異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ    作:三代目盲打ちテイク

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「こほん、さあ、顔合わせも終わりましたし、説明を行いたいのですが、よろしいでしょうか」

 

 そんな黒ウサギの言葉に十六夜たちは頷く。色々ふざけたりしていたが、どうしてこんな“世界”に呼ばれたのか、ここはどこなのか、色々と疑問だったのだ。

 そのため特に反論などはなかった。

 

「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います!

 ようこそ、“箱庭の世界„へ! 我々は皆様にギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうと思い召喚いたしました!」

「嘘、それだけじゃない」

「へあ!? い、いきなり、なん、なんですか? 何も嘘など申しておりませんよ椿姫さん」

「嘘」

「桜茉とりあえず最後まで聞いてやろうぜ。まだ、何にもわかってないんだ。嘘だと判断するのはあとで充分だ」

「そうね、とりあえず情報を搾り取れるだけ搾り取るのが先かしら」

「そうだね」

 

 あわわわと迫る四人に黒ウサギは後ずさる。逃げたい。非常に逃げたい。しかし、それは許されない。別に怖いことがあるわけじゃない。悪いことがなければただ話すだけでいいだけの話なのだから。そう悪いことがなければ。

 嫌な汗が背中を伝う黒ウサギであるが、それでも何とか気を取り直して言葉を続ける。

 

「え、えっと、既に気づいていらっしゃるでしょうが皆様は普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。

 『ギフトゲーム』とはその恩恵を用いて競い会う為のゲームでございます。そして、この箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございます」

 

 その黒ウサギの言葉に目の色を変えるのは椿姫以外の三人だ。なぜなら彼らはその才能ゆえに、その恩恵故に、様々なしがらみを受けて生きてきたのだ。ゆえに、黒ウサギが語ったことは十二分に彼らの興味を引くに至った。

 

「そして、異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とあるコミュニティに必ず属していただきます♪」

「いやだね」

「断固拒否するわ」

「私も」

「…………いや」

 

 しかし、四人からは順繰りにコミュニティに属すことを拒絶する。なにせ、彼ら、タイプは違えども我が強い。いわば、問題児なのだ。誰かに従うなどまっぴらごめんの唯我独尊を地でいくやからたちなのだから仕方がない。

 そもそも己の我を通すことができない時点で、覇を、願を吐けない時点でこの箱庭に招かれることなどありえない。ここに招かれるのは総じて覇を吐く者、己の中の自負であれ、願いであれを、世界に流れ出させることができる者だけが、この箱庭に招かれるのだ。

 まあ、召喚された彼らはそれに当てはまるかどうかはわからないが、それでも我が強いことに変わりはない。

 

「属していただきます!」

 

 それでも黒ウサギからしたら彼らは宝石であり、是が非でもコミュニティに属してもらわねば困るのだ。それゆえに、断固とした調子で言い、彼らの興味を少しでも引く為にギフトゲームについて説明をする。

 ギフトゲーム。

 それは修羅神仏、悪魔、あるいは人が行う大規模な遊びだ。己の力、あるいは神々から与えられた力、己の知恵で以て行う遊び。

 ただの遊びではない。この世界で行われる全ての活動の根幹とも言える遊びだ。争いも、商品取引ですらこのギフトゲームが用いられる。

 ギフトゲームで勝利すれば、"主催者"側から提示された賞品をゲットできるという簡単な構造。

 ギフトゲームの内容については、修羅神仏が人を試すために開催するものだったり、商店街がイベントとしてやるものだったりと様々で、参加するのにチップをかける必要があるものなど多岐にわたる。

 チップは金品、土地、名誉、人間、ギフト、様々だ。

 大きなゲームともなれば修羅神仏入り混じったものになる。そして、そんな楽しげなゲームに参加するにはコミュニティに参加しなければならない。

 

「なるほどな」

 

 ギフトゲームについて一通り聞いたところで十六夜がそう呟く。飛鳥と耀も似たような感じで聞いたことを反芻している。椿姫だけはクエスチョンマークを頭に浮かべて首をかしげていた。

 そんな彼らの顔を順に見てからこほんと咳払いをしてから、

 

「さて、これで一通りの説明が終わりました。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。何かご質問はありませんでしょうか?」

 

 と質疑応答に入る。このままさっきの椿姫の嘘発言が流れればいいなーと思っているが、

 

「じゃあ、先ほど椿姫が嘘って言ったことについて聞きましょうか」

「うへえ、え、ええーとですね」

「さっさと言ってしまった方が楽」

「……はやく」

 

 どこを見ても敵ばかりの四面楚歌。もう泣き出しそうな勢いの黒ウサギであるが、ここで負けたら終わりだと抗う気概を見せるも、

 

「その三人の言うとおりだぜ、さっさと吐けよ」

 

 十六夜に睨まれて即座に白旗を振ることとなる。

 

「うう、わかりました。ですが、皆様にギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうと思い召喚をしたことは嘘というわけではありませんよ」

「だが、それだけじゃねえんだろ。なに隠してやがる」

 

 十六夜の一睨みと握られた拳。言わないと耳を引っ張るとその顔は告げている。

 

「うぅ、実は、――」

 

 そうして黒ウサギが語ったのは彼女のコミュニティについて。

 彼女のコミュニティはかつてかなり強いコミュニティであった。だが、魔王にギフトゲームで負け、一夜にしてコミュニティとして活動するのに必要なあらゆるもの人材、名と旗を奪われたノーネームとなったこと。

 しかも、コミュニティには120人以上のプレイヤーでない子供たちがいて、生活に困っている。この現状を解決し、奪われたものを取り返すために異世界から四人を召喚したこと。

 招かれるレベルのギフトを有していればかなりの高待遇を受けられることを隠し、落ち目どころかどん底のナナシのコミュニティに入れて事後承諾させようとしていたことを黒ウサギは明かした。

 それを聞いて四人は、

 

「ヤハハ、魔王なんていんのかよ、流石箱庭面白そうじゃねえか」

「あら、上等じゃない。恵まれた生活に飽き飽きしていたところよ。その程度のこと構いやしないわ」

「私は友達を作りに来ただけだから」

「…………べつに、いい、むずかしいことわからないから」

 

 そう言った。そんなことどうでもいいだろうと。

 

「み、みなさん! ありがとうございます! では、さっそく」

 

 それに黒ウサギが感動を――まあ、何人か非常に心配になるようなことを言っているのだが――覚えていると、

 

「まあ、待てよ黒ウサギ。一つ聞かせろ」

「は、はい、どうぞ」

「まあ、魔王がいること確定してっから、ほぼ確信に近いんだが一応聞いとくぜ。

 この世界は……面白いか?」

 

 そんな十六夜の問いに黒ウサギは、

 

「――――YES!『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと保証いたします♪」

 

 誰も彼もを魅了するような笑顔で答えた。

 

「じゃあ、決まりだ」

 

 十六夜のその言葉を聞いて、ほっとしたような仕草をする黒ウサギ。今の今まで色々と気を張っていたが、騙すようなことをせずに――できなかったのだが――彼らをコミュニティに所属させることができたことにほっとしたのだ。

 これで本当に復興への道を歩き始めたのだから。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ――チク・タク

 

        ――チク・タク

 

「――さて」

 

 男は言った。

 それは奇妙な仮面を被った男であった。

 道化の如き姿であるが、一世代前の西洋貴族のようでもある。

 奇妙な人物。

 仮面と服装は彼をそう思わせる。

 彼は決して自らを口にしない。見たままを口にせよと戯けて言う。容姿通りに、奇妙な男であった。

 男の名はとある世界の極東の小さな島国に伝わる神なる獣の名。それがこの男のかつての名であった。

 しかし、今その名前はない。その自分は既に砕けてしまっているから。彼の地、彼の街で。あるいは神々の箱庭(ここ)で。

 

――もっとも。

――彼に名前がなくとも問題はあるまい。

――彼にとっては名など幾つもあるさほど意味のないものであるし。

――かつても、名を知る者は決して多くはなかったのだから。

 

 例えば――

 魔王連盟と呼ばれるようになる魔王のコミュニティの重鎮であるとか、特殊な“瞳”を持つ者たちの群体コミュニティの幹部であるとか、生と死の境界に顕現する大悪魔とその騎士であるとか、名と旗を奪われ散り散りになったかつての英傑たちであるとか。

 あるいは――

 殺人さえ厭わぬ犯罪組織の重鎮であるとか。闇深くで蠢く結社の頭脳であるとか。

 人はその仮面の名を呼ぶ。

 即ち、『バロン』と。 もしくは、『バロン・ミュンヒハウゼン』と。

 ただ、不用意にその名前を呼んではならない。

 命が惜しければ。

 彼の仮面の奥を想像してはならない。

 命が惜しければ。

 あらゆる虚構を吐き出すというその男は、 月明かりを帯びたような髪色の兎耳を揺らす少女へと語り掛ける。

 小さな部屋。ソファー以外には調度品は何もない。壁に囲まれた部屋。

 暗がりの密室。結界ともいうか。あるいは封印とも。

 男の格好とは不釣り合いな普通の部屋だ。100の血濡れの眼が、見つめるだけのただ普通の部屋だ。

 静謐なる内向の間と人は呼ぶ。

 かつて栄華を極めたコミュニティあるいは未知なる結末を求める男の余技にて作られた部屋。

 己が全てを見つめるというその部屋で男は眼前の誰かに語るのだ。

 

「さて。吾輩はここに宣言するでしょう」

 

――余計なる観測の開始と。

――無意なる認識の開始を。

――そして、異なる物語の幕開けを。

 

「これは、可能性の中にしか存在しえない儚き幻想に御座います。

 しかし、あらゆる可能性はそこに確かに存在するのです。

 これはそんな可能性の一つ。役違いの主演たちが、今、箱庭へと降り立つのでございましょうや」

 

 男の声には笑みが含まれている。

 対する眼前の者は無言。

 

「既に幕は上がっております。

 いずれ、主演は舞台にあがりましょう。

 ただ、一つ懸念を申し上げるなら、主演が主演として相応しいかどうかということですが、それは、吾輩には関係のないことでしょう」

 

 空虚な部屋に男の声が響く。

 対する眼前の者はやはり無言のまま。いや、微かに笑っているのか。

 

「成る程。

 そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう」

 

 対する男は高らかに宣言する。

 

「さあ、我らが愛してやまない人間と下賤なる修羅神仏、悪魔の皆様。どうか御笑覧あれ。

 ――全ては、ここから始まるのです」

 

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