ネット復活!
ずっとAPEXしてて遅くなりました。
しょうがないよね。
オレは、前世の頃、アルトリア・ペンドラゴンというキャラクターのことを特別に好いていた。
彼女というキャラクターに出会ったのは、高校2年生の秋。一番仲の良かった友達に、“Fate/stay night [Heaven's Feel] の映画が公開されるから、一緒に見に行こう”と誘われたのがきっかけだ。
当時全くFateシリーズに関して無知だった俺は正直、いきなり映画を見に行こうと言われて面食らった感じだった。しかしアニメ鑑賞も映画鑑賞も嫌いではなかったし、何より一番の友人の誘いというのも手伝って、俺は了承の返事をした。
すると次の日に、その友人は学生鞄──本来は教科書を入れてしかるべき──にいっぱいのDVDをもってきて、俺に押し付けるように渡した。
『HFを見るってんなら、予習が必要だよな! とりあえずセイバールートと凛ルートはある程度分かっとかないと!』
『は!? 予習が必要なタイプだったのか! “君の名は”とかみたいな一本完結ものだと思ったから──』
『いいから、いいから。あと、スマホにFGOも入れとけよ! 全部見たらどーせやりたくなるんだし! 映画館で特別な礼装も配られるし!』
そんな会話を、今でも覚えている。
友人は何事でもグイグイ来るタイプだった。1年生、まだ初対面のときからだ。自分の好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、不得意なこと。そうしたパーソナリティを難なく晒して、少しでも興味あるなら寄ってこいと笑っている。そんなコミュニケーション法が彼の特徴だった。
俺は運よくだか運悪くだか、そんな彼ととても気が合った。だから部活も同じにしたし、休日にはよく遊んでいた訳だけど。
ともかく、押しの強い友人に抗うことができず、次の休み時間には週末にDVD全巻制覇するという約束をさせられ、また次の休み時間にはFGOをインストールさせられ、昼休みにはFGOのチュートリアルを彼の助言付きで終わらせることになった。
『次は英霊召喚──いわゆるガチャだな!』
『身もふたもない。でもガチャは好きだよ。最高レアって何パーセント?』
『1パーかな。でもたしか、最初の召喚では出ない。★5は初心者ボーナスでもらった石で狙いな』
『うへ、百分の一って……どのソシャゲも世知辛いことで。最初のガチャは──えっと、かわいい子がきたね』
『だいたいみんな可愛いけど──お、マリーね。確かに“かわいい”っていう言葉が似合うキャラではある』
『じゃあお待ちかねの、★5狙いガチャいきますか』
『今は……げ、ストーリーガチャしかやってないじゃん。やめときな、闇鍋だから。期間限定ガチャくるまで待──』
『もう引いちった』
『おい──!』
『貴重な石を!』と嘆いている友人と『大げさな』と呆れる──大げさではなかったことを後に知ることになる──俺。最初の10連くらいは、と演出を飛ばさずに見ていれば、虹色の発光と白い羽のエフェクトが出た。
『はぁ゛ん!? ビギナーズラックにもほどがあるだろ!』
『あ、確定演出?』
『そんなもん。まあ、これは★5サーヴァント出ただろうな──誰だ誰だ?』
そうして画面に映し出されたのは、セイバーのセイントグラフ。くるくると画面中央で回転して──金と青に包まれた少女が現れた。
『青王ね。ま、これからstay night勉強するんだし、ちょうどいいっていうか。ある意味これ、
『へー、あのDVDに出るんだ、このキャラ。なんていうか、見た目結構好みかも』
『せっかく一発目で出たんだから、嫌いじゃないなら育ててあげなよ。このゲームは好きなキャラを最強にするのが楽しいんだから』
彼がそういった直後くらいにはチャイムが鳴って、彼は名残惜しそうに席に戻っていった。俺は机の上を片付けながら、スマホの画面を見た。騎士風の鎧に身を包んだ少女が、きりっとした眼差しでこちらを見ている。最高レアが出た、というのは気分が良いものだ。
彼は“好きなキャラを最強にするのが楽しい”と言っていた。ならこのキャラを最強にしてやろうかな、と思うくらいには、俺のアルトリア・ペンドラゴンに対する第一印象は良いものだった。
これが彼女というキャラクターとの出会い。とかく男子高校生というのは現金なもので可愛ければ何にでもデレデレしてしまう。どう言い繕おうと、きっかけはそれだけの事。彼女の
教師が黒板の前に立ち、号令をかけるように言った。もう授業が始まってしまうらしい。
『──ん?』
手元にあるスマートフォンを閉じようとすると、まだガチャの演出が続いているのがわかった。そして、先ほどと同じ確定演出が流れ始める。
『これは、あいつには言えないな』
どうやら最高レア二枚抜き。このゲームに詳しくないオレでも、
『さっきと同じ、セイバーの絵? 誰なんだろ』
出現したのは、赤銀フルフェイス鎧の騎士らしかった。後で知った事だが、このキャラはアルトリア・ペンドラゴンの(ある意味の)息子に当たるモードレッドということだった。
fateシリーズでは聖杯大戦と呼ばれる特殊な形態の戦いを描いた外典Apocryphaで活躍し、FGOでも第四特異点ロンドンおよび第六特異点キャメロットで活躍した。
見た目はアルトリア・ペンドラゴンの遺伝子によって作られたホムンクルスという設定上、アルトリア・ペンドラゴンそのもの。赤と銀の全身鎧に身を包み、赤のセイバーとも呼ばれる。クラレントという宝剣を主武器とした荒々しい戦いかたが特徴だ。
性別としては女性だが、男性扱いしても女性扱いしても不機嫌になるめんどくさい性格で──
【この記憶を構成するための要素は、一部壊れている、または存在していません。】
──えぇっと。おかしいなぁ。
なんだっただろうか。よく、思い出せない。
◆
◆
「──ち、父上?」
こちらを見て呆然と立ち尽くす騎士の姿は、よく見知ったものだった。
紅と銀を基調とした、顔まで覆う全身鎧。剣にまとわりつく魔力放出は赤雷の形をとっている。先ほどまで粗暴な言葉づかいで罵倒しながら、荒々しい剣技で敵を圧倒していた一幕もあった。ここまでの要素がそろっておきながら、目の前の人物の正体を暴けないはずはないだろう。
それに、騎士は私のことを“父上”と呼んだ。私は生前においてついぞ子をなすことは無かったが、私のことを親として仰ぐ者が一人だけいた。
叛逆の騎士、モードレッド。頼もしい円卓の戦力であり、同時にブリテンの滅びの一因であり、そして──私とカムランの丘で相打った人物だ。
「──ええ。久しいですね、モードレッド」
「!?」
握手をするように手を差し出した私に、かの騎士は困惑と驚嘆の様子を見せた。それほどまでに、私が友好的なことが信じられないのだろうか。
──いや、確かに。以前の私であれば、手を差し出して笑いかけるような真似はしなかったに違いない。
無視するか、冷たく当たるか。なんにせよ好意的な接し方はしなかっただろう。事実ハズムの記憶でも、そうだったはずだ。
それを後悔しているというわけではない。しかしながら、ハズムの記憶の中で親の愛情の尊さを見聞きした身としては、そこに少しばかりの憧れがあった。
もはや互いに死んだ身。親子としてのつながりなど育みようはないが。此度の現界だけでも、親子らしくある努力をしてもよいかもしれないと、そう思った。
モードレッドがそれをどう思うのかは分からないが。結局、私が差し出した手を彼女は握らなかった。拒否した、というよりはどうしてよいのかわからなかった様子ではあったが。
「なんだからしくないな、父上。調子狂っちまう」
「死ねば変わることもあるでしょう。ましてや英霊であれば、サーヴァントとして活動するうちに、生前には無かったものを積み上げることはあります」
「──ああ、確かに」
モードレッドは思い出を噛み締めるように言った。この騎士もまた私と同じように、聖杯戦争で何かを得たことがあるのかもしれない。
「それで父上は、なぜここにいる? オレはたぶん“はぐれサーヴァント”ってやつなんだろうけど」
「──私は、この場所で起きている異常を解決するために、こちらのマスターと共にここを訪れました」
「あァ? マスターだァ……?」
今気づいた、という風にハズムを見やるモードレッド。私との再会に気を取られて、隣にいる彼のことを全く認識していなかったようだ。
じろじろと、値踏みするように彼を観察している。ある程度そうしたかと思うと、不信感にあふれた表情で一言ハズムに聞いた。
「──テメェ、ナニモンだ」
「何者かといえば──人理継続保障機関フィニス・カルデアのマスターです。
「肩書をきいてるんじゃねえんだよ。よくそんな目ぇ背けたくなるような雰囲気垂れ流していられんな。父上だって気づいてないわけじゃないんだろ?」
「ええ、わかっています」
「んで? そんな奴が名高きアーサー王のマスターだぁ? ──ふざけんじゃねえよ」
突然、赤雷をまといながら、瞬きよりも速い一瞬のうちにモードレッドはクラレントを振るった。
彼の首を躊躇なく跳ねようと空を滑る白銀の刀身。私はそれを防ぐようにして、エクスカリバーで受け止めた。
「だああぁ!? なんで止めやがる!」
「当然の事でしょう。貴公からみて彼はどこぞの馬の骨かもしれないが──私の認めたマスターだ」
「……ハン。あの騎士王がこんな奴の従僕だとはね。理解できねぇな。
そう言うと剣をしまう。苛立ちを発散したいのか、そこらのガス灯を拳でへし折ると、モードレッドは深くため息をついた。
「ああくそ、イライラする──おい、テメェ!」
「オレのことか?」
「ああそうだよ! お前、もし父上のマスターとして相応しくない振る舞いしてみろ。その場で首刎ねてやるからな」
鋭い眼光でハズムを見据えるモードレッド。その威圧感に圧されて、彼の頬に汗が垂れる。彼は緊張や恐怖を振り払うようにして、胸元をぎゅっと握りしめると、顔を上げてモードレッドを真っすぐ見つめた。
「──肝に銘じておくよ、モードレッド」
「ああ、ならいい」
ふん、と鼻を鳴らしてモードレッドは霧の向こうへと歩き出した。「この異常を片付けるってんなら、拠点が必要だろう? 案内してやる。ありがたく思え」と、こちらを見もせずに言い放つ。
その後ろを、私とハズムはついていった。
「──ペンドラゴン」
「なんでしょうか」
ずかずかと進むモードレッドに苦笑しながら、話しかけてくるハズム。こちらのことを振り返る様子すらないモードレッドだったが、やはり気になるのか、興味がないふりをする一方耳を傍立てているのがわかった。
「君とモードレッドは、容姿がすごく似ているな。やっぱり、血のつながった親子ってのは似るもんなんだな」
「──? ええ、はい。正確にはモルガンによって作られた、私のクローンのようなものですが。当然瓜二つではあるでしょうね」
「──クローン? そうなのか。
「──?」
彼との会話になんとなくの違和感を覚える。ハズムは今、なにかおかしなことを言ってはいなかったか?
「道理で、似てるわけだ。どっちも綺麗な顔してる。それにしても、なんで円卓の騎士たちは、君たちのことを
「ケンカ売ってんのかテメェ! 自殺したいならそう言え馬鹿野郎が! やってやるよ覚悟しやがれ!」
もはや聞いていないフリは我慢できなくなったのか、喚き散らしながら突進してくるモードレッド。
モードレッドに女性だの男性だのといった話は禁句だというのに、まったく。
激昂する騎士を私が何とかなだめることができたのは、それから数十分ほど後の事だった。
◆
◆
濃霧は晴れる様子を見せない。
もう5時間ほどは歩き続けただろうか。デミ・サーヴァントで体力が補正されているマシュはまだよいとして、俺の方はもう限界が近かった。
「マスター、大丈夫ですか?」
「まだまだ大丈夫! って言いたいけど。ちょっときついかな」
ずっと歩きっぱなしだ。疲労困憊とまではいかないが、すこぶる体力を削られていることには変わりない。
「──どこか、屋内で休ませてもらいましょうか」
そう、マシュが提案する。そうしよう、と返す。不法侵入ということにはなるが、この街を救う代わりとして、多めに見ていただけるとありがたい、なんて心の中で言い訳をする。
押し入るわけではなく、持ち主のいない空間をひと時お借りするだけだ。許してほしい。
事実、これまでにいくつかの建物の様子を見てきたが、ほとんどの場合家主は亡くなっていた。餓えだったり、毒だったり、明らかな他殺だったり。原因は様々だったが。
どうやらこの街にはびこる霧は、毒を持っているらしい。ハズムの提案で開発された“ダヴィンチ印の浄化マスク”がとても役に立っていた。
この製品を開発する過程で行われた検査で、どうやら俺には高い毒耐性があることが判明していたが、それでも毒とわかっているものを吸い続けるのは良い気分ではなかったから、マスクは非常にありがたいアイテムだった。
マシュが休めそうな建物を発見した。
今までにもよく見てきた感じの、レンガ造り数階建てのアパルトメントだ。これぞロンドン、これぞヨーロッパ。って感じの建物。扉の鍵は既に何者かによって破壊されているらしい。
そっと扉を開けると、少し埃っぽい感じがした。しかし休憩場所としては悪くない状態だ。これまでに探索した家の中には、死体の腐敗臭でとても落ち着いて休憩なんて気分になれないところも多くあったから。
「マスター、こちらにソファが。どうぞ、ここでお休みになられてください」
「ありがとう、マシュ。マシュも一緒に座ろう」
「で、ではお言葉に甘えて……」
二人で並んで柔らかいソファに身を預ける。俺とマシュ二人がゆったりと座ってもまだ十分なスペースがある、大きめのソファだった。
このソファが満員になるとしたら──大人2人に、子供2人、といったところだろうか。
ふと、ソファの後方に置かれたダイニングテーブルに目が行く。卓上には食器が4セット、埃をかぶっていた。そして、食事のために座るであろう椅子が4脚。そのうち二つは座面が高めだ。たぶん、子供用。
「……」
この家に暮らした、知らない誰かのことを思って、悲しい気持ちが沸き上がる。
全て俺の想像でしかないが、確かにここには幸せな家族がいたのだろう。もう壊れてしまった一家団欒の風景に、心の中で黙とうを捧げる。
──ガタリ。 コツ、コツ、コツ……
「!」
「マスター、これは」
「うん。誰かいる。2階からだ」
1時間弱、体力の回復に努めていると、頭上で何か物音がした。
何かを倒したような音と、もう一つは間違いなく、
「生存者がいたのでしょうか」
「だとしたら、この特異点について話を聞いてみたいけど──」
果たして上にいるのがこの特異点の住人なのか。住人だとして、一般人か、はたまた魔術師か。あるいはエネミー、敵性サーヴァント、この人理焼却事件の黒幕というのもあり得ない話ではない、そう考えると安易に近寄るのも危険に思える。
しかし、もしかしたら協力してくれるはぐれサーヴァントかもしれないし、はぐれてしまったハズム達かもしれない。そう思うと、声をかけてみる価値はあるかもしれない。
「──どうしますか、マスター」
ここに頼れる親友はいない。アドバイスをくれるカルデア司令部も、導いてくれるエミヤやアルトリアもいない。俺が判断するのだ。この特異点を修復するために、そして俺とマシュが生きてカルデアに帰るために、取るべき行動は果たしてどちらだろうか。
「──上に行こう。でも、マシュは警戒を。いざとなったら令呪全部きってでも逃げるよ」
「はい、承知しました」
扉を開けて階段を上る。極力、音を立てないよう注意しながら。
そして、先ほどまでいた場所のちょうど真上の部屋までたどり着いた。後は、目の前の扉を開けるだけだ。
「──では、いきます」
「うん」
マシュがドアノブを回す。この向こうに何がいるかわからないという恐怖が、俺の鼓動を早くする。
握りしめた手のひらに汗がにじんで、思わず唾をのんだ。
何十秒にも思える緊張の中、ドアノブが回り切る。その瞬間、ばあん、とマシュ勢いよく扉をあけ放った。
さっと部屋を観察する。おいてある家具こそ違うが、間取り自体は下の部屋と同様。腐敗臭は無し。攻撃の気配や、罠の気配もなし──
そこまで確認して、左手にあるキッチンの奥に、何やら人影が存在することに気づいた。
「マシュ! 左だ!」
「はい!」
マシュが盾を構える。その陰から、人影の様子を確認する。どうやら、壁に寄りかかって座り込んでいるらしい。薄らと呼吸音が聞こえるので、死体ではなく生きている人間だ。こちらのほうを向かずに俯いている。当然襲ってくるような様子はない。
「……誰か、いるのか」
「! はい、います!」
か細い男性の声だ。その弱弱しい声音からは彼が衰弱している様子がうかがえる。現地の人間で、飢えや毒に苦しんでいるのだろうかと考える。
そしてどうやら、それは間違いではなかったらしい。
「こんな状況だ。とても、無理なお願いかもしれんが……食べ物と水を、恵んではくれないだろうか」
「──マスター、これは」
「うん。どうやら、住民の人だったみたいだ」
警戒をある程度緩めて近づく。飢えによるものか、頬がこけてわかりにくいが、若い男だ。おそらく15~25歳ほど。短く切りそろえたこげ茶色の髪に、眼球の見えない糸目をしている。
バッグから栄養食と水筒を取り出して、彼に差し出した。水筒の水はともかくとして、栄養食はすこぶるまずいが、このまま飢え死にするよりはマシだと割り切ってもらうしかないだろう。
◆
「ありがとう、助かったよ」
分解吸収が速い、という栄養食の特性があってか、数分後にはある程度元気を取り戻したらしい彼は、こちらに礼を述べるとともに頭を下げた。
「恥ずかしいことに、食料も水も切らしてしまってね。あまり良くない行いだが、この周辺で家探しをしていたんだ」
彼は頬を掻きながら言うと、深緑色の上等なジャケットの裾をはたいた。土と埃が床に落ちていく。
「ああ、申し遅れた。私は、レヴ・ハウラス。歳は21。職業は──ええと、いわゆる学生というやつと思ってほしい」
「リツカ・フジマルです。こっちは──」
「マシュ・キリエライトです」
「いい名前だ。リツカ、マシュ、とファーストネームで呼んでも?」
俺とマシュは同時に頷くと、彼は満足そうに笑った。
「ところで、食い扶持に困ってさまよっていた愚かな私と違って、君たちはこの街では珍しいほどに健康的で余裕があるように見える」
そんな君たちが、一体全体こんなところでなにを? と尋ねてくるハウラスさんに、俺たちの事情をかいつまんで話す。もちろん、いくつかの事情を伏せて。
この街の異常を解消したいこと。そのためには“聖杯”と呼ばれるものを回収しなければならないこと。目的を共にする仲間とはぐれてしまったこと。この街に訪れたばかりであまり事情を正確に呑み込めていないことなど。
隠すべきか話すべきかその都度悩んでいたこともあり、かなりとっ散らかった説明になってしまったが、ハウラスさんはそのすべてを遮らずに聞き届けてくれた。
「フム……察するに、君たちは私にこの街で起きたこと、その情報を提供してほしいと思っているね?」
「ええ。助けた見返り……という言い方はあまりよろしくないかもしれませんが」
「いやいや。正当な行為には、正当な報酬が与えられるべきだろう。私の知っている事ならば喜んで提供するとも」
そう言ってくれたハウラスさんにほっと息をつく。ここで情報を得られるのであれば、5時間当てもなく歩いた甲斐も少しはあっただろう。
「──ところで、聖杯、といっただろうか。それがこの街をおかしくしている原因であると」
「はい。私たちは同じような事件をすでに4回経験していますが、そのすべてが聖杯を原因としていました。今回も同様であると推測しています」
「──なるほどね」
顎に手をあてがって、ハウラスさんは考え込んだ。そうして数分後、彼はおもむろに口を開いた。
「……これは、私にとって非常に神経を使う質問なのだが──その聖杯とは、何らかの
「! そ、れは」
「……なるほど、その反応で大体わかったよ」
「で、では、ハウラスさん。貴方は、」
「ああ──私は魔術師だ」
なるほど。困っている現地住民、というのは間違いではなかったが、それで十分でもなかったらしい。
困っている現地
「察するに、君たちも魔術師ということだね。良かった。もし君たちが一般の民であれば、私の質問は神秘の漏洩にあたるところだった」
「ああ、“神経を使う”ってそういう……」
「ともかく、この問答を経た時点で、私のとる行動は決まったよ」
彼はそう言うと、俺に向かって右手を差し出した。どうやら、握手を求めているらしい。
「もちろん、この街についての情報は渡す。その上で──同行を許してくれないだろうか」
「それは、なぜでしょうか? おそらく危険な道行になります。戦闘も多く、命の保証はできかねます」
「心配痛みいるよ、マシュ。なぜか、といえば打算だ。君たちに協力する代わりに、食料と水を恵んでほしい。むしろ、ここで放置されたならまたコソ泥をする生活に戻ってしまうだろう?」
「それは、確かに」
「それに、ここは私の故郷だ。魔術師でも郷土愛というのはあるのだよ。どこの誰かもわからん存在に引っ掻き回されたままで引き下がりたくはないのさ」
それにね。とハウラスさんは指をパチリと鳴らした。すると指先にいくつもの火の玉が浮かび上がり、それがぐるぐると回転し、豹を形作る。
炎豹は空を勇猛に走り、一つ吠えたかと思えば、虚空に消えた。
「この通り、魔術には少しばかり自信がある。時計塔でもそれなりの評価を受けていた身だ。戦闘の経験も多少は持ち合わせている。したがって、足を引っ張るような真似はしない。当然、自分の身は自分で守るとも」
ちゃんと働くよ。その代わり食料をおくれ。と最後はおどけて見せるハウラスさん。
確かに、俺より万倍魔術に長けている。しかしサーヴァントとの闘いが想定される特異点攻略、英霊以外を戦力に数えることは基本不可能だ。だから連れて行かないほうが──けれど、置いていくのも目覚めが悪い。
俺たちには土地勘も情報もない。現地住民の案内があれば、効率の良い探索が見込めるだろう。そう考えれば──
いくらか悩む。そうして、最終的に、俺はハウラスさんの手を取った。彼は握られた手を嬉しそうに見つめると、固く握手をして、笑った。
「ありがたい! ちゃんと力になって見せよう。約束だ」
「はい、よろしくお願いします」
そうして、第四特異点攻略の一日目は終わった。新たな同行者レヴ・ハウラスを加えて、俺たちは濃霧漂う死の街ロンドンを、これから歩いてゆくこととなる。
削り取られ、切り分けられ、どこかへと飛んでいき、なくなっていく。
そうしていつか、無かったことになるのだろう。
ロンドンについては、ハズム組はほぼ原作沿い。リツカ組はオリジナル展開で進む予定です。
あと3~4話ってところかな。間にインタールードやらプラチナム・メモリアやら挟む可能性もあるけど。
最後まで読んでくれてありがとナス!
感想もお気に入りも評価も、いつもありがとう!
そしてもっとくれ! 抱えきれないほどいっぱいくれ!
期待してます。ではまた次話で。