投稿頻度不定期すぎでごめんなさい!
本当はセプテム編1話と一緒に出す予定だったけど、あまりにセプテムが書けないから先に投稿したよ!
ま~たインタールードかよって思っても広い心で許してね。
それはそうとボックスイベおつかれさまです!
ちゃんと100箱開けた兄貴はすがすがしい気持ちで読んでくれ。
惜しくも100箱に届かなかった兄貴は、次こそはという悔しさを込めて読んでくれ!
オルガマリー・アニムスフィアは、片時たりとも、自分の中の劣等感を忘れたことは無い。
優秀すぎる父親。娘の自分を差し置いて、父の後継者と噂される
周りには自分よりも優秀な人間があふれていて、誰もが自分にないものを当然のように持っている。それぞれが自分の中に、誇り高き
では、自分の
──あの日までは。
◆
私は、食堂への道を歩いていた。第一特異点オルレアンの修復は無事に終了し、現在カルデアは第二の特異点へ向けての調整稼働中だ。私も所長として、データ整理や管制室での指揮などを日々行っているが、今は小休止の時間だった。
食堂といえど、そこは栄養食とドリンクの自販機が並び、いくつかのテーブル席が用意されただけの一室だ。ほとんどの職員は、必要なものを手に入れれば、自分の職場に持ち帰って食べているだろう。なにせ、栄養食は不味いというわけではないがおいしくもない。そんな食事をテーブル席で誰かと和気あいあいと食べるような人間は、カルデアにはいないということだ。
実際、今の私もそのつもりで、コーヒーでも調達して所長室でゆっくりしようと考えていたところだった。常から食事についてはとらなかったり、とってもドライフルーツのようなとても軽めのものだけを口にしていた。それは私が生来小食であるというのが一つの理由だが、
お父様が死んでから、私の胸からは、もともと希薄であった自己の証明──生きるための証のようなものが零れ落ちていった。以前までの私は、それが何よりも怖かった。心の器に残った、あと数滴の自己肯定感、私が私であるためのすべてが無くなったとき、それはきっと、私という人間の終焉を意味するように思えたからだ。
だからこそ、カルデアの維持に躍起になった。お父様が遺したこのカルデアは、私が人の世にしがみつくための、最後の砦。私の価値を証明できる、最後のチャンスだと思ったのだ。
──だけど結局、このありさまだけれど。
「……」
食堂にたどり着く。自販機に近づき、コーヒーのスイッチをおした。プラスチック製のカップがセットされて、自販機からは砂糖やミルクの有無を尋ねられる。当然、ブラックにした。
豊かな香りが食堂を満たした。自販機に並ぶドリンクにはある程度職員の希望が反映されているが、コーヒーだけは、私の権限で、銘柄や温度などに一切の変更を許さなかった。そのおかげもあって、食堂のコーヒーは非常に私好みの味に仕上がっている。もちろん、豆から人の手で淹れるものとは比べ物にならないが、自分の手を煩わせたくないときには、これでちょうどよかった。
そんなことを思いながら、出来上がりを待っていると、ふと扉の開く音がした。こんな中途半端な時間に食堂に来るなんて、誰なのかと思えば、そこに立っていたのは、あのシロガネハズムだった。
「こんにちは、所長」
「……ええ」
彼は不機嫌そうな表情のままではあったが、礼儀正しく挨拶をした。第一印象ではこの表情が失礼極まりないと思っていたけれど、もう一人のマスター、藤丸立香によればいつものことだというから、もう気にしないことにしている。事実、彼は表情以外のことにおいて、特に礼節にかけるふるまいをしたことはない。
私が最も信用しているレフ──レフ・ライノールは、いつも印象の良い笑顔を浮かべる紳士だった。わたしはその彼のことをとても頼りにしていたし、好感を持っていた。レフがいたからこそ、お父様の死からこれまでをなんとか過ごしてこられたと思う。
そんな訳だから、まるで彼と正反対の表情を続けるシロガネハズムという人は、私にとってはとても受け入れがたいというか、間違っても仲良くするとか、信頼するとかいう選択肢が浮かんでくるような相手ではなかったはずだった。
そう、はずだったのだ。
「ハズム」
「? はい、オレになにか」
「ここへは食事をしに?」
「いえ、訓練していたら、のどが渇いて。休憩がてら、お茶でもと思ったんで」
彼の姿を見れば、確かに特異点用の魔術礼装に身を包んでいた。今日もダヴィンチの訓練を受けていたのだろう。少し疲れているようにも見える。オルレアンで足手まといになってしまったと悔いていたようだったから、いつもよりも熱が入っていたのだろうか。
自販機のほうをみやると、コーヒーは完成していた。カップを手に取って、私はちょうどいいと、彼の手を引いた。
「休憩するなら、所長室に来なさい」
「──へ?」
「私の休憩に付き合いなさい。オルレアンのことで、いくつか聞きたいこともあったしね」
私はそういって、彼を誘った。
仲良くするとか、信頼するだとか。そういった選択肢がないはずだった相手。そんな人を、お茶にまで誘った理由。それは、今の私にとってきっと──シロガネハズムが、シロガネハズムだけが、
◆
「──もう、魔術は十分に扱えるようになったかしら」
所長室の応接用ソファ。高級で柔らかなそれに、テーブルを挟んだ対面で座った私たちは、オルレアンのことをはじめとして、様々な話題について話した。今は、彼の魔術についてだ。
第一特異点オルレアンで、彼は魔術の加減ができずに魔力欠乏や回路の疲労を起こしていた。彼の帰還後、ダヴィンチはそんなことが二度と繰り返されないように、彼に自分の限界を教え込むと意気込んでいた。
「ええ、まあ。先生の教え方がスパルタ式になったのもあって、どうにか」
「そう」
苦笑しながら言う彼。彼は微笑みを浮かべる人ではないが、こうやって苦笑いをすることはよくある。それが仏頂面ではない彼を見ることのできる、数少ない機会だった。
彼がそうして、感情を少しでも表に出してくれるというのは、私にとってうれしいことだ。このお茶会が彼にとって警戒や苦悩をする必要のない、息抜きの時間になっているという希望が持てるからだ。
「……」
「……」
しばらくの間、部屋にはカップとテーブルの間に鳴る音だけが響いた。お互いの持ち込んだ飲み物が尽きたとき、私は意を決して
「ねえ、ハズム?」
「はい」
「どうして、あのとき、竜の魔女に手を差し伸べたのかしら」
「……前も言ったと思いますけど」
「そうね。でも、真実を聴きたいの」
私は、彼のことを評価している。これは、私個人として生きるための証と彼を見るのとはまた別で、純粋に、私情を挟まない
彼は私の──あるいはカルデア司令部の下す命令には従順である。そして、結果もしっかりと残す人だ。
また、どうしても感情に引っ張られやすいリツカ(もちろん感情に従うのは必ずしも悪ではない。それはリツカの長所であり、短所でもある)と違って、ある程度に冷静で、義憤や正義感を抑え
特異点攻略に対する意欲も高く、できうる限りの努力をもって挑んでいるだろう。そもそも、いくら才能があろうと、1か月に満たない訓練であれほどの魔術を行使できるまでには、血反吐を吐くほどの修練を必要としたはずだ。それをやり遂げたのだから、カルデア所長としては、彼を評価せざるを得ない。
総評として──彼は今のカルデアに欠かせない存在と言える。リツカと並んで、人理修復のための大切な人員だ。その優秀な能力や努力できる精神は必要である。もちろん
けれど、彼はあのとき、あの竜の魔女の領域に足を踏み入れて、あまつさえ手を握るなどという、危険極まりない行動をした。そんなことをすれば、自分が死ぬかもしれないことも、そうなれば、人理修復を目指すカルデアにとってどれほどの損失かも、わかっていたはずなのに。
事実、炎上した大理石に接触した彼の膝は焼け爛れていたし、彼女に最期に握られた手のひらは、よほど強い力で──まるで
彼の行いが、そこまでのリスクを負ってすべき行為だと、私には到底思えなかった。リツカがやってしまうならまだわかる。けれど、今回行動したのはハズムだった。それが私には、不思議でならなかったのだ。──あるいは、嫉妬していたともいえるかもしれないが。
私は彼が帰還後に目を覚ましてから、真っ先に今回と同じ質問をした。その時、彼は曖昧に笑って「なんででしょうかね」と答えていた。きっと、ふざけていた訳ではなく、帰還直後のあの時は本当にわからなかったのだと思う。彼は困惑した顔をしていた。
自分がしたことの価値とか、意義だとか、そういったものが見えなかったのだろう。きっと、あれは彼の奥底──効率だとかそういったものを無視する強い思い、
今回もう一度質問したのは、そろそろ彼が自分を見つめなおして、あの行動に対する答えを得ているだろうと思ったから。そして、彼のその答えを聞いて、彼という人間の奥底を覗きたかったからだ。彼が持っている
私の中にはない、強い意志。とっさに体が動いてしまうような、
「──きっと、正義とか、そういう美しいものではないんです」
彼はカップを両手で包み込むようにして持つと、それをぼうっとのぞき込みながら話し始めた。カップの中は空だったが、彼はその向こうに何かを思い浮かべているのだと思う。
「たぶん、同情だとか、同族嫌悪だとか。彼女がいつかのオレと似ていたから、見ていられなかったんです」
「……」
「オレは、いちど世界すべてを憎んだことがあるんです。ヒトも神も、全部滅びてしまえばいいのにって」
そう語る彼の青色の眼には、いったい何が映っているのだろう。おおきくひらいた瞳の奥底に、銀と紅が瞬いているように見える。
「でも、でも。見守っているって、なによりも大切な人たちが見守っているって言うから。オレはそれに救われたんです。だから、
「だから、彼女に手を?」
「はい。けれど、あれはオレから彼女への言葉なんかじゃなくて──母から、オレへ向けた言葉です」
「え──?」
「いつかのオレに似ていたから、過去にオレを救ってくれた言葉をかけただけ。それだけなんです。失礼なことをしましたよ。おかげで、この様です」
そういうと彼は、包帯の巻かれた手のひらをかるく上げた。もう骨折は完治しているが、大事をとっているのか、包帯はいまだに取られていない。
彼は、竜の魔女が彼の言動に
私は思わず、彼の手を取った。彼の手は痛々しかった。今回の傷だけではない、傷だらけの手のひらは、彼の修練の証だろうか。竜の魔女は──あるいは私は、この手に救われたのだ。
その手に込められたものが、正義感ではない、同情や、同族嫌悪や、使命感であっても。正しき思いではなくとも。絶望や孤独にまみれた地の底で、なんの見返りもなしに差し出される手は、なによりも、誰かにとっての救いになるのだ。
「ハズム」
「はい」
「ありがとう」
「……はい?」
よくわからないといった表情で、ハズムは私を見た。それがおかしくて、思わず笑ってしまった。
一度目に手を握ったときは、身を包み込む炎と、崩壊した指令室と、真っ赤なカルデアスが彼の背後に見えた。それにどれだけ私が絶望したことか。私の中の生きる意味がすべて崩れた瞬間だった。
けれど。
あの時、ひとしきり絶望した私は、ようやく自分の手を握る彼に、泣きながら、縋り付くように私の手を握りしめる彼に、視線を戻した。そして彼が口にした言葉は、人生を見失っていた私にとって、なによりの救いであった。
『よかった──生きてて、助けられて、よかった……!』
その言葉が、あの時の私にとって、どれだけの救いであったか。
私は、私の生存を喜んでくれる誰かに、あのとき初めて出会ったのだ。
あの時、私の空っぽの心には、生きる希望が注がれた。その希望は、人類史上最大の窮地である現在においても、私の中で熱を放ち、私の心を温めてくれている。
あのとき彼が口にした言葉を、私を救ってくれた凡庸な少年のありきたりな言葉を──きっと私は、生涯忘れることは無いだろう。
◆
◇
20XX/XX/20
今日は、少しだけ、良いことがあった。
休憩がてら、所長と一緒にお茶をしていたら、彼女にお礼を言われたことだ。
彼女から感謝の言葉をもらったのはこれが初めてではないけれど、やっぱり嬉しいことに変わりはない。
不覚にも、少し泣きそうになった。
母さん、オレは、あなたに誇りをもって語れるような人生を歩んでいますか。
ありがとう、とそう言われたのなら、きっと正しいことなんだろうけど。
でも──なんだろう。
何かを、忘れているような気がするんだ。
◇
◆
「先輩とハズムさんには、もう一人親友と呼べる方がいたんですね!」
「うん、これが俺、こっちがハズム──で、こっちがもう一人の親友、ナツキね」
シミュレータでの訓練が終わって一息ついていた俺は、過去のことを教えてほしいとせがんでくるマシュに対して、写真を片手に思い出話をしていた。今手に持っているのは、中学卒業の時に撮った写真。ハズムの変わらない不機嫌顔と、ナツキの溌剌とした笑顔の対比が面白い。
いろいろなことを話したけれど、ほとんどは、いつもの3人での思い出ばかりだ。中2で出会ってから、大学に至るまで、ずっと一緒だった俺たち3人には、世間知らずのマシュでなくとも、あっと驚いてしまうような話がいくつもあった。
マシュに話しながら、俺も色々なことを思い出して──少し、涙ぐむ一幕もあった。
人理焼却によって、カルデア以外の全人類が滅びたということは、ナツキもその中にいるということだ。世界を救えばまた会える、と言い聞かせても、どうにも悲しい気持ちは押さえられなかった。
俺たちは拉致同然にカルデアに連れ去られたから、ナツキとは突然の別れだった。彼女もここにいれば、頼もしかっただろうに。
「……それで、その……」
「うん? どうしたの?」
「ナツキさんが、その……ハズムさんに恋をしていた、というのは……本当に?」
「ああ! うん! 間違いないよ。ナツキから相談を受けたことがあったからね。『あの自己評価低男は、どうすれば恋愛を考えるようになるんだ』って具合に」
あれは、高校2年の時だっただろうか。たしかハズムが後輩の女子に告白されたのだ。本人は『今はそんなこと考えられないんだ』と断っていたけど、それを知ったナツキはハズムが誰かに取られる可能性を感じたのか、恋愛に積極的になったのだ。
とはいえ、ハズムは本当に恋愛に対して、なんというか完全に
それは彼の過去に関係しているんだと思う。俺は彼の過去について詳しくは知らないけれど、彼が家族を望まぬ形で失ったことくらいは知っている。それによって彼の心に陰りが生まれたことも。
「私には、恋愛感情というものが正確にはわかりませんが──その、ナツキさんが恋をしたきっかけというのは?」
マシュが興味津々といったふうに聞いてくる。一般からはなれたところの多い子だけど、こういうところは年頃の少女らしくて、かわいらしい。
「えーと、たしか、幼い時に危ないところを助けてもらったとかだったかな? ハズムは覚えてないらしいけどね」
ナツキはハズムに助けられたことを覚えていた。しかし、ハズムは助けたことは覚えていても、その相手がナツキだとはわかっていないようだった。
物語にあるような、素晴らしい運命ではあるが、ナツキは自分が助けられたことを、ハズムにまだ打ち明けてはいない。彼と付き合えたらカミングアウトする、と言っていた。
「幼いころ、というと、小等教育のときですか?」
「えーと、たしか」
マシュに聞かれて、考える。正確な日付は知らないけれど、小学4年生のときの話だったはずだから──
たしかあれは──そう。俺たちが10歳のとき。ハズムの家族が亡くなる2年前のことだ。
竜の魔女の感謝の言葉は届かなかった。
けれどその代わりに誰かが彼に感謝を伝えた。だから彼は大丈夫なのです。
母の言葉は子を救い
子の言葉は少女を救った。
救われた誰かが、ほかの誰かを救い──そうすることで人の輝きは紡がれる。
救いはつながる。
これは本編に全く関係のない話なんですけれどね。
言葉というものは誰かを救うことができる反面、誰かを呪うこともできると思うのです。
衛宮切嗣の言葉がエミヤシロウを救う反面、時には正義の味方に彼を固執させたように。
特に自分にとって大切な誰かの口から紡がれた言葉には、自分という人間性に強烈な衝撃を与える力があります。
さて、どこかの少年は母の言葉に
そしてこれも全く関係のない話ですが。
人間、よかれと思ってやったことに対して、たまに思わぬしっぺ返しがあります。
例えば、ですが。ある少年は、命の危機から少女を救いました。感謝され、好かれもしました。
けれどその先に待っていたのは──大切な人を失うという、耐え難い地獄であったのです。
──なんて、関係のないこと書いてごめんなさいです!
感想、評価ばっちり待機してます!
遅筆で申し訳ないけれど、応援してくれたらいっぱい頑張るんで!