怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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タイトルはチャットモンチーの楽曲より。


96、エンドタイトルⅠ:世界が終わる夜に

 彼女は、外の世界からやってきた。

 

 このぼく、〈サエグサ=ジニア〉と出会う前、彼女は『お姉さん』と一緒に外の世界で暮らしていたけれど、ある出来事がきっかけで(えにし)が結ばれ、ぼくらが暮らすフツアの村に流れ着いた。

 きらきら光る星の髪を持ち、誰よりも勇敢で、誰よりも賢く、そして不器用だけど思いやりに溢れてる。

 ぼくのガールフレンドには勿体ないんじゃないかって思えるくらい、とっても素敵な彼女。

 

 そんな彼女とぼくの馴れ初めについて、それは実に運命的な、それこそ物語みたいな出会いだったとぼくは自負している。

 初めて出会ったとき、彼女はこんなことを言った。

 

『待ってるだけじゃ誰も助けに来てくれない』

『こんな生活いつまでも続かない、いつかバレるぞ』

『このまま悪いヤツから逃げっぱなしのまま、人生が終わっちゃうかもしれない』

 

『そんな負け犬人生、まっぴら御免だ』

 

 彼女の言葉は力強くて真実を突いていて、そしてぼくの胸を打った。

 

 ……だけど本当はそれが、彼女が一生懸命に張った虚勢だったことにぼくは気づいていた。

 体と声がかすかに震えていたし、冷や汗をかいていたし、呼吸も荒い。

 こんな威勢のいいことを言っているけれど、本当は彼女自身も恐くて恐くてたまらないのだ。

 

 

『必ず助けを呼んでくるから』

 

 

 それでも彼女は立ち上がろうとしてくれた。

 ビビって戦おうとしないぼくに代わって。

 ……腰抜けとは怖いものが多いことではない。

 恐怖に呑まれて何もできないことだ。

 そしてこんなに怯えている子が戦おうとしてるのに、何もしようとしないクソ野郎のことだ。

 

 ……彼女は『負け犬人生はまっぴら御免だ』と言った。

 だけどこのまま一人で行かせたら、それこそ負けてしまう。

 ぼくは、行こうとする彼女を呼び止めた。

 

 

 ――待って!

 

 

 そして、彼女とぼくの冒険は始まった――――

 

 

 地球怪獣総出動! 踏みつぶそうと迫りくる怪獣軍団の暴力を掻い潜り、

 張り巡らされた恐るべき陰謀から罪のない子供たちを救え!!

 ここに地上最大の、決戦の火ぶたが切って落とされた!

 地球危うし! 地球最大の死闘(デスバトル)!生き残るのは誰だ!

 宇宙人のゴジラ撃滅大作戦! 砕け散るまで戦え!

 

 ――――という具合で、それはもう大スペクタクルな大冒険の連続の果てだった。嘘も過言もさほど混じっていないはずである。

 だけど、その経緯を細かく説明しようとするととんでもなく長くなる。二十万字で書いたって足りないだろう。

 だからここでは語るまい。

 どうしても気になるなら45話辺りから読み返してみてね。

 

 とにかくそういう具合で出会った二人であり、まだガキだったぼくが彼女の魅力にイチコロになってしまっても仕方ないような劇的な出会いだった、ということだけ伝わってもらえれば充分だろう。

 それに、これは己惚(うぬぼ)れかもしれないけれど、彼女の方だってぼくのことはそれほど嫌いじゃなかったと思う。

 

 そんな感じで出会い、ぼくと意気投合した彼女だったけれど、出会ってすぐに村に居着いたかというとそうでもなかった。

 彼女を異性として意識していることを自覚したぼくは、互いの気持ちを確かめようと、彼女に自分の想いを打ち明けた。

 そのとき彼女はこう答えた。

 

『気持ちは嬉しい。わたしもおまえが好きだ』

 

 そう答えてくれた彼女。しかし、その言葉は「だけど」と続いた。

 

『だけど、見送らないといけない人がいる。

 だからちょっと待ってくれ。必ず戻るから』

 

 ……そして数日後、彼女は本当に村を去っていってしまった。

 つまり、ぼくはフラレたのである。

 

 大いに落胆した一方で、ぼくは自らの敗因もまた冷静に理解していた。

 上述の大冒険についてさもぼくも大活躍したかのように言ってしまったが、実際のところ真に活躍したのは彼女だけだった。

 恥を忍んで告白する。ぼくは戦うことから逃げ出そうとしたし、その後も彼女の指示に従って動いていただけ、つまり彼女がいなければ何も出来なかった能無しであり、カッコいいところなどまるでなかった。

 そんな腰抜けの情けないチキン野郎なんて、フラレて当然だ。

 

 だが、ぼくは希望を捨てていなかった。

 万一ほんのちょっぴりでも彼女にその気があって、本当に帰ってきてくれるかもしれない。

 しかしその時になってぼくが腑抜けていたら、それこそフラレてしまうに違いない。

 ……強くなろう、とぼくは決心した。

 彼女に守られるんじゃない、彼女を守ってあげられるようなオトナになろう。そう誓った。

 かくして、彼女のことをどうしても諦められなかったぼくは自分自身を鍛えることにした。

 

 そんなぼくを、両親をはじめ、村の巫女ミキ――余談であるがぼくの双子の姉である――までもが、とてつもなくアワレなものを見るような目線で見ていた。

 当然だ、体良くフラレたのにまだ諦めていなかったのだから。

 だが、ぼくはそんな視線など気にしない。

 だって、村の守り神である〈慈愛の女王〉が『自分を、そして彼女を信じなさい、ジニア』と言ってくれたのだから!

 他の有象無象はともかくとして、女王が言うからには絶対である。

 そう信じて、ぼくはなお一層の鍛錬に励んだ。

 

 ……要するにバカだったのだ、ぼくは。

 それも、下半身と脳味噌が直結したバカだったのである。

 今思えば女王も「信じなさい」とは言ったが、ぼくの恋が実るなんて言わなかったのに。

 

 

 

 

 それから数年後、彼女は帰ってきた。

 再会した彼女は、とっても素敵な女性に成長していた。

 天ノ川みたいな髪はより輝きを増していたし、背も伸び、体つきも大人びたものになってますます綺麗になっていた。

 一方、中身はあまり変わっていなかった。

 きっと色んな経験をしたんだろう、前よりずっとタフで人付き合いが上手くなっていたけれど、不器用で優しい正直者なところは相変わらずだった。まぁ、そんなところもチャーミングだけどね。

 そんな彼女にぼくは再び恋をした。

 

 一方で、ぼくはちょっぴり不安を覚えた。

 外の世界には沢山の人がいる。こんな魅力的な彼女だから()()()になろうと言い寄ってくる恋人候補なんていくらでもいただろう。

 『ぼくのことなんか忘れてしまったかもしれない。もしそうだったらどうしよう?』

 そんな馬鹿げたことを大真面目に考えていたぼくに、彼女は微笑みながら告げた。

 

『ただいま、ジニア』

 

 ……彼女はぼくを忘れていなかった。

 彼女はぼくとの約束を覚えていてくれたのだ!

 その事実に、ぼくがどれだけ喜んだか。

 

 しかしぼくが無邪気に喜ぶ一方で、彼女の心は暗い(おり)を湛えていた。

 最初ぼくはそれが何なのか気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村に戻ってきた彼女は、遠い親戚だという『ヒロセ家の人たち』を連れてきた。

 彼女いわく『外の世界で暮らしていたけれど、人間同士の争いが酷くなってやっていけなくなったのでどうか仲間に入れて欲しい』という。

 彼女の親戚であればぼくの親戚、彼女の家族だというならぼくの家族も同然だ。

 もちろんぼくらは喜んで迎え入れたし、女王も許してくれた。

 村に新しい仲間が加わった。

 

 

 けれどその中に『お姉さん』の姿はなかった。

 

 

 それが何を意味するのか、いくらぼくでもすぐにわかった。

 同時にぼくは知ることになる。

 彼女の『見送らないといけない人』というのが、はたして誰のことだったのか。

 

 そしてそれまで自分のことしか考えてなかったぼくは、自分がどうしようもないくらいバカなクソガキのままだったことにやっと気づいた。

 どうしてもっと早く気づいてあげられなかったのだろう。

 ぼくは死ぬほど後悔したけど、もう遅かった。

 

 

 

 彼女の大切な『お姉さん』が死んだ。

 

 

 

 大切な人を見送って、拭いきれない悲しみを背負って帰ってきた彼女に、ぼくなんかがしてあげられることは何もなかった。

 ぼくがもうちょっと賢い頭をしていたら、百万の言葉で慰めてあげることも出来たのに。

 ぼくがもうちょっとオトナだったら、頼もしい人生の先達として彼女を導いてあげられたかもしれないのに。

 

 バカなクソガキでしかなかったぼくに出来ることといえば、うつむいた彼女の隣に座ることだけだった。

 引っ叩かれても、蹴られても。

 怒鳴られても、泣きつかれても。

 元気な時も、病気の時も。

 雨の日も、風の日も。

 ぼくはずっと彼女の傍にいた。

 そんな、傍にいることしか出来ないぼくを、彼女は少しずつ受け容れてくれた。

 

「……独りだと、わたしはダメみたいだ」

 

 そう言って、不器用だけど可愛らしい笑顔を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『世界が終わる日』は、彼女が村に戻ってから数年もしないうちに訪れた。

 

 見ただけで目を貫き、近くにいただけで粉砕されるほど強い『悪魔の火』。

 そうやって地上のすべてが焼き尽くされ、煤と毒が長く残り続けて、世界が長い冬に閉ざされる。

 〈慈愛の女王〉が予見していたその強烈なイメージは巫女を通じて村全体へ共有され、ぼくたちフツア族は、自分たちの村をまるごと安全な地下へと引っ越すことにした。

 新しい引っ越し先、そこには〈女王の子供〉が住んでいる。

 あそこはとても頑丈な造りだから、きっと『悪魔の火』にも耐えられるだろう。

 何年も前、女王があの『キングオブモンスター』と最終決戦をしたとき、女王の友達が造ってくれたのだという。

 

 

 その話を家に帰ったぼくが話したとき、ぼくの奥さんになった彼女はこんなことを言った。

 

「……総攻撃派(ソーコーゲキハ)核攻撃(カクコーゲキ)が始まるんだ」

 

 これから何が起こるのか、その詳細を知っているらしい彼女は、険しい顔でそう言った。

 

 ぼくは『ソーコーゲキハ』が何者で、その連中が仕出かす『カクコーゲキ』とやらがいったい何なのか知らなかったし、今でもよくわからない。

 彼女の話だと、『ソーコーゲキハ』は『カクコーゲキ』でキングオブモンスターを焼き殺したかったらしいけれど、それは太陽が見えなくなる『悪魔の火』を焚いてまでやらなければならないことだったのだろうか。

 ……それともぼくがバカだからわからないのだろうか。

 彼女に聞いてみたら「そんなもん、わからなくていい」と頭をはたかれた。

 

 『悪魔の火』のせいで少なくともあと数十年、ともすると数百年は外に出られないだろう、というのが女王の予測だった。

 ひょっとするとぼくの子供の世代も、その孫の世代も、そのまた孫の世代も、死ぬまで地下で暮らすことになるのかもしれない。

 闇を照らすヒカリゴケや、地下の空気を清めて循環させる植物、地中から水を引いて村を掘り進めてゆく技術、そして暗いところで育てられる虫たちと作物。

 必要なものは女王と虫たちが用意してくれたから、地下で暮らしてゆくことについて不足はない。

 地面を深く掘ってゆく地底暮らしも、探検みたいできっと楽しいだろう。

 

 けれどみんな、綺麗な空が見られなくなることだけは悲しんでいた。

 そのことについて女王には考えがあるみたいだけれど、ぼくには何も教えてくれなかった。

 

 

 

 

 世界が終わる前の日。

 引っ越しの準備をすべて済ませたぼくと彼女は、外の世界で最後のデートをすることにした。

 デートにあたって、ぼくは精一杯お祈りをした。

 

 モスラヤ、モスラ

 ドゥンガンカサクヤン インドゥムウ

 ルストウィラードア ハンバハンバムヤン

 ランダバンウンラダン トゥンジュカンラー

 カサクヤーンム……

 

 『どうか、今度のデートが上手くいきますように!』という気持ちを込めて毎日唄って踊って祈りまくっていたら、彼女から「何やってんだおまえ」と呆れられてしまった。

 

 だけど、そんなぼくの願いが届いたのだろうか、『その日』の天気は全日快晴。

 ぼくらは古い集落からの引っ越しがてらに、人生最後のドライブデートへ出掛けた。

 

 

 青空の(もと)で陽の光をいっぱい浴びながら、花畑を駆け回って、花の種を持ち帰って。

 小川で水遊びをして、海までドライブして。

 そして最後に行ったのは、どこまでも続く青い海を眺められるような真っ白な砂浜。

 ぼくと彼女は綺麗な(なぎさ)にて、真っ赤な夕日を楽しんだ。

 

「……おまえと走るのも終わりだな」

 

 ぼくと並んで腰かけた彼女は、そう言いながら長年の旅の相棒を勤めてくれたクルマのボンネットへ手で触れた。

 彼女の旅を支えてきたこのクルマにとって、今回のデートが最後のドライブになる予定だった。

 このクルマも、新しい村に引っ越したら二度と動かせないように破壊したうえで外の世界へ葬られる予定だった。

 

「今までありがとう、そしてご苦労様」

 

 長年の労をいたわるように、そして名残惜しそうに彼女はクルマを撫でていた。

 彼女にとってクルマは『お姉さん』との大切な思い出であり、人生の一部でもあった。

 村の掟ではクルマは持ち込んではいけない負の遺産だったけれど、〈慈愛の女王〉は『新しい村に引っ越すまでだけ』『そして村の中には停めないこと』という条件つきで彼女がクルマを持つことを許してくれた。

 クルマはマシンだ、そしてマシンに命はない。

 だけどぼくは、彼女の最後の旅行に付き合えてクルマも幸せだったらいいなあ、なんて思った。

 

 巫女からは『朝までにはちゃんと新居へ到着するように』と言われている。

 だからまだちょっと時間があるけれど、もっと他に行きたいところはなかっただろうか。

 ぼくがそう尋ねると、彼女は首を横に振った。

 

「見たいところはいっぱい見た。

 クルマもうんざりするくらい走らせた。温泉にも入った。沖縄から北海道まで全国、行きたいところはみんな、〈リリセ〉と行った。

 だからもういい」

 

 そう言いながら、人生最後の夕焼け空を見ていた彼女の横顔は、やはりどこか寂しそうだった。

 

 

 

 

 日が沈み切った頃、暗くなってゆく夜空を眺めていたら、ぼくは彼女の頬が濡れていることに気がついた。

 どうしたの、なぜ泣くの。ぼくが尋ねると、彼女は目元を拭って答えた。

 

「……わたし、これからちゃんとやっていけるんだろうか、って思ったらつい、な」

 

 そう語る彼女はいつも肌身放さず持ち歩いている御守り(『お姉さん』の形見の眼帯から作ったものだ)をぎゅっと握っていた。

 不安に駆られている証拠だ。

 ぼくは彼女の肩を撫でてあげた。

 

 ――大丈夫だよ。村の人も、ぼくの家族も、巫女だってみんな助けてくれる。

 ――なんていったってぼくらには慈愛の女王、モスラがついているじゃないか。

 

 そう伝えたぼくに、彼女は「そんなことじゃない」と首を横に振った。

 

「村の人も、おまえの家族も、モスラも、みんな善い人だ。

 ゴウケンもゲンゴもサヘイジだって可愛がってくれるだろうし、きっと不自由しないだろう。

 でもそんなことじゃない」

 

 

 

 彼女がそっと触れた、そのお腹は大きく膨らんでいた。

 彼女の体には今、新しい命が宿っている。

 

 

 

「この子には、アリンコみたいに、ゴジラに怯えながら地面の下で暮らす未来しか用意してあげられなかった。

 死ぬまで穴倉の中で、ずっと外にも出られず、太陽も空も見せてあげられない。

 ……こんな世界で、わたしはこの子にどんな幸せを教えてあげたらいい?

 『なんでこんな世界に産んだの?』って聞かれたとき、どう答えたらいい?

 そもそもこの子は幸せになれるのか?

 わたしたちのことを恨みながら不幸に生きていくんじゃないか?

 ……わたしには何もわからない。誰も教えてくれない。

 考えると潰されそうになるんだ」

 

 村では絶対言えないことを告白する彼女は、普段と似つかわしくないくらい弱々しくて、そんな想いを必死に押し殺すように震えていた。

 ぼくはそんな彼女の背中に手を載せ、出来る限り気持ちが伝わるように、おでことおでこを突き合わせた。

 

 

 ――大丈夫だよ、絶対幸せになるよ。

 ――ぼくたちの子供なんだから。

 

 

 そんなぼくの答えに、彼女は呆れた様子で言った。

 

「なんだそれ。『わたしたちの子供だから』って、何の根拠にもならないじゃないか」

 

 根拠なんかあるわけないよ、とぼくは首を振る。

 モスラならともかく、ぼくたちなんかじゃ未来なんてわからない。

 ましてや自分のことじゃないんだから、わかるわけがないさ。

 

「おまえはどうしてそんなに平気なんだ? わたしは不安でたまらないよ」

 

 ――全然平気、って言われるとちょっと自信がないけれど、どちらかというとぼくは楽しみだよ。

 

「楽しみ?」

 

 うん、とぼくはうなずく。

 どんな子が生まれるのかな、とか。どんな子に育つのかな、とか。この子と過ごす毎日はどんなのかな、とか。

 村のみんなが楽しみにしてくれているし、かくいうぼくだって楽しみだ。

 いざ生まれたら子育てで一杯一杯で、太陽が見られないくらいのことなんかきっとそんなに気にならないさ。

 それにもうひとつ思うけど、地下の暮らしだって、きみが思うほど不幸じゃないかもしれないよ。

 

「不幸じゃ、ない?」

 

 そうさ。

 ぼくたちの子供は、地上の暮らしを知らない代わりに、地底探検の達人になるかもしれない。

 モスラと違って空を飛べないぼくたちにとって、地上の世界なんて歩いて行ける範囲しかない。

 だけど地中に向かう冒険だったら、アリンコみたいにちっぽけなぼくたちだって掘り進んで行ける。

 『どんな幸せを教えてあげたらいいかわからない』と言ったけど、逆に言えばこれから新しい幸せを探す楽しみがある。

 ぼくときみ、ぼくらの子供、そして村のみんな。

 みんなで一緒に探せば良い。

 

 空の色を知らないのは不幸なことかもしれないけど、地下でもっと素敵なものを見つける可能性だってある。

 地面の下には、地上にはない宝物(たからもの)が埋まっているかもしれないよ。

 

「地上にはない宝物……」

 

 ぼくの考えに彼女はしばらくきょとんとしてたけど、やがて「フフッ」と噴き出した。

 そんな彼女に、ぼくは眉をひそめた。

 たしかに何の根拠もない、バカみたいな考えかもしれない。だけど、なにもバカにすることはないじゃないか。

 怒ろうとするぼくを彼女は「違う違う、おまえをバカにしたんじゃない」と宥めた。

 

「バカはわたしだ。

 そりゃそうだ、先のことなんか考え込んでもどうしようもない。

 おまえの言うとおり、この子の幸せ、そんなのはこの子が自分で見つけることだ。

 どうしようもないことをくよくよ悩んだ挙句に、産まれてもない子を不幸だ可哀想だなんて決めつけて、わたしこそバカだ」

 

 彼女は、大きなお腹にぼくの掌を触らせた。

 彼女の胎内にいる命が、ぼくの手に力強い熱さを伝えてくれている。

 

「だからこの子を信じるよ。

 この子はきっと、おまえの言うような素晴らしい宝物の原石(GEMSTONE)を掘り出してくれる。

 きっとそうだ」

 

 へにゃ、といつまで経っても上手くならない、だけど優しい彼女の泣き笑い。

 それを見たぼくは安心した。

 きみのその素敵な笑顔こそがぼくの宝物だ。

 さらにこれからもうひとり、何物にも代えがたい宝物が加わることになる。

 そんな素敵な宝物がぼくときみの未来を繋いでくれるんだ。

 そして村のみんなにモスラ、そして大好きなきみと一緒に生きてゆける。

 ぼくはこれだけで充分幸福者(しあわせもの)だ。

 

 そうやって笑うぼくに彼女は言った。

 

「……おまえって、人畜無害そうな顔してるくせに、たまに物凄いこと言うよな」

 

 ジンチクムガイ? なぁにそれ。

 彼女はたまに、ぼくにはよくわからない言葉を使う。

 ……どうしたの、なんで顔を背けているの?

 彼女の顔を覗き込もうとするぼくだけど、彼女はあっちの方を向いてしまうのだった。

 耳が赤い。まるでゆでだこみたいだ。

 具合でも悪いの?

 

「うっさいバカ、こっち見るなバカ、具合なんか悪くない。このバカ、人がこっ()ずかしくなるようなことを真顔で言いやがって」

 

 彼女は、「帰るぞジニアッ」と大きなお腹を抱えて砂浜を立ち、クルマの方へとすたすた歩き始めてしまう。

 待ってよう、エミィ! 追いすがるぼく。

 クルマに乗ったぼくたちは、『お姉さん』のことを思い出しながら歌を唄った。

 

 モスラヤ、モスラ

 ドゥンガンカサクヤン インドゥムウ

 ルストウィラードア ハンバハンバムヤン

 ランダバンウンラダン トゥンジュカンラー

 カサクヤーンム……

 

 モスラの歌を二人で唄いながらクルマを走らせるぼくたち、エミィとジニア。

 その遠く、(あお)く暗い海の向こう。

 世界が終わる夜に、ゴジラの咆哮が響いていた。

 

 




残り3話。エンドタイトル“Ⅰ”とあるとおり、まだまだ続くんじゃ。

好きな怪獣を教えて

  • メカゴジラⅡ=レックス
  • キメラ=セプテリウス
  • ルシファー=ハイドラ
  • モスラの森
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