグレたり態度が変わることもなく、いつものままの明るさで過ごせている。そのお陰で、変に周りから毛嫌いされていないのだろうな、と思った。
そんなこんなで今日は学校がまた再開する日。周りから避けられることは目に見えてるし、少し憂鬱になりながらも家を出た。
途中で竜司と合流し、話しながら道を歩く。周りの秀尽生は、こちらを見てヒソヒソと話をしている。おそらく、というか間違いなく暴行事件に関する話だろう。分かっていたものの、あまりいい気分ではない。とはいえいちいち突っかかってもしょうがないので、気にしてないフリをしてそのまま学校へと向かった。
校内を歩き、そのままクラスに入って席に着く。やはりクラス内でも噂話が絶えない。さすがにうんざりして、ため息が漏れる。
とは言え、それ以上の事はしないようで、普通に授業が始まり、特に何も無いまま昼休みの時間になった。
購買で急いでパンを買ってきて、クラスに戻ろうとすると、
「やべ、飲み物買うの忘れてた。わり、先に行っててくんね?」
そう言って竜司は自販機の方へと駆け出した。
やや肩身の狭い気持ちの中、1人でクラスの方へと歩いていると、偶然にも鴨志田と出くわした。
「おやおや、君は俺に暴力を振るった司馬君じゃないか。」
皮肉の込められた笑みを浮かべ、鴨志田が言った。
暴力を振るったのはどっちだよ。よくもまぁそんなことが言えるな。
そんな呆れと嘲笑が顔に出ていたのか、鴨志田が顔を顰める。
「お前...調子に乗るなよ。俺の気分ひとつで、お前を退学にすることだって出来るんだからな。」
こちらに指を指しながら、小声で言った。
実際、今回の事件から察するに、鴨志田にはそれくらいの権力があるのかもしれない。実際原作においても、主人公達は退学目前まで追い詰められていたはずだ。
いくらなんでも退学は困る。できるだけ大人しくしておいた方がいいのかもしれない。
そんなことを考えている間に、フン、と気分を悪くした鴨志田が去っていった。
入れ違いに竜司がやって来て、
「悪ぃ、今戻った...って、今の鴨志田じゃねぇか。」
鴨志田を睨みつけながら竜司が言う。先程あったことを話すと、
「そりゃいいや。鴨志田のやつ、プライドを傷つけられるとすぐ怒るからな。器の小さい野郎だぜ。」
と、竜司がニヤリと笑いながら話した。
そんな話をしながら昼休みが終わり、その後鴨志田に会うことも無く学校を終える。
その後の数ヶ月も特に何事もなく...普通に高校生活の1年間が終わった。時間が経つ事に噂されることも減り、今もやや避けられてはいるが、普通に学校生活を送れている。
現在は春休み。朝起きてすぐ、ベッドに寝転がりながらふと考える。
2年になれば主人公が転校してくる。更に言えば、転校してすぐに鴨志田のパレスに入ることになるはずだ。
パレスというのは、簡単に言えばその人間の心の歪みを具現化したような場所で、主人公達はそこで敵...シャドウと戦いながら、心の中の「オタカラ」を奪うことで、ターゲットの改心を目指す。そういう話だったはずだ。
鴨志田を改心してくれるなら願ったり叶ったりだが、問題はそのシャドウとの戦いには命の危険が伴うということ。そのシャドウと戦うため、主人公達は反逆の意志の力、ペルソナで戦うことになる。
主人公と竜司がペルソナに目覚めることはほぼ間違いない。それはいい。問題は俺だ。いつも通り竜司と一緒に行動していると、まず間違いなく主人公と出会うことになり、パレスにも入る羽目になるだろう。そうすると、「反逆の意思」などとは無縁の事なかれ主義な俺にはペルソナは目覚めないし、そうなれば足手まとい、最悪死ぬ。
つまり、主人公と出会う日だけは絶対に竜司と行動するわけにはいかない。これは幾ら竜司と仲が良くても譲れない。命に関わるからだ。
...しかし、1つ問題があった。主人公と出会う日にちを正確に覚えていないことだ。これではいつ主人公と出会うのかが分からない。かといって、毎日竜司を避けるのも気が引ける。
だが、これには解決策があった。確か、初めてパレスに行くことになるのは雨の日だったはずだ。4月の雨の日だけ、理由をつけて竜司と登校しなければいい。よし、これで行こう。
そう考えて、とりあえず原作の事を考えるのはやめ、竜司と遊びに行ったり、バイトをしたりしながら、春休みが過ぎ去っていった。
そうして4月になり、学校が始まり、2度目になる入学式を迎えた。とは言っても、原作に関わるような主要人物は1年生にはいなかったはずだ。
大した変化も無く、2年生の春を迎えるのだろう。そう思ったが。
運の悪いことに、2年になって竜司とは別のクラスになってしまった。まぁ確率的には普通のことだが、孤立しやすいように、鴨志田が裏で手を回しでもしたのだろう。そんなことを思う。
竜司は元陸上部とは同じクラスだったようで、ある程度は孤立せずに済んだようだが。俺の方はかなり気まずい。竜司も気を使って、休み時間には出来るだけ俺のクラスに来て話をしている。ありがたいことだ。
ついでに高巻杏と同じクラスになってしまったが、厄介者扱いの俺には特に関わって来ることも無く、これといった問題も起きていない。席は割と近くになってしまったが。
そして、高巻と同じクラスということは。主人公とも同じクラスだと言うことだ。なんて運が悪いんだ。竜司と別のクラスになったことよりも、そのことが不幸に感じる。原作に関わるのはもう避けられないのだろうか。...もう関わってしまっているが。
憂鬱になりながらも1週間ほどの時間が過ぎて、今日は4月11日。窓を開けて外を見ても、雨は降っていない。今日も大丈夫そうだ。
そう思い、いつも通りの時間に家を出た。
そうしてしばらく歩いて竜司と合流し、話しながら歩いていると...
雨が降ってきた。
え?
...もしかして、原作でも途中で雨が降ってきていたのか?まずい。前世から十数年経って、所々の記憶が抜けているようだ。雨の日に主人公と竜司が出会う。そのワンシーンだけしか思い出せていなかった。
どうするべきか。ここで突然竜司と別れるのは不自然すぎる。
そう考えていると...
車に乗った鴨志田が、高巻に話かけているのが見えた。
そこで、ハッキリと思い出した。
鴨志田は秀尽の女生徒に手を出していて、気に入ったやつにだけ露骨に気をかけていた。このシーンで竜司がその車を走って追いかけ、そして...主人公と出会う。
ということは。鴨志田の車の近くを観察する。
いた。長めの黒髪に、黒縁メガネ。白い肌に、やや中性的で、それでいて端正な顔つき。
間違いない。
あいつがペルソナ5の主人公だ。
鴨志田の車と女生徒に竜司も気づいたようで、
「ん...?あ!あれ高巻じゃねーか!それに車に乗ってるのは...鴨志田!」
「おい、急ごうぜ!高巻がなんかされてるかもしんねぇ!」
「いや、俺はちょっと体調が...」
俺の言い訳を最後まで聞くことなく、俺を引っ張り駆け出した。
冷や汗が止まらない。やめてくれ。抵抗しようにも、現在も陸上部時代の名残でトレーニングを続けている竜司の力には勝てず、引きずられていく。
というかそもそも、原作の竜司はこの時点で鴨志田が女生徒に手を出していることに気づいてたはずでは無かったか?いや、原作ほどグレてない竜司は、原作と比較すると鴨志田への執着が薄いのかもしれない。
そうなると、高巻やその友達が何をされているのかも知らないのだろうか?
そんな現実逃避を兼ねた思考を続けている間にも、鴨志田の車に高巻が乗せられる。...実際は、車に乗せて送ってもらうだけのはずなので、必死になって追いかける必要は無いのだが。
「待て!」
そんな竜司の叫びが聞こえないのか、或いは聞こえないフリをしているのか。そのまま鴨志田の車に高巻が乗り込み、車が道路を走っていった。
「クソ...あの変態教師が。」
諦めた竜司が立ち止まり、呟く。
「変態教師?」
主人公がそれを聞いて思わず呟いた。
「ん?」
その呟きを聞いて、竜司が主人公の方を向く。ついでに俺から手を離す。離すのが遅すぎる。もっと早く離してくれ。
「なんだよ。鴨志田にチクる気か?」
「カモシダ?」
少し苛立っている竜司がやや喧嘩腰で主人公に話しかける。鴨志田のことを知らない主人公は、思わずその名前を聞き返す。...どうやって逃げるかは、とりあえず置いておくとして。話が終わらなさそうなので、話に入る。
「...竜司、そいつは転校生だ。鴨志田のことも、お前のことも知らないよ。一昨日くらいにホームルームでも言われてたはずだが?」
...そういう俺も、主人公と同じクラスになったショックで転校してくる日を聞きそびれるという失態をしでかし、今日がその日だということを知らなかったわけだが...
「マジかそれ! そんなこと言われてたっけ?全然覚えてねーよ。」
驚きながら竜司が言う。まぁそんな事だろうとは思った。
「まぁいいか。大した雨でもねーし、遅刻すんぞ。お前もさっさと行こうぜ。」
そう言って学校へと歩き出す竜司に、
「いや、だから俺はちょっと今日...」
そう言いかけた時。
鋭い頭痛がした。
「うっ!」
竜司が思わず呻いた。
チラリと横を見ると、竜司や主人公も、同じような頭痛を感じたらしい。
この頭痛は。しまった。遅かったか。
「うひーアタマいてぇ...」
「帰りてぇ...」
呑気に竜司が頭を抑えながら呟いている。
...この頭痛は確か、イセカイナビ...パレスへと向かうためのアプリが初めて起動した時に起こるものだ。ということは、もうこの場所は現実ではなく、パレスの一部へと移り変わっているのだろう。
辺りを見回すと、先程まで喋っていた学生や、通勤途中のサラリーマンがいない。やはりパレスの中で間違いないだろう。
...原作では、パレスからどうやって抜けていたんだったか。鴨志田の城から遠ざかれば、おそらくはパレスからも抜けられたのでは無かったか。
であれば、まだ遅くない。竜司には悪いが、ここから離れて...
(見捨てるのか?)
そんな声が、頭の中から聞こえた気がした。
「ッ!?」
驚いて辺りを見回す。当たり前だが、周りに竜司と主人公以外の人間はいない。
幻聴だろうか。それにしては妙にハッキリ...
...思い当たる節は、無い訳では無い。だが、有り得ない。自分にそんな覚悟など無いからだ。
極限状態で頭でもおかしくなったのだろう。そう、強引に結論付ける。
だが。
バタフライエフェクト、というものがある。小さな出来事が、様々な物事に干渉し、結果的に大きな現象を引き起こす、というものだ。
原作では、主人公がペルソナに目覚め、謎の黒猫モルガナと共に、パレスでの窮地を切り抜ける。竜司が死ぬことも無く、1度目のパレスへの侵入を終える。そのはずだ。
しかし、俺という存在は原作にはいない。パレスでの出来事に影響が無い、とは言えない。
もし。もしだ。俺という存在が現れたことで、竜司が大きな怪我を負ったら。...死んでしまったら。
その責任は、俺にあるのではないか。
...もし、そうならば。
竜司を助ける義務が、責任が。俺にはあるのではないか。
友達を見捨てるわけには行かないだろう。ましてや、俺にその責任があるのなら、なおさら。
「おーい、何ボーッとしてんだよ。早く学校に行こうぜ。」
竜司が俺に声をかける。
ある意味では、今日が主人公と会う日だと言うことに気づけて良かったのかもしれない。
俺が成すべきことに、気づけたのだから。
覚悟を決めて、2人と共に学校へと続く細道に歩き出した。