リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。   作:橘 雪華

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7.ビーターと、決意

キリトさんとアスナさんの一撃でボスが倒されると、僅かに残っていた番兵(センチネル)達もパキン、と粉々に砕けて行った。

そしてボスフロアの薄闇が壁の松明の光で払われ、部屋が明るくなる。

 

一瞬の静寂。

それを打ち破ったのは、私達の目の前に現れたメッセージウィンドウだった。

 

それは、獲得経験値や分配されたコル、獲得アイテムを知らせる、リザルトウィンドウ。

つまり、戦いが終わった…ということ。

 

『よ……ッしゃあああああああ!!!」』

 

一瞬の間の後、勝利した、という事を理解できた瞬フロア中から湧き上がる歓声。

やった、んだ。……ボス、倒したんだ。

 

「……はぁぁぁ……」

 

ボスを倒せたと実感が沸いてくると同時に、その場にペタンと座り込んでしまう。

 

なんていうか……成し遂げた安心感が来たら、急にどっと疲れたというか……眩暈とかしてたし。

ゲームでも疲れって感じるのかな。……あぁでも目から来る疲れとかがあるって話を聞いたような気がする。

 

ボスがいたところでは、キリトさん達がエギルさん達他のプレイヤーの称賛を受けている。

アスナさんにリーダーを任されて、突然の事だったのにそれでも本当に倒しちゃうんだから、やっぱりキリトさんって凄い。

 

 

 

――なんて、地べたに座りながら喜んでいる皆を見ている時だった。

 

「なんでだよッ!!」

 

突然響いた怒声に、びくっと驚きで身体が跳ねた。

何事かと叫び声のした方に視線を移すと、そこにいたのは、ええと…。

 

「なんで…ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

 

誰だったか何とか思い出そうとして、続けて放たれた言葉とその人の背後で泣いている人達を見て、なんとなく察する。

もしかして……このボス討伐の前からずっとディアベルさんと一緒にいた人達? なのかな。

 

「見殺し…?」

 

突然投げかけられた言葉の意味が分からないのか、そう聞き返すキリトさん。

 

私にも言葉の意味が分からなかった。

キリトさんはディアベルさんの傍まで行って、最後まで助けようとしていたはず。

 

だってあの時、ディアベルさんが消えた時に確かキリトさんはポーションを手に持っていた。

見殺しになんて、そんな事…。

 

「そうだろ!? だってお前は、ボスの使う技を知ってただろ!! お前が最初からあの情報を伝えていたら、ディアベルさんは死なずに済んだんだッ!!」

 

ざわざわ……と辺りがざわめく。

ちらほらと「そういえばそうだ……」「確かに、攻略本にもなかったのに何で……」という声が聞こえてくる。

 

「──あんたはLA(ラストアタック)が欲しかったから、だからボスのスキルを隠し、ディアベルさんを見殺しにした……そうだろ? 元ベータテスターさん」

 

そしてどこかからそんな言葉が聞こえてきて、場はさらにざわめいた。

今の声は…? なんだろう、一瞬物凄い悪意を感じた、ような…。

 

……気のせい?

 

「…………」

「そうなのか? アンタ、本当にLA欲しさでディアベルさんを見捨てたのか…? ……黙ってないで、何とか言えよ!!」

「ま、待って下さい!」

 

微かに感じた嫌な感じも気になるけど、それよりもこの険悪な雰囲気と、頑張ったはずのキリトさんが責められている事に耐えきれず、立ち上がりながら待ったと声を上げた。

 

視線が自分に集まる──けど、そんなの気にしている場合じゃない。

 

「どうして、キリトさんばっかり責めるんですか! キリトさんは危険なのにも関わらず、あんなに前に出て戦ってくれていたのに…!」

 

あれ以上の犠牲を出さないために、あんなに走り回って頑張ってくれていたのに、それなのにこんな…。

 

……そうやって、必死になれば思いが伝わるなんて、そんな風に言ったくらいでこの場が治まるなんて言うのは、甘い考だった。

 

「お前も、妙にあいつの肩を持ったりしているってことは、グルなんだろ!?」

「……ぇ…?」

 

帰ってきた言葉に、わたしは唖然としてしまう。

そして同時になんとなく、けれど既に遅い事を、察した。

私なんかが口出しして、治まるような状況じゃなかった、と。むしろ、火に油…。

 

集まる視線に、懐疑と怒りが混ざってくる。

それだけで私は、身体の震えを抑えるので精一杯になって、何も言えなくなってしまった。

 

怖い……怖い、怖い…!

 

「何だよ、何とか言ってみろよ!」

「ひ…っ!」

「ちょっとあなたね、いい加減に……」

 

向けられる敵意に震えているとアスナさんが私の傍に来て、怒ったような声で何かを言おうとしたその時だった。

 

「……はっ、ハハハハハハッ!」

『っ!?』

 

突然、フロアに響き渡る笑い声。

今まで騒いでた人は勿論、私やアスナさん、この場にいる全員が笑い声の方を見る。

 

「はははっ! まったくおめでたい奴等だな? お前ら」

 

笑い声の主は、他でもないこの騒動の中心人物であろう、キリトさんだ。

キリトさんが目元を手で押さえて、笑っていた。

 

「そいつは正真正銘の初心者(ニュービー)だぜ? その割には少し使えそうだったから、利用してやってただけさ」

「キ、リト…さん…?」

 

まるで人が変わったように、そんな事を言い放つキリトさん。

今まで私の事を騙していたのか、なんて考えには勿論ならないけれど、豹変したような振る舞いに私は驚いて固まってしまっていた。

 

「お、お前、あんな小さい子を利用してたのか…!?」

「ああそうさ。幼く見えようが使えるものは使って何が悪い? ……それに、元ベータテスター? 俺をあんな素人連中と一緒にしないで貰いたいな」

「な……なんだと…?」

「よく考えてみろよ? このSAOのCBT(クローズドベータテスト)参加者は千人…その千人の中に、本物のMMOゲーマーが何人居たと思う? 殆どがレベリングのやり方すらまともに知らないような初心者(ニュービー)だった」

 

キリトさんはまるで、この場にいる全員を嘲笑うかのように、言葉を続ける。

 

「だが、俺はあんな奴らとは違う。俺はベータテストの間に他の誰よりも先に上の層を攻略した。カタナスキルを知っていたのは、そんな先の層でカタナを使うMobと散々戦ったからな」

「……なんだよ、それ……」

 

キリトさんのその話を聞いて、騒ぎの中心だった人が掠れた声で言う。

 

「そんなの、ベータテスターどころじゃねぇじゃんか……チートだ、チーターだろそんなのッ!」

 

その人の叫びに呼応するように、周りの人達もチーターだ、ベータのチーターだ、とキリトさんを批難するように騒ぎ始める。

その内、ベータとチーターが混ざったのか、《ビーター》という言葉が聞こえてきた。

 

「《ビーター》? 良い響きだな、それ」

 

それはキリトさんにも聞こえていたらしく、カラカラとメニューを操作しながらキリトさんはニヤリと笑みを浮かべた。

そして、

 

「そうだ、俺は《ビーター》だ。これからは元ベータテスター如きと一緒にしないでもらおうか!」

 

真っ黒なコートを身に纏いながら、()()()()()()()()()()()()()()()()わざとらしく悪い笑みを浮かべてそう言い放った。

 

「二層の転移門は俺が有効化(アクティベート)しといてやる。この先の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、着いてくるんだったら初見のMobに殺される覚悟でくるんだな」

 

黒いコートを翻し、歩き始めるキリトさん。

そんな時、一瞬キリトさんと目が合う。

 

その時のキリトさんの私を見る表情は、いつもみたいな優しい目だった。

 

「……ふ、ふざけるな……謝れよ……ディアベルさんに謝れよッ!ビーターァッッ!!」

 

キリトさんの態度に耐えきれくなったらしく、騒ぎの発端になった人は涙を流しながらも怒りの叫びをキリトさんへと向ける。

けれどキリトさんは背を向けたまま、そのまま一人きりで二層に続く扉を開いて進んで行ってしまった。

 

そんな光景を、私とアスナさんは何も言えずにただ見ていることしかできなかった。

 

「…なあ、嬢ちゃん達よ」

 

と、そんな私達の所にエギルさんがぬっと現れて、小声で声を掛けてきた。

ちょっとびっくりして悲鳴が出そうになったよ…。

 

「嬢ちゃん達も、()()が本心じゃないことくらい──」

「言われなくてもわかってます」

「は、はい…」

 

二人の口ぶりからして、やっぱり()()は演技だったみたい。

いきなりの事でびっくりしたけど、思い返すとやっぱり、そうだよね。キリトさんがあんなひどい事を本心で言うわけ、ない。

 

キリトさんは……一人で背負う気なんだ。

 

「……」

「エコーちゃん、大丈夫?」

「あ、はい……私は大丈夫です」

 

俯いているとアスナさんが心配そうな声をかけてきて、私は顔を上げつつなるべくいつも通りのように振る舞う。

色々悲しい気持ちとかでまだもやもやはしてるけど……それよりもやらないといけないことがある。

 

「……先に行くの?」

「はい。……このまま放っておいたら、キリトさんが本当にひとりぼっちになっちゃいそうな気がして……」

「……そう、ね」

 

そう言いながらキリトさんが消えていった門へ向けて歩き始めると、アスナさんも一緒になって歩き出す。

すると、それを見たエギルさんが私達を呼び止めてきた。

 

「先に行くんなら、アイツに伝言頼めるか?」

「伝言……はい、わかりました……」

 

エギルさんはキリトさんに何か言いたいことがあるらしくそう頼んできて、

エギルさんの伝言を聞いて改めて進もうとした時、オレンジ色のトゲトゲした頭の人が近づいてきた。

「ちょい待ちぃ」

「ん、キバオウ?」

 

そう、その人物はボス前で度々ベータテスターに対して文句やら何やらを言っていた人……キバオウさん。

 

彼が目の前に来て、そういえばさっきの騒ぎの時は何か言ったりしてる姿を見なかったな、と思った。

あれだけベータテスターを嫌っていたんだから、便乗なりしてもおかしくは無かったはずだけど…。

 

私達の前に現れたキバオウさんは何かを言いかけたかと思うと頭を掻きむしり、ぽつりと呟くように言った。

 

「……伝言」

「え?」

「ワイからもアイツに伝言、頼むわ」

 

 

 


 

 

 

二人から伝言を預かって、戦闘中に投げちゃった《アニールブレード》を回収したりしてから私とアスナさんは扉の先へと進む。

そこにあった上へと続く狭い螺旋階段を上って行くと、再び扉が現れた。

 

「……ふぅ」

「本当に大丈夫? 戦ってる時も少し様子がおかしかったみたいだけど……」

「だ、大丈夫です。ちょっと疲れてるのかもですけど、無理はしてないですからっ」

 

階段を上りきった所で目を瞑って一息ついていると、アスナさんが心配そうに声をかけてくる。

その場では大丈夫、と言ったけど……流石に今日はもう戦わずに休んだ方がいい気がしてきた。

 

そんなやり取りをしながら小休憩を挟みつつ、扉を開けると……

 

「わぁっ」

 

その先に広がっていたのは、正しく絶景だった。

うまく説明出来ないんだけど……とにかくすごい景色。

第二層は山がメインのフィールドってことなのかな。

 

と、景色に見とれているところで、少し先の所にあったテラスの端に見覚えのある背中が見えた。

私はアスナさんと顔を見合わせて無言で頷きあうと、その背中へと歩み寄った。

 

「……来るなって、言ったのに」

 

背を向けたままそう言ったキリトさんの言葉に、はて? と首を傾げる。

 

「……言ってません、よね?」

「そうね。死ぬ覚悟があるなら来い、って言ってたわ」

「……そうだっけ」

 

アスナさんも同じ事を思ってたみたいで、二人で指摘するとキリトさんはゴメン、とだけ言って、また沈黙。

さっきあった事のせいで話し辛いのか、それとも目の前の景色に見惚れているのか。

 

それから少しして、沈黙の空気に耐えられなくなった私は、さっきの伝言に着いての話を切り出した。

 

「その、エギルさんからの伝言があるんです」

「……何て?」

「え、えっと…『次のボス戦も一緒にやろう』って」

「それと、キバオウ……さん、からもね」

 

私がエギルさんからの伝言を伝えると、それに続いてアスナさんがこほんと咳払いをしてから話し始める。

 

「……『今日は助けてもろたけど、ジブンの事はやっぱ認められん。ワイは、ワイのやり方でクリアを目指す』ですって」

 

どうして喋り方までキバオウさんみたいにしたのかって少し思ったけれど、アスナさんはキバオウさんから伝言をキリトさんへと伝えた。

それを聞いたキリトさんは一言「……そっか」とだけ呟いて、再び場がしんと静まり返る。

 

聞こえるのは、風のそよぐ音だけ。

……く、空気が重い。

 

「……ええと、その……あれだ。さっきは、その……」

 

そんな空気を破ったのはキリトさん。

キリトさんは頭を掻きながら言いよどむように何かを言おうとして、

 

「ごめ──」

「ごめんなさい!」

 

一瞬聞こえた謝罪の言葉らしい言葉を遮るように、アスナさんがキリトさんに頭を下げて謝罪していた。

 

「…え?」

 

突然頭を下げられてか、キリトさんの困惑したような声。

私もちょっとびっくりして、アスナさんを見つめる。

 

「わたしが余計なことをしたせいで、あなたに重荷を背負わせてしまったわ」

「あ、いや……あれは俺が自分で墓穴を掘っただけで、大した問題じゃないさ」

 

むしろ……とキリトさんは言葉を続ける。

 

「君の激がボス戦を立て直したんだ。あれが無かったら壊滅してた」

「……そう、かしら」

「そうですよ、アスナさん、カッコよかったです」

 

キリトさんの言葉に続けるように、私もそう言った。

本当にカッコよかったなぁ、さっきのアスナさん。あ、いや、普段もばーって敵を倒してカッコいいけどね?

 

「多分、君にはきっとみんなの心をひとつにする力がある。剣技なんかよりずっと大切な力……俺なんかは逆立ちしたって勝てない、貴重な強さだ」

「……」

「だから、いつか信頼できる人に誘われたら、君はギルドに入るんだ。ソロプレイは絶対的な限界があるから……」

 

アスナさんはキリトさんの言葉をじっと黙って聞いていて、そんな二人を私も黙って見る。

うう、なんか私、場違い感が…。

 

「……今はまだ、そういうこと考えられないかな。他に目標ができたから。いつかじゃない、目の前の目標」

「へぇ……何?」

「内緒、でもひとつだけヒント」

 

いつの間にか二人だけの空気みたいになってとっても居づらく感じていると、ふっ、とアスナさんが笑った。

 

「あなたに教わった事、感謝しているわ」

 

真正面から笑顔を向けられて、キリトさんがごくりと唾を飲み込むような音を立てているのが聞こえた。

むぅ。

 

「あ、あれか。お風呂の……」

「違う……いや、それも含むかも。とにかく、いろいろ。いろんな事へのお礼」

 

そう話すアスナさんの声は優しげで、けれども内緒と言ったようにそれ以上は何も言わなかった。

 

「さて……言うことも言ったし、そろそろ戻るわね。ほら、エコーちゃんも」

 

そう私に呼びかけるアスナさんの言葉に、思わず首を傾げる。

 

「このままキリトさんと一緒に進まないんですか?」

「キリトみたいに慣れてないから、一度戻るべきと思って。それにエコーちゃん、さっき剣投げたからもうボロボロでしょ?」

「ええと……えへへ」

 

さっき剣を回収する時にボロボロになった《アニールブレード》を見られたから、アスナさんの指摘に「確かに……」と頷くことしかできなかった。

一応短剣もあるにはあるけど……まだ慣れてない武器で知らない敵を相手にするのは怖い。

 

それに、アスナさんはさっきから私の体調を気にしてくれているし、今日はもう無理をするなという意味もあるのかもしれない。

 

「そういうことだから、キリト。またね」

「ああ、またな。アスナ、エコー。先に行ってるよ」

「ええ。でも、すぐに追いつくから」

 

言葉を交わして、二人とも別々の方向に歩き出す。

なんとなく疎外感を感じつつも、私も慌ててキリトさんに向けて「また会いましょうねっ!」と言ってアスナさんの隣に駆け寄る。

そこでアスナさんの表情を見てみると、なんだか楽しそうな顔をしていた。

 

「……アスナさんって、キリトさんと案外相性良さそうですよねー」

「はっ!? い、いきなり何を言うのかなエコーちゃんは…!?」

 

そんな表情を見てつい思ったことを口にしたら変な反応が返ってきた。

気にはなってるのかな……って、あれは……

 

「何をー、って言われてもー、横から見てて思ったことですよー。良い雰囲気だなーって」

「な、無いから! そんなこと絶対ないから!」

 

若干いじけたような素振りをしながら言うと、凄い勢いで否定された。

それなら他の人の意見を聞いちゃおうかな。

 

「そうですか? ……こう言ってますけど、エギルさんから見てどうでしたー?」

 

と、扉の方に向かって名前を呼ぶと、うっすら開いた扉の向こうでびくりと誰かが動いた。

 

「なっ、何故バレたんだ…!?」

「エギルさん!? いつからそこに!?」

「い、いや、これはだな……《鼠》の奴がどうしてもと言うから仕方なく……」

「《鼠》…? な、何を売る気ですか!」

 

逃げだすエギルさんを真っ赤になりながら追いかけるアスナさんを見て、くすりと思わず笑ってしまいながら後を追う。

そして扉に手をかけながら、ふと後ろを振り返る。

 

コートのポケットに手を入れながら、どんどん小さくなっていく背中。

 

(いつか……あの背中に追いつけるといいな……)

 

そう思いながら、別れを少し名残惜しみながらも、アスナさんの後を追ってその場を後にした。

 

いつかキリトさんと並んで、一緒に戦えるように……と。

そう願いながら。




次回からは良くて週一なペースになりまーす。
ストックあるうちは週一確定ですけどね。
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