リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。   作:橘 雪華

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3.《タイタンズハンド》

「……朝っ!」

 

しゅたんっと起き上がり、早速支度を始める。

 

寝る前に送られてきてたメッセージでキリトさん達の大体の出発時刻を確認しつつ、私はそれよりも早くに起きての出発。

いつも通り隠蔽(ハイディング)効果に補正がかかる猫耳フードの外套を装備。

ぐぐっと身体を伸ばして、よしっ、と気を引き締め直す。

 

「えっと、まずは──」

 

 

 

 

 

 

 

四十七層。

 

このフロアの特徴はなんと言っても花。

主街区の《フローリア》は勿論のこと、フロア中色んなところに色とりどりの花が咲き乱れる、人気の階層。

場所によっては一面花畑になってたりして、私も初めて見た時は感動したっけ。

 

今はちょっとした用事でちょくちょく来てたりするから、見慣れてきちゃってるんだけど。

 

「キリトさん達は……いた。これから向かうところかな」

 

辺りを見回し、丁度全身真っ黒な人と赤色の服の女の子が街を出ていく所を発見。

キリトさんの格好はわかりやすいよね。

 

……それにしても、男女が二人きりでなんて、なんだかデートみたいに見える。

実際このフロアはデートスポットとか言うのでカップルの人が多かったりするし。

 

はぁ、いいなぁ。私もキリトさんと二人きりでこういう所に──

 

「……わ、私ってば何考えてるんだろ」

 

ぶんぶんと頭を振って気を取り直し、私は私のやるべき事を始める。

ええと、地図はこうで、キリトさんはこういうルートで行って戻るって言ってたから、大体…。

 

「この辺かなぁ。よぉしっ」

 

標的の来そうな所に目星をつけて、私は行動を開始したのだった。

 

 

 


 

 

 

テイムモンスターの蘇生アイテムを手に入れるために、俺はシリカと共に四十七層の《思い出の丘》の奥へと向かった。

途中、シリカが植物系モンスターに捕まったりなんてこともあったが……どうにか俺達は《プネウマの花》を見つけることができた。

 

「これで……ピナが生き返らせれるんですね…!」

「ああ。ただ、ここじゃモンスターもいて危険だし、宿に戻ってからにしようか」

「はいっ!」

 

余程大事だったんだろう。嬉しそうに頷きながら《プネウマの花》をアイテム欄に格納するシリカを見て、そう感じた。

 

と、本来ならここで転移結晶を使うなりしてさっさと戻れば良いのだが、本来の目的のためにそれはしない。

シリカをダシに使うようで少し心苦しいが……このまま放っておけば次に狙われるのは恐らく──

 

上機嫌に小走りで来た道を戻っていくシリカの後ろを歩きながら、ついさっき届いたメッセージの内容を思い返す。

 

『戻る途中の小川、小さい橋のあるあたりにいます』

 

差出人はエコー。隠蔽スキルを駆使して本来の目的である相手を監視してくれている。

どうやら予想通り、奴らはこの先に潜んでいるらしい。ターゲットは……シリカの手に入れたレアアイテム(プネウマの花)ってところだろう。

 

そうこうしている内に、エコーから伝えられた通りの小川と橋が見えてきた。

すかさず索敵(サーチング)スキルで橋の向こう側を確認する。

 

──居る。エコーの情報に間違いはないみたいだ。

しかしこれは……?

 

索敵に引っかかったそれに疑問を感じつつ、喜んでいるシリカには申し訳ないが橋を渡ろうとする彼女を手で制して止める。

 

「き、キリトさん…?」

「──そこで待ち伏せている奴。出てこいよ」

「え…!?」

 

俺の言葉に驚いたシリカが、橋の向こうを目を凝らして見る。

だが彼女には誰もいないようにしか見えないだろう。相手は隠蔽スキルを使って隠れているから。

 

数秒の静寂の後、そいつは俺達の前へと姿を現した。

 

「ろ、ロザリアさん…!?」

 

グリーンカーソルのその人物は見覚えのある……きっとシリカにとっては俺以上に見覚えのある人物。

そう、昨日シリカに絡んできた、ロザリアという赤い髪のプレイヤー。

その手には、細身の十字槍が握られていた。

 

「その様子だと、首尾良く《プネウマの花》をゲットできたみたいねぇ?」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべるロザリアに、困惑した様子のシリカ。

とはいえ、シリカにとってロザリアはつい先日までパーティーを組んでた相手というだけで、その正体までは知らないから無理もない。

 

「じゃ、早速その花を渡してちょうだい」

「な、何を言ってるの…!?」

 

ニヤニヤとした表情でシリカを見据えながらそんな事を言い出すロザリア。

そんな中、俺はシリカの前へと出て、ロザリアへと話しかける。

 

「そうは行かないな、ロザリアさん。いや……犯罪者(オレンジ)ギルド《タイタンズハンド》のリーダーさん」

 

俺がその正体を明かすように言ってやると、ロザリアの口から笑みが消えた。

 

「え……でも、だって……ロザリアさんは、グリーン……」

 

後ろにいるシリカが呆然としながらも聞いてくる。

 

このゲームにおいて、盗みや傷害……殺人といった、システム上で犯罪行為と判断される行動を行ったプレイヤーは、通常はグリーンである頭上のカーソルがオレンジへと変化する。

だからそういう犯罪の集団は通称オレンジギルドと呼ばれていた。

 

だが目の前にいるプレイヤー、ロザリアのカーソルはグリーン。シリカの疑問も最もだろう。

 

「オレンジギルドと言っても、全員がオレンジカーソルじゃない場合も多いんだ。グリーンのメンバーが街で獲物を見繕い、パーティーに紛れ込んで待ち伏せポイントに誘導する。……昨夜俺達の話を盗聴していたのも、あいつの仲間だよ」

「そ、そんな……」

 

その疑問に答えるように説明すると、シリカは信じられないと言った様子でロザリアを見る。

そんなシリカを見てか、再びニヤっと笑みを浮かべるロザリア。

 

「そーよォ。つまりあんたといた二週間も、あのパーティーの戦力を評価しながら、たっぷりお金が貯まって美味しくなるのを待ってたの。なのに一番楽しみな獲物のあんたが抜けちゃうもんだから、どうしようかと思ってたのよ」

 

正体をバラされたからか、それともシリカの反応を見て楽しみたいのか。ロザリアは勝手に真実を語り始める。

 

「なーんて思っていたら、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない? 《プネウマの花》って今が旬だから、とぉっても良い相場なのよねぇ。アハハ! やっぱり情報収集って大事ねぇ」

 

でも……と、そこでロザリアは視線を俺の方へと移してきた。

 

「そこの剣士サン、そこまで解っていながらノコノコその子に付き合うなんて、馬鹿? それとも本当に身体でたらしこまれたってわけ?」

 

ケラケラと挑発するような言葉に、シリカが飛び出しそうになるのを抑えながら俺は答える。

 

「いいや。──俺もあんたを探していたのさ。ロザリアさん」

「……どういうことかしら?」

 

そこで俺は、俺が……いや、俺達が彼女のギルド《タイタンズハンド》を探していた理由を話した。

 

 

今から十日前、三十八層で《シルバーフラグス》というギルドが奴らに襲われ、メンバー四人が死亡。リーダーだけがどうにか脱出して生き延びた。

 

そしてそのリーダーだった男は、その日から毎日最前線のゲート広場で、朝から晩まで泣きながら仇討ちをしてくれる人を探し続けていたそうだ。

 

俺が彼と出会ったのは、いつものように最前線の層のフィールドで狩りをして戻ってきた時で、俺の姿を見るや縋りつくように頼み込んできた。

 

「……キリトさん」

 

その時たまたま一緒にいたのがエコーで、依頼を受けることになった際に自分から手伝うと言ってきた。

最初は自分ひとりでやると断ったが、彼女も妙な所で頑固で、結局二人でやることになってしまった。

 

このデスゲームと化したSAOの中で仇討ち、それも犯罪者ギルドを相手にするなんて人間は恐らくそうはいない。

犯罪者と言えど相手も人間。そこらにいるモンスターを狩るのとは訳が違う。

だから、相当なお人好しでもなければ、彼を助けたいとは思っても、それを実行するまでには至らないだろう。

 

……まあ、結果的にそんなお人好しが二人いたということになるけど。

 

そうして俺とエコーは男の元へと向かい、仇討ちの依頼を受けることになった訳だが……彼は犯人を殺してほしいとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言った。

 

「……あんたに、奴の気持ちが解るか?」

「解んないわよ」

 

そこまでの経緯を話しても、ロザリアの表情は変わらない。

むしろ、面倒くさいとでも言わんばかりに切り捨てた。

 

「何よ、マジになっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって本当に死ぬ証拠も無いし、そんなんで現実に戻った時に罪になるわけないじゃない」

 

人の神経を逆撫でするように、わざとらしく言うロザリア。

まぁ、言ったところで懺悔するような奴なら、オレンジギルドのリーダーなんてやらないだろうし、想定内の反応だ。

 

「で、その死に損ないの言葉を真に受けて、アタシらを探してたわけだ、ヒマな人だねー。ま、あんたの撒いた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど……二人だけでどうにかなると思ってんの?」

 

そう言ってロザリアは掲げた手でサインを出す。

すると別の場所に隠れていたらしいメンバーがぞろぞろと姿を見せ始める。

現れたプレイヤーの数は()()。全員が男性プレイヤーで、その殆どのカーソルが禍々しいオレンジ色に染まっていた。

その中で一人だけの緑色のカーソルの男プレイヤーは、恐らく昨夜俺達の会話を盗み聞きしていた奴だろう。

 

しかし、姿を現した男達はどこか困惑したような様子を見せた。

ロザリアも戸惑いを隠せない様子で、何度も手でサインを出すが……それ以上仲間が増えることはなかった。

 

「ど、どうなってんだ? なんでこれだけしかいないんだ?」

「ちょっと! 何ボサっとしてんの! さっさと出てきなさいよ!!」

 

「はーいっ」

 

他にも仲間がいたのか、ロザリアが男達が出てきた場所とは別の場所に向かって声を荒げると、

その声に応える様に姿を見せたのは、一人の女の子。

 

隠密系スキルの効果が上昇する特徴的な黒い猫耳フードの外套を身に纏い、両手を後ろに回しながらにこにこと人畜無害そうな笑みを浮かべる──エコーだ。

 

「な、お前はあの時のガキ!」

「出てこい、って呼ばれたので出てきました〜。えっと……オバサン?」

「だぁれがオバサンよ! アタシはまだ若い──じゃない! 何であんたがそこから出てきたのよ! そこには──」

「オレンジカーソルの人達ですか?」

 

恐らくそこにいただろう仲間ではなくエコーが出てきたことに対して追及するロザリアに、エコーがにこりと微笑んで答える。

 

「えへへ。カーソルがオレンジ色なのに、ちょっぴり注意が足りない人達でしたね。暫くは動けないと思いますよ」

「なっ…何をした!?」

「うーん。少し、チクッとしただけですよ?」

 

そう言って彼女は後ろ手に持っていた短剣をちらりと見せた。

ああ、なるほど。そういう事か。

 

「あ、あの子は……」

「彼女は《隠密》重視のプレイヤーでもあるけど、同時に《調合》スキルで薬を作ったりもしてるんだ。そのスキルを使って、武器に付与できる色々な《毒》も作ることができる」

「ど、毒!?」

「ああ。恐らくあの短剣には《麻痺毒》が塗られている。ここからじゃ断定はできないけどな」

 

上層に行くにつれて強力な毒じゃないとその辺のモンスターにも通らなくなったとかで、何度か素材集めを手伝ったりもしている。

実際、回復薬なんかは俺も彼女にお世話になっているし。

 

「キリトさんが言ってましたよね、探してたって。初めから、あなた達は獲物さんだった訳です」

「キリト、だって…!?」

 

エコーが俺の名を口にすると、オレンジカーソルのプレイヤーの一人が俺の姿をまじまじと見てくる。

 

「その格好……盾無しの片手剣……ま、まさか本当に《黒の剣士》!?」

 

どうやら俺を知っていたのか、何かに気づいた男は青い顔をして数歩後ずさった。

 

「や、やばいよロザリアさん。こいつ……ベータテスト参加者(ビーター)上がりの……こ、攻略組だ……!」

 

その言葉に、ロザリアを含めた他プレイヤーの顔も強張った。

流石に前線で戦う《攻略組》だともなれば警戒するのも最もだ。

仲間の半数はエコーに無力化されてるし、このまま戦意を失って大人しく捕まってくれれば良いんだが…。

 

「こ、攻略組がこんなところをウロウロしてるわけないじゃない! どうせ名前を騙ってビビらせようってコスプレ野郎に決まってる! それにもし本当に《黒の剣士》だとしてもまだ人数はこっちの方が上なんだから、全員でかかれば!」

「そ、そうだ! 攻略組ならすげえ金とかアイテムとか持ってんぜ! オイシイ得物じゃねぇかよ!!」

 

そう上手く行くはずもなく、男達は一斉に抜剣した。

 

「エコー、シリカを頼む」

「はい」

「き、キリトさん…?」

 

いつの間にやらこちらに来ていたエコーにシリカを任せて、俺は男達の方へと一歩出る。……剣を抜刀しないまま、それどころかする素振りも見せないまま。

そんな俺を見て好機と思ったかはわからない。が、オレンジカーソルの男達は武器を構えて短い橋を駆け抜けて、

 

「オラァァァ!!」

「死ねやァァァ!!」

 

俺へと斬りかかり、俺の体は何度も切り刻まれていった。

 

 

 


 

 

 

「い、いやあああああっ!!」

 

シリカが目の前の惨劇に悲鳴を上げた。

目の前でキリトさんがオレンジカーソルのプレイヤー達に斬られ、突かれて、ぐらぐらとその身体が揺れている。

そんな光景を、私はというと予めキリトさんから大丈夫と聞かされていたから黙って眺めていた。

まぁ、分かっててもハラハラするというか、心臓に悪いんだけども…。

 

「やめて! やめてよ! キリトさんが……し、死んじゃう!! ねぇ、あなた! キリトさんを助けてよ!」

 

シリカが叫んで、そのまま私の肩を揺らしてくる。

 

「あうう。お、落ち着いて……」

「落ち着けないよ! いや、いやあああ!」

「キリトさんは大丈夫だから! ほら、キリトさんのHPをよく見て…!」

「ぇ…?」

 

揺さぶられて視界が揺れて、少し気持ち悪さを覚えながらシリカに落ち着いて見るように言う。

私に言われた通りにキリトさんのHPバーを見たのか、シリカは驚愕から困惑したような顔になる。

 

「な、なんで……減ってない…?」

 

困惑するシリカを見ながら、一応周りを警戒しておく。

キリトさんに攻撃を仕掛けた男達とロザリアさんも中々倒れる気配を見せない事に気付いたみたいで、最初の狂ったみたいな笑いや見下すような目じゃなくて、戸惑った様子になっていた。

 

「あんた達何やってんだ! さっさと殺しな!」

 

ロザリアさんがイライラしたように指示を飛ばして、さらに連続で斬りつけられていくキリトさん。

それでも、彼のHPバーは微動だにしない。正確にはゲージの満タン付近がキラキラと光ってるだけ。

 

「お、おい……どうなってんだよコイツ……」

 

まるで化け物か何かを見るみたいにキリトさんを見ながら、男達が数歩下がった。

 

「どうして…?」

「だってキリトさんは攻略組だから。レベルは78だし、当然装備だって最前線で通用する物。戦闘時回復(バトルヒーリング)っていうスキルで自動回復もするから、多分あの人達の装備じゃバーが黄色になるのすら見れないかも」

 

ほぼ無傷なキリトさんを見て困惑しっぱなしのシリカにタネを明かす。

あの人達の攻撃も、そもそも半分は私が動けなくしちゃったしね。……いても倒すことなんてできないだろうけど。

 

「そんなの……そんなのアリかよ……ムチャクチャじゃねえかよ……」

 

やがてキリトさんの方でも彼らに同じことを明かしたのか、愕然とした男達のうちの一人が掠れ声で言った。

 

「そうだ。たかが数字が増えるだけで、そこまで無茶な差が着くんだ。それがレベル制MMOの理不尽さというものなんだ!」

 

キリトさんの吐き捨てるような言葉に、男達の表情が恐怖に染まっていく。

そしてキリトさんは腰のポーチから一つの深い青色の転移結晶を取り出し、ロザリアさん達に見せつける。

 

「これは、俺達に依頼した男が全財産を叩いて買った回廊結晶だ。黒鉄宮の監獄エリアが出口に設定してある。あんたら全員これで牢屋(ジェイル)に跳んでもらう。あとは《軍》の連中が面倒見てくれるさ」

 

完全に戦意を失った男達はもう抵抗する気もないらしく、地面に座り込んで俯いていた。

 

けれど、一人だけそうじゃない人がいた。

 

「チッ! 誰がそんな所に!」

 

この集団のリーダーであるロザリアさんが舌打ちしながらそう吐き捨てると、腰から転移結晶を取り出して宙に掲げた。

あっ、逃げる気…!?

 

「転移──」

 

転移結晶の使用キーワードを口にしようとしたロザリアさん。だけどその言葉を遮るように、ぶんっ、と空気を震わす音がした。

 

「ひっ……」

 

そして気付けば抜刀したキリトさんがロザリアさんの喉元に剣を突き付けていて、恐怖からかロザリアさんは転移結晶を取り落としてしまっていた。

 

恐怖の表情から苦虫を噛み潰したような顔になり、それから不敵な笑みを浮かべる忙しない人、ロザリアさん。

 

「……やりたきゃやってみなよ。グリーンのアタシに傷を付けたら、今度はあんたがオレンジに──」

「言っとくが俺はソロだ。一日二日オレンジになるくらい、どうってことないぞ」

 

オレンジカーソルになる事で躊躇させるつもりだったみたいだけど、キリトさんには通じなかった。

最後の作戦も失敗に終わり、とうとうロザリアさんも戦意を失い膝をつくのだった。

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