異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ    作:三代目盲打ちテイク

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「俺は、まあ、結構普通の家に生まれたと思ってたんだよな」

「ほう?」

 

 十六夜という少年は、自分に厳しく何よりも厳格な父と優しいどこか抜けた母という平凡な家庭に生まれた。ごく一般的だと思っていたし、それほど変わりがあるものでもなかった。

 それなりの家庭。至って普通の家庭だ。近所付き合いもよかった。父の幼馴染の女性が経営している蕎麦屋には良く行って蕎麦を食べさせてもらったりするほどには付き合いがあった。

 

「な、ごく普通の家庭だ。何もおかしなところはなかった」

「ふむ、しかし、そうではないのだろう?」

「ああ、そうだ」

 

 明晰夢を見ることもまあ、ないわけではない。見続けるというのは明らかに異常ではあるが、それはそれだ。別におかしいことではない。

 まったく普通の家庭でないとわかったのは、彼が小学校に入学したその日の夜の事であった。十六夜はその日も明晰夢を見た。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 いつもと変わらない鎌倉の街並みが広がる。そこは自分が生まれてから過ごしている町のはずだ。しかし、どこかいつもと違う。そうまじりあっているというのが正しい。

 まるで世界観(ユメ)を誰かと共有でもしているかのように。そして、それは正しかった。

 

 気にすることなく歩いていると行き着くのは鶴岡八幡宮だ。いつもの遊び場とでも言おうか。ここが一番落ち着くのだ。

 だが、そこには先客がいた。見たことも無い女だった。白に黒の混じる髪に千信館の制服を来た女。

 

「ようやく来たか十六夜君」

 

 そんな女が自分の名前を呼んだ。さて、とりあえず母親に言われていることは一つだ。知らない人と話はしない。

 父親にも言われていることだ。ただ、夢の中で人が出て来るとは予想外で、少しばかり動きが遅れたのと、その存在がリアルに過ぎたために十六夜は声をかけてみることにした。

 

「あなたは?」

「ふむ、君の父君の友人と言っていいのかな。うん、友人だ」

「……怪しい」

「む、どこがだ? きちんと制服を着ているし、どこも怪しいところはないと思うのだが?」

 

 少女ははて、どこが怪しいのだろうか、と頬に指を当てて首を傾げる。

 この女、アホなのだろうか?

 

「まさか、怪しいのか? それならば言ってくれ。君の父君にも言われていることなのだが、どうにも私はそういうのに疎いらしくてな」

「…………とりあえず、こんな状況で、親父の知り合いと言われて、はいそうですかと信じられるわけがないだろう」

「ならば、どうやれば信じてもらえるだろうか? 一応、十六夜君の父君には、君がここに来た時の説明役を仰せつかっているのだが……」

「説明?」

「うん、そうだ。ここがどこで、君がなんなのかということをだ。まさか、こんなに早くとは思いもしなかったし、私で良いのかとも思うが、確かに私が適任ではある」

 

 邯鄲の夢と盧生について、おそらくはもっとも詳しいのは逆十字を除いては親父殿か私、あるいは父君本人だと、彼女は呟く。

 だからこそ、ここは私であるのだと彼女は言った。まさか盲打ちに任せるわけにはいくまいとも。

 

「…………信用できねえな」

「そ、そうだ、これだ、これを見せればいいのだ!」

 

 そう言ってがさごそと制服のポケットを探り始める女。

 

「あれ、どこへやったか。む、ああ、ここだったか」

 

 そう言って自分の胸の谷間を探り始める。そして、そこから取り出したのは一枚の写真だ。

 

「これが証拠だ」

 

 そう言って手渡してくる。体温に触れていたために微妙に生暖かく、汗でもかいていたのか多少湿り気のあるそれを嫌々ながら受け取りつつそれを見る。

 そこに映っていたのは確かに自らの父親と母親。それから友人たちと目の前の女だった。

 

「合成か?」

「失礼な。私にそういうことが出来ると思っているのか?」

「いいや、思わない」

 

 一目見ただけでわかる。それくらいには人を見る目があると十六夜は幼いながらに自負している。父親が偉大なのだから、それくらいは出来なければならないだろう。

 なにせ、母親はどこか抜けている。頭は良いだろうし、何事にも天稟を持ってはいるのだが、如何せん素が馬鹿なのだ。

 

 だからこそ、しっかりする。明晰夢で勉強やらなんやらで精神が他者よりも先行しているのだから当然だろう。

 

「まあ、一応は信用しておいてやるよ」

 

 もしものときは奥の手を使って逃げればいいのだ。

 

「おお、良かった。なら、説明を始めたいと思うのだが、如何せん初めから説明するとなると時間がかかる。十六夜君の疑問に答える形で答えていきたいのだがどうだろう?」

「良い」

「では、まずは何を聞きたい?」

 

――少女について

――この場所のこと

――自分とは何か

――何も聞かない

 

 まず聞くならばこの場所のことだろうか。いや、まずは、

 

「あんたの名前は?」

「ああ、そうか。失念していた。石神静乃という。気軽に静乃と呼んでくれて構わない」

「俺は、知ってるんだよな?」

「うむ、知っている。十六夜君。しかし、あまり名乗らない方が良いだろう。特に、君の父君の名は有名だ。特にこの世界ではな。だから、そうだな、別の名を名乗ると良いだろう。十六夜という名は良いから、そうだなあ……よし、逆廻だ。逆廻十六夜とでも名乗るのはどうだろう?」

 

 いや、どうだろうと言われても……。そもそも、なぜに苗字を変えねばならないのか。

 

「その理由は数多あれど、有名すぎるのが原因だ。その苗字は、特にな。何せ、まさに英雄なのだからな。まあ、バレる奴にはバレるのだが、それでもあからさまに名乗り続けるよりは少しはましだ」

 

 しかし、親からもらった大事な名を変えるというのはいささかながら抵抗がある。

 

「まあ、それは良いのだ。重要なことじゃない。それよりも時間がないから、説明に入りたいのだが、とりあえず何を聞きたい?」

 

 ならば場所の事を。

 

「ふむ、ではこの場所のことだな」

 

 この場所。夢の中なのは間違いない。ここを人は夢界(カナン)と呼ぶ。八層からなり、今十六夜がいるのは第三層。

 

――エリコ

 

「ここは人と夢を共有できる階層だ。君がいた明晰夢が連続していたのは第二層ヨルダン」

「夢界……なんだってこんなもんがあるんだ?」

「それを説明するにはまず邯鄲の夢というものについて説明せねばならない」

 

 邯鄲の夢。有体に行ってしまえば、唐代の故事を基にした歴史のシミュレーションであり、そこから悟りを開く為の行のことだ。もっと簡単に言ってしまえば超人を生み出すシステムと言ってもいい。

 ただし難易度が半端ではない。その代りと言っては何であるが、見返りもまた莫大だ。ただし、それが出来る人間は限られている。

 

 夢界とは、それが行われる場。八層からなる夢が階層構造を取った夢の世界のことだ。

 この場所が作られたのは一人の男の願いからである。ある意味では副産物ともいえる。ゆえに、理由を説明しろと言われてもある男の願いとしか言いようがない。

 

「どうだろう、だいぶ噛み砕いてはみたのだが、理解は出来ているだろうか?」

 

 七歳児にする話ではないが、ここに来てしまった以上。次に進む可能性はあるのだ。だからこそ、その危険性を知っておく必要がある。

 特にここから先は危険なのだ。

 

「ああ、理解できている」

 

 七歳児ながらも、偉大な父の背中を追いかけているのだ。これくらい理解できなくてどうする。

 

「良し。なら次だ。君という者について。といっても私は君自身については詳しいわけではない。君の中に眠る資質。いや、もうすでに開きかけている資質についてだ。盧生という資質について」

「……盧生」

「ああ、そうだ」

 

 盧生とは邯鄲を制覇し、その先にある人類と言う種が生み出した意識に触れることを許された者のことだ。

 つまりは有資格者。選ばれし者と言ってもいいかもしれない。まあ、そんな高尚なものではなく、単純に人の善悪を呑み数万年にすら達する邯鄲の歴史シミュレーションを受け止めることのできる資質を持った者のことだ。

 

 狂的なまでに夢は諦めなければ必ず叶うと思っている者たち。そして、夢を自在に扱える者たちのことでもある。

 そして、これが重要なのだが人が生み出した悪魔や神、英雄と言った数多のイノリを現世に顕現せしめることのできる召喚師を盧生という。

 

「それが俺か」

「ああ、そうだ。君にこの説明をしたのは、これからのことに備えねばならないからだ。おそらく君は邯鄲からは逃れられない。そのうち、また階層を降りることになる。ここから先は死地になる。死線を潜り夢を越えた果てを目指すことになるだろう」

 

 そう言いながら静乃は思うのだ。

 

 邯鄲をめぐること。それには本人の意思は介在せず。そこに存在するのは、ただ第一盧生(ザ・ファースト)曰く「神」の意志。ここまで来い。登ってこいという意思が邯鄲を駆動させ盧生を呑み込むのだ。

 邯鄲の夢。夢界の第八層イェホーシュアの向こう側に存在する、人の意志の介在しない存在。それを第一盧生は座と呼んだ。

 

 邯鄲の果て。阿頼耶識のその向こう側。それすら内包した世界という括りの外側。あるいは、中心。曼荼羅の中央。太極。神座。

 そこに至れる者はどうやら盧生と似たような資質を持っているらしい。つまりは目の前の十六夜もそうであり、

 

「…………」

「おい、静乃、おい」

「な、なんだ?」

「どうかしたか」

「い、や、何でもない。なるべく食いとめては見るが、ここから先に行くことがあったら気を付けてくれ。ここから先は――」

「あー、言わなく良い。攻略法が分かってるゲームなんて楽しくねえからな」

 

 そう十六夜が行ったとき、それがリミットだったのだろう。夢から覚める感覚。朝へと光が立ち上って行く感覚を受ける。

 

「うむ、時間だな」

「そうだな……」

「では、十六夜君、達者でな」

「まあ、あんたもな」

 

 そう言って十六夜は朝へと帰って行った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ふぅ」

「おーおー、お疲れさんじゃのう」

「先々代か」

 

 静乃の前に現れたのは煙管を手に将棋盤で将棋を指している男。青の羽織を羽織り、手には謎の意匠を施した男だ。

 将棋を差しているが、それが尋常ではない。通常の将棋は八種類の駒を使用して行うが大将棋は29種類の駒を使用するのだ。

 

 その全ての動きを覚えておかねばならずできる人間など限られている。静乃にしても何かの本で読んだ程度。それを目の前の男は一人で黙々とやり続けている。

 

 駒の動きは合っているのか。ただ一人で駒を動かし続ける様は何も考えていないようにも思える。事実何も考えていないのだから当たっている。

 

「余計なことをしないでもらいたい」

「さて、俺は何もしとらん」

「あなただろう。彼をこんなにも早くここまで呼んだのは」

 

 さて、どうだったか。男はそんなことを言う顔はあげない。別に考えてやっていることではないのだから、何かやったとしてもすぐに忘れてしまう。

 

「まったく。あのような子供に何ができるというのだ」

「それでも大将の息子じゃ。よいよおもろいことになるにきまっとるやろ」

「それでは困る。まったく、これだから盲打ちは」

 

 そう言いながらもわかってはいるのだ。静乃も。時間はないのだろう。彼が動いたということはそういうことだ。

 神にも仏にも、悪魔ですらその裏を取れない盲打ちが動いたということはそういうことなのだ。だからこそ、出来ることをしなければならない。

 

 響く咆哮。獣の咆哮。人獣の咆哮。闇に煌めく黄金瞳。やれやれ、相性が悪いというのにここで相手をせねばならないのがなんとも言えない。

 そも、手駒すらない上に、さっさと卓袱台返ししてきそうな相手。そんな相手に男は静観を決め込んでいて。

 

「ほれ、若いもんが頑張らんかい」

「あなたは、本当に!」

 

 文句を言いながらもやるしかないのだから仕方がない。やれやれ、まったく。本当にまったくだ――。

 




活動報告で直ぐに更新は出来ないと思ってましたが、意外に書けてしまったので更新します。
十六夜の過去編はまだまだ続きます。

というか今更ながら戦神館の新作の体験版やってますが、聖十郎が日常パートやってるだけで糞笑えるんですけどww。
もう、爆笑で全然進まなかったです。

そして、静乃可愛いですね。戦神館女性勢の中で今のところトップですよ。あ、キーラ様は別枠です。
なにはともあれ楽しみですね。

今回静乃を出したのは、万仙陣が出た時用の伏線です。どうするかは未定なのですが関わらせる気満々でございます。
え、ノブ? 奴は序盤から出てるから。

次回も時間かかるかもしれませんが、ゆっくりお待ちくださると幸いです。
では、また次回。
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