リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。 作:橘 雪華
1.基礎チュートリアル
起動後のキャラクター設定やら何やらを終えると、
《Welcome to Sword Art Online!》という文字が目の前に浮かんできた。
はい、まずここで「お前目見えないのになんで文字とか読めたの?」と思ったでしょ、思ったよね? ふふん、じゃあ教えてあげましょう!
今の時代、家庭用VRマシンっていうのはナーヴギア以外にもあって、目が不自由な私はナーヴギアとは別のVRマシンを使った学習ソフトを両親の勧めで使わせてもらっていた。
そのVRマシンっていうのはやっぱりナーヴギアと比べると出来ることも少なくて、何より
使い始めたのは数年前くらいからだけど、元々私は飲み込みが早いみたいで、文字を読むくらいなら人並みにこなせるようになっている…という訳。
…まぁ、それでも自分の見た目を決めるっていうのはどれがどれだかよくわからなくて、ランダムボタンを押して良さげなのにしたけど。
その辺の話はそれくらいにして、話はゲームの続きに戻る。
歓迎の言葉が消え、次に視界に飛び込んできた光景に、私は目を奪われた。
「――わ、ぁ…!」
頭上に広がる青い空。
眼前に広がる石造りの街並み。
そしてその街を賑わせる大勢の人達。
視界いっぱいに映り込んだ光景に眩しさを感じて目を細めながらも、私は感動していた。
――すごい、すごいすごいすごい!!
盲目だったからこその感動、でもあるし、今のゲームはこんな風になっているんだ、という感心もあって、
始まって早々暫くの間、私は街の景色やらお店を見てはしゃいで回った。
起動前に電子説明書を見てないことなんて、さっぱり忘れたまま……
「…あれー」
で、お店やら町並みやら景色やらを眺めたり……途中で男の人にナンパされたりしたけどそれとなく断ったりして、気がつけば草原にいた。
えっとつまりこれは、早速の迷子…?
「うぅん、景色に見とれてうろうろしてたけど…ここ、街の外っぽい…んん?」
外の景色も綺麗だなー、とか呑気な事考えながら辺りを見回していると、目の前をのそのそと横切る何かがいる事に気が付いた。
「何だろうこの子。…待って見たことある、えっとえっと、確か…」
のそのそと目の前を歩く生物? を見つめて、過去に生物図鑑のソフトで見た記憶を思い返す。
なんでそんなもの見てたのか? 勉強だけじゃ退屈なんですー。
それよりも目の前のこの子のこと。この形、この顔、鼻……色はなんか青っぽいけど、多分…
「いのしし、だっけ?」
近い形状の生物を思い出しながら、説明書をろくに見てない私はソレに不用意に近寄って、好奇心でつんつんと突っついてしまって。
そうするとイノシシのような生物は突然ぶるるっと鼻息を荒げて私に向き直り、どすんっと体当たりをしてきた。
「きゃぅ! ちょ、ちょっと、何――」
尻餅をついてむっとしながら顔を上げて、気づいた。
あぁ、やらかしたな、私。
「いぃぃぃやぁぁぁぁーー!!!」
触れられて怒ったのかどうか分からないけれど、イノシシに追いかけられて。
途中で別のイノシシに2回ほどぶつかって、今では合計3匹に追いかけられる羽目に。
ど、どうしてこうなったの…!
「だ、だれかーたすけてー!!」
必死に走って逃げながら、そう叫ぶ。
そ、そうだ! このゲームはたしか戦闘がメインのはず!
だからええと、武器! 武器…どうやって出すの!?
説明書を確認してなかった失敗がここにも響いていて、息も切れてきて、
絶体絶命――そんな時だった。
「はぁっ!」
後ろからそんな掛け声が聞こえてきたかと思うと、続いてぴぎぃ! と悲鳴のようなものが聞こえて、
恐る恐る足を止めて後ろを振り向いてみると、
水色に光ってパリンパリンと粉々に砕け散る、私を追い回していたイノシシ達と、
剣を鞘にしまってふぅと一息つく、黒髪の男の人がいた。
「…君、大丈夫?」
「……」
「あれ…ラグってるのか…? おーい、聞こえてるかー」
「……あっ、は、ひゃいっ!?」
一瞬ぼうっとしてしまって、声を掛けられたことに気付いて返事をすると声が裏返ってしまった。
くぅ、恥ずかしい…
「…君、武器も装備しないでこんな所で何を?」
「あー、えっと、その…」
「おーい! 待ってくれよー!」
男の人の質問に気恥ずかしさで答えられずにいると、また別の人が向こうの方から走ってきた。
頭に赤いバンダナを巻いた赤い髪のその人は黒髪の人の前まで来ると、ぜぇぜぇと息を切らして恨めしそうな顔をしていた。
「ふぃー…き、キリトよう、いきなり置いてくなんてひどいぜ…」
「あ、あぁ…すまない、クライン」
「まぁ…良いけどよ。それよか悲鳴の子は…無事みたいだな」
「ああ、なんとかな」
どうやら黒い人はキリト、赤い人はクラインというらしい。
会話の内容から察するに、私がイノシシから逃げ回りながら上げてた大声を聞いて助けに来た…のかな。
「にしても嬢ちゃんもこんな所で何してたんだ? 武器も持たないでよぉ」
「えっ、武器…えっと…」
「……どうかしたのか?」
不思議そうな顔で私のことをじっと見つめてくる二人。
ただでさえ知らない男の人に見つめられて、かといって助けてもらった手前逃げ出すこともできず、結局私は耐えきれなくなって、本当のことを言うことに。
「えっと、その……わ、わからないんです」
「は? わからないって…」
「だ、だから! 景色ばっかり見てて、やり方とか…全然、わかんないんですっ!」
…………。
「「ええーっ!?」」
一瞬の沈黙の後、二人の驚く声が草原に響き渡った。
「……」
目の前のイノシシ――《フレンジーボア》、っていうらしい――に向かって、貸してもらった剣を両手で構える。
「ええいっ!!」
そしてまだこっちに攻撃の意思のないフレンジーボアに向かって構えた剣を振り下ろす。
ずばっ、と斬りつける感覚を感じながら、すぐに距離を取るようにぴょんぴょんっ、と後ろに飛び退く。
フレンジーボアを見ると、攻撃を受けて怒った様子で前足を地面に擦りつけている。
さっき逃げながら観察してたから分かる、多分あの後に…
「プギィィ!」
怒りの声を上げながら、フレンジーボアが私目掛けて突進してくる。
と言っても言う程速い、って訳でもなくて、私は突進してくるフレンジーボアを構えながらじぃっと見つめて、
「やぁっ!」
ぶつかる直前にひょいっと横に飛んで躱し、もう一度剣を振り下ろした。
「ぴぎー!」
するとフレンジーボアは断末魔の悲鳴を上げて水色に光り、ばきんっ、と音を立てて砕け散った。
そして、私の目の前に紫色のフォントで経験値やらのリザルト画面が表示される。
「ふぅ…」
「おお、もう一人で倒したのか。これはクラインよりも飲み込みが早いな」
「んだとキリト! でもま、確かにさっきまで追い回されてた嬢ちゃんだとは思えねぇわな!」
「う、うるさいですっ」
クラインさんの余計な一言にむっとしながらも、初勝利にどこか気分が高揚していた。
あれからキリトさんとクラインさんの二人(殆どキリトさんからだけど)から、メニュー画面の開き方、操作方法、各種画面の説明から、武器防具の装備方法、戦いの方法などなど…SAOに関する何から何までを一から教えてもらって、今はなんとか初めての戦闘で勝利することができたところ。
流石に二人も一切しらないとは思ってなかったのか、驚いたような呆れたような顔をしていたけど、親切にもつきっきりで教えてくれたおかげで、ある程度把握することが出来た。
剣を数回素振りして戦いの感覚を身体に覚えさせるようにしてから、キリトさんの方に向き直る。
「後は武器ごとのスキルを設定すると、それぞれの武器に合った技…《ソードスキル》っていうのが出せるんだけど…流石に練習で片手剣のスキル取らせるのもなぁ」
「あ、大丈夫ですっ、戦闘の感覚はなんとなく掴めましたので、その辺は自分で何とか…えっと、装備解除、は…と」
「ん、もういいのか?」
「んーと…あった! 解除、と……はいっ、あとは最初から持ってたお金で自分のを買うので…えっと、色々教えてくれたり、武器貸してくれてありがとうございました!」
そう言って、今使わせてもらっていた片手剣の装備を解除してから、今度はトレード画面を探し出し、剣をキリトさんへと返却する。
一戦ぽっちで平気なのか、と思われるだろうけど、私こう見えて何かを覚えるのは得意なのです。ふふん。
「まぁ、スキルの辺りは君の好みで上げていけばいいと思う。何をするかは人それぞれだしな」
「はぁ、なるほど。…あ、それと。君じゃなくて、
「あ、ああ。エコーか、覚えておくよ。ええと……俺は、キリトだ」
「オレはクライン! よろしくな、エコーちゃん!」
「は、はい、よろしくです」
そうして自己紹介の後も暫く基本のシステム関連を二人に教えてもらい…
ふと空を見上げると、空は茜色に染まっていた。
「あ、えと…このゲームって、現実と時間のリンクはしてるんでしたっけ?」
「ああ、してるよ。多分、右上の方に時計があるだろ?」
「あ、ほんどだ! 気づかなかった…」
教えて貰った場所に視線を移してみると、時刻は既に午後五時になろうとしていた。
うわぁ、熱中しすぎたかなぁ。
「うお、やべぇ! そろそろ落ちねぇと五時半に頼んどいたピザが来ちまう!」
「準備万端だなぁ」
「おうよ! こればっかりは譲れないぜ、冷めたピッツァなんてネバらない納豆以下だしな!」
「なんですかそれ…変なの」
呆れ気味にそう言ったキリトさんの言葉におうよと胸を張るクラインさん。
しかも意味の分からないことを言うものだから、それがなんだか可笑しくて、くすっと笑ってしまった。
「あ、そうだキリト! オレ飯終わったら《はじまりの街》で他のゲームで知り合いだったヤツらと落ち合う約束してんだけどよ、オレが紹介するから、あいつらともフレンドにならねぇか?」
「え?」
ふと、思い出したようにそんな話を切り出すクラインさん。
対するキリトさんは気まずそうな、なんとも言えない表情。
…クラインさんは人付き合いとか得意なタイプで、キリトさんはそうでもない、って感じかなぁ。
「あ、無理にとは言わねぇよ。そのうち紹介する機会もあるだろうしな!」
そんなキリトさんの様子を見て何かを察したのか、クラインさんは首を振りながらそう付け足した。
この人、お調子者に見えて結構相手の気持ちを察せる良い人なんだろうな。こうして見てるとなんとなくわかる。
「……ああ、悪いな。ありがとう」
「おいおい、礼を言うのはこっちの方だって、なぁ? エコーちゃん」
「あ、はいっ。今日は色々教えて貰えて、私も感謝感謝です!」
いきなり話を振られて若干慌てながらも、そう言った。
感謝しているのは本当のこと。キリトさん達がいてくれて、本当に助かった。
「お、そうだ。エコーちゃんもフレンド登録しとこうぜ。お互い連絡取れた方が何かあった時に便利だしな!」
「え、ええ? あ、は、はいっ」
流石にそこまで突っ込んで来られるとは思ってなくて、戸惑ってしまいながらも、クラインさんから送られてきたフレンド申請のウィンドウの丸ボタンを押した。
「ほれ、キリトも」
「あ、ああ。…クラインはこう言ってるけど、大丈夫か?」
「あ、はい。私は大丈夫ですよ、むしろまだ何かわからない事があったりした時に教えてもらえるなら…助かりますっ」
「それくらいは…お安い御用さ」
キリトさんもクラインさんに促されて、そう確認を取りながらフレンド申請を送ってくる。
もちろん、こっちも丸ボタン。
…さてと、いつまでも人に頼ってちゃ良くないし、そろそろ行こうかな。
「お二人共、よろしくお願いしますね。…それじゃあ、私は…」
「街に戻るのか?」
「はいっ、流石に早めに戻って武器を調達しておかないとですから…」
「また追い回されたりするなよー?」
「しませんー!!」
からかうクラインさんを睨みつけながら、《はじまりの街》の方へと駆け出して、
少ししたところで立ち止まって振り返る。
「キリトさーん! クラインさーん! またどこかでー!!」
「ああ! 気をつけてな!」
「おーう!」
二人に向かって手を振ってから、再び走り出す。
そうして二人に別れを告げて、《はじまりの街》へと戻ってきた。
武器屋のある場所に向かって歩きながら思い出すのは、さっきまで一緒に居た人。
「キリトさん、かぁ」
――カッコよかったなぁ…
フレンジーボアに追い回されてすごく怖かったところに、颯爽と現れて助けてくれた人。
その後も親切に色々と教えてくれたし…
「…私も、あの人みたいに強くなりたいな…っとと」
ぼんやりしながら思わず通り過ぎそうになりながらも、武器屋に到着。
お店の人――NPCという、人間とは違う人らしい――に声を掛けて、並んでいる武器を眺める。
ここでも、さっき教わったことを思い出して…まず、武器の種類には、
キリトさんが使っていて、私も使わせてもらった…片手用直剣。
クラインさんが使っていた…片手用曲剣。
その他には、
この《はじまりの街》のお店にはないけど、大剣や刀なんてのもあるとキリトさんは言っていた。
最後の二つはまぁ今はいいとして…それでも色々あるなぁ、うぅん、どれにしよう…
「んー……決めた! これください!」
「毎度あり」
コル――この世界でのお金の単位らしい――を店員のNPCに渡して、品物を受け取る。
そうして早速未だに慣れない手つきでメニューウィンドウを起動し、装備画面から購入した武器を探しだし、指で武器の名前をタッチ。
「…わ、出てきた!」
すると私の背に現れたのは、鞘に納められた一振りの剣──片手直剣。
最初から持ってるものよりちょっぴり強いらしいそれを、背中の鞘から抜いて眺めてみる。
「初心者なんだから、基本っぽいこれの方がいいよね」
きらりと光を反射する剣を眺めて呟く。
武器の重さなんかは、その武器が要求するステータス値が高いほど軽く感じる…と、キリトさんが言っていた。そういう意味でも軽すぎず重すぎずなこの剣は基本の武器、っていう感じがした。
街中で振り回すのも危ない……といっても、この街の中とか、安全な都市や町は圏内――《アンチクリミナルコード有効圏内》と言う、戦闘や犯罪が防止されている場所になっていて、一応戦い自体はできるんだけど、いくら斬ったり刺したりしても「コード」に守られているから、ダメージを与えたり、
そんな《圏内》だから、素振りするくらいは多分構わないんだろうけど…それでもやっぱりなんか悪目立ちしそうだと思い、しばらく眺めてから私は剣を背中の鞘にしまった。
ええっと、うんと……で、できた。剣をしまうのとかも慣れていかないとなぁ
さて、と…流石に少し疲れたかも…
えっと、ゲームを中断するにはログアウトボタン…だっけ。
本当に、初っ端から色々お世話になっちゃったなぁ…なんて思いながらメニューウィンドウを操作して……気付く。
「……?」
――
まさか、まだ慣れてないから見逃してるだけだろう…そう考えて再びウィンドウの各種ボタンを押したりして探してみるものの、やっぱりそれらしき項目は見当たらない 。
どうしよう、一度キリトさんに聞いて――
そう考えた時だった。
リンゴーン、リンゴーン…と、鐘の音が街中に響き渡った。
「な、なに…!?」
近くにいた他のプレイヤーらしき人も、何事かと空を見上げている。
…時報? でも今は……五時半だし、今までそんなのなかったはず…
そんなことを考えていると、不意に青い光の柱に包まれた。
「こ、今度は何!?」
次から次へと何かが起こりすぎて、訳がわからなくなりそうになりながらも、眩い光に思わず目を瞑り、
次に目を開けると、いつのまにか街の広場に立っていた。
私以外の人もあの光で連れてこられてるみたいで、広場は次第に大勢の人で埋め尽くされていく。
すごい人…これ、全部プレイヤー?
なら、この中にお姉ちゃんも…
そう、このゲームは多分お姉ちゃんもやってるはずで。
忘れていた訳じゃないけど容姿も名前もわからなくて探す方法がなかったから、戻った時にでも聞けばいいやと思っていたのに…
「おいっ…上を見ろ!」
不意に、誰かが上を指差しながらそう叫ぶ。
私もその言葉につられて上を見上げて…息を呑んだ。
「なに、あれ…」
空一面を真っ赤なナニカが覆い尽くしていき、【Warning】と表記されたそれの隙間から、真っ赤な血液のような何かが漏れだしてきた。
それはどろりと一つに集まっていき、何かを形作っていくを
あれは…人? いや、大きすぎる…
そうして姿を現したのは、巨大なローブ姿の人だった。
ローブの中身は…真っ暗闇だ。
広場に動揺が広がる中、全体に響き渡るような声が遥か上空から降り注いだ。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
そうして、このゲーム――ソードアート・オンラインの、『本当の』チュートリアルが、始まった。
自分でも見返してるので無いと信じたいところですが、もし文章中で武器が片手剣じゃなく槍のままだったり、エコーちゃんの名前がクーナだったりした場合、誤字報告システムやらで突っ込んでもらえると作者が喜びます