ゆるされよ ゆるされよ
キノコの罪を ゆるされよ
6章クリアした次の日にソロモンも見に行って、オレの情緒はボドボドダァ
放たれた射撃の魔術は、私が歯を食いしばって腰に構えた聖剣の刃にぶつかって、ぎりぎりと火花を散らした。
ハズムは今、その身を獣と変じさせた影響によって、常ならぬ魔力を所持していた。その魔力を存分に注ぎ込んだ
「ぐ、あああああああ!!」
岩盤に剣を打ち付けているかのような感覚を覚えるほどの勢い。私は空気を裂くほどの声を上げながら。その弾丸をかろうじて頭上へと弾き上げた。
星が上るような白銀の軌跡を描きながら、頭上の岩肌へと追突する魔弾。地震にも似た揺れが一帯を襲った。
がらがらと、いくらかのがれきが私とハズムの間に降り注いでくる。私たちはそれを回避すると同時に、お互いの間合いの外へと離脱した。仕切り直しだ。
「……」
「……」
お互いに機を探り合う停滞の中で、二人とも口は開かなかった。それは、そこまでの余裕がなかったというのも一つの理由だが、それ以上に私たちは剣を交える時に無駄口を叩かない主義だった。言いたいことがあるならば、剣技を通して伝えればいい。そして、それでも伝わらないものがあるならば──決着の後に伝えればいい。
あの日の昼下がりに、彼が母の思い出を語ったときのようにして。
沈黙の戦いの中にあっても、彼から伝わってくるものはいくらでもあった。それは苛立ちであったり、後悔であったり、絶望であったり、希望であったりする。
自分の考えをわかってくれない
今の今まで、やり直せることに気づけなかった後悔。
やり直すには自分の存在を消すしかないのだと気づいてしまった絶望。
そして、自分さえいなくなれば、全ては救われるのだという希望。それは、なんて愚かで、許しがたいことだろうか。
「──
口ずさむ彼。それは彼にとって、魔術を発動するための
英霊としての私の能力、それをフルに活用して何とかいなす。それをもう、何度だって繰り返していた。
「ぐ……」
ふらつく体。力の十分に入らない腕。かすれたような魔力放出。サーヴァントとしての私の体は、度重なる攻防に、もはや限界を迎えていた。
ここ辿り着く前に、とっくにハズムとのパスは切れていた。おそらくは彼が獣に変じた瞬間には、私と彼の間のつながりは途絶えたのだと思う。
私がここに存在できるのは、私が竜の心臓という特殊な魔力生成器官を備えていることと、カルデアの電力の一部がパスに頼らず供給される仕様であったからだ。
しかしその供給も、この激しい戦闘の中にあってはほんの微々たるものに過ぎない。そもそもニコラ・テスラの生み出した空間断裂を破った段階で、果てしない消耗だったのだ。
魔力はもう、底をついていた。実のところ私は、この場に立てているだけでも十分な奇跡だった。
そして、その事実に、シロガネハズムは思い至った様子だった。彼は構えをといた。彼の中ではもう、戦いは半ば終了しているようだった。事実、決着は間近だろうことは容易に想像できた。
「──ペンドラゴン、もういいだろう」
彼は攻撃の手を緩めてそう語り掛けてきた。私はそれに答えずに剣を振るった。しかしその一撃には大した勢いもなく、鍛錬の中で私の剣筋を見慣れている彼にとっては、もはや避けることをしくじる方が難しいありさまであることだろう。
「ほら、そんな太刀筋で、オレを倒せるものか。たしかに、君に“約束を守れ”と言ったのはオレだ。それでも、もうやめてくれていい。十分だよ」
「……」
私は、とうとう、立っている事すら難しくなっていた。体すら支えきれずに倒れ伏す。頬に触れる地面はまるで氷のように冷たかった。
「君は果たそうとしてくれた。ならそれだけで、十分だ。救われたよ、オレは」
倒れ伏す私を見下ろしながら、彼は悲しそうに言う。
「ペンドラゴン。オレを理解して、理解しようとしてくれた君。実のところ、オレは、君を殺したくなんてないんだよ。だから、そのまま倒れていてくれ。どうか、オレが、消えてなくなるその時まで」
彼は、私の横を通り過ぎると、聖杯の魔力がくつくつと煮えたっている、高台へと歩みを進めた。
薄れていく意識。体を構築するエーテルがほどけて、存在すら曖昧になっていく心地の中で。彼は、本当にやるつもりなのだと、私は悲しく思った。彼は彼がこの世界で歩んできた20年近くを全て消し去るつもりなのだと、そう認識するだけで胸が痛んだ。
打ちのめされて、打ちのめされて、打ちのめされて。それでも立ち上がってきたはずの彼が。その不屈の要因が呪いに過ぎないとしても、ずっと諦めなかった彼が。最期に選んだのがそれだというのか。
それはなんて、悲しい終着点──私はきっと、
私は知っている。何もかもを取りこぼした者にとって、それは全てを解決してくれる万能な選択肢に思えてしまうのだと。自分という存在の価値を信じられない者にとって、甘美な麻薬と同等なのだと。
そして──その選択は、自分が大切に想い、大事にしてきた全てを、台無しにしてしまう最悪な選択肢なのだということも。
過去の私は、その愚かさに気づいていなかった。それでも、気づかせてくれた人がいた。赤銅色の髪の彼。正義の味方を志した、いつかの運命の人が。
「
朗々とした詠唱が聞こえる。まるでその
それは、彼にとって自分に向けた鎮魂歌であり、遺言だ。お前の存在は間違っていたのだと。安心しろ、だからオレが消してやると。そういう、呪いの歌。
「……化物は灰と消えろ。道を穿つは──」
この世全ての魔力を足し合わせても足りないのではと思うほどの奔流が、彼の指先に集まっていく感覚がした。
装填は終わった。きっと、この数舜後には、彼の指先から──
それが間違っていることだと知らぬままに。なぜなら彼には、それを教えてくれる誰かが──私のとっての赤銅の彼のような──がいなかったから。
──だったら、私は。
その考えに、その信念に。体が燃えるように熱くなるのを感じる。
私という存在がすべきことは、召喚された意義は、きっと
私は、この日、この瞬間のために。自分を消したがっているこの少年のために。その愚かさを突き付けるために呼ばれたのだと。
星の数ほど存在する英霊たちの中から、私こそが選択されたのは、きっと、それが理由なのだと。
私は、サーヴァントとしての役割を果たすために呼ばれたのではない。
私は、英霊としての役割を果たすために呼ばれたのではない。
私は──私は。
私は、ただ、アルトリア・ペンドラゴンといういち
いつの日かの無限の後悔から抜け出して、尊くしかし平凡な幸せを掴んだいち
吠えろ、吠えろ、吠えたてろ。その身に宿る想いと、決意を、燃料にして、燃やせ。
竜の心臓を破れるほどに鼓動させて。その指先に至るまで、この後の一撃に費やせ。
私は──アルトリア・ペンドラゴン。
ペンドラゴン。
彼を今、この時、唯一止められる、少女の名前だ。
「
疾走する。彼が虚空に向けたその射線に割り込むために。その狙撃を阻むために。
もちろん、今のズタボロの私ではきっと紙切れのように貫かれて終わり。阻むことなどできはしない。私の貧弱な霊基などどうでもいいとばかりに、かの弾丸は過去に向かって進んでいくだろう。
けれど。
──足音が聞こえる。荒々しく、騎士には似合わない。けれども確かに
ならばきっと、私は戦える。あの銀の弾丸に込められた想いは、突き詰めれば、ただの悔恨だ。
けれども、私の一撃に。あの
「──
「──父上ぇえええ!!」
彼の指先から、白光迸る一条が放たれた刹那、叫び声と共に、私の下に、一つの物体が飛来した。
それは嵐の錨。星の表層を繋ぎとめる釘。私の生涯手にした武具の中で、最も危険で強大な力を持つもの──名を
叛逆の騎士モードレッドが、私から頼まれて、この世界に降り立った黒の騎士王から強奪した兵器。この時のための決戦の一撃を見舞うものだ。
私の利き手へと寸分たがわず飛んできたその槍をがっちりと掴む。その正確な投擲に、流石は常日頃から得物を投げているモードレッドと感嘆しながらも、私はその槍に魔力を通してその拘束を剥がしていく。
螺旋のように重ねられた穂先に、縫い留められた禍々しい黒色の杭。都合13本。人の身には余るこの神造兵器に備えられた、13のリミッター。それを弾き飛ばすように破っていく。
1,2,3──もちろん、全てを解放することはできない。それどころか、その一つ一つを解放してく度に、私の霊核は軋んで剝がれていく。セイバークラスという、サーヴァントとしての限界が、私を阻んでくる。
それでも、これが私にとっての最大火力。これは──貫く意志。または、意志を貫く力。
シロガネハズムの放った、強大なイシを貫通し、滅ぼす一撃。
霊核を燃やす。先のニコラ・テスラがそうしたように。それはサーヴァントという枠に当てはめられた私が、定められた限界を突破するための唯一の方法。
「これは──」
謳う。真名開放、私の科した最後の拘束を破るために。
しかしこれは、世界を救う戦いではない。なぜならば、彼の一撃を阻むということは、むしろ救済を妨害すると同義だから。
だから、これは、この一撃は。きっと──
「──■■■を救う、戦いである」
身体が熱く鼓動する。廻る血液すらも沸騰したようになって、私の背中を、腕を後押しする。
極光。白銀の弾丸は、まるで星が上るようにしてここではないどこかへと向かっている。きっとそれは、遠い遠い過去へと。いつかの過ちへと向かう、悔恨の一撃。
私は、それをこの世界に
槍の穂先と弾丸が衝突する。まるで星が生まれる刻かのような爆発と発光があたりに迸る。
私の、ロンゴミニアドを構える腕はもはや限界だった。いや、構えているどころか、支えているだけと言っていいほどに、私のチカラの残量は僅かだった。
それでも、諦めるわけにはいかなかった。
──だってそうだろう。私たちはまだ、なにも話していない。
眼を焼くかのような輝きの向こう、地上ではシロガネハズムが呆然とした様子でこちらを見上げていた。
なぜそんなことを、と彼の瞳が訴えかけてきている。それがなんだかおかしくて、私はくすりと笑みをこぼした。
「──いつもの事でしょう、ねえハズム?」
私は、私は。
「言ったでしょう。聞いていなかったのですか?」
彼と戦っていたつもりなどない。打ち倒すためではなく、その性根を
「──これは、稽古だと。始める前に、言ったでしょうに」
◆
◆
白銀の弾丸は、地に落ちた。
それは奇跡であった。
その日、その瞬間。今まで一度たりともその歩みを止めなかった──止められなかった、あのシルバー・バレットが。
ついに、膝をついたのだ。
ただ一人の少女の、ただただ真摯な願い。祈りと愛と絆を込めた、星の落ちるかのような一撃によって。
それは、それは。
私という女神にとっては、いささか予想外で、有体に言えば衝撃的な出来事だった。
得物を握る手から伝わってくる光景と、衝撃。そして魂を燃やすかのような熱が。私の身にも移ってくすぶっている。
いつか手放してしまったはずの人間としての心が、数舜だけ鼓動し、熱を持った錯覚を覚えた。
◆
◆
シロガネハズムは、目の前に倒れ伏していた。いつの間にか、彼の姿は常のものに戻っていた。
その濡れ羽色の黒髪と、その下にあるサファイア色の瞳に、私は安堵した。
彼の瞳は、いまだに困惑を示していた。しかし、自身の一撃が止められたことをようやく悟ったかと思えば、その瞳から大粒の涙がいくつも落ちた。
私にはそれすらもが、その一粒一粒さえもが、宝石のように思えた。彼が、今目の前で泣いている。泣いてくれているというその事実だけで、私は胸がいっぱいだった。
「──どうして」
彼は私に尋ねた。もはや彼も限界が近いだろうに。気絶しそうな体を、意志の力だけで動かしているにすぎないだろうに。彼は、私のことを、真っすぐに見据えていた。
「──話をしましょうか、ハズム。稽古の後は、いつもそうしていたでしょう?」
「稽古、稽古ね。君がまさか、そんな気持ちで戦っていたなんて」
「いけないでしょうか?」
「別に。好きにすればいいと思う。けど、約束は──君はそれすら果たす気がなかったんだなって」
彼は、どこかすねたように言った。それが可愛らしくて。そして──もう見れないのだと思うと名残惜しくて。私はそんな彼の頬を撫でた。
彼は嫌そうに身をよじったが、彼に無理やり剥がすほどの力は残っていない。私の好き放題にいじり倒せる状況だった。
「──いいえ。忘れていませんよ。私は、あなたが外道に堕ちたその時には、この剣で首を斬るつもりでした。でもあなたは、外道なんかではない」
「外道ではない、か。そんな風には思えないなぁ……」
彼は、後悔で潰れてしまいそうな表情で言った。それを、その感情を否定する気は無かった。彼の後悔はもはや彼自身に向かうしか行先がないのだと、私は知っているから。
私は、それを間違いだと、危険だと指摘することはできても、その後悔の螺旋から救ってあげることはできない。なぜなら私は救われた側だから。
──だからきっと、彼をその底なしの池から救いだすのは、私ではなく。他の誰かが。
私は次につなぐだけ。きっといつか訪れる時まで、彼を死なせないように。
「──あなたは、覚えていますか。ハズム、という名前に込められた想いを」
「なんだよ、いきなり」
「いいから」
私は尋ねた。最も危惧していたことを。きっと彼が獣になってしまったのは、リツカ達を誤射したことや、過ちをやり直せることに気づいたことだけが原因ではないと思ったのだ。
彼は今までいくつもの困難に直面してきた。言い方は悪いが、今回起こった事
だからきっと、彼の身には、今までに無い傷が刻まれたのだと思う。それこそずっと連れ立ってきた、片割れを失うほどの。
「シルバー・バレットのこと? それとも──まさか、
「──ああ、ああ……そう、ですか」
やはり、と思う。あの尊い想いは。母から子に受け継がれた、いつかの愛は。彼の旅路を支え続けたそれは、失われてしまったのだと。
道を穿つ、銀の弾丸と引き換えに。
その事実が、なんとも遣る瀬無くて。悲しくて。辛くて。私の眼からは、思わず涙がこぼれた。
「なんで、君が泣くんだよ。泣きたいのは、こっち、だろ」
私の涙を見て、彼が言う。彼の意識は薄れてきているようだった。もう言葉を口にするのもつらいくらいに。
それでも彼は、まるでなんでもないことのように私の目元を拭った。その行為が。ただ一つの行いが。きっと私が私の全てを使って守った、尊いモノだったのだと思う。
やはり彼は、彼が思っているほどの悪人ではない。自己保身の塊なんかでもない。誰かのために、何かをできる。そんな良き人なのだと。
「──ハズム」
「な、に……」
「私は、あなたのことを信じています」
「……は」
「あなたはきっと成し遂げる。カルデアの使命は未来を取り戻す戦いでした。ですがあなたは──過去を取り戻すために戦うのです」
「……それ、は」
「失ったものそのものを取り戻すことが叶わなくとも。空いてしまった穴を埋めてくれる、何かを。過去の後悔に打ち勝つための何かを、あなたは探すのです」
「……は、は。よくしゃべるね、君は。まる、で。遺言みたいだ」
「──ええ、遺言、ですから」
「──」
彼は、最後の私の言葉を聞くと、驚いたような、そして悲しそうな表情をして、私の手を強く握った。そしてその数秒後には、意識を手放した。
最期の会話は終わった。
彼はこれからどうなるだろうか。生きてくれるだろうか。頑張ってくれるだろうか。
きっと私のやったことは、残酷な行為だ。死にたがっていた彼に、ズタボロになってもう歩けなくなっていた彼に。その背を叩いて無理やり立ち上がらせて、また歩かせる。
そういう、愚かで、迷惑で、残酷な。
──でも、仕方ないだろう。
アルトリア・ペンドラゴンは、彼に死んでほしくなかった。彼に生きていてほしかったのだ。
いつの日か、その人生が幸福だと、生きていてよかったと信じられるその時まで。
「──父上」
歩み寄ってきたのは、モードレッドだった。彼女は私の空にほどけていく体を見ながら、神妙な顔でこちらを見据えていた。
「ありがとうございました、モードレッド。あなたがいなければ、きっと今回の結末はもっとひどいものになっていた。感謝します」
「──いや、いいってことよ! にしてもカルデアか。ハズムのことはいまだに気に食わねえが、父上がいるなら召喚されてみてもいいかもな!」
彼女は明るくそう言う。その未来が実現しないことを、なんとなく察しているだろうに。
「いいえ、わたしはもう、カルデアには戻りません」
「──なんで、だよ。ハズムが言ってたぞ。カルデアにはサーヴァントの情報が記録されていて、再召喚ができるって」
「そうですね。ここで死んでも、カルデアは私をまた呼んでくれるでしょう。けれど、私は、それに答えるつもりはありません」
「──なんで! 責任を持てよ、アーサー王! こいつに希望を見せたんなら最後まで! こいつに連れだってやれよ!」
「モードレッド……」
彼女の叫びは、確かに私にとっての義務なのかもしれなかった。わかっていたのだ。私は、きっとそうするべきだ。もう一度彼のサーヴァントとして彼を支える。それが果たすべきことだと。
──だからこれは、我が儘だ。
「──だって、嫌なんです」
「──?」
「きっと再召喚された私は、彼を見てこう思うのです。“なんて嫌な気配のする奴だ”って。そんなのは、耐えきれない。彼にそんな仕打ちをする自分は。そんな目を向ける自分は」
英霊は記憶を保持しない。私もきっと例外ではない。そもそも今の私の霊核は砕け散ってしまっている。もはや今回の召喚で得たものを、座に記録として残せるかすらも怪しい。
そんな中、再召喚された私はどうするだろうか。きっと自分の身に宿る
だからこれは我が儘だ。逃げと言われても仕方がないかもしれない。それでも、私は、彼にこれ以上の傷を与えたくはない。
私の旅路は終わりだ。彼との旅は、もう終わり。
「──そう、か。アーサー王がこんなに腑抜けちまうなんてな」
「幻滅しましたか?」
「ああ。でも、まあいいんじゃねえか」
「──?」
「あんた、生前に我儘を通したことなんて無かっただろ。だから、まあ、今回くらいはな」
「モードレッド……」
「ああああ! 背中がむずむずしやがる! じゃ、じゃあまたな父上! 一緒に戦えてうれしかったぜ!」
顔を赤くしてモードレッドが言う。その様子がおかしくて。その態度が愛らしくて。私は、思わず笑った。
「──ええ、モードレッド。あなたと共に戦えてよかった」
「う、うん、サンキュー」
「……ああ、よければハズムをリツカ達の近くまで運んであげてください。そうすればきっとカルデアが回収してくれるでしょう。私は、ここに残ります」
「ああ、任せてくれ。じゃあな、父上」
そう言うと、彼女はハズムを背負ってこの大空洞から姿を消した。
静寂の中で。この場には消えかけの私だけが残った。
身体を構築するエーテルが霧散していく中で、私は過去に想いを馳せる。
とても、とても、短い旅路だった。
私たちの旅路は、きっと、オルレアンから始まったのではない。
オケアノスの下水道、あのうっすらとした漏れ日が差す、暗く湿った下水道で。彼に私が剣を突き付けた時から始まったのだ。
それは信頼でもなく、愛情でもなく、ただ疑惑から始まった旅路だった。
彼を消すべきと思った時があった。彼を殺すべきと思った時が。
けれど、私は。あの時の私は後悔しないように。後悔したくなかったから。その剣を鞘にしまった。
その選択は、きっと間違いではなかった。
私は意志を貫いた。こうすべきという、貫くべきと思う意志を、最後まで。
だから、アルトリア・ペンドラゴンはきっと、この場にただ一人きりであったとしても、こうして笑顔で帰ることができる。
「さようなら、シロガネハズム」
虚空に向かってそうつぶやく、いつの日か、彼の耳にその想いが届くことを信じて。
「あなたは間違いなく、私のマスターでした。アルトリア・ペンドラゴンにとって、ペンドラゴンにとって最高の──」
そうして意識は薄れていく。すべての感覚は消えて、私という存在はどこかへと霧散していく。
そうして残るのは、黄金と白銀がまじりあった、輝く魔力の残滓だけ。
これはいつかの旅路のお話。
ただ一人の少年のために、義務も責任も投げ出して、ただ我儘を叫んだ。
ただ一人の、少女のお話。
プラチナム・メモリアー9:『ハズム、ココロ』
プラチナム・メモリアー10:『fate/』
最後まで読んでくれてありがとナス!
投稿遅れてすみませんね、ちょっと忙しくて。
さて、ロンドンの山場は大体終わって、あとはエピローグで終わりでしょう。
彼女の旅路は終わったけれど、彼の旅路はまだ折り返し。
この後どうなるのかは、まあお楽しみってことで!
エピローグ終われば例の“中書き”を書いて前半終了です! 質問ある方は活動報告に気軽に突撃よろ。
感想、評価、お気に入り、いつもありがとう!
そして今回もよろしくお願いいたします!
ではでは、また次回。ばいなら~!