リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。 作:橘 雪華
1.フロアボス攻略会議・前
このデスゲームが始まってから、もう1ヶ月が経過した。
けど、未だに誰も2層には上がってはおらず、にも拘らず死傷者は既に2000人を超えていた。
その死んだ原因の例を幾つかあげると、油断してたとか、装備の準備不足だとか、
その内の1つであるソロプレイをしていながら、未だに生きている私はある意味運がいいってことになるのだろうか。
あの日、キリトさんと別れてから、私はキリトさんに教えて貰った狩場でひたすらレベルをあげたり、街や村で発生したクエストをこなしたりして順調に力をつけていった。
その時にちょくちょく男性プレイヤーに声をかけられたりナンパ紛いのことをされて、余計に他人への信用を無くしたせいで、今は
女子的にはすごく複雑だけど、顔と髪さえ隠しちゃえば身体の凹凸があまり大きくないおかげで女扱いされにくくなり、言い寄る男性プレイヤーの数も減っていった。ものすごく複雑だけど。
そんな感じでレベルは12まで上がっていて、
今現在私は《トールバーナ》と呼ばれる町に来ていた。
この町は、《迷宮区》と呼ばれる――第2層に続く、ダンジョン? から一番近い場所にある町で、なんでも今日ここで《第1層フロアボス攻略会議》なるものが開かれるとの噂を聞いてここに来た…という感じ。
有名になるならフロアボス攻略参加は積極的にしていかなきゃだからね!
で、来る途中立ち寄った道具屋で貰った本を片手に、時刻をちらりと確認しながら、町の中央広場に向かう。
確か会議が開かれる時間は午後四時からって話だったから、もう人は集まってるかな。
そう思いながら中央広場に辿り着くと、想像通り既にプレイヤーが集まっていた。
数は…大体四十ちょっと、かな。
(多いのか少ないのかわかんないや…)
普段ゲームをしてない――というかできないけど――せいで、果たしてこの人数が多いのか少ないのか、私にはいまいちわからなかった。
とりあえず座ろう……かと思ったけど、あんまり人に近づいてまたナンパ紛いのことされたらと思うと嫌悪感でいっぱいになり、
広場を見渡せる位置にある石柱に背中を預けるようにして会議の開始を待つことにした。
ざっと辺りを見回した感じ、集まってる人の殆どは男の人だ。
まぁ、命が掛かっている上どんな危険が待ってるかわからないフロアボス戦に参加したがる女子なんてのが珍しいんだろうけど。
(知り合いもいない、周り皆男の人…うぇぇ…)
これは肩身が狭くてやりづらそうだなぁ、と考えていると、なんとなく見覚えのある背中を見つけた。
念の為…と思ってメニューウィンドウのフレンドリストを確認してみると、現在位置はしっかりトールバーナを指している。ってことは多分間違いはない。
私はそろーっと足音を立てないようにしながら移動して、その人の後ろに近づいていく。
ある程度近づいたところで、私はその人の背中に向かって突撃した。
「キリト、さんっ!」
「うぉおっ!?」
突然背中から飛び付かれて驚きながらも、前に転がらないように踏ん張るキリトさん。
何とか持ちこたえてホッとしたのも束の間、驚いた様子で私の顔を見た。
「お前っ…エコー?」
「はいっ! 初心者のエコーちゃんですっ、なんて…えへへ、お久し振りです」
もう少しくっついていようかと思ったけど、人前だしあんまり目立つのもなと思い、ちょっと名残惜しくも離れて横に座る。
流石に街中では《
それにキリトさんが来てるだろうという予想も当たって私大満足。
「久しぶりだな…無事なようで良かったよ」
「それはもう、お姉ちゃんに会うまでは死ねませんから」
「はは、そういえばそうだったな。…というか、顔隠してるのか?」
キリトさんは間近で私の顔を見たからすぐに気付いたけど、やっぱり気になるのかフードの事を聞いてきた。
「あー、まぁ、女子一人で動いてると色々と面倒でして」
「あぁ、確かに。危ないからとかなんやかんや理由付けて寄ってくる奴とか居そうだしなぁ」
私がそう言うとすぐに察してくれた様子。
いつだったかキリトさんはゲーマーだって言ってたけど、他のゲームでもそういう人いたりしたのかな。
なんてキリトさんと他愛のない会話をしていると、ぱんぱん、と手を叩く音が聞こえてきた。
「はーい! それじゃ、そろそろ始めさせてもらいまーす!」
よく通る声を上げながら広間の中央に出てきたのは、青色の髪で、腰に片手剣を下げた美形な男の人。
…あれ? でも今の私達の姿って、現実の姿なんだよね、それであの髪の色って…
「このゲームには髪染めアイテムがあって、彼の髪は多分それだと思うよ」
「へぇ…」
不思議に思っていると、そんな私を見てかキリトさんがそう教えてくれた。
そういうアイテムもあるんだ。
と、彼の髪の話をしていると、当の本人は爽やかな笑顔を浮かべて挨拶を始めた。
「今日はオレの呼び掛けに応じてくれてありがとう! オレは《ディアベル》。職業は……気持ち的に《ナイト》やってます!」
どっと沸く広場をよそに、私は再度頭の上に?を浮かべていた。
「…職業?」
「えーっと、このゲームに《
「ああ、だから気持ち的にってことなんですね」
こういうのなんていうんだっけ、ロールプレイ? あれ、違う?
言われてみるとあのディアベルって人、鎧に剣に盾に……騎士っぽい装備をしてるのかな。
わたしが知ってる騎士ってこう、全身を覆う甲冑着てるイメージだけど。
それにしてもあの人……なんとなく剣よりハンマーの方が似合いそうな感じがする、なんでだろ。
なんて余計な事を考えていると、ディアベルさんは騒ぐ皆を手で制して静かにさせてから、キッと真面目な表情で話しを始めた。
「……今日、オレ達のパーティーが、
ディアベルさんの言葉を聞いて、広場にどよめきが走った。
……ボス、か…やっぱり一筋縄じゃ行かないんだろうなぁ。
「オレ達はボスを倒し、第2層に到達して…このデスゲームをいつかきっとクリアできるってことを、はじまりの街で待っている皆に伝えなくちゃならない! それが、今この場所にいるオレ達の義務なんだ! そうだろう、皆!」
熱の籠ったディアベルさんの言葉に、所々から「あぁ…」などと賛同するような声が聞こえてきてから、喝采するように拍手の音が鳴り響く。
あの人はなんていうか、人を率いる能力みたいなものがあるんだろうな。だからこそ今までバラバラになって戦っていた人たちからも、既に支持を得始めている。
ああやって皆を率いるリーダー役を買って出れば、それはもう有名にはなれるだろうけど……私にはできそうにないや。
「オッケー! それじゃ早速だけど、これから攻略会議を始めたいと思う。まずは六人の《パーティー》を組んでみてくれ!」
そしてここにきて、私はディアベルの放った一言に凍りつく事となった。
「フロアボスは単なるパーティーじゃ対抗できない。パーティーを束ねた《レイド》を作るんだ」
既に辺りで続々とパーティーが組まれている中、私は焦っていた。とても。
正直に言います。
私パーティーとか組んだことないです…
コペルさんの時は行動を一緒にしてただけで、パーティー自体は組んでなかったし…
「………」
ちら、と横を見ると、キリトさんも当てがないらしく、どこか焦った様子だった。
とりあえずキリトさんとは組めたとしても、それでも二人。六人には全然足りない。
とりあえずこの際一人でも良いから多く組もう。
そう思い立ってきょろきょろと辺りを見回す。
けど、どこもかしこも自分達の知り合いと組んでて、丁度良さそうな人は……
「……いたっ!」
そんな時、キリトさんが座っている向こう側に、集団から離れて一人でじっと座ったままでいる
なんかちょっと近寄りがたい雰囲気纏ってたけどそんなのは知らないね!
「あ、あのっ!」
「…は、はい…?」
ちょっと急いで来たせいか若干引かれ気味だったけど、構わず私は続ける。
「その、他に組む人いないなら、良かったら私達とパーティー組みませんかっ!」
ぐぉんっ、と勢いよく頭を下げたせいでフードが取れて頭が見えそうになって、慌ててフードを押さえながら頭を下げる。
すると、暗赤フードの人は少し驚いたように呟いた。
「…あなた、女の子?」
「えっ! あ、えっとその、はい…」
その一瞬で顔でも見られたのか、女であることがバレてしまった。
でも同時に、声を聞いてこの人も女の人だとわかって、ちょっと安心した。
(私の他にも女の人、いたんだ)
そんな感じで相手の返事を待っていると、後ろから近付く気配…多分、キリトさんだろう。
「……あぁ、
「えっと…あんたもあぶれたのか?」
女の人が何か納得したように呟くと同時に、キリトさんがそう声をかける。
すると女の人はキリトさんから顔を逸らすように、中央に顔を向ける。
「…あぶれてない。周りが皆お仲間同士みたいだったから遠慮しただけ」
「…ソロプレイヤーか」
どうやらこの人もソロプレイヤーだったらしい。
まぁそうじゃなかったら女子プレイヤーってだけで引っ張りだこになりそうだもんね…(経験談)
「なら、尚更俺達と組まないか? ボスは一人じゃ攻略できないって、言ってただろ。なんなら今回だけの暫定パーティーでも良い」
そう言うキリトさんの横でこくこくと頷く。
すると女の人は暫くキリトさんを見つめてから、こくりと小さく頷いた。
それを見てキリトさんはメニューウィンドウを開いて操作し、私と女の人にパーティー申請を送ってきた。
勿論、選択肢は○を押す。
と、視界の隅で何かが増えたのがちらりと見えて、その方向――左上のHPゲージの方に視線を移すと、自分のゲージの下に二本程少し小さめのゲージの表示が増えていた。
そのHPゲージの横にはそれぞれ《Kirito》と…《Asuna》と、多分パーティーメンバーの名前かな、が表示されていた。
なるほど、パーティーを組むとこんな感じになるんだ。
「じゃあよろしくお願いしますねっ! えっと…あすな?さん!」
「? わたし、名前教えたっけ?」
取り敢えずこれからパーティーとして暫く一緒に行動するんだから、と名前を呼んでみたら、不思議そうな顔をされた。
「あぁ、パーティー組むのってこれが初めて?」
「……そうよ」
その反応を見たキリトさんがもしかしてとそう聞いて、返ってきた返答になるほどと頷いていた。
するとキリトさんが右手で、女の人――アスナさんの左上辺りを指差す。
「この辺に、自分の以外に追加でHPゲージが表示されているだろ? その横に何か書いてないか?」
「え?」
キリトさんの言葉に、指差された方を見ようと顔を動かすアスナさん。
それを見て今度は私が口を挟む。
「顔を動かしたらゲージも動いちゃいますよ。眼だけ、視線だけ動かしてみてください」
「視線だけ……」
私がそう言うと、アスナさんは真正面を向いたまま視線だけを左の方に動かした。
「き……り、と。キリト? に、エコー…?」
「はい、エコー。反響とかの、エコーです」
「…これがあなた達の名前?」
「うん」「はいっ」
アスナさんの問いに、私とキリトさんはそろって答える。
あ。今更だけど私の名前はそのままの意味のを使ってるよ、現実での名前にも近いし。
「よーし! そろそろ組み終わったかな。じゃあ──」
「ちょぉ待ってんか!!」
どうにかパーティーも組めて(3人足りないけど)一安心…と言った時だった。
特徴的な訛り方をした声が、広場に響き渡った。