異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ    作:三代目盲打ちテイク

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捏造、独自設定、などなど色々てんこ盛りの回です。
ツッコミはあまりなしの方向でお願いします。


第二章 あら、魔王襲来のお知らせ?
1


 死。

 かつての時代。死を考えると古来より八百万(とうよう)にしろ、唯一神(せいよう)にしろ共通した死後を表す言葉がある「輪廻」、あるいは「再生」と「復活」だ。

 かつては死こそが始まりであり、終わりなどではなかった。忌むべき者ではなかったのだ。死というものは。

 不思議なことに、それは全世界のどこにでも同じような話が存在している。それがある意味で覆ることになったのは1347年から1350年、つまりは14世紀の出来事があげられるだろう。

 つまりは、黒死病(ペスト)の蔓延だった。

 1347年から1350年にかけてミラノやポーランドといった少数の地域を除くヨーロッパ全土で流行し、当時の3割の人口が罹患して命を落とした死病。

 当時は、ワクチン等の有効な治療策もなく、高熱と下痢を発症し、最期には皮膚が黒く変色し多くの人が命を落としていく様は、いかに人の命がもろく、現世での身分、軍役での勲章などが死の前に無力なものであるかを、当時の人々にまざまざと見せつけることとなったその病は人々の死生観に大きな影響を与えることとなった。

 教会では生き残って集まった人々に対して「死を想え(メメント・モリ)」の説教が行われ、早かれ遅かれいずれ訪れる死に備えるように説かれた。

 だが、死への恐怖と生への執着に取り憑かれた人々には意味を成さず、その死者の怨嗟は次第にその当時の死生観を変えることとなった。

 つまりは、死とは魔に取り付かれた結果であり、忌むべきものであるというものだ。寿命で死ぬよりも病で死ぬことの多かった黒死病流行による早死にの結果であろう。

 そのため、それから幾許かの後、輪廻、再生、復活。これらの死生観は一時の間忘れ去られることとなる。

 無論、後の世にて復活するものの、当時の死生観とはそういうものであった。それは、つまるところその当時八千万もの死者たちが行き場を失くしたことを意味する。

 死の舞踏。八千万の死者はただ踊るばかりだ。黒死病を核として、それは神となる資格を得た。

 それにより、八千万もの魂は、総体より切り離される結果となる。無論の事、その総体は巨大な蛇である故に、気が付かぬ。もとより、彼の蛇が望むのは女神だけであるがゆえに、その程度のこと気にするまでもない。

 だからこそ、その八千万の怨嗟、怨念の霊群は箱庭へと堕ちる。願った怨嗟の重みが、ただ宇宙と成る可能性があることによって、完全に独立したのだ。その総体は八千万の霊群。燃料としての質は良くはなかったが量が量である。

 だからこそ、それに方向性を与えてやれば良い。未だそれらは神足りえない。ゆえに。

 

「さんたまりあ うらうらのーべす

 さんただーじんみちびし うらうらのーべす

 きりやれんず きりすてれんず きりやれんず

 おおぉぅ、あんめい――ぐろおおりああああす」

 

 その蝿声が来る。異形の男。漆黒の男。虫が、蝿が散々飛び回っているかのような否応なく嫌悪感を催す声でしゃべる男。顔の見えない無貌の男。

 神野明影。シンノカゲリ。

 両腕を広げ、さながら扇動者の如く、その蝿声をまき散らす。

 

「さあ、起きる時間だよ。キミたちの恨み、素晴らしいそれを役立てる時が来たんだよ。

 キミたちの恨み、晴らす相手、教えてあげるよー。

 ほらほらー、死んだ恨み、晴らしたいでしょ? 晴らしたいよねー。でもだめ。教えないよ。それをすぐに教えちゃあ楽しみがない。

 というか僕だって知らないから! あははは。

 それにしても、キミたちも節操ないねえ。そんなに誰彼かまわず繋がっちゃって。バスターにビッチばかりじゃないか。いいねえ、いいねえ。ビッチ、ビッチ、ビッッチ! ああ、なんて良い響きなんだ。男なら、ときめかずにはいられないよねえ」

 

 目覚めた。

 いや、正確には起こされたというのが正しいか。というかたたき起こされた。嫌な声に。八千万もの霊群。かつて、太陽が眠りし時に死した者ども。神になり損ねた者たちが目覚める。

 統結合され、誰が誰だか分らぬ中で、誰かになろうとして、誰かになった彼らの目の前にいたのは二人の男だった。男の形をした何かと大外套を纏った男であった。

 

「それにしても、これ役に立ちますかねえ主」

 

 男の形をした何かがそう言う。起こしておきながらそんなことを言う。

 それも当然だろう彼らの怨嗟すらこれ(神野)には生温い。いや、そういうよりは方向性が違うというべきか。

 そもそも、これはそういうものではない。この蝿声は。

 

「どうだろうな。だが、どちらにせよ愉快だろう。これとて、その量は破格だ」

「あとは方向性ということですか」

「そういうことだ」

 

 方向性。何せ、その総体八千万は統結合されてしまっている。それゆえに混沌としている。その状態は神野からすればかなりいい感じではあるのだが、混沌とした状態は神野のような者でもなければ全然有用な状態ではない。

 なにせ、元が人であるかそれともそれ以外であるかの違いは差になるのだ。

 甘粕が手印を結ぶ。

 総体が身を結ぶ。ただ一つの姿へと。その瞬間、

 

「おほおおお!?」

 

 神野の頭が消し飛んだ。

 

「うっさいのよ。人の頭の中で、ビッチ、ビッチ、ビッチ。あんた、それ以外に語彙ないの?」

 

 絶対零度の視線で砕けた神野に向かって少女の姿をした何かがそういう。

 

「ないね」

 

 蝿が集まり再び神野は元の姿に戻ると同時に再び砕ける。

 

「ああ、痛い、痛い。酷いなあ。本当のことを言ったまでじゃあないか」

「うっさい、キモいのよ」

「酷い、セェェジ! セェェジエモン! この子がいじめるよおーあははは」

「ええい、五月蝿いぞ。まとわりつくな蝿声が!」

 

 いつの間にかそこにいた聖十郎の拳により神野が砕け散る。無論のこと、その程度で死ぬような悪魔ではない。次の瞬間には元通りになっている。

 

「ああ、酷い酷い。ちょっとー、僕の扱い酷くありません?」

「自業自得だ」

「自業自得ね」

「皆、仲がよさそうで結構結構」

「甘粕、貴様の目は節穴か」

「あんたの目、節穴じゃないの?」

「ふむ、これでも人を見る眼はあると自負しているのだがな」

 

 いやそういうことじゃねえよ。というツッコミはさておいて、

 

「それで? この私を呼び出したからには何かあるってわけ?」

「さてな。呼び出したは良いが、特に何かしようというわけでもない。強制するつもりもない。ただ、お前たちの成したいことを成せば良い。在るのだろう。願いが。ここに堕ちるほどに願ったそれに俺は興味がある。

 諦めなければ夢は必ず叶う。諦めなかったその果てに、お前たちは夢をかなえる権利を得た。さあ、成すと良い。俺はそれを応援しよう。八千万もの魂が願った復讐を。太陽への復讐を果たすと良い。それでは終われんのだろう」

「ええ、終われないわ」

 

 少女の決意は全てを殺すことになりかねないというのに。人間賛歌を歌うこの男甘粕にとって、それは望むべくものではない。だが、それこそが望むものだろう。

 死を与える者。それこそが彼女だ。とあるものを核として呼び出した彼女は純然たる神格として顕現した。生のままに神格だ。死を与える死の神だ。だが、これは兵器()である前に人だった。

 そして、不屈の思いでこの存在にまでなったそれを甘粕は好きで好きでたまらない。そういう輝きをこそ守りたいと切に願っているのだから。

 そして、それ以上に、

 

「死の恐怖、死病の恐怖。それを乗り越える彼ら(ノーネーム)を俺は見てみたい。

 ゆえに、折れてくれるな。我が友のように」

「あんたに目をつけてられた奴らに同情するわ」

「俺とて好きで殴りつけているわけではない。戦争も争いも好まんゆえに、それを自罰としている。そして、それ以上に乗り越えると信じているからこそ試練を与えるのだ。それから俺はお前のことも好いている」

「…………」

「死してなお、放り出されてなお、それでもお前たちは願ったのだ。己の死は認められない。生きたい。復讐したい。そして、それ以上にこの死は認められないがゆえに死を与えたい。

 その果てに魔王になり、上をめざし、いつか誰かに討たれるとしても、構わない。

 その覚悟、その勇気、俺ほど認めている者は天下におらんぞ。ゆえに、その覚悟を、勇気を燃やし続けろ。お前とて人だ。我も人、彼も人、ゆえに対等。

 俺にできるのだ。セージもやっている。ならば、お前もできるはずだ。できんとは言わせん」

「呆れた馬鹿ね」

「良く言われる。さあ、始めようではないか。火龍の誕生祭だ。盛大に盛り上げるとしよう」

 

 少女は呆れ。

 べんぼうは嗤い。

 逆十字は不愉快そうに顔をしかめて。

 甘粕は大笑いして、暗闇へと歩みを進めるのであった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

――チク・タク

 

        ――チク・タク

 

「――さて」

 

 男は言った。

 それは奇妙な仮面を被った男であった。

 道化の如き姿であるが、一世代前の西洋貴族のようでもある。

 奇妙な人物。

 仮面と服装は彼をそう思わせる。

 彼は決して自らを口にしない。見たままを口にせよと戯けて言う。容姿通りに、奇妙な男であった。

 男の名はとある世界の極東の小さな島国に伝わる神なる獣の名。それがこの男のかつての名であった。

 しかし、今その名前はない。その自分は既に砕けてしまっているから。彼の地、彼の街で。あるいは神々の箱庭ここで。

 

 ――もっとも。

 ――彼に名前がなくとも問題はあるまい。

 ――彼にとっては名など幾つもあるさほど意味のないものであるし。

 ――かつても、名を知る者は決して多くはなかったのだから。

 

 例えば――

 魔王連盟と呼ばれるようになる魔王のコミュニティの重鎮であるとか、特殊な“瞳”を持つ者たちの群体コミュニティの幹部であるとか、生と死の境界に顕現する大悪魔とその騎士であるとか、名と旗を奪われ散り散りになったかつての英傑たちであるとか。

 あるいは――

 殺人さえ厭わぬ犯罪組織の重鎮であるとか。闇深くで蠢く結社の頭脳であるとか。

 人はその仮面の名を呼ぶ。

 即ち、『バロン』と。 もしくは、『バロン・ミュンヒハウゼン』と。

 ただ、不用意にその名前を呼んではならない。

 命が惜しければ。

 彼の仮面の奥を想像してはならない。

 命が惜しければ。

 あらゆる虚構を吐き出すというその男は、 月明かりを帯びたような髪色の兎耳を揺らす少女へと語り掛ける。

 小さな部屋。ソファ以外には調度品は何もない。壁に囲まれた部屋。

 暗がりの密室。結界ともいうか。あるいは封印とも。

 男の格好とは不釣り合いな普通の部屋だ。100の血濡れの眼が、見つめるだけのただ普通の部屋だ。

 静謐なる内向の間と人は呼ぶ。

 かつて栄華を極めたコミュニティあるいは未知なる結末を求める男の余技にて作られた部屋。

 己が全てを見つめるというその部屋で男は眼前の少女に語るのだ。

 

「さて。吾輩はここに宣言するでしょう」

 

――余計なる観測の開始と。

――無意なる認識の開始を。

――そして、異なる物語の幕開けを。

 

「これは、可能性の中にしか存在しえない儚き幻想に御座います。

 しかし、あらゆる可能性はそこに確かに存在するのです。

 雷電の男もまた、再び舞台上に上がるのでしょう。巨龍の目覚めにはまだ遠いですが、これもまたそういうことなのでしょう」

 

 男の声には笑みが含まれている。

 対する何者かは無言。

 

「ただ何が起ころうとも我々には関係ありません。全ては可能性の中の幻想でありましょう。夢は夢、いつかは捨てなければならないのでしょう」

 

 男の声には嘲り我含まれている。

 対する何者かは、無言。

 

「成る程。

 そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう」

 

 そうして、男は高らかに宣言する。

 

「さあ、我らが愛してやまない人間と下賤なる修羅神仏、悪魔の皆様。どうか御笑覧あれ。

 ――全ては、ここから始まるのです」

 




今日はなんと私の誕生日です。また一歳、年を取ってしましました(´・ω・`)
というわけかはわかりませんが、このところ体調不良気味で、あまり執筆が進んでおりません。
リアルも忙しいので、更新が遅くなりそうです。

でも、最後まで頑張りたいと思います。

それで二巻目の開始です。これからも宜しくお願いします。
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