異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
――数日後。
「…………ん……」
そこは不思議な空間だった。さして広くも感じられないような漆黒の空間。いや、あるいは宇宙空間とでも言おうか。数多の輝きがそこにはあったが、まるで狭苦しい部屋のようにそこには限りがあるようにしか思えなかった。
そして、奇妙な事はもう一つ。上も下もないような場所で、数多の鳥居が複雑に組み連なっている。色もさまざま、形も様々なそれが組み合わさって連なって、無秩序な構造体を作り出していた。
いや、構造体ではないか。何の意味もない物体を形作っていたのだ。
逆廻十六夜はそれを見た瞬間に夢だと確信する。夢とは記憶の整理であり、自身が見たことないものは見れない。
しかし、それはあくまでも現代でのお話。箱庭では何者かのギフトである可能性があるが、まさか、言っては悪いがこんな弱小コミュニティの為だけに夢に介入するようなことをしでかす者はいまい。
ゆえに、ただの夢だと思う。もしかすると、昨夜遅くまでノーネーム本拠の地下でひたすら未読の書籍を読み漁っていた為にこのような夢を見たのかもしれないと思う。
しかし、リアルな夢だと思う。所謂、明晰夢という奴だろう。しかし、故郷の町以外が出ることはほとんどなく、このような見知らぬ場所を夢に見るというのは久しぶりであり、心躍るものがあるのは確かなのだが、
「風情がねえよな」
そう言って視界の遥か先にあるものを見つめる。
『■■■■。■■■■■■■』
何かがそこにいた。夢の産物にしては異形に過ぎる。それは血の涙を流す異形だった。十六夜をしてそれの全容を認識することはできない。辛うじて人の形をしていることだけはわかるが、その輝く瞳は赤く、黒く、憎悪に染まり、度を越えた憤怒によって血涙を流している。
それは、酷くおぞましい物だった。生きていることが不思議なほどにその肉体には亀裂や皹が走り、その肉体を何かが蝕んでいる。そこまでしてなぜ生きているのかすらわからない。
いや、そもそもこれは生きているのだろうか。夢に整合性を求めるのは不可能だが、現実並みにリアルな夢とあって少しばかりそんな無意味なことを考えてしまう。
観察してみればわかるが、どうにも一度崩れたなにかが無理矢理に己をつなぎ合わせている。そう思えた。
『■■■■!』
そして、それが放つのは極大の憎悪の波動。
「ッ!」
その瞬間――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
眠りこけていた十六夜が目を覚ます。何か夢を見ていた気もするがすっかりと忘れてしまっていた。
「…………ん……御チビ、起きてるか?」
「…………くー…………」
「寝てるか、って、ん?」
「…………すやぁー…………」
いつの間にか、胡坐をかいた膝の上に椿姫の頭がある。
「おお、役得役得、まあ、御チビの方は俺のペースで読んでたから仕方ねえが、
「……むにゃ、もう食べられないよ、アルフレード……」
「幸せそうだな、おい。てか、アルフレードって誰だ……? まあいいか、しっかし」
ふむ、無防備に眠る少女というのは無性に悪戯がしたくなる。
「さて、ベタなところじゃ顔に落書きってところだろうが……」
生憎とペンがない。その上、椿姫に腕を掴まれて胸に挟まれた上に膝を枕にされ、ジンに肩に寄りかかられているこの現状。動くに動けない。
その代わりに良い感じに役得なので、このまま二度寝でも決め込もうかと思っていると、その時、十六夜の耳がどたどたと走ってくる足音を感じ取る。
「十六夜君、どこにいるの!」
「ん、お嬢様か…………――」
飛鳥が乱入してくる。とりあえずさっさと寝よう。という感じに二度寝を開始しようとした瞬間、散乱した本を踏み台に飛鳥が十六夜の側頭部へと飛び膝蹴り――別名シャイニングウィザードで強襲。
「起きなさい! ――って、ああ!?」
「んあ? ――んぎゃん!?」
十六夜へと当たるその瞬間、運悪く椿姫が起き上がった。飛鳥の膝の目の前に。結果、飛鳥の放ったシャイニングウィザードは椿姫の後頭部へとめり込む。
ただでさえ悪い寝起きを強襲されたことにより、受け身などもとよりとれるはずもなく、そのままの勢いで吹っ飛んでいく椿姫。
三回転半ほどしてから壁にべちんと激突してべちゃりと床に落っこちた。ぴくりとも動かない。
「………………」
「………………」
あまりの間の悪さに沈黙が場を支配する。
「え、ちょっ! 椿姫さん!?」
「うわ、飛鳥、さすがにこれはないと思うよ」
遅れて書庫に入ってきたリリと耀。リリはすかさず椿姫に駆け寄る。
「えっと、脈はあります」
「なら良いわね」
「いや、良くないですよ!?」
「あら、ジン君、起きたの。ならちょうどいいわ」
とりあえず生きていればいいのか、あるいは椿姫のその頑丈さは知っているからか。ともかく、飛鳥は特にシャイニングウィザードを椿姫に喰らわせたことなどなかったかのように腰に手をあてて叫ぶ。
「十六夜君、ジン君、緊急事態よ! 二度寝している場合じゃないわ!」
「おう、それはわかったが、とりあえず人を起こすのにシャイニングウィザードはやめとけ。椿姫は頑丈だからいいが、これが御チビだったら笑えないぞ」
「いやいや、椿姫さんでも駄目でしょう!?」
「いや、良く考えろよ御チビ俺らの中で一番頑丈なの
「人を盾にしようとしないでください! 十六夜さんなら受けても大丈夫でしょう!」
それはそうだが、それはそれだ。幾ら頑丈でも好き好んでシャイニングウィザードなんぞ喰らいたくない。そもそもなぜ起きぬけにシャイニングウィザードを喰らわねばならないのか。そんなのを喰らうくらいならば喜んでジンを盾にするだろう。誰だってそうする。
結果としては椿姫が受けてくれたので手間が省けた。ぴくりとも動いていないがあれで一番頑丈なのだ。攻撃力という面においては、条件をクリアしなければ飛鳥にすら劣るがこと防御ということになると椿姫は鉄壁を通り越しているほどに破格だ。
そんな彼女がシャイニングウィザードくらいでどうにかなるはずもなし。可哀想だとかそういう感情を抜きにすれば良い盾であろう。というよりはそれくらいしか彼女にできることがないのが残念なところなのだ。
「んで、こんな風にたたき起こそうとしにきたんだ。よほどの事なんだろうな?」
ジンをスルーして十六夜が飛鳥に聞く。そこには二度寝を邪魔された殺気が籠っているが二度寝を邪魔されたのは飛鳥も同じだったのでスルー。
結果、リリが怯えるだけであった。
「ええ、もちろんよ。これを読みなさい」
そう言って飛鳥が手渡すのは双女神の封蝋が施された招待状だった。開封されたそれを読む。
「双女神の封蝋ってことは白夜叉からか。なになに…………へえ、東と北の
「そうよ! 何があるかわからないけど、きっと楽しいはずよ! これは行くしかないじゃない!」
「ヤハハ、こんなことの為に俺は側頭部にシャイニングウィザードを喰らいそうになったってわけか?! おいおい、しかもなんだよ『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会及び批評会に加え、様々な"主催者"がギフトゲームを開催。メインは"階層支配者"が主催する大祭を予定しております』だと!? クソが、こりゃ是が非でも行くしかねえじゃねえか!」
「ノリノリね」
「ノリノリだね」
十六夜は獣のように身体を撓らせて飛び来て、いつもの制服に颯爽と袖を通す。準備は一瞬。やる気十分。
さあ行くぞ、と書庫を飛び出そうとしたところで
「さあ、行くぞ!」
「まっ、まま、待ってください!」
「そ、そうです! 待って下さらないと黒ウサギおねえちゃんが怒りますよ!」
すかさず止めるジンとリリであるが、
「「「だが断る!」」」
問題児三人が聞くわけもない。
「待ってくださいったら! うちのどこにそんな蓄えがあるんですか!? 此処から境界壁までどれだけの距離があると思ってるのです!? 散々黒ウサギからも大祭の事は秘密にと───」
「「「秘密?」」
あっ、しまったというジンの表情。だが、もう遅い。問題児はそのキーワードを聞いてしまった。この問題児たち、どこまで言っても自分本位である。そのため秘密とかによって蔑ろにされるたことを知ればばどうなるか。
そんなもの決まり斬っている。ゆえに、
「……そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだね私達。ぐすん」
「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張っているのに、とても残念だわ。ぐすん」
「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」
ものすごくわざとらしい泣きまねで、ニコォリと笑みを浮べる。
隠す気のさらさらない悪意を前に未だ幼い少年少女はだらだらと汗を流す。哀れ、少年ことジン=ラッセルは
「よし、お嬢様、御チビ縛れ。簀巻きにして持ってくぞ。こいつがいれば白夜叉とも話しやすいだろ」
「“そこでじっとしてなさい”。
椿姫はどうするの?」
ここぞとばかりにギフトを使い覚えたばかりの亀さん系の縛り方でジンを縛りつつまだ気絶しているのかぴくりとも動かない椿姫を見ながら飛鳥が聞く。
「抱えて持ってくぞ。おいてったら一番面倒なのはたぶんこいつだ」
「それもそうね」
「じゃあ、誰がどっち持っていく?」
「私は無理よ」
「んじゃ、俺と春日部でじゃんけんでもするか。負けた方が御チビもってくってことで」
「絶対負けない」
そんなこんなで問題児一行は東と北の境界壁を目指すのであった。
ちなみに、勝ったのは十六夜だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――東と北の境界壁
――四〇〇〇〇〇〇外門・三九九九九九九外門
――境界壁・舞台区画。火龍誕生祭運営本陣
問題児たちが行動を開始するよりも幾分も前。
そこは赤い街だ。キャンドルスタンドが二足歩行で歩きまわり、色彩豊かなカットスタンドが煌めく黄昏の街。境界壁の影に重なるように設置された巨大なペンダントランプの朱色の温かな灯りが辺りを照らしている。
されど、どこかその男が立つ場所だけが深海の如く暗く感じられた。どこか見るだけで誰もを不安にさせるような男。
さながら重篤患者のような風情のあるその男。白のスーツとは真逆の闇を纏うかのような男、柊聖十郎は火龍誕生祭が間近に迫り賑わうこの街の中でどこまでも浮いていた。
されど、誰も彼に気が付かない。白昼堂々と道の真ん中でも歩いていようものならばサラマンドラの警備隊辺りに捕まりそうな男だというのに、誰一人として彼に気が付かない。
「こんなところで何をしている。逆十字」
その時、声と共に眩い光が迸る。
それは蒼色をした輝きだった。いつか見た輝きだった。
空の彼方に見えるもの。雷の輝き。
その輝きの中で腕を組む男が一人。腰には
棚引く黒い
彼は雷電だった。遠き空を駆ける光り輝く雷電であった。
「貴様か、
「生憎と、あの程度で諦める私ではない。それに、私はお前も救ってやりたいからな」
「ふん、殊勝なことだ。忌々しいんだよ、貴様を見ていると反吐が出る」
忌々しい何かを思い出したように顔をゆがめる聖十郎。
「俺を救う? なら寄越せよ、この世の全ては俺の為に存在している。お前も例外ではない。良いから奴らのように黙って俺の糧に成れ」
聖十郎の右手に空間をゆがめるほどの力が生じる。撃ち出されるエネルギー。それをテスラは躱す。
「………哀れな男だ。愛も情も、人の性に属するすべてお前は知っているだろうに。お前も、人の愛から生まれてきたはずだ。なぜ、それがわからない」
「愛は分かる。情も分かる。人の性に属するすべて、俺は余さず知っている。だが、俺は俺であるがままに鬼畜であるだけだ」
「…………」
「あるべきまま、あるべきように生きて何が悪い。お前たちは所詮、己というものを肯定できぬから下手な理屈を並べて悦にいっているだけだろう。
度し難い蒙昧な愚図ども。それならば俺が使ってやった方が幸せだろうが!」
「違うだろう。わからないならば、教えてやる。お前の救いは、それではないということを」
その言葉に呼応するように、ばちり、と空中を浮遊する白い男の周囲に雷光が迸って。
彼の首に巻かれた黒く長いマフラーが、生き物のようにうねりながら、雷電を瞬間的に増幅させていく。
かつての世界には存在しないはずの、とある機械のように、一気に膨大なエネルギーの”発電”を行う。
───そうして。
「
直後、膨大な電撃が、強烈な輝きが、真正面から振り下ろされ数秒後、鼓膜を突き破るような轟音とともに聖十郎へと突き刺さる。
だが、その程度では聖十郎は死なない。 五常・急ノ段。 その邯鄲は逆さ磔の十字を成し、六凶の内においても深度甚だ猛悪であるがゆえに。 戟法・楯法・咒法・解法・創法―――皆悉く魔人の域。極めし魔人である彼はこの程度では死なない。
もとより数十年もの歳月を死病と共に生きぬいた彼の願いは生きたいという原初の欲求に他ならない。ゆえにその
振り下ろされ槌は、光の欠片となって周囲に円状に霧散し、次々と消えていく。まるで花火のように。その中心で変わらず柊聖十郎は立っていた。
だが、誰一人、この惨状に気が付く者は、いなかった。
そして、ゆっくりと魔の手が忍び寄る。
第二巻の内容も順調に進行中。
外道も順調に暗躍中。
問題児も順調に行動中。
しかし、問題児たちの名声はガルドを倒していないので原作と違って魔王打倒のコミュニティだと全然宣伝できていないので別な理由で招待されています。
主に黒ウサギのおかげです。
外道共は聖十郎以外現在どっかでサーカス興行してます。
さて、だいぶ間が空いて聖十郎はこんなのでよかったかなと思う今日この頃。どうにも特典CDを聞きすぎて脳内に綺麗な聖十郎が出現しつつあるので、色々と大変です。
彼は現在北側で色々とやっております。
雷電おじいちゃんも色々と動いてますね。さて、どうなるかな。一応、彼の相手は聖十郎になります。なんかおじいちゃん=四四八にみえてきてしまって……。
しかし、勝てるのか、おじいちゃん……。
では、また次回。