ロンドンから3人が帰還して3日が経った。
あの後、担架で運ばれていった3人に対しての緊急治療は、ほぼ丸一日を使った大規模かつ長時間のオペとなった。
対応できる医療班の面々は両手で数えられる程度しかいないため、彼らには相当の負担がのしかかってしまったことだろう。休息や食事の必要がなくフル稼働できるサーヴァント、ダヴィンチとエミヤの存在がなければ倒れてしまう者ばかりだったに違いない。
普段から自分を律して休息をあまりとらないロマニでも、全てが終わり容態が安定したと判断した瞬間には眠気に負けて夢に旅立ってしまったらしい。
ロマニのそれは当たり前のことで、ここしばらくは医療班に限らずすべてのスタッフたちが疲労と心労を限界までため込んでいたのだ。
このままでは近くカルデアは機能不全に陥る。とにかく乗り越えなければならない峠は越えた。とそう判断した私は、カルデア所長として、次の1日を休息日に設定すると通達した。
あまり備蓄はないが、甘味や煙草などの嗜好品をとにかく大放出し、食事もできるだけ豪勢なものにすることに決定。
残留特異点──攻略した後でも残っている特異点もどき──であるオルレアンにて採れたワイバーン肉を、なぜか料理を得意としているエミヤがソテーしてくれたのだが、これが素晴らしく美味で、カルデアはしばしの間、恐怖や絶望を忘れることができた。
オペに一日。
その後の休息日で一日。
そしてある程度回復した面々が通常業務に復帰して、一日。
3人の帰還から既に3日が過ぎ去った。
未だに、彼らの誰一人として、意識を取り戻してはいない。
◆
カルデアF区画にある第一ミーティングルーム。まだ集合時間まで10分以上の余裕があるというのに、既に全員が各々の席についていた。
「──全員そろったのなら、予定より早いですが、もう始めましょうか」
そう皆に言えば、それぞれが首肯して賛成の意を示した。反対の者は存在しない。
皆それだけ、カルデアの今後について不安を覚えているということだろう。この話し合いが有意義なものになるかは置いておいて、なにかをしていなければ落ち着かないのだと思う。私だってそうなのだから。
所長として進行役をしている私の両隣には、医療班トップのロマニと技術班トップのダヴィンチが控えていた。開始の合図を聞いた二人は、手元のタブレットに指先を滑らせた。
「では、医療班から。皆には手元の端末を見てもらおうか……これは、今現在の3人のバイタルデータ。左からリツカ君、マシュ──そして、ハズム君だ」
言われて私も手元に目を落とす。3人の現状のバイタルが、わかりやすい数値と図でまとめられているのがわかった。
リツカ、マシュの両名に外傷は少なく、唯一スクロールで治療しきれず胸にうっすらと残っていた弾痕も、今では完治している。失った血液はそれなりに多かったため1日ほど昏倒したままかもしれない、というのがロマニのファースト・オピニオンだったのだが、3日経っても彼らは眼を覚ましていない。
この現状を鑑みて、ロマニは新たな診断を下した。つまり、彼らには覚醒を妨げる何かしらの妨害がなされているのではないか、ということだ。それが何かは現在調査中だが。
ただ、様々な検査の結果、彼らにある種の呪いが刻まれているのはわかっているらしい。その具体的な症状や解呪方法などはこれから解明していくことになるだろう。
ロマニはそこまで報告すると、次に一番右に記載されているハズムのバイタルデータを指示した。
「ハズム君の方は、今日の夜にも目を覚ますかもしれない。もちろん、2人と同じように目覚めない可能性も考えられるけど──」
彼のバイタルデータを分析するに、コフィンから出てきたときに一目でわかった通り、体中に酷い怪我を負っていたようだ。3人の中で最も重症なのは彼で、失った血も折れていた骨も多い。だからロマニの診断では3日間は眼を覚まさないだろう、と言われていた。
つまり順当にいけば、今夜には目覚めると予想される。もちろんロマニの言ったように、他の二人と同じ状態に陥る可能性も低くはないが。
「では、ハズムが目覚めた場合には、彼に事情聴取を行います。私たちはロンドンで何が起きたのかを知る必要がある。そして、もし、覚醒しなかった場合には──」
私は言葉に詰まった。そんなこと考えたくもなかった。そしてそもそもの話、覚醒しなかった場合には、カルデアは全ての選択肢を失うこととなる。
私たちには2人しかマスターがいなかった。その二人ともが意識不明のままであれば、もはや私たちに打つ手はない。明確な、カルデアの敗北だった。
「──いえ、目覚めなかったときのことは、その時に考えましょう」
私はそうして決断を先送りにした。最悪は想定されているべきだが、今のカルデアにそれを考える物理的な余裕も心理的な余裕もないだろうから。
「医療班の報告は以上ですか?」
「……はい。現状はこれで全てです。他に何かわかり次第、皆の端末に共有します」
「ええ、そうして頂戴」
ロマニは私の質問にしばし考えを巡らせていたようだが、無難に返答すると、自身の椅子に着席した。
「では、次に技術班からの報告を──」
と、私が会議を先に進めようとしたところ、いくらかの者たちが挙手をした。彼らの顔を見渡すと、皆一様に不安そうな顔を浮かべていた。とても無視できるようなものでもないし、私は嫌な予感を覚えながらもそのうちの一人を適当に選んで指名した。
「……なにかしら。じゃあそこのあなた、どうぞ」
「はい。観測班のナタリーです。私は──恐らく挙手した他の皆さんも同様の疑問をお持ちだと思いますが──所長に確認させて頂きたいことがあります」
「何かしら」
「先ほど所長は、シロガネハズムが目覚めれば、すぐさま事情聴取を行うと仰っていました。それは構いません。必要なことだと私も考えます。しかし──」
ナタリー、という名を聞いて思い出す。彼女はいつも冷静沈着ではあるが気が弱く、このような場で積極的に発言する人間ではなかったと思う。しかし今の彼女はむしろ堂々とした様子で発言している。それだけの不安を彼女は抱えているのだろう。
「──その後は、どうされるおつもりですか?」
「……それは、シロガネハズムの処遇を、ということ?」
「……ええ、その通りです」
努めて冷静に聞き返せば、彼女の方は一瞬気圧されたような様子を見せたものの、ぐっと堪えて返答した。私たちのやり取りに、スタッフたちは騒めいた。
正直な話、このような流れになることは事前に予測できていた。そして、その質問を適当に誤魔化したり、突っぱねたりすることも恐らくできただろう。
だが、そんな対応では不満がたまり、いずれ爆発するだろう。そして、そんな不和を抱えた状態で達成できるほど、人理修復は甘くないだろうとも思う。
私たちは総勢100にも満たない集団だが、それでも最後の人類として戦う者なのだ。世界の危機においてすら一致団結できないようでは、もはや何のための人類なのか。
ともかく、私はこの質問を予期できていたし、そしてそれに対する返答も決まっていた。あとはそれを、彼らに納得させることができるかどうかだった。
「──どうもしません。今まで通りです」
「……はい?」
私の答えに、ナタリーは一瞬あっけにとられたような表情を見せたが、すぐにそれを苛立ったものに変えて反論してきた。
「今まで通り、って……! 所長も見ておられましたよね? 彼がロンドンで、何をしたのか、何を口にしたか! 所長あなたは、もしかして──」
「ええ、もちろん見聞きしていたわ。彼はまず、強大な力を隠し持っていました。人理修復に有用であると思われる力を、誰にも話さずに秘匿していた。そして次に同胞であるはずのリツカとマシュを撃ち抜きました。これが誤射だったのか意図したものかは、我々の観測映像ではわからない。今後の事情聴取で明らかになるでしょう。そして、後はなんでしたか──」
「……『世界を滅ぼす』と、」
「──ああ、そうだったわね。それが本当に可能であったかは置いておくとしても、彼は世界を滅ぼそうとした。そしてそれはアルトリア・ペンドラゴンによって阻止されましたが、一歩間違えれば、私たちは滅亡の危機だったかもしれない。今までの話を総合して、彼にマスターとしての役割を安心して任せられるかといえば、当然“否”ね」
「……」
「どうしたのかしら。もしかして私が、カルデア所長である私が、彼に内包されている危険性を理解できていないと思っていた? ただ、彼に助けられた恩義とか、そういう私情
そう言えば、ナタリーはそれを認めたように小さく頷いた。それに私は内心苦笑する。その批判や懸念は、正直な話ごもっともというか、当然のものだと思うからだ。
私が人理修復などという偉業を成し遂げられるほど大した人間ではないのは事実で。スタッフたちに当たり散らして、レフに依存していた嫌な女だったのも事実で。なら今度は、寄生先をシロガネハズムに変えただけではないのかと、勘ぐられるのも道理で。
ナタリーが思っている通りに、私個人としては、シロガネハズムのことを信じたいと思っている。これは間違えようのない事実だ。しかし、だからと言ってその感情だけで、今の私が動いているわけではない。
「……ナタリー、あなたはどうしたいの? 他の挙手していた面々も。あなたたちは、シロガネハズムの処遇をどう考えているのかしら」
「それは──」
「労役? 監禁? それとも──処刑?」
「そんなことっ──、いいえ。そう、ですね。事情によっては、それらも取りえる手段の一つかもしれません」
彼女は一度は私の問いかけに対して声を荒げたが、無理やり気分を落ち着かせた様子でそんなことを言った。
彼女、ナタリーが本心からそれに賛成しているわけではない事は明白だった。処刑なんてそんな恐ろしい言葉を使いたくないことも、そもそもそれが許されざる行為であるという認識を持っていることも、手にとるように分かった。
しかし、彼女にはそうした良心を押しのけるに値する彼女なりの理由や葛藤があって、
何にせよ、彼女の発言は少なからずあたりに動揺を伝播させた。しばらくざわざわと部屋が騒がしくなって、そのうち我慢ならないといった風に一人の男性が机を強くたたいて立ち上がった。
ジングル・アベル・ムニエル──金髪丸顔で、いつもはふんわりとした雰囲気を漂わせている彼だが、しかしこの瞬間は今までに見たこともないほど感情を昂らせていた。
「お前、ナタリー、正気か!!? そんな恐ろしいことを言うなんて、恥を知れよ! お前の今の発言は、観測班の同僚として絶対に許せない!!」
「──私は、間違ったことを言っているつもりはないわ、ムニエル」
「どこがだ! フジマルもシロガネも、大切なカルデアの仲間だろう!? 一番危険な任務に、怖くても自分を奮い立たせて赴いてくれる二人だ。俺たちが一番大切にしなきゃならない、感謝しなきゃならない存在だ!」
「わかってるわよ!! でも、私たちはあんなことがあっても仲良しこよし、なあなあで過ごしていいなんて、そんなことが許される集団じゃないでしょう!? 私たちは、もう
その言葉は、とても痛烈な衝撃を私たちに与えたと思う。皆が心の中に持っていた使命感。それが、今では“仲間を大切にする気持ち”と対立している。どちらを優先すべきか、どちらを重んじるべきかなど、本当の正解はだれにも分かりはしない。
「……私たちは、一つの失敗で終わりなの。もう崖っぷちなの。生きているだけで奇跡なのよ。ここから逆転するために、不安材料は、なんとしても、取り除いておくべきだと思います」
「それで、シロガネを監禁して──あまつさえ処刑したとして、それに意味があるのかよ。俺たちは外道に堕ちて、二人しかいないマスターは一人になって戦力も減る。そして残ったフジマルはシロガネと親友関係なんだぞ? 俺たちがシロガネをどう扱ったかを見て、それ以上旅を続けてくれるかも怪しいだろ。それでどうして、この先やっていくっていうんだ……」
「──それは、それはそうだけど、でも……」
ナタリーはムニエルの反論に一瞬口ごもったが、それもすぐに打ち払って、なにか覚悟を決めたようにして返答した。
「一つ言わせてもらうなら、私は……私たちは、もう外道よ」
その言葉はきっと、カルデアの誰もが心の奥底ではそうだと感じていて、けれど口には出さなかったことだろうと思う。ずっと前のめりになってナタリーに言葉をぶつけていたムニエルが、この瞬間はびくりと身を引いた。
「デミ・サーヴァント計画でどれだけの命を弄んできたか覚えてないの? そもそも彼ら二人だけで特異点攻略をやらせていることすらも、本来ならおかしいことでしょう? 彼らに行くか行かないか、選択の余地は確かに与えた。けどそれは、本人の意思を尊重したようで、実際そんなことはないわ。だって彼らにしかできないことだもの。彼らは頷く以外の選択肢がなかっただけでしょう?」
私たちは、既に大儀のために色々なものを犠牲にしてきたのよ、とナタリーは零した。そして最後に、彼女なりの結論でこの議論を結んだ。
「──今さら、良心や倫理なんかを気にする権利は、私たちにないわ。なら私たちはせめてそれを最後まで貫いて、外道として世界を救うべきよ。犠牲を無駄のままに終わらせないように」
彼女はもう全てを告げた、と言わんばかりに無言で着席した。反論するものは現れなかった。
「────ぁ、オルガ?」
見かねたのか何かを告げようとしたロマニをそっと制す。この軋轢は、この葛藤は、私が責任を持つべきもので、私が解消すべきものだと思ったからだ。
父、マリスビリー・アニムスフィアの時代から引き継がれてしまったこの闇を。カルデアに蔓延る思想と、職員たちの後悔を。
私は、カルデアの所長として、その責務として、これを背負っていかねばならないのだと。
人理継続保障機関カルデアは、マリスビリー・アニムスフィアによって設立された。役目は、人類史の継続を観測し、以降それが守られていることを保障すること。
父は、その役目を果たすために、きっとあらゆる手段を用いてきた。そこには正しき行いだけではなく、ナタリーが告げたような外道そのものの行いも多くあった。
だからこそ。それがきれいごとに過ぎないとしても。それが、ただの自己満足に過ぎなくて、これまでの犠牲に報いることのできないものだとわかっていても──私は。
「──皆、手帳は持っているわね?」
いきなりの言葉に皆は困惑した様子を見せたが、私が自分の胸元からカルデアのエンブレムがうたれた紺の手帳を取り出すと、同じようにしてそれを手に取った。
私は全員がそうすることを確認して、指先で一枚、手帳の表紙を捲った。分厚い材質は手帳の表紙にしては少し重くて、私に開かれることを拒否しているかのような気がした。
「表紙裏、項目名“人理継続保障帰還カルデアの理念について”──ナタリーの言ったことは真実よ。私たちはそんな犠牲を払ってでも、人類史のために動かなければならない」
指先で、印字されたそれをなぞりながら言う。私たちカルデアの理念。この組織がなぜ立ち上げられたのか、なんのためにあるのか。手帳にはそれがはっきりと記されている。
“それが人理継続という大義に背かぬ限り。そこにどれだけの倫理の欠如、良心の不足が存在しようと、それを黙殺し無視し、カルデアの
“我々の役目は、倫理や人権の保障ではなく、ただ一つ人理継続の保障であるということを忘れてはならない。”
これが、父の覚悟と決意の表れだ。何を犠牲にしようとも人理の継続を保障するという、不退転の信条。
「これは、私たちカルデアの理念であり、根幹でもあります。そうとわかっていながら、あえて言いましょう──
──こんなものは、クソッタレだと」
私はそんなことを言いながら、自身の構成員手帳を床にたたきつけて踏みにじった。皆はその光景に一様に息をのんだ様子だった。私はそれに頓着することなく、淡々と彼らを諭すようにして言葉をつづけた。
「私たちは、これまでにいくつもの過ちを犯してきました。父の理念に従って、大儀のために全てを犠牲にした──父が所長だった時代はそうだった。ですが今は、父は死に前所長と呼ばれるようになった。今は、誰でもない、私が所長です」
「貴方たちにとっては、私が頼りない人物に映っていることぐらい百も承知です。カルデア所長として、能力すべてが相応しくないということもわかっています。ですが、私はこの席を手放すつもりも、あなたたちにへりくだるつもりもありません」
「なぜならば、私にはこの席でやりたいことが──この席でしかやれないことがあるから。それは、あなたたちに対して命令すること。能力や人望に劣る私は、しかしこの席があるために、あなたたちに上から命令することができる」
「私は所長として命令します。逆らうことを許さない命令を。私のカルデアでは、
「その代わり──もしスタッフの中に仕事をしたくないという者がいるなら、それを許します。何もかもに絶望して頑張ることが無益だと感じられるのなら、滅亡までに残る時間を自由に過ごすことを許します」
「──もし、マスター二人が、もう特異点攻略なんてしたくないというのなら、それを許可します」
「なぜならば、我々は、人類の代表者だからです」
私は、そんなことを言った。ナタリーはその言葉に目を丸くしていた。彼女の主張では、私たちは最期の人類──人類の代表者だからこそ、非道に手を染めてでも人理修復を成し遂げる使命がある、ということだったからだ。
私の考えは違う。私たちは人類の代表者だ。
「私は、私のカルデアは。父とは違う」
私は、私の正しいと思うことをやる。父の背を追いかけることに意味はないのだと、人にはそれぞれに、やりたいと、やらなければならないと思えるものがあるのだから。
「犠牲なんてもう沢山よ……人類史のために人があるわけではない。人のために人類史が存在するのですから」
それがどれだけ皆の心に響いてくれたかは分からないが、それでも彼らがそれまでに握っていた手帳が、いつしか手放されていたことは事実だった。
横に控えていたロマニとダヴィンチが、驚いた様子で私を見つめている気配がした。
そうして、二人は、私に優し気な笑みを向けた。「成長したね」、とそう言われているようで、こそばゆい気持ちだった。
「……さて、では話を戻します。シロガネハズムの件は、事情聴取完了の後、皆に共有します。私たちがこれからどうしていくのか、どうなってしまうのか。情けないことに、私にはそれを断言できませんが──」
そう言いながら見回すと、ナタリーとムニエルの二人が、足元に落ちた手帳をじっと見ていた。二人には二人なりの正しさがあって、色々な葛藤があるのだと思う。
ナタリーはそのアーモンド・グリーンの眼に涙を浮かべながらも、どこかホッとした様子を見せていて。
ムニエルの方は、拳を握りしめて、何事かを考えている様子だった。きっと不甲斐ないと思っているのかもしれない。
私はカルデア所長としての権力を使って、無理やりに議論を終わらせて、主張を通したに過ぎない。納得していない者は当然いるだろうし、胸に燻りを抱えている者も当然いるだろう。
それでも、私は──
「──この先に何があろうと。私は、シロガネハズムを切り捨てることは許しません。もちろん、あなたたちがつぶれることも。誰一人欠ける事なく、私たちは未来を取り戻します。今までに行ってきた非道に対する懺悔も、贖罪も、私に対する文句も、罵倒も。全てはその後に聞くわ」
──いつの日か、全てが終わって。全てを片付けて。カルデアが全ての罪を償って。
そうしていつか、ハズムが、リツカが、マシュが、カルデアの全ての人々が。
何も胸に抱えるわだかまりなく、笑いあえる日が来るのだと、信じているのだ。
◆
◆
身を灼け焦がす炎と、怨嗟と、後悔の声。
墓標のように立った刃の大群。吠えたてる憤怒の匂いが支配する、どこかの誰かの地獄。
すくり、と彼女は立ち上がる。その身を苛む怒りと怨みに、顔をしかめながら。しかし、どこか遠い目的地に一歩一歩踏みしめるようにして。
存在すらも曖昧、泡沫の夢と同じ。いつか消えてしまう、空想のひと。どこでもないどこかで、誰でもない誰かとして。いずれひっそりと世界に溶けていく。
それでも、この手に触れた誰かの、その心がある限り、彼女の炎は燃え続けるだろう。
──手繰り、手繰り、手繰り、寄せて。
もう一度、彼の手を握るために。
──ところ変わって、カルデア、英霊召喚システム・フェイトの稼働する、召喚室。
カルデアの全職員がミーティング中であり、またマスター二人が昏睡状態のために、この場所の電源は落とされて、真っ暗な闇が支配している。
誰もいない、誰も見ていないその場所で、ひっそりと赤黒い火の粉が立ち上った。
いずれ、その道を拓き、押しかける。その時のために。
怨嗟の地獄から這い出でるその時の、たしかな標とするために。
ナタリーはオリキャラです。(fateでほかに“ナタリー”ってキャラがいたらごめんなさい)ムニエルはみんなが知るあの人ですね。
原作においてはカルデアの人々は人間的にとても素晴らしく良い人で描かれてますが、それならデミ・サーヴァント実験なんかにはそれなりの後悔や罪の意識があったと思うんですよね。
ナタリーはそういう非道をしてきたからこそ、その犠牲を出した意味を果たしたい。
ムニエルはそういう非道をしてきたからこそ、もうこれ以上の犠牲はこりごりだ。
というそれぞれの違う主張がぶつかった回でした。
それぞれの主張に同意する職員の比率は3:7くらいでムニエル優勢かなと、そう意識しています。
ムニエルの方が多数ではあるけど、ナタリー側は無視できるほど少数でもない、とそういう感覚で書きました。
だからオルガマリーには無理やり決断を通してもらったわけですね。
一応書いておくと、ハズムの処刑に心から“賛成”の人は一人もいません。
心でどう思っていようと、人理修復という偉業のためにはその心を殺す必要がある、と思っている人がいくらかいるだけです。
まあ、これで一応主人公処刑フラグは折れたかな。別に人に殺されるだけが死因じゃないから、死亡フラグは折れてないけど。
死亡フラグ折るのはだれかなー、誰だと思う?(唐突)
まま、それはいいでしょう。
とりあえず、最後まで読んでくれてありがとナス!
前回も感想やお気に入り、評価ありがとうございました!
そして今回もよろしく。もっともっと
ほんじゃま、また次回。さいなら!