リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。 作:橘 雪華
残りのストックは小出しにしていく感じで投稿していきますので、どうぞよろしくです!
あれから少しの時間が経って、
それなりの数のリトルネペントを倒し続けて、もうすぐでレベルが3になりそう…という時だった。
「あっ、あれ!」
見つけた次のネペントを見て何か違和感を覚え、じっと見つめてあるものに気がついてそう声を上げる。
「どうかしたの?」
「コペルさん、あれって…」
その声に反応したコペルさんに、見つけた物を指差して伝える。
最初は?マークを頭上に浮かべていたコペルさんだったけど、
「「
そう、今回のクエストの目標である《リトルネペントの胚珠》を落とすと言われている個体…
本当に運が関係してるのか私にはわからなかったけれど、少なくとも普通よりも早く見つけられたというのはコペルさんの表情から窺えた。
「…よし、じゃあエコーちゃん。僕が周りのMobを引き付けるから、エコーちゃんは花つきをお願い」
そうしてコペルさんが出した提案に、私は思わずえっと声を上げる。
「でも、元々このクエストはコペルさんがアニールブレードを手に入れる為ですし…」
基本的にモンスターからドロップするアイテムは、倒した人の物。
だからここは、コペルさんがあの花つきを倒して先に胚珠を手に入れるべきだと思っていた。
「そこはほら、僕は君の運に縋った訳だし…現に今回はベータの時よりもすぐに見つかったから、そのお礼みたいなものだよ」
「そ、そうなんですか?」
なんかイマイチ釈然としないというか、もやっとした感じのまま、コペルさんは作戦の続きを話しだす。
「でも、あの花つきを倒したら一度僕に伝えて。そうしたら一度消耗した武器を取り換えに村に戻ろう」
「……はい」
何かがひっかかる……そう感じながらも、私は剣を構え、先に他のMobの注意を引きに行ったコペルさんの後に続くようにして駆ける。
「っ!」
花つきネペントがこっちを知覚したのを確認しながらもそのまま走り続け、すれ違うようにして背後に回り込む。
「やぁっ!」
すぐにブレーキをかけてから振り返り、力を込めながら弱点を連続で斬って、突いていく。
当然相手もやられっぱなしなんてことはなくて、ツタを右から左から伸ばして鞭のように振るってくるけど、それを剣で防ぎ、避けてまた側面、背後に回り込んで弱点を突く。
「来たっ」
ある程度相手の体力が減ったところで、ネペントのウツボが膨らみ始める。
でも、この狩りのおかげで初めに比べて強くなった私にとってはそんなのはもう怖くもなんともなくて、
「これで…終わり!」
横向きに構え、ぶん! と空を切りながら思い切り剣を振るった。
ソードスキル《ホリゾンタル》によって繰り出された水平斬りがネペントの茎をしっかりと捉え、ザン、という音を立てて切り飛ばした。
花つきネペントは断末魔を上げながら切断されたウツボ部分を落下させ、地面に落ちたと同時に水色の光となって砕け散る瞬間、その頭につけた花が散って、中からほんのり光る球が転がり出てくる。
なんとなくそれを拾い上げるのと同時に、ネペントの胴体と頭は砕け散り、消滅した。
今までのやつからはこんなものは出なかった。ということはつまり、これが《リトルネペントの胚珠》。
まだ確定はしてないけど、私は途端に嬉しくなってそれを右手に持ったままコペルさんの方へと走った。
「コペルさん! やりまし――」
喜びのままにそう言いかけて、違和感を感じとった。
――何? 何か…イヤな感じがする…
コペルさんがどこか哀しげな表情で、私をちらりと見た。
「ごめんね、エコーちゃん」
「え?」
私にはその言葉の意味がよく分からなくて、戸惑う事しかできなかった。
するとコペルさんは戦っていたネペントのツタ攻撃を盾で弾き、剣に力を溜め始める。
ソードスキル……いや、その前に気になることがある。
――あのネペント、
私の疑問が解消される前に、コペルさんのソードスキルが発動して、そして、
その一撃が、ネペントについていた実に振り下ろされた。
「わっ!?」
パアァァン! と大きな破裂音が森に鳴り響き、同時に辺りを変な臭いが包み込んだ。
「けほっ……コペル、さん…?」
それは御世辞にも良い匂いとは呼べるものじゃなく、あまり吸わないように下がりながらこの事態の元凶に問いかける。
「……ごめんね」
けれどコペルさんはただ謝るだけで私に背を向けていて、
……そこで、漸く事の重大さに気が付いた。
「……ぇ……」
遠くの方、木々の合間からちらちらと、幾つものカーソルが見えだした。
それは、前後左右、あらゆる方向からどんどんとその数を増やしていき――
「……ま、まさか…」
あれ、全部……
すっと血の気が引くような感覚を感じながら、チン、と剣を鞘にしまう音でハッとする。
「コペルさん!!」
「……」
再び呼びかけるも、コペルさんは何も言わずに近くの藪に向かって走り出した。
すぐに姿が見えなくなるけれど…頭上の緑色のカーソルは見えたまま。
――まさか私、騙されたの?
呆然と動く緑のカーソルを眺めながらそう考えていると、突然カーソルが消えた。
…あれ、もう見えなくなる距離? いや、違う…あれは…
「《
これでもう、完全に確定した。
ずっと気に掛かっていた、コペルさんのあの表情は…つまり、最初から…
「……あ、はは…なに、それ…?」
ぽとり、と手に持っていた胚珠を地面に落とし、両手で剣を持って震える。
そうしてる内にも、どんどん敵のカーソルは増えていき、足音も近付いてくる。
――私、ここで死ぬの…?
ここですぐにわたしも《
既にあり得ない量の敵カーソルが周りを囲んでいる……逃げ出すのなんか、できない。
騙されたショックと、押し寄せる死の恐怖に、足の力が抜けて地面に座り込んでしまう。
――もう、ダメだ…
そう、諦めかけた、その時だった。
「はぁぁああっ!!」
誰かの、声が聞こえた。
「くっ…やっぱり凄い数だ…おい君!」
「……」
また声が聞こえる。
でも、私は俯いたままで、動かない。
すると、いきなりいきなり肩を掴んで揺さぶられた。
「君! しっかりしろ!! 諦めちゃダメだ!」
ガクガクと揺さぶられて、ゆっくり顔を上げると、そこには黒髪で茶色のハーフコートを着た、ちょっと女の子っぽい顔をした男の人の顔があった。
ゲームにもそういうものがあるのかは知らないけど、元々目では無く雰囲気や声で判別していた私には、この人が誰なのかすぐにわかった。
「…キ、リト…さん…?」
「え…?」
反応から見て多分当たりなんだろう、キリトさんは一瞬驚いた様子で、私を見た。
「…どうして、ここに…?」
「…偶々用があってこの森に来ていたら、《実つき》の破裂音が聞こえたんだ。それで……っ…君、まだ戦えるか?」
ここに来た理由を説明しながら周りを見渡してから、真剣な表情でそう言ってくるキリトさん。
「…無理ですよ、だって、あんなにたくさん…」
でも、既に私は殆ど諦めモードに入ってしまっていて、そんな弱気な言葉を口にしてしまう。
するとキリトさんは強めに肩を掴んで私の目を見つめながらこう言った。
「君はまだ生きている! 最後まで足掻き続けないで終わって、それで良いのか!?」
「っ…」
そういわれて、剣を持つ手に力がこもる。
――そんなの、良い訳がない…まだお姉ちゃんにも会ってないのに、死にたくなんか、ない…!
「…はぁ、っ…」
俯きながらも片手でキリトさんを制して離れてもらうと、よろよろとしながら剣を支えに立ち上がる。
……いいよ、こうなったら…最後まで頑張ってやるんだから。
「…よし。いいか、攻撃は二の次で良い、前後左右すべての方向から来る攻撃を避ける事にだけ集中するんだ」
「…け、結構無茶な事言いますね…」
「こんな状況さ、無茶くらいしないとな」
「…そうですね」
ふっと笑みを浮かべながら、キリトさんは片手剣を構える。
私も深呼吸を一つしてから、剣を構えた。
「…行くぞ!」
「…はい!」
互いにそんな一言を最後にして、私達は目の前に群がって来たリトルネペントの群れへと武器を突き立てた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
何十匹もの数で群がってくるリトルネペントのツタを、腐蝕液を避けて避けて避けて……
時々《スラント》で弱点を斬ったり、囲まれそうになった時に《ホリゾンタル》で薙ぎ払って怯んだ隙に逃げたり…としているうちに、キリトさんが殆どをやっつけてくれた。
キリトさんの方もふぅ、と息を一つ吐いてから剣を鞘にしまって、こっちに歩いてきた。
「お疲れ。えっと…」
そうしてそこまで言いかけて、困ったような顔をするキリトさん。
……あ、そっか。私は声で分かったから見た目が違ってもキリトさんだってわかったけど、キリトさんは私の姿しらないもんね。
「ぁ…私、エコー、です」
「エコーって…ああ、あの時の! 大分小さくなってたから分からなかったよ」
「…まぁ、結構見た目違いますもんね」
まだまだ子供だと自覚はしていても、小さいと言われるとちょっとムッとなる。
……レーティングに関するツッコミは禁止だよ?
「…でも、何で俺があの時のキリトだってわかったんだ?」
「んー…声の感じもちょっと似てた…って言うのもありますけど…雰囲気、でしょうか」
「そ、そうなのか? 声の方はまぁ、多少のボイスエフェクトが掛かってたからそうなるだろうけど…」
でも雰囲気でも分かるもんなんだな…とか腕を組んで呟いてるキリトさん。
まぁ…私は普通の人よりそっちの感覚の方が強い方だと思うし、ね。
「……それよりも」
と、突然キリトさんが真面目な顔に戻って、森のどこかを見つめる。
その方向は、コペルさんが逃げていった方角。
……この時点で、嫌な予感はしていた。
奥へと進んでいくキリトさんの後を、さっき地面に落とした胚珠を拾い上げながら追いかける。
…よく見たら胚珠の耐久力が無くなるギリギリだった。危ない…
「…っ! これは…」
そうして進んでいくキリトさんは何かを見つけたのか、立ち止まって木の根元を見る。
キリトさんの視線の先を追うようにして、私も
「……!!」
そして
――木の根元辺りの地面に転がる、剣と盾。
それは、ついさっきまで一緒にいた……私を罠にはめた、
同時に……彼は、死んだのだという事も、理解してしまった。
「あ……あ、あぁぁ…!」
自分を陥れた相手なのに、
自分を殺そうとした相手なのに、
それでも、人の明確な死を目の当たりにして、
自分の身体を抱くようにして、膝をつく。
「エコー…」
「…コペル、さん…っ…」
戦ってた時はキリトさんに勇気づけられたのと、必死だったので忘れていた。
もしかしたら自分もこうなってたかもしれないと思うと、
涙が、身体の震えが、恐怖心が、止まらない。
「……とりあえず、話は後にするか…エコー、立てるか? 一度村に戻ろう」
「………」
キリトさんの言葉が、どこか遠くのものに感じて、
私はキリトさんに連れられて、ホルンカの村まで戻ることになった。
「………」
村に戻ってきた私達は、まず《森の秘薬》クエストの発生地点…NPCの民家に向かった。
キリトさんもあの大量に湧いてきた内に胚珠をゲットしていたみたいで、私と交代でクエストをクリアし、お互いに報酬を受け取った。
クリアした時にお礼とか色々言われたような気がしたけど、その時の私はぼうっとしてて、半ば機械のように胚珠を手渡し、お礼にと家の奥から持ってきた剣――《アニールブレード》を受け取り、「…どういたしまして」と言いながらすぐに家を出た。
そんな様子の私を見てキリトさんはその後私の手を引いて宿屋に向かい、二人分の部屋を借りて、
そしてその内の一つの部屋で、私はベッドの隅で体育座りをしながら、ぼーっとしていた。
暫くそのままでいると、コンコン、と部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「エコー。少し、いいか?」
かけられた声はキリトさんのもので、多分、あそこで何があったのかを聞きに来たんだろう。
そういえばまともにお礼も言えてなかったっけ…
「…はい」
姿勢はそのままで部屋の外に聞こえるようにそう言うと、程なくして部屋の扉を開けてキリトさんが入ってくる。
ちらりと顔を見てみると、キリトさんも浮かない顔をしていた。
まぁ、ある意味当然かな…
「…そういえばキリトさん、先に一つ良いですか」
「ん? なんだ?」
「キリトさんは、どうしてコペルさん……あの装備があるってわかったんですか?」
わたしがそう言うと、キリトさんは「ああ、そういえば初心者なんだっけ」と頭を掻きながら呟いて、その理由を教えてくれた。
「…プレイヤーの死亡SEは、敵Mobが消える時とちょっと違うんだ。あれが落ちているのが分かったのは、リトルネペントと戦ってる最中にその音が聞こえたから…だな」
「…そう、なんですか」
…そういえば確かにあの大群を相手にしてる時、敵が消える時とは違う、何かが壊れる音が聞こえた気がしていた。
そっか、あれが、コペルさんの……
「…辛いことを聞くようで悪いんだけど…何があったのか聞いても?」
「……」
助けられた身で説明しない訳にもいかないし、私は無言で頷いてから、コペルさんとの事を話し始めた。
「…なるほど、リアルラックに縋った《森の秘薬》クエスト攻略…そして、MPK…か」
「…MPK?」
「えっと…MPK、モンスタープレイヤーキルの略称だよ。《
「へぇ………《
《
そういえばそれって、コペルさんが逃げる時にも使ってたはず…
「…その様子だと、そのコペルって奴も《
「…穴?」
「ああ、えっと……《
視覚以外の感覚…か。なるほど…
「確かに、目では見えなくても、なんとなく気配は感じられますからね…」
「感じられるって、なんかその言い方だとまるで…」
「…私、
「…そうだったのか」
そういえばあのモンスターも目はないっぽかったし、だから他の感覚が強化されてるって事なのかな。
「……それにしても、どうしてエコーはこんな所まで? わざわざ危険を冒さなくても安全な街で待っていれば、もしかしたら助けが来るかもしれないだろ?」
「…じっとしてるの、苦手なんです。それに、誰かがどうにかするのを待つだけっていうのも、嫌だったので。お姉ちゃんも探さないといけないから…」
「君のお姉さんもこのゲームをプレイしてるのか」
キリトさんの言葉に、コクリと頷く。
もしかしたら事件が起こるまでに起動してない…って事も有り得るかなって思ったけど、お姉ちゃんはこのゲームを楽しみにしてたから多分それはない。
……お姉ちゃん、今どうしてるのかな…
「それがどうして街を出ることになったんだ? はじまりの街で探せば見つかるかもしれないだろ?」
「それは、ほら…私、現実だと目が見えないので、いくらプレイヤー全員が現実の見た目になった、って言っても、お姉ちゃんがどんな格好してるのか、わからなくて…」
「…そうか」
「だから、私は強くなろうって。お姉ちゃんも結構ゲームしてるから、強くなって進んでいけばきっと会えるって…そう思ったら、前に進めたんです」
正直、これが本当に良い方法かはわからないけど…
それでも、私はそれしか思いつかなかったから…けど、
「……でも、今日…知り合って間もないとはいえ、知ってる人が死んだのを見て、やっぱり怖くなって…っ」
「エコー…」
…本当にこの世界で死んで、現実の世界でも死ぬのかなんて、わからない。確かめようもない。
でも、もしも現実のコペルさんがなんともなかったとしても、少なくとも
そのことを思い返すと…また、身体が震える。
「……キリトさん。助けてくれて、ありがとうございます。…でも、すみません、今は少し、一人にさせてください」
「…わかった」
再び膝を抱えながら謝ると、キリトさんは静かに部屋を出ていった。
それから暫く声を抑えながら泣き続けて、ベッドに潜り込むようにして眠りについた。