リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。 作:橘 雪華
「はふぅ……」
夜。
昨夜と同じ場所に腰掛けて、昨日とは違ってぐたーっと脱力がちに溜息を吐く。
剣との間合いの違いになかなか慣れなくて、立ち回りと軽さを活かしての素早い動きで目が回りそうになりながらもどうにか慣れようと必死になった結果がこれである。
どうしてゲームなのに疲れはこんなリアルに感じるのか……と心の中で愚痴っていると、隣に誰かが座る気配を感じた。
気怠さが抜けきらないまま顔を上げて横を見てみると、見た事のある暗赤色のフードの人が、黒パンを齧っていた。
「……あれ、アスナさん」
「ひゃあっ!?」
疲れのせいで声が自然と低くなっちゃいながらも、声をかけたら何故かびっくりされた。
「あ、あなた、いつからそこに……」
手に持ったパンを落としそうになりながらもなんとか持ちこたえ、こちらを見ながらそう言うアスナさん。
どうやら私がいたことに気付いてなかったらしい。
「いつからも何も……多分アスナさんが来る前にはいたはずですよ」
「……そうだった…?」
私《隠蔽》とか別に使ってないのに…。
フード被ったまま下向いてたから夜の黒に紛れて見えてなかったのかな。
「……いくら戦い方がこそこそ闇討ちスタイルだからって、存在感まで薄れてるつもりは無いもん……」
「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してたから気付かなかっただけなの、本当よ?」
軽くいじけてみると思ったよりも効果的だったらしく、慌てた様子を見せるアスナさん。
実際はそんなに気にしてない(ちょっとは気にしてる)からいいけど、むしろ慌ててるアスナさんが今までのイメージとは違って、ちょっと可愛いなって思ってしまっていた。
「けど、まぁ……影薄い方が変な人にナンパみたいな事されなくなるなら良いですけどね…」
「……やっぱりそのフードって、そういう為のもの?」
「そうですね。……まぁ、私は小柄なのですぐバレちゃいがちなんですけど」
あはは、と苦笑いを浮かべながら答える。
コペルさんみたいなのはまだ全然平気だったけど、他の人は大抵下心を隠す気も無いんじゃないのっていう人ばっかりで、本当に…。
「そう……大変ね、お互い」
「ですね。……あ、食事ですか?」
話しながら、ふとアスナさんが手に持っているパンに気付いて聞いてみる。
「えぇ。別に必要ないと思ってたんだけど……このゲーム、ゲームの癖にちゃっかり空腹感まで再現されてるから……」
「あぁ……確かに、食べておかないと上手く集中できませんもんね」
勿論、こっちでいくら食事をしたところで、現実の方に栄養は一切行かない。
ならその内現実の身体が餓死するんじゃないかって何度か思ったけど……一ヶ月経ってもこうして存在していられるってことはきっと
そうじゃなかったら、っていうのは……怖くてあんまり考えたくない。
そんな事を考えつつ、アスナさんが手に持っている黒パンに視線をやる。
「あ、そのパンって一番安いやつでしたっけ。もうちょっとお金掛ければ他に美味しいパンありませんでしたっけ?」
その手にあった黒色のパンはNPCのパンを売ってる人から買えるパンでも一番安いもの。お値段たったの1コル。
1コルの割にそれなりの大きさだけど少しお値段のするパンと比べるとやっぱり美味しさは劣ってしまう。
倹約家なのかな?
「普通に食べたら、そうね。3日か4日くらい何も食べてないと少し美味しく感じるけど」
「ええっ。……そ、そうなんですか」
「それに、今は少しだけ工夫もしてるから」
「工夫?」
まさかの空腹は調味料みたいな事を言われて若干引きつつも、続けて告げられた工夫という言葉に首を傾げる。
よく見たらアスナさんの手のパンには何か白いものが着いていた。
「……何かつけてるんですか?」
「そう。あのキリトって剣士に少し譲ってもらったの」
そう言いながらパクパクとパンを食べていき、そんなにかからずにパンは全部なくなっていった。
ふぅ、とパンを食べ終えて一息吐くアスナさんの表情は、どこか満足げだ。
い、いいなぁ…私も今度キリトさんに聞いてみよう。
「……ねぇ」
「はい?」
なんて少し羨ましく思っていると、アスナさんが控えめな様子で声をかけてきた。
「……あなたはどうして、戦ってるの?」
「え?」
「だってあなた、まだ子供でしょう? それなのにこんな所まで来て……」
俯きながらそんな事を聞いてくるアスナさん。
戦ってる理由、かぁ…。
「……お姉ちゃんを探す為、でしょうか」
「お姉さんを…?」
「はい。……ただ、私、お姉ちゃんがどんな顔なのかとか、知らないんですよね……」
「それって……」
あはは、と苦笑いしながら答えて、どういうこと? とアスナさんが聞く前に、私は自分の事――現実では目が見えない事を話す。
「そんな訳で、お姉ちゃんの姿も、ゲームでの名前も知らなくて……でも、安全な所でじっとしているのも嫌で……」
「それで、こんな前線まで…?」
「はい。……一応、アルゴさんにも頼んで探して貰ってはいるんですけど……やっぱり情報が少なすぎるみたいで」
そう、《情報屋》というアルゴさんのしてる事を聞いた時、まず初めにお姉ちゃんの事を探してほしいと頼んでいた。
ただやっぱり年齢くらいしかわからないとなると難しいらしくて、結局それらしい人がいたって話はまだ聞いてない。
アルゴさん曰く、
『エっちゃんを含めて
との事。
そこでその話を聞くまで
『マァ、そういうの無視するプレイヤーってのはさして珍しいものでも、今に始まった事でもナイヨ。それに、SAOの場合はあくまで"推奨"ダシ、人によっては、R-18制限があろうとネットやらで注文してプレイしたりしてるのだっているカラ』
とフォローしてくれた。
まだまともに話ができなさそうな子からは、落ち着いたら聞いてみるとの事なので、この人には感謝しないといけない。
ちなみにR-18……18歳未満禁止のゲームってどういうのだろう、とちょっと気になりはしたけど、あんまり触れない方が良さそうだったからとりあえずスルーしておいた。
「そう……」
「だから、今は……なんというか、ただがむしゃらに進んでいたらこんな所まで来ちゃった感じが強いかも知れません。こうやって最前線にいるのも、今のうちだけかもしれませんし」
そう言ってえへへ、と自嘲気味に笑う。
なにも一番前で戦い続けるのが目的って訳じゃないんだから、最前線に拘るつもりもない、かな。
「……強いのね、あなたは」
「あはは。キリトさんにも同じように言われました。でも強くないですよ、私は。きっと頭がよくないだけです」
もっとよく考えたら、安全にお姉ちゃんを探し出せる方法はあるかもしれないし。
でもそれを思いつかないから、頭は良くないんだろう。多分。
「けど、やっぱり一人は危ないわ」
「え? ま、まぁ……でもあまり変な人とは組みたくないし……キリトさんは信用できますけど、頼りすぎるのも……」
「ふぅん……」
するとアスナさんは考えるような仕草の後、何かを決めたような顔で私の事をじっと見つめてきた。
……真正面からこうやって見てみると、アスナさんって綺麗な顔してるなぁ…。
「なら、わたし。この先はなるべくあなたと一緒にいるわ」
「はぁ、一緒にですか。確かにアスナさんなら安心……」
………ん? え?
「…はぁっ!? と、突然なんですか!」
「どういうって、下心ありそうな男の人と組むのは嫌なんでしょ? それなら、って話」
いきなりの事に戸惑う私に反して、アスナさんは至って真面目な表情で理由を答えていく。
確かにそういう人が多かったせいで、知り合いじゃない男の人とはあんまり関わりたくないのはあってるけど…
「それにあなたの戦い方って、危なっかしいんだもの」
え。危なっかしいって……そうかなぁ。
思い返すと確かにこう、結構突っ込んでる気がするけど、戦いは勢いが大事かなって思ったから。
……まだ戦う時に必死になってるから、そういう風に見えちゃうのかな。
でもアスナさんと一緒に戦いに出たのってまだ一度だけじゃないっけ…?
い、いや、別に断る理由はないんだけど…。
「……そこまで私に構わなくても……」
「もう決めた事だからいいの。それともわたしについてこられるのは嫌?」
「そ、そういう訳じゃ……うぅ、わかりましたよぅ」
どうにも様子を見る限りもう決めたから引くつもりは無い。とでも言いたげで、
結局私が折れる事になるのでした…。
……まぁ、別に絶対一人じゃないとダメって訳でもないし……アスナさんしっかりしてそうでなんか頼りになりそうだし、ここは甘えちゃおうかな…。
「ふふっ、それじゃあまずは明日のフロアボスを倒さないとね」
「そうですね……」
そっか、もう明日……なんだよね。
私達の役回りは雑魚の相手……だったけど、気は抜いたらダメだし、ボスの方は、どんな奴なんだろう…。
……今更考えたり弱気になっても仕方ないよね、よしっ。
「……明日は、絶対勝ちましょうね!」
「うん。頑張ろうね、エコーちゃん」
「はいっ!」
気合いを入れるようにぐっと手を握りしめながら、アスナさんと一緒に明日への意気込みを高める。
アスナさんと仲良くなれて良かったと思いながらも、明日への思いを馳せる。
叶うなら、一人も犠牲者が出ない事を祈るように──
「……」
そんな二人を、建物の影からそっと見守る人影があった。
その影は打ち解けた様子の二人を見ると、ふぅ、と安堵の息を吐く。
「……ガールズトークを盗み見なんテ、あまり褒められたものじゃないゾー? キー坊」
「うおっ! なんだアルゴか、脅かすなよ。……いやさ、何か少し距離があったような気がしたから、大丈夫かなって思って」
そしてその影――キリトは突然出てきたアルゴに驚きつつ、影で見守っていた理由を言いながらちらりと再び二人の方を見てから、その方向とは逆に歩き出す。
「ま、杞憂だったみたいだけどな」
「そうでもないんじゃないカ? 切っ掛けに近い物は、キー坊がアーちゃんにあげていた
「そうか…? 確かに話題にはなってたけど、結局は彼女達次第だったろ?」
「マァナ」
色々な偶然が重なったとはいえ、女性プレイヤーの少ない前線で折角出会えたのだから二人には仲良くしてほしいと思ってはいたものの、意図せず仲は良好になって一安心した様子のキリト。
「ただ……俺ってアスナさんに嫌われてるのかな……」
「そればっかりは分からないヨ。何なら聞いてこようカ?」
「いやいい、聞くのが怖いそんなの」
一部聞こえていた会話で自分が避けられてるのかと若干落胆するキリトに「ただしコルは頂くヨ」と付け加えながら言うアルゴだったが、キリト的には正式版になって初のボス戦前夜から精神的に致命傷を負いたくないと遠慮した。
そんなキリトを見てアルゴは、折角稼げると……と言いかけて、すぐさまニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「とりあえず……キー坊が女の子二人の会話を立ち聞きしていタって情報は貰えたしいいカ」
「……アルゴさん?」
「なんダイ?」
「……口止め料は、幾らお支払すれば…?」
大量に汗をかきながらそう言ったキリトに、アルゴはイタズラが成功したような表情になりながら…。
――1層フロアボス前夜。
E隊の支援を担当する3人の暫定パーティーの、女子二人は友好を深め合い、
一人の男は所持残金を見て溜め息を吐きながら、夜を過ごしていった。
修正前だとキリトさんのクリームイベント担当してましたけどSAOABとかを見てイベント自体はキリトさんに返却されました。
この時期のアスナさんがキリトさんからクリーム貰うかと言われたら首傾げそうになりますが……き、気にしないようにしよう!