異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ    作:三代目盲打ちテイク

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 宮殿は薔薇の夜へと転じた。黄金の吸血鬼がそこにはある。美しき女性の吸血鬼がそこにはいる。

 死森の薔薇騎士。いわゆる超必殺技にあたる。彼女の創造は少々特殊ではあるものの概ね覇道としては典型的だ。

 この「夜」に居る人間は全て例外なく生命力をはじめとした力を吸い取られ、奪われた力の分、この空間の主であるレティシアが強化される。

 

「さて、命令だ。すまんな黒ウサギ、お前たちを殺すとしよう」

「レティシア様!?」

「ハハハハ、どういう気分? 助けに来た仲間に殺される気分ってさあ?」

「レティシア様に何をしたんですか!」

「何って、命令だけど? この俺の命令だぜ? 誰でも従うに決まってんだろ」

 

 ごちゃごちゃと喋っている暇などありはしない。展開された創造と創造がぶつかる。

 どちらも覇道の質。ゆえに、二つの異界がぶつかり合う。

 

「そういうわけだ。死んでくれ」

 

 レティシアが駆ける。吸血鬼の身体能力を十全に発揮して。無論、駆けるのは本丸。ジンただ一人。そこに椿姫が立ちふさがる。

 レティシアは躊躇うことなく拳を振るう。吸血鬼の剛腕から放たれるそれは普通ならば致命だ。

 

「留まって」

 

 だが、それが椿姫を穿つことはない。椿姫の一歩手前、眼前でその拳は止まっている。強制的に。それは椿姫の創造のもう一つの効果。いや、そういうよりはもともとの効果。

 対象の固定化。それはその場に固定化することすらも可能とする。1人になりたくないからこそ、誰も彼もを固定化して留めてしまうという願いからくる創造の力だった。

 椿姫よりも格が上ならば抜けられるが、椿姫の格はそれ以上ゆえに抜けられぬ。

 

「やった! あとはレティシア様を正気に戻せば!」

「違う、黒ウサギ、この人、レティシア、違う」

「え? で、ですが、どこをどうみてレティシア様ですよ!」

「この人、レティシア、でもレティシアと違う。えっと、あれ、ん? ううん? あれ?」

「わからないんですかい?!」

 

 ずざざーとずっこける黒ウサギであった。当のレティシアはというと、

 

「クク、そうだよ椿姫。よくわかったな」

「わかる。当然」

「なるほど、大したものだ。その齢でこの格、まったく動けんとはな。お前もだろうルイオス」

「くそ、ったく、こんなの聞いてねえぞ」

「だが、収穫はあったか。ふむ、なら一応、役に立ったかな。いや、あの男の事だ。そう思っていなさそうだ。おめでとうゲームクリアだ」

 

 もはやルイオスもレティシアも動くことはできない。

 

「じゃあ、さっさとクリアするとしますか」

 

 十六夜が跳躍する。アルゴールを足場にして足りない分を補ってルイオスを地面へと叩き落とす。更にトドメとばかりに踵落とし。

 その瞬間、ルイオス、レティシアは粒子となって消え失せた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ゆらゆらと闇の中を漂っていた。寄る辺などなく、ただ漆黒だけがある場所を漂っていた。己すらもはっきりとせず。肉体があるのかどうかも不明。そもそも、ここがどこで自分が何で、どうしてだとかそういったことすら考えるまでもなくわからない。

 なぜならばここには何もないから。そして、今の自分にもなにもないから。

 

「レティシア様! レティシア様!」

 

 誰かが誰かを呼ぶ声がする。

 誰の声だろうか。確かに覚えがある声ではあるが、どうにも思い出せない。呼ばれているのが自分ですら、もはや覚えてなどいないのだから。

 いや、それでも呼ばれているのは自分なのだろうと思う。ただ思うのは一つ。辛い。応えたいのに応えられない。

 

『辛いねえ、辛いねえ。もう、キミはその声には――』

 

 ふと、違う声が響く。前の声とは比べようがないほどの酷い声だ。蝿の羽音にしか聞こえぬノイズまみれの声。

 だが、どういうわけかその声はするりと脳内に入ってくる。まるで声そのものが生きていて耳の中を這いずり脳の中に直接入ってきているかのように。

 気持ちが悪い。何も思えない中で、それだけを思う。いや、いいや違う。思うことはそれではない。応えられない声に対するすまなさだとか、そういうのだ。

 断じて蝿声などに思うことなどあるはずがない。だからここを出してくれ。この漆黒は駄目だ。この漆黒は全てをダメにする。全てを呑み込んで、喰らい尽くして、何もかもを失くしてしまうのだろう。

 だからこそ、ふと感じた感覚。それに身をゆだねるのだ。

 

『わかっているのかい。もはや、キミは』

「わかっている」

 

 声が出た。

 

「わかっている」

『何がわかっているというんだいお姫様。本当は何もわかってなどいないというのに。キミは自分が何者かわかっているのかい? こーんなところで、一人ただ浮かんでいるだけのキミが、本当は誰かだなんて、本当にわかっているのかい。その血塗られた手で誰かに触れていいだなんて本当に思っているのかい?』

「わかっている。自分が血塗られているとしても、それでも」

 

 なぜならば、今もなお呼ばれているから。

 

「私は、――」

 

 目を開く。

 眼前一杯に広がるのは椿姫の顔だった。近すぎるくらいに近くで。いや、それよりも、なぜ彼女は自分に口づけ(・・・)しているのだろうか。

 まずはそこがわからない。何がしたいのだろうかということを考える以前にそろそろ苦しいのだから離してほしい。

 だから、まずは椿姫の身体をぽんぽんと叩く。

 

「起きた」

「お姫様のキスで目覚めるお姫様。ちょっと違くねえか。てか、普通王子様だろ」

「あら、最近はこういうのもありなんじゃないのかしら」

「どうだろ」

「レティシア様!」

 

 だが、ともかくとして、眠り姫は目覚めた。身体を苛む死病は既に手遅れなほどであったが、それでも生きている。これもひとえに椿姫のおかげだった。

 彼女の太極へと入った。それによって偽神化したことによってなんとか生きながらえることに成功していたのだ。

 とは言っても、どうしようもなく弱っているのは確かだし、この先戦うことなどできはしないだろう。

 だが、

 

「いいんだよ。僕たちは君が帰ってきてくれた。それだけで満足だから」

「おいおい、おチビ。これくらいで満足してもらっちゃ困るぜ」

「あはは、そうですね。これからですもんね」

 

 そう全てはこれからなのだ。

 だが、ともかく今は、

 

「おかえりなさいませ、レティシア様」

 

 彼女の帰還を喜ぼう。

 今は――――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「まずは、おめでとうというべきかな」

 

 誰もいない暗がりで甘粕正彦はそう呟いた。誰もいない暗がり。黒い街で。

 そこには誰もいない。果てしなく続く暗がりは、全てが黒く染まったのだと告げている。

 かつては、世界すらも飲み込んだ漆黒。ここには何もない。ただ王が在るだけであったはずのただの黒い街。

 

――シャルノス。

 

 けれど、かつて溢れる暗きモノはそこには居らず。門を求めて泣き叫ぶ夜泣き子も居らず。迷い込み、ただ己の心の為に逃げ惑う者もおらず。

 蕃神は既に死に絶えた。神は死んだ。ツァラトゥストラもまたそう語る。かつて新世界を語った者もまた同じく。

 今やそこには誰もいない。恐ろしき最後の幻想であった怪異(メタ・クリッター)も。逃げ惑う黄金瞳の少女も。

 ただ座して待ち続け、光に焦がれ続けた黒の王も。

 誰一人してそこには存在しない。光もまた、届かずに、ただ、ここはただここに在るのみ。

 狂気すらも飲み込む漆黒。飲み込まれ、消えるだけのただの暗がり。

 だが、

 

「はは」

 

 (甘粕)の正面に立つ少女が漏らしたのは嘲笑だった。彼の問いかけに対して、ただ少女は嗤ったのだ。

 気を狂わせる暗がりの中で少女はただ何でもないように肩を竦める。

 黒色に身を包む少女。黒い少女。黒い髪。黒い服。黒い眼帯は偽物というわけではなく本物で。輝く黄金瞳が虚空を見つめている。

 かつては王がいたであろう茨の玉座を眺めて、ただ少女は嗤うのだ。そこにいない誰かを笑うのだ。あるいは目の前にいる甘粕を嗤うのだ。

 

「この程度で、おめでとうだと? 貴様らしくないな甘粕」

「そうかね。これでも、魔王らしく試練をクリアした勇者にはそれなりの褒美を与えれば、賞賛もねぎらいもする」

 

 少女は肩をすくめる。ただその瞳が見つめるには仲間との再会を喜ぶ名無したち。

 

「そうかね。俺としては彼ら(ノーネーム)は合格だ。彼ら(戦真館)とはまた違って俺の楽園(パライゾ)よりではあるが、それこそ俺の望むものである」

 

 役目があるからしぶしぶ従う。立たねば死ぬから嫌々挑む。誰かに言われたから。みんなやっていることだから。

 彼らはそんな腑抜けたつまらぬ者どもではない。

 

「お前もそう思うだろう」

 

 甘粕の問いが暗がりに投げられる。

 

――暗がりに男の姿が浮かぶ――

――黒い襟巻棚引いて――

――閃光が迸る――

――雷鳴が轟く――

 

「生憎とそうは思わない」

 

 声と共に眩い光が迸る。

 それは蒼色をした輝きだった。いつか見た輝きだった。

 空の彼方に見えるもの。雷の輝き。

 その輝きの中で腕を組む男が一人。腰には機械の帯(マシンベルト)が。その両手には機械の篭手(マシンアーム)

 棚引く黒い襟巻にはわずかに紫電が迸り、白い詰襟服は(甘粕)の軍装と似たような意匠で。

 彼は雷電だった。遠き空を駆ける光り輝く雷電であった。

 

「残念だ。人の輝きをこそ守りたいと言うお前ならば共感できると思っていたのだがな」

「見くびるなよ。確かに人の輝きをこそ守りたいと思うが、そのために好んで試練を与えようとは思わない。私は誓っている。彼の魔女に、全てを救って見せると。

 魂が劣化するというのならば、まずは教えることから始めるべきだ。しっかりとバトンを渡すことが肝要だろう。

 若人たちは、先達の引いた道を歩き、そして、学ぶ。お前の楽園は若人の可能性を否定する。それこそ輝きを否定することだ」

「ああ」

 

 素晴らしい、と甘粕は笑う。

 

「気に入らないならば、向かってくるが良い。俺はお前にも期待している」

 

 お前(ニコラ・テスラ)も、彼ら(ノーネーム)も。どちらも雄々しく愛おしい。その輝きをこそ守りたいと切に願う。

 

「だからこそ、俺は魔王として君臨したいのだ。あの輝きをもう一度みるために」

 

 甘粕がその手を天へと掲げる。既にその身の準備は出来ている。

 

「お前の輝きを俺に見せてくれ! お前の輝き、その猛る輝きをこそ俺は愛でたいのだ。

 汝、無垢なる刃ッ! デモォォオンベェイィィィィン!!!」

「───超電磁形態。来い。」

 

 返答せずに、彼は、僅かに呟く。右腕を高く空へと伸ばす。

 そこには、灰色の空すらなかったけれど、それでも。

 

――四方へと無限に広がる暗がり。もしその果てに至ったとしても、何もないはずのこの漆黒の空間に――

──二柱の巨大な鎧――

──姿を顕して──

―─閃光が弾ける──

 

 まばゆい光とともに───

 大地が叫び、暗闇と共に空間が裂ける。雷電が迸り、轟音と共に時間が砕ける。

 光纏う鎧が現れる。それは白銀色をした輝きだった。

――闇色の輝きと共に、

 大地が叫び、暗闇と共に空間が裂ける。闇の燐光が迸り、轟音と共に時間が砕ける。

 闇纏う鎧が現れる。それは闇の如き色をした輝きだった。

 それらは異空の果ての輝きだった。

 片や空の彼方から来たるもの。片や人の幻想を紡ぎ生み出したもの。

 今や漆黒に染められた空、それすらも超えて来る。あらゆる物理法則を従えながら姿を見せる、巨大な人型。

 

「おいおい、私を忘れるな。未だ、私は、どちらにもついていない。ならば、納得させてみせろ。お前たちの言う輝き、()が惹かれた輝きを私にも見せろ!

 ――提案しよう、雷電王(ペルクナス)! 盧生!

 ――食事の時間だ!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ――チク・タク

 

        ――チク・タク

 

「――さて」

 

 男は言った。

 それは奇妙な仮面を被った男であった。

 道化の如き姿であるが、一世代前の西洋貴族のようでもある。

 奇妙な人物。

 仮面と服装は彼をそう思わせる。

 彼は決して自らを口にしない。見たままを口にせよと戯けて言う。容姿通りに、奇妙な男であった。

 男の名はとある世界の極東の小さな島国に伝わる神なる獣の名。それがこの男のかつての名であった。

 しかし、今その名前はない。その自分は既に砕けてしまっているから。彼の地、彼の街で。あるいは神々の箱庭ここで。

 

 ――もっとも。

 ――彼に名前がなくとも問題はあるまい。

 ――彼にとっては名など幾つもあるさほど意味のないものであるし。

 ――かつても、名を知る者は決して多くはなかったのだから。

 

 例えば――

 魔王連盟と呼ばれるようになる魔王のコミュニティの重鎮であるとか、特殊な“瞳”を持つ者たちの群体コミュニティの幹部であるとか、生と死の境界に顕現する大悪魔とその騎士であるとか、名と旗を奪われ散り散りになったかつての英傑たちであるとか。

 あるいは――

 殺人さえ厭わぬ犯罪組織の重鎮であるとか。闇深くで蠢く結社の頭脳であるとか。

 人はその仮面の名を呼ぶ。

 即ち、『バロン』と。 もしくは、『バロン・ミュンヒハウゼン』と。

 ただ、不用意にその名前を呼んではならない。

 命が惜しければ。

 彼の仮面の奥を想像してはならない。

 命が惜しければ。

 あらゆる虚構を吐き出すというその男は、 月明かりを帯びたような髪色の兎耳を揺らす少女へと語り掛ける。

 小さな部屋。ソファ以外には調度品は何もない。壁に囲まれた部屋。

 暗がりの密室。結界ともいうか。あるいは封印とも。

 男の格好とは不釣り合いな普通の部屋だ。100の血濡れの眼が、見つめるだけのただ普通の部屋だ。

 静謐なる内向の間と人は呼ぶ。

 かつて栄華を極めたコミュニティあるいは未知なる結末を求める男の余技にて作られた部屋。

 己が全てを見つめるというその部屋で男は眼前の少女に語るのだ。

 

「さて。吾輩はここに宣言するでしょう」

 

――余計なる観測の開始と。

――無意なる認識の開始を。

――そして、異なる物語の幕開けを。

 

「これは、可能性の中にしか存在しえない儚き幻想に御座います。

 しかし、あらゆる可能性はそこに確かに存在するのです。

 至高なりしは我らが主。

 この場合は(すなわち)、甘粕正彦」

 

 男の声には笑みが含まれている。

 対する何者かは無言。

 

「しかし、この世界において至高でありし者ですら、深奥の神にはまるで届きはしないのでしょう。

 いずれ、彼の座には彼女が座るのでしょう。

 唯一の懸念を申し上げるならば、彼女が解き明かしたヴァイスハウプト師の求めし方程式の在り処でしょうが、この観測においてはそれも必要のないもの。考慮すべきものではありませんね?」

 

 男の声には嘲り我含まれている。

 対する何者かは、無言。

 

「成る程。

 そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう」

 

 そうして、男は高らかに宣言する。

 

「さあ、我らが愛してやまない人間と下賤なる修羅神仏、悪魔の皆様。どうか御笑覧あれ。

 ――全ては、ここから始まるのです」

 




とりあえず一巻分の内容はこれで終了です。

相変わらず戦闘は難しいです。どうにかならないものか。調整が結構難しいですが、まだ一巻。このような勝利もあるでしょう。

そして、後半、甘粕とお爺ちゃんが出てきました。少女はオリキャラです。
甘粕がデモベ使ってますが、邯鄲でアニメ見て甘粕がよさそうだと思ったから使ったという設定ということにしておきます。つまりは、ノリです。
とにかく、ここでお爺ちゃんの超電磁形態をなんとかしてないといけないためなのです。二巻でノーネームが活躍できないので。

ちなみにお爺ちゃんの太極値は60の求道神です。
でも、お爺ちゃんしっかり書けるかな、書いてる途中でいっつもくらな君が出て来てしまうので色々と大変です。

二巻はまだ色々と決めてないので、何かご意見などありましたら気軽に書いてくださると嬉しいです。

では、また次回
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