リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。   作:橘 雪華

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6.イルファング・ザ・コボルドロード戦・後

「ディアベルッ!」

 

 

私の耳に届いた、ディアベルさんの名前を駆け寄りながら叫んでいるキリトさんの声。

倒れたディアベルさんとキリトさんが何かやり取りをしていたかと思うと、間もなくして、

 

ディアベルさんの身体が水色の光に包まれ、カシャン…と音を立てて、砕け散った。

 

「……え?」

「そんな…」

 

それを見てようやく事の重大さに気付いた。

隣のアスナさんも、他のプレイヤーも、キリトさんも。ディアベルさん"だった"破片を見つめて、呆然としてしまっていた。

 

また、知った顔が……出会って間もないとはいえ、少しだけでも会話したことのある人が、また……死んだ。

 

こうやって、身近で誰かが死ぬのを見るのは、二度目になる。

けど、あの時と違うのは……死ぬ瞬間を目の当たりにした事。

 

こんなにも、あっさりと…

何かの冗談だと言いたくなる、けど、もうディアベルさんは……いない。

 

「あ、ぁ……っ」

 

再び目にした『死』に、足の力が抜けてぺたんと座り込んでしまう。

私もいつか、あんな風に死んじゃうんじゃ……考えちゃダメなのに、そう考えちゃって、震えが止まらない。

 

「エコーちゃん、しっかりして!」

 

へたりこんだ私を、アスナさんが心配したように駆け寄ってくる。

っ…そうだ、ここはまだ、敵地のど真ん中……

気を抜いてる、場合じゃ……ないっ。

 

「……だい、じょうぶ…です…っ」

「エコーちゃん…」

 

大丈夫なんて、嘘だ。

でも、嘘でも無理やりに奮い立たなきゃ、次は私の番になるかもしれない…。

恐い気持ちはまだ治まらない。けど、お姉ちゃん見つけて、一緒に帰るまで……死ぬわけにはいかない…!

 

と、私はどうにか恐怖に耐えて立ち上がりはしたけれど、戦意を無くしているのは私だけじゃなくて。

 

リーダーがいなくなってしまったこの状況……

所々から「嘘だろ…」「なんでや…なんでアンタが最初に…」と不安、絶望、恐怖の声が聞こえた。

殆どの人が、頼りにしていた人の消失で、戦意を失ってしまっていた。

 

――ただ一人を除いて。

 

「………」

 

コボルドロードが咆える。新たな番兵(センチネル)が現れ、戦意を失ったプレイヤーが悲鳴を上げ、逃げ惑う。

そんな状況下でその人――キリトさんは無言で立ち上がると、静かにコボルドロードを見据えていた。

 

その姿を、憧れの背中を見て、私は深呼吸をする。

 

「ふ、ぅぅっ……はぁー…っ」

「エコーちゃん、本当に大丈夫…?」

「…平気、です。私だって、死にたくは、ないですから」

「……無理はしちゃダメよ」

 

心配してくれるアスナさんにそう告げながら、アスナさんと一緒にキリトさんの元へと向かい、隣に立つ。

 

「わたしも行く」

「私も……まだ、やれます」

「……解った、頼む」

 

とは言ったものの、まずはこの状況をどうにかしなきゃ。

幸いまだ新しい死人は出てないけど、こんな崩壊状態じゃそれも時間の問題。かと言って今ただ叫んだところで、悲鳴、絶叫にかき消される。

 

「……一つ教えて」

 

そんな状況を見てか、アスナさんが呟くようにキリトさんへと声をかける。

 

「あなたなら、アイツのソードスキル…見切れるのね?」

「…ああ」

「……わかった」

 

アスナさんの質問にキリトさんは短く答えて、その言葉を聞いたアスナさんは身に纏った外套に手をかけた。

何をするのか、と言いたげな視線がアスナさんへと向けられる。

 

「……細剣使い(フェンサー)さん?」

 

 

「ちゅううううううもおおおおおおおおおおおくッ!!!」

 

アスナさんは部屋中に響くくらい大きな声で叫びながら、手にかけた外套を脱ぎ捨てた。

突然の事に近くにいた私とキリトさんはびくりとし、パニック状態だった皆もその叫び声で我に返ってアスナさんへと注目していく。

 

「これより《騎士ディアベル》の()()()()()を伝えます!」

 

アスナさんは大きな声で、そんな()()()()を語り始める。

皆は、私とキリトさんも、黙って長い髪をたなびかせるアスナさんを見つめ、言葉を待った。

 

「彼は言ったわ──『ボスを──倒せ』と!」

 

バッとボスを――《イルファング・ザ・コボルドロード》を指差しながら、アスナさんは告げる。

皆が一瞬、ざわついた。

 

「そしてもうひとつ──」

 

そしてアスナさんは付け加える様に言い、キリトさんの方へ向き直ると、二つ目の指示()を告げた。

 

「『次の騎士(リーダー)は――彼だ』と」

「なっ…!?」

 

突然リーダーにされてキリトさんが戸惑ったような顔をして、皆もざわざわとざわめき立つ。

 

「俺も聞いたぞ!!」

 

アスナさんの言葉に乗っかるように、別の叫び声。

声の主はこの状況で取り乱すことなく、ボスの攻撃を抑えている壁役部隊――B隊リーダーのエギルさんだった。

 

「それにアイツにはボスのスキル知識がある! ディアベルを信じるなら、指示に従うべきだ!」

 

エギルさんはコボルドロードの攻撃引き受けながら、事前に打ち合わせをした訳でもないのにアスナさんの嘘に合わせるような言葉を付け足した。

そのエギルさんはそれだけ言うと、こちらに……アスナさんにニッと笑みを浮かべてからコボルドロードの方へと向き直った。

 

エギルさんはこの攻略隊の中でも信用が高かったらしく、困惑気味にざわめいていた人たちがやる気を取り戻していく。

 

「では、指示を。騎士(リーダー)さん」

「……はは。頼りになるお姫様だこと」

 

突然リーダーにされたキリトさんは苦笑いを浮かべていたけど、言われてすぐにすっと前に出て、各部隊に指示を飛ばし始めた。

 

「……ふぅっ」

「あ、アスナさん、すごいです……」

 

本人としても慣れないことをしたらしくて、息を吐くアスナさんに私は声をかける。

 

「ありがと。でも、ここからが本番だから」

「そう、ですね」

 

そんなやり取りをしながら前へ進み、ボス担当の部隊を狙っている番兵(センチネル)を突いて注意を引いて引き離す。

 

アスナさんの檄が功を成したのかどうかはわからないけれど、何とか戦線は意地出来ている様子。

後はこのまま、ボスを押し切れば…。

 

そんな時だった。

 

「キバオウ! E隊を下がらせろッ!!」

 

突然のキリトさんの叫び声。

びっくりしたのも束の間、E隊の人が番兵(センチネル)の攻撃を避けた時によろけてしまい、ふらっと後ろに数歩下がった。

 

――丁度、後ろにいたコボルドロードを取り囲むような形になってしまう位置まで。

 

「アホゥ!! そこに立ったらアカンッ!!」

「え?」

 

キリトさんの言葉を理解したらしいキバオウさんも続けて叫ぶけれど、コボルドロードは既にスキルモーションを取っていて、

 

次の瞬間、その人とコボルドロードの攻撃を受けていたB隊の人達が、コボルドロードの放った回転斬りのソードスキルによって全員吹き飛ばされた。

攻撃を受けた人達のHPバーが減っていき、黄色から赤に染まっていく。

 

「い…いけない…ッ!!」

「あ、アスナさん!?」

 

それを見たアスナさんが、焦った様子でコボルドロード目掛けて駆け出していく。

無茶だ、と急いで止めようとするものの、番兵(センチネル)に遮られて足が止まる。

 

「この…っ!」

 

番兵(センチネル)が振り下ろそうとしている《長柄斧(ポールアックス)》目掛けて片手直剣用ソードスキル《バーチカル》を思い切り放ち、武器を弾き飛ばす。

そして、スキル使用硬直が解けるのと同時に、再び剣を構えてソードスキルを発動。

 

「はああああッ!!」

 

軽い溜めから《レイジスパイク》を、番兵(センチネル)の喉元目掛けて放った。

目の前で砕け散る番兵(センチネル)は気にもかけず走り出して前を見ると、番兵(センチネル)に阻まれているキリトさんの姿。

 

その先にアスナさんがいるから、きっとアスナさんを追いかけようとしているんだろう。

 

どうしよう、ここからじゃ間に合わない……だったら!

ソードスキルの構えじゃない形で剣を振りかぶるように構えて、キリトさんの邪魔をする番兵(センチネル)に狙いをつける。

そして、

 

「キリトさんの邪魔を、するなああああッ!!」

 

ダンっ! と右足を踏み込んだのと同時に、装備していた剣を番兵(センチネル)に向かって思い切り投げつけた。

 

 

 


 

 

 

「キリトさんの邪魔を、するなああああッ!!」

 

突っ込んだアスナの後を追い掛けようとしたものの、横から来た番兵(センチネル)に道を遮られていた時だった。

 

背後からエコーの叫び声が聞こえてきたと思えば、何かがこちらへと飛んできていた。

 

「うおっ!」

 

よくよく見れば自分に当たるような軌道ではなかったものの不意の出来事に反射的に横に飛び退くと、その飛んできた何かは風を切るように音を立てながら、そのまま番兵(センチネル)に直撃した。

 

「ッ、今だ! ぜあああッ!!」

 

対したダメージではなかったものの、意識外からの不意打ちに大きな隙を晒した番兵(センチネル)を見て、すかさずソードスキルで斬り捨てる。

倒した番兵(センチネル)が消える瞬間、刺さったものに注視してみると、それはエコーが持っていた《アニールブレード》だった。

 

「な、なんて無茶なことを……」

 

確かにシステム上装備した武器を投げることはできるが、運営も対策してるのかそんな無茶な扱いをすると耐久値が著しく減衰するように設定されており、下手したらそのまま武器を失くしてしまう可能性もある。

 

例外として《投擲》スキルと呼ばれる専用の武器を投げる遠距離攻撃手段もあるが、そのスキルを持ってるにしても無いにしても、命綱とも言える武器を投げつけるプレイヤーなんてのはそうはいない。

それを躊躇なく、しかも強化済武器でやるなんてなぁ…。

 

「キリトさん! アスナさんを!」

「あ、ああ…!」

 

エコーの行動に若干の戦慄を覚えていると、エコーから急かすような言葉をかけられて我に返り、走り出す。

そのままどうにか突っ込んでいったアスナへと追いついて、剣を構えながら叫ぶ。

 

「アスナ!」

「っ…!」

「来い、アスナ! 君とならやれる!」

 

短く、それだけを伝えると、アスナは何も言わずに俺の隣に並び、細剣を構えた。

 

二つの剣が光を纏い、ソードスキルの起動音が響く。

ボスの方も向かってくる俺達に気付くと、すぐにその手のカタナを振りかぶる。

 

「一瞬でいい……奴よりも──」

 

――速く!!

 

 

 

 

 

 

そこからの展開は、私にとっては文字通り目が眩む程に一瞬の出来事だった。

 

キリトさんがコボルドロードに向かっていきながらアスナさんの名前を呼ぶと、二人は並んで剣を構えてソードスキルを起動させて駆ける。

そんな事は相手も黙って見過ごすはずもなく、二人揃って薙ぎ払おうとカタナを振るう。

 

どっちの攻撃が速いか、ただそれだけ。

私は思わず息を呑んでいた。

 

決着は――

 

「グガ、アアァァ……!!」

 

カタナが二人の身体を捉えるより先に、二人の鋭い突きがコボルドロードを貫いていた。

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