7つの銀弾   作:りんごとみかんと餃子と寿司

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が、学生は冬休み期間中だから実質これ正月休み中やし……

まあ冗談です。ちょっと時間かかりました。ごめんなさい。

アルトリアの心理描写はキャラにあってるかなあ。あんまり自信ない。

さいきんFGOからはなれぎみだったけど、満を持しての村正実装と満々満を持してのアビーピックで再燃してるんだ。

ちなみに僕がFGOで一番好きな鯖がアビーです。この時を待ってたんじゃ……





オケアノスー2

 

 

 

私──アルトリア・ペンドラゴンは英霊だ。

 

英霊という存在は、人類の未来を憂い守るための役割としてこの世界にある──と少なくとも私はそう考えている。

 

私は、サーヴァントだ。

 

サーヴァントという存在は、召喚主(マスター)の願いを叶えるために、共に歩む者である。マスターを守る盾となり、道を切り拓く剣となるために存在する──私は少なくともそうありたいと願っている。

 

私は、英霊であり、サーヴァントだ。それは違えようのない事実である。どちらでしかないというわけではなく、()()()()私の姿であり、役割なのだと思う。

 

けれど、英霊としての役割と、サーヴァントとしての役割、その二足の草鞋を履くことが常にできるというのは、甘い考えでしかない。

 

例えば、マスターが心底良き人柄で、その願いもその人格もすべてが好ましく、信頼できる人物であるとしたら? その人物に味方することがどのような結果を招いても、私はサーヴァントとしての役割を全うし、英霊としての自分を捨てるのだろうか。

 

例えば、マスターがどうしようもなく、人類を滅ぼすほどの巨悪であったとしたら? その人物がどれだけの正しき人間性を持っていたとしても、私は英霊としての義務を遂行し、サーヴァントとしての役割を放棄するのだろうか。

 

 

 

私は、選択しなければならない。いつかのように、切り捨てるべきものを。

 

このような瞬間が来るということを、私は薄らと予感していたはずであったのだ。しかし恥ずべきことに、それを私は考えないようにしていた。

 

だから、これはそんな私への罰なのだろう。

 

 

 

大儀のために(英霊として)、哀れな少年(マスター)の首を刎ねるのか。

 

 

 

情のために(サーヴァントとして)、世界を滅ぼしかねない少年(けもの)を見逃すのか。

 

 

 

私は、サーヴァントとして(英霊として)、私が果たすべき役割を、選ばなければならない。

 

 

 

 

 

 

リツカの「ハズムを頼んだ」という言葉に了承の意を返し、さらには無事に送り届けるなどと約束をしたのは、ハズムとの契約パスが切れていなかったからだ。

 

──正確に言うとすると、瞬間的な魔力供給の途切れはあった。しかし、すぐに元の安定した供給に持ち直したという事実を鑑みて、ハズムは重傷を受けてはいる(そして、その傷を受けた際に供給が一瞬途切れたのだろう)が、パスが切れていないのであれば致命的なまでには至っていないだろうと考えたのだ。もちろん、早急な救助が必要であろうことは疑いようもないが。

 

正直に告白するとすれば、私は焦っていた。ヘラクレスとの戦闘では私が攻撃、マシュが防衛の役割であったにしろ、あの投擲を防げなかったのは私の失態に違いない。

 

私はハズムのことを疑っているし彼と信頼を結んでいるわけではないが、それでも彼をどうなってもいい、どうでもいい人物だと考えているわけではないのだ。彼を危険にさらしたのはサーヴァントとして失格だと、私の心の内は焦燥と後悔にまみれていた。

 

だからこそ、私は見誤った。ハズムは大丈夫なのだというありもしない希望にすがった。

 

()()大英雄ヘラクレスが全力で行った投擲が、なんの防御魔術すら使用しない生身の人間に直撃するなどという事態。その結果は火を見るよりも明らかだったというのに。

 

 

 

 

 

 

粉々に崩れた下水道レンガ壁の向こう、夜より深い暗闇に足を踏み入れる。地面は苔と水が敷き詰められているようで、油断すれば足を滑らせてしまうだろう。

 

「──マスター、どこにいますか?」

 

暗闇の向こうに声をかける。傷の具合を想像するに、返事を返す元気があるかどうか、確率は半々といったところだろうか。

 

「……」

 

返事はなかった。少なくとも声を出せない状況にあるのは間違いないらしい。探さなければ、と気がはやる。両手で構えていた剣を霧散させ(しまって)、代わりにカルデアから支給されていたライト、そして魔術スクロールを握りしめた。

 

マスター、そしてサーヴァントには、ダヴィンチ謹製の探検バッグが支給されている。入っているのは快適な特異点攻略を目標とした便利グッズだ。

 

例えば、エネルギー供給無しで半年は発光を保つライト、ゾウが5匹ぶら下がろうと切れないロープ、1粒で一週間は活動できる栄養食──そして、ほとんどの傷をふさぐ治癒のスクロールなど。

 

私という剣の英霊には、剣をふるうこと以外に能力がない。バッグがなければこの暗闇の中マスターを探せなかっただろうし、見つけたとしても有効な治療行為すら行えなかったに違いない。

 

ライトをつける。マスターの姿は見当たらない。この空間のどこかにはいるはずなのだが。

 

ライトの光を右へ左へ動かして捜索していると、ふと奇妙なものが視界に入った。

 

 

 

「うで……?」

 

 

 

人の、腕だ。

 

その時私は、ようやく自分の犯した失態の重さを正確に理解したに違いなかった。

 

「──っ、ハズム、ハズム! どこですか、返事をしてください!」

 

返事がないことは既に確かめたはずであるのに、みっともなく彼の名前を呼んだ。

 

今、私が右手に携えている治癒のスクロールは、万能の天才が自信作と豪語するだけはあって、()()()()の傷や毒を治療してくれる。だが──

 

「早く、探さなければ。彼のうでが──」

 

地面に落ちている彼の右腕を拾い上げて、極力衛生そうな場所に置く。そして、あちこちに散らばったがれきをかき分け始めた。見当たるところにはいなかったから、どこかの下敷きになっているに違いないと考えたのだ。

 

──治癒のスクロールは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。欠損部位がちゃんと残っていて、時間が経ちすぎていなければ、という条件がそろっていなければ治療は不可能である。ダヴィンチはスクロールを配った全員にそう注意していた。

 

つまり、今は彼の腕がつながるかつながらないかの瀬戸際なのだ。そうでなくても、腕を失ってしまうほどの重症は、私たちのような英霊であればまだしも、今の時代の人間であれば命に関わるのではないだろうか。そう思い至ると、焦りが大きくなってくる。

 

ああ、なぜ私はハズムが五体満足で無事であるなどと思い込んでいたのだろうか。無事に送り届けると約束したリツカや、当のマスター本人に、どう許しを請えばいいだろう。

 

よく見れば部屋のあちこちに血が飛び散ってしまっている。もしかして体ごと粉々になってしまったのではないかと、悪い想像だけが繰り返されていく。雪崩のように押し寄せる後悔に苛まれながらも、がれきをかき分け続ける。

 

 

 

突然──バァン!と、何かが弾けるような音があたりに響いた。

 

それは耳をつんざくように鋭い爆発音で、一心不乱にがれきをかき分けていた私は、英霊として恥ずかしいことに、ビクリと驚きに体を震わせた。

 

「銃声……? 一体どこから」

 

今の音は、ドレイクや黒ひげが使用していたピストルという武器の音、銃声と呼ばれるものに良く似ていた。

 

音の方角を振り返ると、そこには暗闇の中にひときわ輝く()()()()()が浮かんでいた。

 

 

 

 

明らかに物理的な法則に反して浮かんでいる銃弾は、おもむろにくるくると回転を始めた。

 

そうしてそれに巻き込まれるようにして、あたりから()()()が引き付けられていく。

 

「これは──血?」

 

あたりに散らばった血液や肉片が、弾丸の周りをまわり始める。そしてある程度集まったかと思えば、弾丸を中心として何かを形作っていく。

 

「ああ!、ハズムの腕を!」

 

あまりの光景に目を離せなくなっていると、先ほど見つけたハズムの腕までもが、その集合体に引き付けられて、吸収されていくように消えた。

 

まったく理解できない光景だった。マーリンから魔術の修行を受けた身ではあったが、このような現象を生ずるものに覚えはなかった。

 

 

 

 

──いや、きっと理解はできていなくとも、予感はあったのだと思う。

 

ハズムの腕、ハズムの血液。それによって形作られるものなど一つでしかないのだろうと。

 

そうして、私の不安や心配は幸いなことに杞憂となった。謎の現象によって、ハズムが──おそらくは粉々になって明らかに死亡していたであろう彼が、奇跡的に()()()()()という結果を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起き上がったとき、真っ先に目に入ったのは、透き通るような金の髪と、白銀の甲冑、青い鎧下──勝利の聖剣。

 

座り込んだ状態で呆然とセイバーを見上げた。あとは月光でもあれば、彼女は「貴方が私のマスターか」なんて言い出しそうだ。

 

もっとも、Fateファンなら名シーンとして容易に思い描けるその光景と違うのは──オレの首に、星の聖剣が添えられてるということだ。

 

セイバーの右手があと少しでも力めば頭と体が泣き別れしてしまうくらいに、ぴたりと髪の毛一枚分の隙間もなく首に刃が触れている。伝わってくるのは、命を奪う凶器特有の背筋を撫でるような恐怖と、意外なほどのあたたかさ。

 

聖剣といっても剣なのだから、もっと冷たいものなのだと思っていたのに。まるで人肌に触れているかのようだ。

 

 

 

「何を呆然としている」

 

厳しい物言いが鼓膜を震わせる。いつもは礼儀正しく接してくれていた彼女が、敬語を使わなくなっている。それに気づいたとき、オレは自身の蘇生の光景を見られてしまったのだと察した。

 

「説明しろ、ハズム。返答によっては──私はあなたを、切り捨てなければならない」

 

オレは、彼女を説得しなければならない。これまでに隠してきたことを、オレの掲げる目的をもって。

 

彼女は許してくれるだろうか。納得して、剣を収めてくれるだろうか。……これからも、ともに戦ってくれるだろうか。

 

オレは、彼女のことが好きだ。恋とかそういう話ではないが(オレにそんな権利はない)。Fateのいちキャラクターとして、一人の人間として、こんなオレにも仕えてくれた良きサーヴァントとして、彼女を好ましく思っている。

 

彼女の人間性はとてもまぶしい。彼女に出会い、共に戦えたことを誇りに思っている。そして、そんな彼女がオレのようなクソッタレを信頼しなかったことを、当然だとわきまえている。

 

──彼女のような正しき人にならば。彼女がオレを不要と判断するならば。その聖剣で殺されてもいいとすら思う。けれど、それは()()()()()

 

 

 

説得するのだ。彼女のような真に正しき人を、オレのような人間が掲げる正しさによって。

 

きっと無謀な行いだ。だから、どうしても口で打ち負かせないのなら、銀の弾丸の使用も辞さない。

 

銀弾(シロガネハズム)は、どんな障害も打ち砕いて進まなければならない。目的にたどり着くために、邪魔をするならセイバーであっても貫いてみせる。

 

オレは、世界を救わなければならない(正しくあらなければならない)

 

オレが正しい人間であるのだと、良きことを成し遂げることができる人間なのだと、そう証明する──

 

 

 

──たどり着くまで、きっと。あと、一歩なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロガネハズムは、首に聖剣を突き付けてもなお、その顔を常のものからほとんど変えなかった。

 

命の危機に恐怖してはいるだろう。隠し立てしていたことが暴かれて焦ってもいる。私というサーヴァントに失望を向けられる悲哀も見える。

 

それでも、その事実を()()()()と切り捨てることのできるほどの、圧倒的な決意を感じる。

 

英霊として、王として、数多の人間と相対してきた私にとってさえ、これほどの眼を見せる者には両手で足りるほどしか出会ってはいないだろうと思える。

 

自然、剣を握った手に力がこもる。わずかに剣先が動き、彼の首の皮を切り裂いた。赤い赤い血が彼の喉仏を伝わって滴り落ちる。

 

そんな光景に、目を背けたくなった。

 

「早く口を開け。さもなくば、この剣はさらに食い込むことになる」

 

迷いを振り払うように強い言葉を口にする。彼の生殺与奪を握っていることを知らしめ、脅す。

 

私は、どうか「勘違いだ」とその口から発してくれと願っていた。自分のあずかり知らぬ事だと、自分ではない誰かに刻まれた呪いなのだと、そう彼が口にしてくれればと。

 

「──オレは知らないよ、なんて言っても信じないよな、多分。あんたはアルトリア・ペンドラゴンなんだから」

 

だが、そんな都合のいい話はなかった。

 

「オレにはこういう力がある。理由は……明確にはわからない。これでいい?」

 

「いいわけがない。まだ隠していることがあるはずだ。洗いざらい話すがいい。そうでなければ私は──」

 

「──オレを殺すって?」

 

そうだ。と即座に返答しようとしてできなかった。私の役割、すべきことはそれでしかないはずなのに。

 

シロガネハズムという人間は、もはや信頼に足る要素がほとんど喪失され、疑うべき点しか残っていない。彼に関わる英霊が感情に関わらず抱いてしまう嫌悪、未来を見通しているかのような行動、そして粉々に砕け散ってもよみがえる不死性。

 

どれをとっても警戒すべきことのはずだ。

 

私は彼のことを人間として好ましく思って()()。でも現在ではそうではない。そうあるはずだ──そうあるべきだ。英霊としては。

 

だが。

 

 

 

「……あなたの過去を見た」

 

気づけば口は、彼に向けて言いたくもないことを口走っていた。

 

「同情する、というのはあなたに失礼だろう。しかし、そう、あなたの悲しみや無念は、少しは、わかっているつもりだ」

 

「まて、まて。見たって何を? 過去ってなにを覗いた?」

 

「あなたの家族が死んだ夜の光景だ。おそらくはパスを通じた記憶の流入だと──」

 

「──あぁ、今のオレの過去か。まあ、ひどい夜だったよ……クソッタレの夜だ」

 

彼は頭を抱えて──そして同時に何かに安堵したようにして──話し始めた。

 

「なによりクソッタレなのは、オレがまだ生きてるってことだ。オレなんかのために──オレなんかが原因で、家族が全員死んだってことだ」

 

彼は拳を握りしめている。蒼玉(サファイア)色の眼の奥に、赤い光が揺れている。

 

「わかるか、セイバー。別にいいんだオレは。死んだって。死にたいさ、そりゃあ。でも──でも、()()()()()()()()()()

 

彼は突然立ち上がった。聖剣をあろうことか素手でつかみどかし、私の眼前にその瞳を突き付けるように接近してきた。

 

彼の手のひらから大量の血があふれている。当たり前だ。魔力で強化した肉体だろうと容易に切り裂く聖剣なのだ。それでも彼はこゆるぎさえしない。彼の瞳と視線が交錯する。

 

「オレは、やっと見つけたんだ。償えないと思っていた罪に、応えられないと思っていた期待に、ようやく手が届きそうなんだよ。間違い続けてきた俺が、唯一正しいことができる、それが今だ」

 

「……」

 

「オレは、死ねない。オレのために亡くされた命に報いることができるまでは。オレは、世界を救わなければならない」

 

彼は片手で聖剣の刃を掴んだまま、もう片方の手で、私の右手──剣の柄を握っていた──に触れて、やがて崩れ落ちるようにうつむいた。

 

どっと力が抜ける。彼の虚を映したかのような瞳に見つめられていたからか、身体はひどくこわばっていたらしかった。

 

「あと、少しで良い。あと一つ。次の特異点まででいいんだ。きっと、上手くいけばそこで終わるはずなんだ」

 

うつむいてしまった彼の表情は見えない。

 

「オレをどう思ってくれてもいい。そのまま疑っておいて、第四特異点が終われば、即刻首を刎ねてくれて構わない。どうせオレは──あんたのマスターになるべき人間(衛宮士郎や藤丸立香)じゃなかったんだから」

 

「──ハズム、それは、どういう」

 

「あんたからの絆も、信頼も、友情も、なにもかもくれなくたっていい。オレはただ──

 

 

 

 

 

 

──猶予が、欲しい

 

彼は、まるで泣いているかのような声で言った。ぽたりぽたりと、彼の喉と手から雫として落ちる血液の残響だけが、あたりを支配していた。

 

 

 

私は、どうするべきなのだろう。

 

私は、何も告げられていない、彼のどんな秘密だって打ち明けられていない。それでも彼は「見逃してほしい」のだという。

 

私は、どうするべきだったのだろう。

 

彼との間に、絆が、信頼が、友情が、これまでに少しでもあれば。彼の傍に少しでも寄り添って、少しでも心を交わしていれば。私は、彼が今隠したことを聞かせてもらえていたのだろうか。

 

私は、()()()()()()()()()

 

ここで彼を見逃すことが私の望みなのか。ここで彼を切り捨てることが私の望みなのか。

 

ひと時の情、この少年にむけた憐れみに絆されて、カルデアを──ひいては人類を危険にさらすのか?

 

それとも、この少年を切り捨てるのか──

 

 

 

──いつかのように、多数(世界)のため致し方ないからと?

 

 

 

「──ぁあああっ!」

 

もう、なにもかもがわからない。何が正しいのか。何をすべきなのか。

 

私は叫びと共に剣を振り下ろした。なにを切ろうなどと、目標は考えないようにした。衝動のままに、一心不乱に、切っ先が何に向けられていようとも、その一切を断ち切るつもりでその剣をふるった。

 

真名開放時にまさるとも劣らぬ衝撃と、轟音。上がる水しぶきと、漂う砂埃。

 

天井が崩れ落ちたらしい。外からの日差しが暗闇を照らす。視界を占領していた水と砂が徐々に晴れていく。

 

 

 

 

 

「──セイバー、どうして」

 

 

 

ハズムの声が聞こえてきた。ならばきっと、それが私の答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三特異点オケアノスは修復された。

 

ヘラクレスはアークによって死に倒れ、イアソンとメディア──正確にはイアソンではなく、それを材料にした魔神だったが──を無事に打倒し、俺たちはいま、別れの時を迎えている。

 

「ドレイク、今回はありがとう」

 

「いいって。それにしてもまあ、あんたたちと世界一周旅行するって話は、叶えられそうにないねぇ」

 

珍しくさみしそうな表情でドレイクが言う。それは出会ってすぐに交わした会話だった。それが叶ったらどんなによいことかと思う。けれど、不可能なことだ。

 

「ドレイクさん……」

 

「いいのさ、マシュ。わかってるんだ、今は無理だってことくらいさ。でも、いつかはきっとやろう! 無理でもやるからおもしろいんだ。そうだろう?」

 

「あはは、ドレイクらしい」

 

最後まで、ドレイクという女海賊は、尊敬できる人柄のままで、尊敬できる姿勢で、尊敬できるような言葉を語ってくれる。

 

「──あたしたち海賊は、欲に生きている」

 

黄金の鹿号(ゴールデンハインド)の甲板、海と船とを隔てる手すりに寄りかかりながら、沈む夕日を背にドレイクは言う。

 

「あれがほしい、これもほしい、ああしたい、こうしたいってね。宗教家どもに言わせりゃあ、私たちは欲に()()()クソどもだとさ」

 

アッハッハ違えねえ、なんて周りの海賊たちから野次のような言葉がとぶ。

 

「だがまあ、だいたいの人間が最後のよりどころにしてんのは、そうしたクソッタレな欲だろうと思わないかい?」

 

「──うん、そうだね。俺もそうだ」

 

言葉にすることはまだできない。この胸にくすぶる気持ちを正確に表すには、俺には経験もなにもかもがたりないだろう。

 

でもきっと、このつらい旅路が終わったとき、なんで走れたのかと聞かれたのならば。それはきっと「生きたいからだ」と、俺は俺の抱き続けてきた欲を、胸を張って告げられるはずだ。

 

「そう言えるんなら、きっと、リツカ──あんたはこの先も歩いていけるさ。ただ、欲張りはいけないよ? あたしみたいになっちまう」

 

「あはは……気を付けるよ」

 

確かにドレイクは強欲のきらいがある。頬を掻きながら忠告を受け取ると、それでいいとドレイクは笑った。

 

 

 

「──あんたも、だよ。ハズム!」

 

「え、えと、オレ?」

 

俺の背後、体中が傷だらけの──それでも生きていてくれた、無事でいてくれた──ハズムが、予想だにしていなかったのか、素っ頓狂な声を上げている。珍しい光景だ。

 

「なにを意外そうにしてるんだい。ほら、握手。あんたもリツカとおなじ、仲間だろう」

 

「──ああ。今回は助かったよ。ドレイク」

 

「いいって……あんたも、欲はあるだろうね?」

 

「……ああ、もちろん。今だって、もう眠くてさ。睡眠欲がすごいんだ」

 

「はは、ならいいんだ」

 

ドレイクは笑っている。そして同時に、なにか心配そうにしているように見える。

 

「何もかもが上手くいかなくて、どん底まで落ちて、もう死んだほうがましじゃないかって思っても、それでもあたしは立ち上がれる。なんでかわかるかい?」

 

「えっと、欲があるから?」

 

「ああ、他でもない、私自身から噴き出してくる欲望だ──どんな嵐の中でもね、“こうしたい”っていう心から湧き上がるような欲は、お宝みたいに輝いて、道を示してくれるのさ。“こうすべき”じゃなくて、“こうしたい”ってところがみそだね」

 

「“こうすべき”じゃなくて、“こうしたい”……」

 

「……まあ、これはあたしの話。あたしだけの話さ。きっと、あんたにはあんたの拠り所があるんだろう。それを、大事にしなよ」

 

「そう、か。わかった」

 

ならいい、とドレイクはハズムの頭を乱暴に撫でていた。ハズムの表情いつも通りしかめっ面だったが、俺には少し笑っているように見えた。

 

 

 

「それじゃあまあ、これでお別れだ。いい旅だったよ。またいつか、だ」

 

「うん、またね」

 

「はい! またいつか。ドレイクさん、お元気で」

 

「──いい旅だったよ。一生の思い出に残るくらいに」

 

笑顔で手を振るドレイクに、俺、マシュ、ハズムは、それぞれに言葉を返す。

 

それが最後だという風に、俺たちの視界は青と黒に染まる。レイシフトが始まって、俺たちの旅はまた一つ、終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「──まったく。“またいつか”くらい、胸を張って言えるようになってから顔を見せるんだね。ハズム」

 

夕暮れの空に、ウミネコが鳴いた。

 

 

 







目には目を。歯には歯を。

信頼には信頼を。疑惑には疑惑を。

つまりまったく、人間とはそういうものだということだ。






ロンドンの前に一回幕間挟むと思います。

ハズムのバイタルを見てるはずのカルデアサイドとかー、

ハズムのことを監視しているはずのレ//フとかー、

色々書ききれてないことあるしね。

ちなみに、この小説におけるハズム君のSAN値ですけど、下に凸の二次関数で表されます。

頂点には第四特異点がくる予定ですね。


最後まで読んでくれてありがとナス!

感想乞食(定期)

お気に入りと評価のほうもよろしくです!


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