リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。 作:橘 雪華
……たぶん。
1.道具屋《エコーのアトリエ》
四十八層、主街区《リンダース》。
水車のある家がそこかしこに並ぶ、のどかな街。
元の世界で読み聞かせてもらった本だとか、そういうものの影響もあって実はこういう牧歌的でのどかな場所、みたいなのが好きだったりして。
そんなこの街に、この世界での私のお家兼お店を構えてしまう程には憧れというか、いいなぁ、って思っていた。
水車のついたオシャレなお家なんかもあったけれど、私のお家はいたって普通のお家だ。それでも中々気に入っている。
水車付きのお家はお値段もすごかったしね…。
「えへへ……じゃーんっ。ここが私のお店──《エコーのアトリエ》だよ!」
「わぁ……」
そんな我が家の前で、私はこの世界で唯一の肉親であるお姉ちゃんことシリカにお店を紹介していた。
「凄い。えーちゃん本当にお店持ってたんだ…」
「きゅるる~」
「えへん。すごいでしょう」
驚くお姉ちゃんにふんすと自慢するように胸を張る。
お店の名前は「エコーの薬屋」とかでも良かったんだけど、作業工房も兼ねてるし何だか響きが素敵かな、なんて理由で「エコーのアトリエ」になったんだよね。
「それで、ここは何のお店なの?」
「えっと、調合スキルを活かしてのお薬を主に扱うお店。じゅよーの高い回復薬なんかは知り合いのお店やってる人のところに、ええと、おろしたり? してるけど、細かいお薬とかはこっちで取り扱ってる感じ……かな」
お店に入って接客用NPCやお客さんに軽く挨拶をしつつ、お姉ちゃんを連れて奥の部屋まで進んでいく。
そこは調合スキルで何かを作る為の道具に、素材や完成品をそれぞれしまっておく収納箱が部屋の一角に纏められている。
残りの部分はベッドや鏡等の私室感のある物が置いてあって、作業場兼自室みたいな部屋になっている。
「おお……ちょっとそれっぽい、かも」
「きゅー!」
「お店だけど半分はお家だからね、自分が寝泊まりする用の家具もあるの。後の本棚とかは……それっぽさの為に置いてあるもので飾りかなぁ」
一応、ちゃんと本を入れられるようにはなってるみたいだけど、みたいな感じで部屋を見回すお姉ちゃんにそう説明しながら、在庫入れに使ってる方の収納に触れてストレージを開く。
ええと、この辺のバフポーションと回復ポーションを……この位でいいかな。
「ということで、お姉ちゃん。あげるー」
しまっておいた自作ポーション類を所持品に移し、お姉ちゃんへトレード申請を送ってそれらをお姉ちゃんへ。
するとお姉ちゃんはその量に驚きの表情を浮かべた。
「え? って、ええっ!? こんなに沢山……も、貰えないよ、売り物でしょ?」
「また作れば良いだけだから。それに……余計な心配かもしれないけど、お姉ちゃんの危険を減らすためにも、だから……」
お姉ちゃんがモンスターにやられると思ってるとかそういう訳ではなくて、この世界じゃ何があるかわからないからこその心配。
噂では罠で全滅したギルドがあるだとか、他にも遭難したパーティーを助けに行ったら二重遭難して大変な事になったりだとか……とにかく、何かあってからじゃ遅いんだから…。
「……そう、だね。それじゃあ、貰うね」
「うん。お金は……次買う時からでいいから」
「わかったよ。ありがと、えーちゃん」
「どういたしまして!」
お姉ちゃんの感謝の言葉に、にへぇ、と笑顔でそう答えた。
え? 次からはお姉ちゃんからもお金取るのかって? こういうのは例え身内でもちゃんとしておかないとダメだって、エギルさんが言ってたの。
「お姉ちゃん達はこれからどうするの? やっぱりレベル上げ?」
「そ、そうだけど……やっぱりってどういうこと?」
「えー。キリトさんに追いつきたいからーとか思ってるんでしょー?」
「そそそそんなことは!?」
きっとレベル上げに勤しむんだろうな、と思って聞いてみれば思った通り。
どうしてわかったのかと聞かれれば、お姉ちゃんのキリトさんへ向ける眼差しを思い出しながらそんな事を言ってみれば、分かりやすいくらいに顔を赤くするお姉ちゃん。
お姉ちゃん、キリトさんの事好きなのかな?
そうだとして、もしもお姉ちゃんがキリトさんと付き合ったりしたら……キリトさんがお兄ちゃんに?
「……キリトお兄ちゃん……」
「はぇ?」
「ぴゃああ!! なななんでもないよなんでも!」
しまった、想像が口に……お姉ちゃんキョトンってしてるし、ううぅぅ。
「こほんっ。き、キリトさんカッコいいもんね! 私も危ないところを助けて貰ったことがあるからわかるよ、うん!」
「そ、そうだね、あたしも助けてもらったから……あっ、もしかしてキリトさんが言ってた、あたしが知り合いに似てるって言葉、えーちゃんの事だったのかな」
「そうなの? そういえば私は妹さんに似てるって言われたなぁ」
「やっぱり! キリトさんその知り合いの人にそう言ったって言ってたもの」
ははあ。じゃあキリトさんはお姉ちゃんに私に似た何かを感じてたんだ。
確かにこの世界でこうして自分の顔やお姉ちゃんの顔を見てみると、どことなく顔つきが似てると感じた。姉妹だから当然なのかな?
違いといえば、お姉ちゃんと比べて私の方が髪が長いことかな。確かお姉ちゃんがその方が良いって言って、どの道見えないし邪魔にならなければいいや。ってなって伸ばしたままなんだよね。
私の長い髪は、お姉ちゃんのお気に入り……らしい。
ええと、話を戻して…。
「んー。私もずっとお店をNPCさんに任せっぱなしって訳にもいかないから、毎日とは言わないけどお姉ちゃんのお手伝い、しよっか?」
「え? でも、そうしたらえーちゃんはいいの?」
「私は良いの。別に攻略組でも無いし……。私のスキル構成ってボス戦向きじゃないから、加わっても邪魔になるだけだよ」
手伝いを名乗り出れば、当然私の時間は良いのかと聞き返されて、私はそう答える。
必死になって頑張ってる攻略組のみんなの足を引っ張るのは、イヤだから……私は良いアイテムを作って手伝うくらいで良い。良いの。
「えーちゃん…?」
「そういうことだから、私の事は気にしないで。ね?」
「……う、うん」
えへー、と笑いながらそう言うと、お姉ちゃんはどことなく納得いかなそうにだけど頷いた。
フレンド登録やらを済ませてお姉ちゃんと別れると、まずは素材収納を確認。
個数を確認したら生産する分を取り出して、大量生産用の調合道具の前に行く。
まるで物語の魔女が使いそうな大釜に触れて調合メニューを開いたら、特製ポーションを選択して素材を投入していく。
オブジェクト化された素材がボチャボチャと釜に満たされた液体へと入っていき、確認したら専用の棒でぐるぐるとかき混ぜる。
例えば鍛冶なら金床に剣を置いてハンマーで叩く。研磨なら砥石で磨く……などなど。
ただ勿論というか、実際に現実でやる場合と比べればかなり簡略化されてる訳で(そもそも鍛冶とかなら兎も角現実にこんな調合する人いるかって話だけど)。
分かりやすく言うと裁縫は針と糸を装備して素材と作るものを選んだら、後はスキル熟練度に応じて成功か失敗かが決定されて、成功したら完成品がぽんと出てくる。
料理なんかは包丁で材料をちょいっとしたら、これもスキル熟練度に応じていい感じに切られた物に変化したり。
要は今やってるかき混ぜも見た目だけで、別に気合いを入れずともスキル熟練度で完成度が変わる。ということ。
簡易化されてるとはいえこの作る工程が何だか楽しく感じていたり。
暫く釜をかき混ぜていくと作成成功のウィンドウが表示されて、かき混ぜ棒を置く。
そして確認ボタンを押すと、釜の隣の机にぱあっと瓶に詰められた特製ポーションが出てきた。
ちなみに今回使ったこの大釜は大量作成用で、そんなに沢山作らない場合はもっと手軽なサイズの道具とかがある。
持ち運び出来るようなやつとかね。
「ふう。とりあえず補充分はこれでよしっ」
作ったアイテムは、お店の専用ストレージに入れておけば棚のやつが売れた時に勝手に補充してくれたり、お店番のNPCさんが売ってくれる……そんなシステムになっている。
そんな訳で作った分をお店側のストレージに移そうとお店の方に移動したのだけれど…。
「あっ。アスナさん……」
「……こんにちは、エコーちゃん」
「は、はい、こんにちは……」
丁度お店に来てたらしい、白と赤が特徴的な防具を身にまとった女性──アスナさんと遭遇。
私に気付いたアスナさんは真面目な表情のままで、私は少し萎縮気味になってしまいながらアスナさんと挨拶を交わした。
あの日以来、《攻略の鬼》だなんて呼ばれるようになるくらい人が変わったみたいになってか、どうにもアスナさんと話す時はこうなってしまう。
「えっと……直接うちに来たってことは、いつものですか?」
「ええ。近々56層のボス攻略会議を開くから、いつも通り回復薬の発注。素材は……今回
《血盟騎士団》。通称KoBと呼ばれる攻略組のギルドに副団長として所属しているアスナさんは、層の攻略やボス攻略が近くなるとこうして私のお店にKoBの使うアイテムを発注しに来る。
そしてアスナさんからのトレード申請の後、ウィンドウに並んだ素材アイテム名を見て、ううむと計算する。
「ええと、この量だと……えっと……」
「焦らなくて平気よ」
「は、はいっ。んー、と……これくらい、かな…。これでしたら、お金はこれくらいで大丈夫です」
素材の数と発注内容を見比べて暫くして、出てきた費用をアスナさんに提示する。
私のお店のシステムとして、素材持ち込みで割引と言うのがあって、その為の計算。
まぁ、素材持ち込み割引システムは最初からあった訳じゃないんだけど。
「……いつも思うけれど、本当にこれでいいの? 赤字じゃない?」
「あ、はい。持ってきて頂いた素材の中に良い物を作れるやつがいくつかあったので、その分ですね。大丈夫です」
「なら、いいんだけれど」
提示された金額に別の意味で難色を示したアスナさんに理由を説明していく。
正直、素材を貰えるだけでもありがたい上に効果の代わりに要求素材が少し面倒なアイテムの素材もあったから、ほんのりおまけしたのは事実。
誰かに手伝って貰えば良いんだけど……顔見知りの人以外にあまり頼み事とかしたくないし。
「それじゃあ、後日受け取りにくるわ。よろしくね」
「は、はい。ありがとうございましたっ」
そしてアスナさんは目的を終えるとそのままスタスタとお店から出ていってしまう。
アスナさんが居なくなって少ししてから、私ははふぅ、と息を吐いた。
アスナさん、血盟騎士団に入ってからなんかちょっとトゲトゲしいんだよね…。
キリトさんはキリトさんでアスナさんがギルドに入った頃からアスナさんとあまり一緒にいなくなっちゃったし…。
実は私もアスナさんと一緒に血盟騎士団に入るよう誘われていたんだけど、その時にはもう対ボスの実力不足を感じ始めちゃってたから断っている。
それから私、キリトさん、アスナさんは疎遠って程ではないにしろ、バラバラになっちゃったんだよね。
「喧嘩してるわけじゃないんだけど……」
アスナさんもだけど、キリトさんはキリトさんでなんかこう、前以上に一人でいるようになった気がするし。いや、素材集めを手伝ってほしいって頼んだら手伝ってくれるけども。なんか、ね?
クラインさん(初日にキリトさんと一緒にいた人。再会した時にお友達になった)がサンタさん? か何かのイベントで見かけたってかなり心配そうに言ってたっけ…。
うぅん、初めの頃みたいにまた仲良くできたらいいんだけどなぁ。
「あの、すみません」
お客さんの声で思考の海から引き上げられる。
色々考えることもあるけれど、お店の営業時間はしっかりお客さんの方に集中しないと。
「あ、はい! いらっしゃいませ! 何が必要でしょうか?」
そうして私はにこりと笑顔を浮かべて、お客さんの応対へと向かった。
《調合》スキルの大量作成のイメージは勿論店名の元ネタもイメージの一つですが、某ねればねる程味が変わってウマイ! 奴とか、某自称妖精(35歳)のバラ色なゲームのアレとか、ああいう感じです。