怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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番外編その2:堕天の虹(ルシファー)

 昔々のお話です。

 あるところに一匹のヘビがおりました。

 光輝く七色の体を持ったとても美しいヘビで、ヘビは空に綺麗な虹を架けることが出来ました。

 雨が降ったあとの晴れ間は、ヘビの仕事の時間です。ヘビは働き者だったので、雨が止んで良いお天気になったときは欠かさずきちんと虹を架けました。

 そんなヘビが創った虹を見上げながら、人々はこんなことを言うようになりました。

 

「綺麗だなあ」

「素敵だなあ」

「誰が架けているのだろう」

 

 人々が口々に噂する中、ちょっと声の大きな人――世間では評論家とかアルファツイッタラーとか呼ばれていました――が、空を指差してこう言いました。

 

「ごらん、あのヘビだ! あのヘビはきっと神、本物の大宇宙創造の神(クリエイター)に違いない!!」

 

 みんな一斉に振り返り、ヘビの美しい姿に気づいて歓声を挙げました。

 

「素晴らしい!」

「こんな神様が世の中にいたなんて!」

「いつも綺麗な虹を見せてくれてありがとう!」

 

 こうしてヘビは、人間たちから『神』と呼ばれるようになりました。

 

 

 

 

 ある日のことです。

 ヘビがいつものとおり虹を架けると、人間の内の誰かがこんなことを言いました。

 

『最近つまんないよね。人に見せるならもっと工夫したら?』

 

 ……酷いことを言うなあ。

 気に喰わなかったのかもしれなけれど、何もそんな言い方をしなくてもいいじゃないか。

 ヘビが反論すると、その誰かさんはすかさず言いました。

 

『こんな虹じゃあ誰も満足できないよ! これならボクの方がよほど上手く作れるよ!』

 

 ……なら自分でやってみればいいじゃん。

 そんな言葉が出掛かりましたが、ヘビはぐっと飲み込みました。口だけで何も出来ない人に、そんなことを言ってしまったら可哀想ですものね。

 ……アドバイスはありがたいけれど、実際に参考にするかどうかはわたしが決めるよ。

 苛立つ気持ちをこらえたヘビがそう言うと、誰かさんはニヤリと笑ってすかさず言いました。

 

『そうか、逃げるんだね!! じゃあぼくが正しかったってことだ! ハイあなたの負け! ハイ論破ァッ!!!!』

 

 ……なにそれ。

 ヘビがその誰かさんと延々とやり取りしているうちに、それを見ていた別の誰かがこんなことを言いました。

 

『もう、変な奴を相手にするのはやめてよ! 作者のあなたがそんなんじゃあ、わたしが虹を楽しめなくなっちゃうじゃないか!』

 

 なんて勝手なことを言うのだろう。わたしは何も言っちゃいけないのか。

 ヘビが憤慨していると、また別の誰かが格言を言いました。

 

『争いは同レベルの者同士でしか発生しない!!』

 

 ……同レベルって言いたいのだろうか。顔を顰めたヘビに、その格言を言った誰かさんは言いました。

 

『こんなヤツ相手にムキになるなんて本当は大したことないんじゃあないの~? 『神』なんて呼ばれてイイ気になってたんじゃなあ~い?』

 

 なんだと。

 ヘビが言い返した途端、人間たちは口々にヘビを攻撃し始めました。

 

『そんな性格だったなんてガッカリです!!』

『これ以上みんなの期待を裏切らないで!』

 

 人間たちはなんだかとっても楽しそうです。ちょっと前まで『神!神!』と崇めてたのに。

 ……まあ、そうですよね。

 ()(はや)されていた存在が無様に凋落してゆく様子ほど、世の中で面白い見世物はありません。まさに最高の優良コンテンツ、特に、何も持ってない人たちにとっては猶更。

 

『皆見て見てー! Twitterでこんなイタいこと書いてらー! スクショ切り貼りして晒し者にしてやろーぜ、ハハハのハー!』

 

 ……ひどい、ひどいよう。

 涙目になったヘビに、横から別の誰かが「涙拭けよw」とケラケラ笑いました。

 そして最後に、誰かがとどめを刺しました。

 

『黙って虹だけ作ってりゃいいのに』

 

 ……それ以来、ヘビが人間たちに何かを言うことはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、人間たちが自分たちの所業を忘れて「また虹が観たいなあ」なんて虫の良いことを思い始めた頃のことです。

 よく晴れた日に突然、虹が架かりました。

 

 それは今まで誰も観たことがないほど美しく。

 どんなものよりも素晴らしい虹でした。

 

 人々は皆一斉に空を見上げました。

 その虹を眺めているだけで、なんだか幸せな気持ちに満たされてゆきます。

 『なんて綺麗な虹なのだろう、ずっと永遠に観ていたい!』

 人間たちは働く手を止め、虹を見るのに一番良い場所を奪い合い、ついには殺し合いまで始まりました。

 『こんなものはただの虹だ! 現実を生きろ! いつまでも魅入っていてはいけない!』

 人間たちの中でもちょっとだけ賢い人――皮肉なことにヘビを一番最初に見出した人でした――が叫びましたが、誰も耳を貸しません。

 それでもその人は諦めずに呼び掛けましたが、やがて全身に草を生やした人たちに取り囲まれ、嬲り殺しにされて吊るされた挙げ句みじめな晒し首にされてしまいました。

 ……あーあ。余計なこだわりなんか捨てて、空気を読んでおけばこんな目には遭わなかったのに。

 まぁプライドを欠片でも持ってる本物の批評家なら、そんなオリコーサンな振る舞いなんて到底無理でしょうけど。

 むしろ袋叩きにされて当然ですね。

 ばーか、いひひ。

 こんな塩梅で、その世界の人びとは虹を崇めることしか考えられなくなってしまいました。

 

 

 

 

 ……すべてはヘビが仕組んだ罠でした。

 ヘビは、自分のことを傷つけた人間たちを心の底から憎んでいたのです。

 

 ヘビが思いついた仕返しの方法とは、『虹で人間たちの心を狂わせてしまうこと』でした。

 どんな光加減なら美しいと感じるか。

 どんな色使いなら嫌悪を覚えるか。

 どのように演出すれば喜怒哀楽それぞれの感情を引き起こすことが出来るか。

 快と不快。

 これまでずっと人間たちを喜ばせることに全身全霊を捧げてきたヘビは、人間たちの心の仕組みを熟知していました。その力を使えば、人の心を操ることなんて容易いもの。

 ヘビがその事実に思い至るまで、それほど時間は掛かりませんでした。

 

 そしてヘビのたくらみは見事に成功しました。

 虹を眺める、ただそれだけのために自分の何もかもを放り出し、それでも足らぬと互いにいがみ合い、殺し合う人々。

 そんな彼らが作る社会は、いつの間にか虹を見ることが最も大切なことになってしまいました。

 彼らの夢は『虹を一番よく観られる一等地に家を構えること』で、最も素晴らしい休日の過ごし方は『その一等地で虹を朝から晩まで眺めること』。

 熾烈な競争を勝ち残ったエリートたちも、することと言えば空に架かる虹をぼーっと見上げてただうっとり呆けてばかり。

 そんな社会なのでありとあらゆるところで何もかもが立ち行かなくなりましたが、虹に見惚れている人間たちはそのことを気にもしません。まさに、滅びの始まりです。

 そんな人間たちを眺めながら、ヘビはこんなことを思いました。

 

 ……まさか、こんな簡単に上手くいくとは思わなかった。どいつもこいつも口ではとっても偉そうなことを言うから、もっと賢いと思ってたのに。人間ってバカだなあ。

 そしてこんなくだらない奴らの言葉を真に受けて、わたしはなんて愚かだったのだろう。ずっと『いいね!』って言ってくれている人たちだけ相手にしていればよかった。

 そのあと、ヘビはこうも思いました。

 

 ……いいや、あいつらこそ悪いのだ。

 『いいね!いいね!』とおだてるだけおだてて、神様にまで祭り上げてきた無責任な奴ら。こいつらときたらわたしの虹で救われてきたくせに、わたしが傷つけられたときは見向きもしてくれなかった。どうせ『黙って虹だけ作ってりゃいいのに』というのが本音なんだろう。

 ……ふん、『神』だと?

 ならば、おまえたちは神の怒りに触れたのだ。

 わたしの心を弄びやがって。

 こんな奴らに綺麗な虹など見せてやるものか。

 

 もうこんな奴ら、どうとでもなればいい。

 他の世界にゆこう。

 こんなクズどもなんかいない、もっと優しい人たちがいる素晴らしい世界を探そう――

 

 

 

 その後、その世界に虹が架かることは二度とありませんでした。

 

 

 

 

 ……ヘビは、大きな勘違いをしていました。

 綺麗な虹を作ること。たしかにそれは素晴らしいことです。

 しかし、だからといって神様のように偉くなったわけではありません。ましてや皆の心を操って玩具にするなんて。

 結局、賢い誰かさんたちが言っていたとおりでした。

 人の弱味につけこみ、誑かし、もてあそぶ、その姿はまさに傲慢な悪魔。

 

 ヘビは恐ろしい怪獣になってしまったのです。

 

 ……でも仕方ないですよね。

 傲慢になるのは当然です。

 だって、その世界では皆から『(かみ)!』と称えられてばかりいたんですもの。

 

 

 そして当人は気づいていなくとも、見ている人は見ているものです。

 ヘビが人間たちに仕返しする様を、傍から見ていた者たちがいました。

 その世界に棲んでいた、他の神様たちです。

 その世界にはたくさんの神様がおりました。

 土の神、雷の神、雨の神、風の神、太陽の神……。

 ヘビによる仕返しとそれに弄ばれる人間たち、その愚かしい顛末を黙って眺めていた神様たちは一斉に溜息を吐きました。

 

『素晴らしいクリエイターだと尊敬してたのに。その力をそんな仕返しに使うなんて軽蔑した』

『バカだなあ。余計なことほざいてる連中なんか適当にスルーしておけばよかったのに』

『あーあ、せっかく楽しい世界だったのに。なんだか興醒めしちゃったな』

『黙って虹だけ創ってりゃよかったのに』

 

『居心地悪くなっちゃった。他の世界に行こう』

 

 そんなことを口々に言いながら、みんなその世界から出て行ってしまいました。

 土の神がいなくなったので、畑から作物が実らなくなりました。

 雷の神がいなくなったので、電気が使えなくなりました。

 雨の神がいなくなったので、雨が降らなくなりました。

 風の神がいなくなったので、風も吹きません。

 太陽の神すらいなくなったので、その世界は永遠に闇の世界になってしまいました。

 こうして神様たちに見放されたその世界は、呆気なく滅んでしまいました。

 

 

 

 

 揃いも揃って、身勝手なクズばっかり。

 みんな死ねばいいのにね。

 おしまい。

 

 




85話へ続く話。本編に組み込もうとしてボツにしたアイデアなんですけど、なんだか勿体ないので番外編にしておきます。

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