怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
……といった具合で第二話の冒頭、『メカゴジラ率いる怪獣軍団と、それを迎え撃つゴジラ』という場面に至るのである。
怪獣軍団相手に縦横無尽に暴れ回るゴジラ。
その光景をわたし:タチバナ=リリセは、セントラルタワーの廃墟から観戦していた。
ZILLA、エビラ、メガギラス、カマキラス、クモンガ、ラドン、そしてアンギラス。
一体だけでも恐ろしい大怪獣が七体も!
まさにオールスター、オール怪獣大進撃だ。
そして、そんな怪獣オールスターをまとめて相手にしても
ゴジラって、なんて強いのだろう。
まさにゴジラ無双、キングオブモンスターだ。
……いや、そんな感慨に耽ってる場合じゃないんだけどさ。
早く逃げないとわたしもゴジラに殺される。
「ふんっ、このっ、くっ……!」
しかし、鉄骨の隙間に挟まった脚がどうしても抜けない。
いくら引っ張っても、持ち上げようとしても駄目だ。
誰か来てくれたら持ち上げてもらうことも出来そうだが、わたし一人ではどうしても抜け出せそうにない。
『脚を切り落として逃げる』、そんなのは勘弁願いたい。第一、道具もないしね、あったところでイヤだけど。
ゴジラの方を改めて見ると、ゴジラはラドンの足首を掴んでジャイアントスイングで振り回し、ZILLAとアンギラスとエビラとクモンガをまとめてブン殴っていた。
なんとも豪快な暴れっぷりだ。
ゴジラが巨大な脚を踏み込むと、その衝撃で地震が起きていた。
わたしが脱出できるチャンスがあるとすれば、この島中を揺らす『振動』だ。
ゴジラや怪獣たちが暴れる度、その振動でわたしの脚を挟んでいる鉄骨が少しずつ動いていることにわたしは気づいた。
もしもこの振動が上手くこの鉄骨を動かしてくれたら、脚を抜いて逃げられる。
もちろん悪いこと動いたら、鉄骨がわたしの脚を潰してしまう危険もある。そのときは止むを得ない、脚を捨てて逃げるしかない。
そうならないことを祈るばかりだ。
そんな具合で足掻いていたわたしは、ゴジラにまとめて薙ぎ倒されていた怪獣軍団の様子が変わったのに気が付いた。
……どうしたのだろう。
さっきまでは我武者羅に襲い掛かるばかりだったのに、今は映画を一時停止したみたいに動きを停めている。
再び一斉に動き出した怪獣たちは一ヶ所に集結し、組体操をするかのようにがっちり組み合った。
その体と体が触れ合ったところから銀色のナノメタルが染み出し、怪獣の身体同士を丁寧に縫い合わせてゆく。
くっついた部分は練り込まれる粘土のように混ぜ合わされ、やがて一つの大きな塊へとまとまってゆく。
……こんなの、まるで合体じゃないか。
そして一連の合体作業が終わり、完成したその姿にわたしは息を呑んだ。
全体のシルエットは直立したサソリのような、ハサミと翼と毒針を持った巨大イカのような、異様な姿をしていた。
全長は目算で150メートル、体高はゴジラより大きく80メートルくらいはある。
まず複数の長い脚が伸びた下半身はクモンガそっくりで、クモンガの尻から伸びているのは長い尾、その先端にはメガギラスのような毒針が備わっている。
両腕はエビラのクライシスシザースと、カマキラスのハーケン。
背中にはラドンのような大きな翼があり、さらにZILLAの鋸のような背鰭と、アンギラスのクリスタルのトゲまである。
そしてその怪獣の顔は、ベースとなった七体の怪獣すべての要素をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたようだった。
……なんて歪な顔なのだろう。
まるで〈キメラ〉だ、とわたしは思った。
キメラとは神話に出てくる怪獣だ。
頭がライオン、胴体はヤギ、尻尾は毒蛇という複数の猛獣の特徴を組み合わせた姿を持つ。
バラバラの部品を縫い合わせたような姿、いわゆる合体怪獣である。
物の本で『違う動物の細胞が合成された生物のことを『キメラ』というのだ』と聞いたことがある。
バイオテクノロジーで複数の生き物の遺伝子を掛け合わせて実際にキメラを作る研究もあったらしい。
でもまさか現実に
実現したキメラ怪獣を前に、わたしは底知れぬ嫌悪感を覚えた。
もちろん自然にこうなるわけがないし、ましてや生きた怪獣が合体してキメラになるはずもない。
これもきっとナノメタルが成せる
生まれたてのキメラ怪獣が、大地を踏みしめながら産声を挙げる。
素材となった七体怪獣のそれを合成したような不気味な咆哮が、孫ノ手島全体に響き渡る。
そんなキメラ怪獣を、ゴジラはより一層の
ビルサルドのヘルエル=ゼルブ。
かつてビルサルド長老ハルエル=ドルドに次ぐ地位にいながら、マフネ=アルゴリズムをめぐった地球連合上層部の政争に敗れて失脚。
最終的にはメカゴジラ建造計画からも外れ、歴史の表舞台から姿を消すこととなった。
とはいえ以後の歳月を無為に過ごしていたわけではない。
ゼルブが次に着手したのは、かつて盟友マフネと共に手掛けた自身の原点。
つまりLTF構想であった。
ヤツラを戦わせろ:LetThemFight。
頭字語で〈LTF構想〉。
端的に言えば、怪獣同士を戦わせることで相討ちを狙う作戦、およびその作戦を実行するための研究である。
怪獣同士を戦わせる、そのために様々な手法が検討ないし考案されてきた。
各怪獣がそれぞれ持っている習性を利用して誘導し、怪獣同士が鉢合わせするようにしたり。
複数の怪獣が殺し合い、疲弊したところへ大量破壊兵器を投入して一網打尽にしたり。
しかし最も理想的なLTFは、やはり『人間の完全制御下に置いた怪獣によるもの』であろう。
もちろんすべての怪獣がLTFに適しているというわけではない。
たとえば、もしも強い毒を武器として用いる怪獣がいた場合、その怪獣がいくら強力だったとしてもLTFには適さない。
その怪獣が広範囲に渡って毒を撒き散らすようなことがあれば、怪獣が暴れるよりも大きな被害が出ることになってしまう。
どんな怪獣も一長一短、それぞれ個性がある。
チタノザウルスを筆頭に、バラゴン、バラン、アンギラス、エビラなどさまざまな怪獣が運用され、最適なLTFを目指して試行錯誤が重ねられたがどれも理想とは程遠かった。
完全無欠、史上最強の怪獣。
打倒ゴジラを目指し、人類はLTF構想に適う怪獣を模索し続けた。
……そこで誰もが疑問に思うであろう。
『なぜ自分で作らないのだろう?』と。
人類にはバイオテクノロジーがある。
それで生体兵器を作ればいいではないか。
実際にそれを提唱した男がいる。
のちにLSOに籍を置くことになるマッドサイエンティスト、〈ドクター・オニヤマ〉である。
オニヤマはこうぶち上げた。
――バイオテクノロジーで怪獣の細胞同士を掛け合わせ、最強の〈キメラ怪獣〉を創ろう!
人の手でゴジラを倒すことが出来ないのなら、〈ゴジラを超えた超ゴジラ〉を人類の手で創ろうじゃないか。
素材は南極半島の基地に保存されている『ゴジラ細胞のサンプル』を使えばいい――
オニヤマは、ゴジラ研究の第一人者だったヴィルヘルム=キルヒナー博士の教え子だった。
最もゴジラに近づいた男の弟子だったからこそ、『ゴジラ細胞をベースとしたキメラ』というアイデアにも行き着いたのだろう。
しかしそれは現実のものとはならなかった。
なぜなら、そもそも実現困難だからである。
怪獣以前に、キメラを創ることが難しい。
家畜を素体に人間の臓器を作る『臓器キメラ』の研究であれば遥か以前から進められていたが、完全な新生物をキメラで作るとなると次元が違う。
ましてや既知の動物の中では未知の部分が最も多い怪獣の細胞で、それも同種同族でなく異種間を掛け合わせて作る、破綻の無い完璧なキメラ。
仮にそんなものを創り出せたとして、実用に堪えるかどうかともなればそれこそ天文学的な確率となってくるだろう。
とても現実的ではない。
それにもう一つ人類たちを躊躇させたのは、かつて中国で起こった『ヘドラ作戦』の失敗だった。
中国が怪獣相手に投入した生体化学兵器:ヘドラは北京から天津を汚染、取り返しのつかない汚染をもたらした。
『もし第二のヘドラ事件が起きたら?』
その恐怖を、人類はどうしても払底することが出来なかったのだ。
……もっともそんな悠長なことを言っていられたのは数年の話であり、西暦2042年には皮肉なことに地球人自らの手でヘドラ復活計画が進められることになるのだが、それはまた別の話である。
かくして『ゴジラ細胞をベースにしたキメラ』というオニヤマのアイデアは非難を浴び、オニヤマは学会を追放された。
ドクター・オニヤマが構想した超ゴジラ。
彼は自らが夢見たキメラ怪獣のことを、〈キングゴジラ〉と呼んでいた。
……馬鹿馬鹿しい。子供の発想だ。
ヘルエル=ゼルブもオニヤマのアイデアを聞いた当初はそう思ったが、一方で大きなインスピレーションを与えることとなった。
たしかに子供染みている。
が、一理ある。
都合のよい怪獣がいないというなら、自分たちで造ればよいではないか。
『ゴジラ細胞を使った新兵器』を。
技術不足? ならば我々ビルサルドが手伝ってやってもいい。
ビルサルドは遺伝子組み換えで〈抗核エネルギーバクテリア〉の開発に成功していた。地球人のテクノロジーでは不可能だとしても、ビルサルドなら実現できる。
ヘドラ事件? 未熟な下等種族のくせに未知の生物兵化学器など使うからだ。
たとえそれが
そう考えたゼルブがゴジラ細胞を用いた新型キメラ怪獣兵器の開発計画を立案したところ、思いも寄らぬ物言いがついた。
歯止めを掛けたのは地球連合の上層部。
つまり地球人だ。
賛同してくれる者もいたが、大半はこう言って拒否した。
『生命倫理に反する』
……意味不明だ。
LTFで怪獣を散々操っておいて今さら何を言っているのやら。
だいたい遺伝子組み換えで新しい作物や家畜を造り出すのと一体何が違うというのだ。
今、そんなことを言っている場合かね。
まったく、わけがわからない。
まあ、いい。
地球人が意味不明で不合理なのは昔からだ。
色々と理屈は並べているが実際のところは自分の制御を超えるのを恐れているだけ、つまり覚悟が足りないのだ。
そんな地球人の腰抜けぶりには腹が立つことも多かったが、それを追求しても仕方ない。
ゴジラ細胞が使えないというのなら、他のものを使えばよいだけのこと。
我々には、ナノメタルがあるではないか。
ナノメタルの分子制御で細胞間の拒否反応を抑え込み、上手く馴染ませて繋ぎ合わせる。
これなら破綻しない。
ヘルエル=ゼルブは、『ナノメタルを活用したキメラ兵器』の開発に着手。
その構想について旧地球連合政府のとある高官に話した際、このようなことを言われた。
『そんなおぞましいものを〈人類の希望〉などと言っていたのか!?』
『この、侵略者どもめ!!』
……侵略者?
我々ビルサルドの最高傑作にして究極素材、ナノメタルを捕まえて『侵略者』だと?
何が侵略だ。礼儀知らずの下劣なカスめ。
ゼルブの怒りを買ったその高官は
かくしてゼルブの研究は地球人たちには勿論、ゼルブを失脚させたハルエル=ドルドやムルエル=ガルグにすら伏せたまま進められたのだった。
……それから二十年。
ヘルエル=ゼルブが進めていた研究は、ついに実を結んだ。
七体もの怪獣を合体させた、キメラ怪獣。
その究極の威容には、流石のゴジラもたじろいでいるかのようだ。
どうだゴジラめ、恐ろしいだろう! ヘルエルゼルブは勝ち誇った。
かつてヘルエル=ゼルブが試作品として開発したキメラは、『
ならば、七種合体のこのキメラは『
ゼルブはセプテリウスに命じた。
――ゆけ、セプテリウス! ゴジラを倒せ!
主人の命令に応え、キメラ=セプテリウスはゴジラに挑みかかった。