リアルで盲目な私でもできるゲームを始めたらデスゲームでした。 作:橘 雪華
「ちょぉ待ってんか!!」
独特な訛り方をした声が広場の上段(この広場、劇場型っていうのかな、そんな形をしてる)から聞こえてきて、この場に集まっている人の注目が声のした方に集まる。
そこにいたのは、なんというか、特徴的な頭の人だった。
あれってヘルメット…え、髪の毛?
背中に剣を背負い、茶色?オレンジ? 色のトゲーっとした不思議な髪型の男の人は、不満そうな表情のまま広場を見下ろすと階段を駆け下りて、中央のディアベルさんの近くに降りてきた。
「…最近はああいう髪型が流行ってるんですか?」
「はは…いや、彼が特殊なだけだと思う…」
座り直しながら小声でそう呟くと、キリトさんは苦笑いを浮かべていた。
「ワイは《キバオウ》ってもんや。ボスと戦う前に、言わせてもらいたい事がある」
「ふむ? まぁ何にせよ、意見は大歓迎さ」
突然の乱入にも、ディアベルさんは涼しい表情でそう言う。
するとキバオウと名乗った人はふんっ、と鼻を鳴らしてから、広場に集まった人達を睨みつけるように見回してから言った。
「こん中に、今まで死んでいった奴らにワビ入れなアカン奴がおるはずや!」
びしっ、とプレイヤー達の方を指差しながらそう叫ぶキバオウさんの言葉に、プレイヤー達がざわざわとざわめく。
ちらりと横を見ると、キリトさんがどこか焦っているような表情を浮かべている。
アスナさんの方は……見えにくいけど、多分無表情。
アスナさんはともかくキリトさんの反応は気になるけど、とてもじゃないけど聞ける状況じゃないのでキバオウさんの話に意識を戻す。
ただ、真面目な話なのはわかるんだけど、誰に向けて言っている事なのかいまいち理解できていなかった。
「――キバオウさん。君の言う《奴ら》とはつまり……元ベータテスターの人達のこと、かな?」
「決まっとるやないか」
うぅーん、と頭を悩ませてどういう意味の言葉かを考えてる内に、あっちの方から答えを出してくれた。
元ベータテスター……少なくとも私が知ってる人には二人だけ該当する人がいた。
コペルさんと……キリトさんだ。
「ベータ上がり共はこんクソゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えよった。奴らはウマい狩り場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけポンポン強くなってその後もずーっと知らんぷりや。……こん中にも
まくし立てるようにしてキバオウさんは、ベータテスターへの憎悪を露わにしてそう言った。
…でも、なぁ。これから強敵に挑むっていうのに、わざわざこんな時に言わなくても…
…いや、強敵に挑む場だからこそ、キリトさんのようにこの場に出てきたベータテスターからアイテムをふんだくろうっていう魂胆だったり?
「発言、良いか」
などとキバオウさんのしている事に腕を組んで考えていると低めの声でそんな言葉が聞こえてきて、そこで一旦思考を止めて顔を上げる。
声のした方へと視線を向けてみると、中央の方に座っていた声の主が上げた右手を下げながらすっと立ち上がった。
その人を見てまず目に付いたのはその巨体。
身長……いくつだろ? とにかく遠目に見ても大きく見えるその人は、大きいだけじゃなく肌も茶色で、頭は髪の毛がない、スキンヘッドっていうんだっけ? という感じの姿をしていた。
そんな見た目も相まって、背中に背負われていた大きな斧が物凄く似合っている。
その男の人はこちら側、多分この場に集まってるプレイヤーの方に軽く頭を下げてから、キバオウさんの近くにまで下りて行くと、発言を続けた。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、アンタが言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーが沢山死んだ…その責任を取って謝罪、賠償をしろ。…ということだな?」
「そ、そうや」
大きな斧が凄く似合う身体の大きい人――エギルさんに真正面に立たれながらの発言に、キバオウさんは若干気圧され気味にそうだと答える。
「あんたはそう言うがな、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」
そう言いながらエギルさんが懐から取り出したのは――一冊の本。
それを見て私はあっと小さく声を漏らして、自分の膝の上に置いてある
ここに来る前に道具屋で新しいものを貰ってあった、ガイドブック。
いつ頃からか各所の道具屋で入手できるようになった物で、
「このガイドブック、アンタも貰っただろ。道具屋で
「……む、無料配布だと…?」
そう、色々な情報が載っててちょくちょく内容が更新されるのに、無料で貰える物だから。
だからキリトさんに教えて貰った以外の事もこれで把握する事ができていた。
と、エギルさんの言葉に何故か隣のキリトさんが驚愕しながらそう呟いていた。
そしてキリトさんの視線が私の膝の上に向いて、再度「えっ」という表情に。
「エコー、それって…」
「あ、うん。私もさっきここに来る途中で使った分の道具買い足してた時に、貰ったの」
膝の上に置いておいた
もしかして、知らなかったのかな…なんて思っていると、キリトさんの向こう側からも呟き声が。
「……わたしも貰った」
「……二人とも、タダで?」
震え気味の声でそう聞いてきたキリトさんに、アスナさんとほぼ揃って頷いた。
「ど、どうなってんだ…」
戸惑いながらぶつぶつ呟くキリトさんを不思議に思いながらも、今はあっちの話を聞かなきゃと放置して中央に向き直る。
「
「配布していたのは、元ベータテスター達だ」
それを聞いた他のプレイヤー達が、ざわざわとし始める。
これには私もちょっと驚いたけど、そう言われてみればなるほど、と頷ける部分もあった。
ベータテスターだったら序盤のクエストの内容とか、地形とか、敵の分布とか…その辺はベータテストでやった事があるはずだとキリトさんが言っていた。
けれどもそれでも死んでしまったベータテスターもいるみたい。ベータテストはあくまでベータテストであって、その内容全部が本実装されるとは限らないもので、ベータテストから変更のあった箇所もきっとあるだろうし、亡くなってしまったベータテスターの人はそういう所でやられちゃったのかも。
テスト時代と違う、なんてお話は昔お姉ちゃんが別のゲームでそういうことがあった、なんて話を聞いた覚えがあった。
押し黙ったキバオウさんを見て、今度はこちら…プレイヤー達の方を向くエギルさん。
「いいか。情報は誰にでも手に入れられたんだ、なのに沢山のプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえてオレ達はどうボスに挑むべきなのか……それがこの場で論議されると、オレは思っていたんだがな」
堂々としながらそう語るエギルさんに反撃となる言葉が浮かばないのか、キバオウさんは悔しそうにエギルさんを睨みつけて、
「……フン」
結局何も言い返せないまま、キバオウさんはむっとした表情のままプレイヤー達の方へと下がり、それを見たエギルさんも戻っていった。
そこから会議が再開して、ディアベルさん自身が各パーティーを回ってそれぞれに役目を伝えていく。
行動力のある人だなぁ、なんて思いながらそんな光景を眺めていると、ディアベルさんが私達の方へと近づいてきた。
「君達は…もしかして3人パーティーかい?」
「あ…あぁ」
この人、あぶれた人の事もちゃんと見てたのかな、とその質問を横で聞きながら思いつつ、とりあえずここの対応はキリトさんに任せようと何も言わずにアスナさんと一緒に二人のやり取りを見守る。
変に喋って変な男の人がこっちに来ても嫌だし…。
「今回の攻略の担当に関してなんだが、君たちには取り巻きコボルドの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いして良いかな」
人数が半分しかいない事もあって私達に任せられた役割は、他の隊のサポート。
あっ、アスナさんがちょっとむってなった気がする。
「俺達は3人しか集まっていないしな。了解」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「まぁ、取り巻き潰しも重要な役目だしな。任せておいてくれよ」
「ああ、頼んだよ。…それにしても」
と、キリトさんと話していたディアベルさんが私達の方を見てきた。
「…何?」
「な、なんですか?」
急に視線がこっちに向けられて、知らない男性への苦手意識からちょっと上擦った声になってしまった。
アスナさんはアスナさんで、折角のボス戦で実質戦力外みたいな扱いを受けたからかは不機嫌そうな声だし。
「…お姫様の護衛は、騎士としては羨ましい限りだね」
「は、はは。それは…重要な役目だな…」
ディアベルさんはというと流石にこの距離で、しかも声を聞たこともあってフードを被ってても性別がバレたみたいで、キリトさんに向かって冗談交じりにそんな事を言っていた。
なぜかキリトさんの声が震えてたけど。
私達への役割通達を終えたディアベルさんはその後も各パーティーを回り、暫くすると大体の役割が決まっていった。
部隊は全部でAからGまでの7隊に分けられたみたい。
そうして各隊のリーダー達がドロップの分配とかの話をして、
ディアベルさんが始まりの時と同じようにパンパンと手を叩き注目を集めた。
「各パーティーの役割はそんなところかな。ボス戦本番は明後日午後から、集合は朝八時にこの場所で。明日は休養に充てるもよし、各隊で連携を練習するもよし、親睦を深めるもよしだ。自由にやってくれ」
明後日、か。
やることは取り巻きの相手だけどパーティーを組んで戦うのはは初めてだから、ちょっと不安。
「A隊の練習に同行したい隊はこの後残って相談しよう。では、解散!!」
ディアベルさんが会議を締めくくるようにそう言うと、それぞれA隊の練習に同行しようとする人達、組んだ人達同士で広場から去っていく人達などで、集まっていた人達は各々散開していった。
「…どこが重要な役目よ。それじゃボスに一回も攻撃できないで終わっちゃうじゃない」
他の人たちが散っていく中、アスナさんが不満を隠そうともせずにそう呟きながら階段を上っていく。
立ち去ろうとするアスナさんを、キリトさんが慌ててがその後を追うのに続くようにして階段を駆け上がって追いかけて、私もそんなキリトさんに続く。
「仕方ないだろ、6人で組めって言われて半分の3人しかいないんだから。スイッチでPOTローテするにも時間が足りなくなる可能性が大きい」
……え、えっと、何? 何て?
こ、こういう時は素直に聞いちゃおう。
「あのー、キリトさん…」
「ん? どうした、エコー」
「えっと、あのですね…」
「スイッチ…ぽっとろー…って、何…?」
「スイッチとかぽっとなんとかって…何ですか…?」
アスナさんも私と同じ状況だったらしく、丁度キリトさんを前と後ろから挟むように立っていた私とアスナさんから同じ質問がキリトさんに投げかけられた。
それを聞いたキリトさんは一瞬呆気に取られたような顔をしてから、頭を抱えて溜め息を吐いた。
うぅ、だってパーティー組むのなんて初めてだもん…。
「…わかった。明日は俺から二人にパーティー戦闘についてレクチャーしよう。練習用に丁度良いクエストがあるから」
「すみません…そうして貰えると助かります…」
一瞬ガイドブックに載ってるかなと思ったけど、あのガイドブックはあくまで攻略本らしくそういうネットゲーム用語?なるものに関しては特に載ってなかった、残念。
「ああ、ただそのクエスト、朝限定なんだよな。だから今日のうちに一通り説明しておきたいから、その辺の酒場で「嫌」」
キリトさんの台詞をバッサリと遮るように拒絶の言葉。
勿論これは私じゃなくてアスナさんの台詞。嫌がる理由はというと、
「一緒にいる所見られたくないし」
とのこと。
「い、いや、でも人目につかないところとなると…NPCハウスは誰か入ってくるかもだし…」
若干声が震えてる辺り精神的ダメージ受けてるのかなぁ、とか思いながら二人の後に続く。
ただアスナさんがすぐにでも一人になりたいからかすごい早歩きで、キリトさんもそれに続くから私まで早歩きでついていかないといけない。ひぇぇ。
「…そうだ! どっちかの宿の部屋とかどうだ? 鍵もかけられるし、音も絶対漏「絶対ごめんだわ! 何するつもりよいやらしい!」…」
良い案を思いついたと言った様子でそう言ったものの、即却下されるキリトさん。
ううん、でもこればっかりはアスナさんの方が正しいかも…。
「キリトさん…流石に出会って間もない人を宿に連れ込むのはちょっと…」
「は!? そ、そういうつもりで言った訳じゃないぞ!?」
え、じゃあ無意識で? キリトさん……
なんて若干キリトさんに引いていると、その間にもアスナさんは一人でどんどん先に行ってしまう。
「…はん! 俺だってそこいらのボロ宿なんてごめんだね! 俺がこの町で借りてる宿なんか農家の二階を借りてる形とはいえ一晩80コルと格安でありながら、二部屋あってミルク飲み放題! ベッドもデカくて眺めも良いしな!」
そしてキリトさんはキリトさんでなんか自棄になって自分の宿自慢始めてるし。
…こんなパーティーで大丈夫なのかなぁ…と先行きが心配になって来た時だった。
「その上風呂までついて――」
「「お風呂!?」」
「うおわああっ!?」
その一言に思わずキリトさんに詰め寄って、過剰すぎるくらいの反応をしてしまった。
というか、アスナさん結構先の方まで行って離れてたのに一瞬で戻ってきた…まぁ、仕方ないよね、お風呂だもん、お風呂。
…なんだかさっきから、アスナさんとは気が合うような気がしてきた。
そんなこんなで私達は、キリトさんが宿に利用している農家の家まで案内してもらい、お風呂を借りる事になったのでした。