リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。 作:橘 雪華
「うぅ…」
結局泣くだけ泣いてちょっとはすっきりしたものの、あんまり寝付けないまま朝になってしまった。
まぁ、ちょっと眠いだけだしいっか…
「おはようございます、エコー様」
「あ、はい。おはようございます」
部屋を出て宿屋から出ようとする直前、そう声を掛けられて思わず反射的に答えてしまう。
声のした方に視線を向けると、そこにいたのはカウンター越しに立つ宿屋の人。
確かこの人は本物の人間じゃなくてゲームの中の住人…
「ええっと、宿代は…昨日払ってたっけ? …払ってたよね、多分」
昨日は精神的にも大分参ってたから記憶がおぼろげだけど…多分大丈夫なはず。
「それじゃ、その…お世話になりました」
「行ってらっしゃいませ」
なんだか慣れないなぁ…と感じながらも、見送られながら宿屋を出た所で、キリトさんに遭遇した。
「あっ、キリトさん」
「んっ…エコーか。…もう、大丈夫なのか?」
ぐぐーっと伸びをしているキリトさんに声をかけると、キリトさんはこっちに振り返って心配そうに見つめてきた。
うーん、心配かけちゃったなぁ…
「はい。一度泣いたらスッキリしました。キリトさんには本当に感謝感謝です!」
「それならいいけど、無理はするなよ?」
元気よく返答したつもりが空元気だとでも思われたみたいで、余計に心配そうな顔をされた。
「本当に大丈夫ですよ。確かにコペルさんの事はまだ完全に吹っ切れた訳じゃないですけど…いつまでも落ち込んでてもお姉ちゃんには会えませんから」
「……強いんだな、君は」
そういうキリトさんの表情は、上手く表現できないものだった。
「えっと…少し、歩こうか」
「え? あ、はいっ」
キリトさんは周りをちらちらと見回してから私にそう言って歩き出した。
慌ててキリトさんの後に続きながら私もきょろきょろ辺りを見回してみると、昨日と比べて他のプレイヤーを見かけるようになった気がする。
まぁ、昨日と言ってもクエストに出発する前の事で、戻って来た時の状況はあんまり覚えてないんだけど。
そうこうしているうちに、私達は人気の少ない裏通り辺りまで来ていた。
…あれ? これ、大丈夫だよね? キリトさん襲ってきたりしないよね? うん、そんなことする人じゃないはず……で、でももし、命を救った礼をとか言われて…あわわわ…
「…エコー?」
「ひゃいぃ!! な、なんでひょうか!!」
変な想像をしてたせいで、不意に掛けられた声に変な声を上げてしまった。
「いや、本当に大丈夫かなって。まだ調子悪いなら休んでた方が…」
「いえ! 私は平気です! 元気です! 大丈夫ですから! はい!」
「お、おう…」
…あれ、何か引かれてるような…?
「えっと、ああう……そ、そういえばっ、どうしてキリトさんは私に色々面倒見てくれるんですか?」
とりあえず自分が落ち着く為にも別の話を始める。
といっても、これは少し前から気になってたことでもあるんだけどね。
「初めて会った時も、何も知らないって言ったら武器を貸してまで色々教えてくれましたし、森でもあんな危ない状況で助けてくれたり…」
自分で武器を持って実感したことだけど、武器だって耐久度のある消耗品だし。
それにいくらちょっと話したからってあんな危険な所に助けに入るのは、ヒーロー的な正義感を持っててもかなりの勇気が要ると思うんだ。
なんて言ったって、この世界の死は本物の死と同じ重さを持っているんだから。
「あー…えー、っと…」
「…?」
そんな私の質問を受けたキリトさんは、何だか困ったような顔をしながら何がブツブツ言っている。
まるで言うのを躊躇ってるような、そんな顔。
…言いにくいことなのかな? と首を傾げながら思っていると、
「……笑わないって約束するなら、教える」
頭を掻いて目を逸らしながら、そう言った。
正直、絶対笑わないとは言いきれないけど…それは内容次第だし、なにしろ気になったからこそ私は、
「笑いませんよ」
と真面目な顔をして答えた。
するとキリトさんはそれでも言い辛そうしながらも、その、理由を教えてくれた。
「…君が…妹に似てるから」
その答えに、思わずぽかんとしながら、
いつだったか小説を朗読してくれるアプリか何かで同じような台詞を聞いたなぁ、と思った。
「……その反応はそれで傷つくぞ」
「えっ、あっ、すみません!?」
ぽかーんとしていたのが気に障ったのか、顔を赤くしながらいじけたように俯くキリトさん。
でも、妹かぁ。
「似てると言っても、姿がとかじゃなくて、なんていうか……とにかく、それが理由、かな」
「なるほど…」
「まぁ、妹はエコーと違って、ゲーム嫌いなやつなんだけどな」
「んー、私も実のところそこまで大好きという訳じゃないですよ。お姉ちゃんに誘われてっていうのと、目が見えなくてもできる、っていうのに惹かれただけで」
事実、このゲームを知るまではVRなんてただの学習装置としか思ってなかったし、ゲーム自体も目が見えなくて出来ないから、無関心っていう感じだったし。
「そういえば、昨日言ってたな…」
「はい。だから、こんな事になっちゃって…早速人が死ぬのを見たりしちゃって、怖いって思いがある反面、楽しいって気持ちもあるんです」
今こそこんなデスゲームになっちゃってるけど、心の何処かで感謝してしまってる自分がいるのも事実。
「…それなら尚更、安全な所で暮らしたくはならないのか? 現実と違って、目が見えるんだから」
「それはまぁ、そうですけど……やっぱり、今はここが現実だって言っても、結局は仮想の現実ですから。また目が見えなくなるとしても、お父さんお母さんのいる現実に帰りたい。勿論、お姉ちゃんと二人揃って」
それがどれだけ時間がかかったとしても、だ。
「だからまずは、お姉ちゃんに見つけて貰わないとなんです。お姉ちゃんは私の姿を知っているから、だから……強くなって、有名になるんです。その為にも、いつまでも落ち込んでる訳にはいかないんです」
確かな意志を持って、そう告げる。
例えこの先、どんなことが待っていても、私はお姉ちゃんともう一度会うまでは、死ねない。
「……本当に、君は…」
私の話を聞いたキリトさんが何か呟いたけど、よく聞こえなかった。
まぁ呟きだし、無理に聞き直さなくてもいいよね。……よぉしっ!
「そうだキリトさん! どこかレベル上げに向いてる所とかってありますか?」
「えっ? ええと、1層でのレベル上げなら…」
ふんすっ、と気合いを入れながら、色々知ってるキリトさんならそういう場所も知ってるかなと思って聞いてみると、キリトさんはどこかぼんやりしながらもマップを開いて数ヶ所のポイントを教えてくれた。
「なるほど…わかりました! ありがとうございますっ!」
「お、おい! 1人で行く気か? 適当にパーティーを組んで行った方が…」
早速向かおうとお礼を言って駆け出したところで、後ろからキリトさんがそう言ってくる。
それに答える為に、私はくるりと振り返って、
「人と組むのは当分はイヤなので! あ、キリトさんは別ですけどね!」
一人で進んでいくのは…確かソロっていうんだっけ。
ソロで進むのはどうしても危ない、って言うのは流石の私でもわかってるけど、
コペルさんの事もあって誰かと組むっていうのはなんか気が進まなかった。
それに、あんまりキリトさんに頼り切りっていうのはキリトさんの足枷にしかならないだろうしね。
「それじゃあキリトさんっ、色々お世話になって本当に感謝感謝です! またどこかで会いましょう!」
「……ああ。でも、命は大事にな?」
「はいっ!」
キリトさんもなんとなく私が言っても止まらないと察してくれたのか、そう言って見送ってくれた。
ぶんぶんとキリトさんに向かって手を振ってから、私は走り出す。
「よーし、頑張ろうっ!」
そう自分を鼓舞しながら、村の外へと飛び出していくのでした。