異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ    作:三代目盲打ちテイク

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「それで、どうなったのだ?」

「特になんも? それから三年くらいはなにも起きなかったな。静乃ってやつにはそれ以降会わなかったしな」

「静乃……か」

 

 石神静乃。その名に聞き覚えがないと言われればレティシアはあると答えることになるだろう。かつてノーネームの名と戦の真が奪われる前に。

 その中に仲間としてその名は確かにあったのだ。

 

「それで、どうなったのだ?」

「変化があったのはそれから三年くらいかね――」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 十六夜が十の齢を数える頃。変化が訪れたのはこの頃だ。同じように夢に入った。変化はそこから始まった。まず時代が古い。

 何か、そうまるで階層が変わった(・・・・・・・)かのように。事実、変わったのだと十六夜は察した。

 

 そして、同時にここが死地であることも本能的に察した。百年前。ここはそうそんな時代。かつての動乱の時代。

 いつかの彼方において、男と男が夢と夢を語り己の意思をぶつけ合った時代。その前章。そうつまりは、眷属共が跳梁跋扈する夢の空間。

 

 曰く、倒せ、打倒しろ。かつての英雄が超えたそれ。二番煎じ、三番煎じ? いいや、違う。なぜならば、英雄たちはただの一度も彼ら全てを相手にしたことはないのだから。

 だからこそ、一人で、眷属全ての相手をすること。これこそが前人未到の偉業となるだろう。ゆえに、ぶつかり合うが良い。

 

 この先にこそ、お前の始まりは在るのだ。

 

「このような子供が我らの相手だと?」

 

 赤い衣に身を包んだ少女。美しき銀の髪をなびかせて、黄金瞳が輝いている。可憐な妖精のようにも思える容姿。

 されど感じるのは圧倒的な覇気。そうまるで、強大な獣と相対したかのよう。以前、母親がドジって動物園のライオンの檻の中に落とされた時以上の威圧感。

 

「宗冬、宗冬?」

「はい、ここに」

「ああ、宗冬。あの子供が相手のようですが」

「はい」

「それに間違いはなくて?」

「誓って」

 

 甘ったるい匂いをさせる美女がと、眉目秀麗な男が一人。貴族と執事。尊い血を感じさせる高貴な二人組。

 ただ目の前にいるだけで感じるのはこの女への好意と全幅の信頼を置きたいと思うような圧倒的な甘ったるさ。あまりの甘さに酔いそうになる。

 

 対する男の方もやばい。執事という戦闘要員でないなどと楽観などできない。そもそも腰に差したサーベルがそれを許さない。

 鋭利な刃物。女と見まがうほどの秀麗な男だが、例えるならばそれだ。目の前にだけは立ちたくない。

 

「よいよ人使いが荒いの大将。そりゃあ俺の好きにやってもええっちゅうことか?」

 

 更にまだいる。青の羽織を羽織った男。両手に奇妙な紋様を持つ男。どこまでも何も考えてないように思える男。

 だが、十六夜が幻視するのは巨大な盤面と釈迦の掌。浮かぶ三つの仮面が不気味ではあるが、その一つ一つから感じられる殺意とも言うべき波動は大きい。

 

「さんたまりあうらうらのーべす」

 

 蝿声を吐き出す黒い影。何かはわからないがありとあらゆる蟲の集合体。不浄。もはやそれ自体が歪みであり淀み。

 これに対して定義する言葉はただの一つしかありえない。悪魔。まさに全人類の悪魔という概念を固めたような存在。吐き出す言葉はまさに冒涜のそれ。

 

「下らん。実に下らんぞ。その程度でしかないなら、俺の糧になって果てるが良い。お前も、それが本望なのだろう」

 

 次いで現れるのは幽鬼のような男。何よりも濃い死の気配。死病の気配。これの傍にだけはいたくない。何があろうとも、これの傍では正気ではいられないだろう。

 そんな気配の中心。吹き上がるのは死病。黒い血液と膿み。だからこそ、寄越せ、寄越せ、寄越せ。そう叫ぶ極大の生への渇望。

 

「唵 呼嚧呼嚧 戰馱利 摩橙祇 娑婆訶」

 

 そして、今まで出てきた奴ら全てが霞む極大の破壊がやってくる。もはや、敵などと思うべくもなく、これはもはやそういうものではない。

 災害。例えるならばそうそれ。人間が抗う事が出来ない極大の自然の脅威。憤る大地の発露。これと争う事自体間違えなどのだと十六夜は瞬時に悟る。

 

「さてのぉ、坊主」

 

 話しかけるのは羽織の男。

 

「そういうわけじゃ。坊主、ここから帰りたい言うんなら、俺ら全員倒すしかないけぇ。よいよ、たいぎぃことじゃが、まあ、気張れや。こん夢越えれば、あとは大概どうにかなるでのぉ!」

 

――来る!

 

 そう確信した瞬間。十六夜は己の身体を戟法と楯法で強化する。迅と堅。堅く速く。その場を離れた。その判断は正しく、そこに落ちてきたのは鶴岡八幡宮そのもの。

 建物を地面から引っぺがし投げられたと理解にはあまりにも非常識な光景。だが、ここは夢。非常識なことなど起きる。

 

 現に、今のこの状況こそが非常識なのだ。

 

「ぐおおおお!?」

 

 そして、十六夜を襲う銃弾の雨霰。楯法を使っていたからこそ凌いだが、当たっていれば致死は免れない。いつの間にか兵団に囲まれている。

 さながら一個の生物のように動く軍集団。

 

 だが、それだけに集中のしていられない。

 

「行けや、怪士(あやかし)泥眼(でいがん)夜叉(やしゃ)。坊主の戦の真を聞き出してこいや! ないなら、ここで殺してしまえ。それが坊主の幸せじゃ!」

 

 動く三つの仮面。それらは同時に人型を取った。夜叉の面を被った長髪の女がその手から無数の刃を放つ。

 飛翔する刃。それを跳ぶことで躱せば背後からの強襲を受ける。見えない気配もない。だが、確実に何かの攻撃を受ける。

 

 そこから逃げれば現れる鬼面を被った、まるで幾星霜も風雨に打たれ、一切の無駄が消失した巌の如し佇まいの(つわもの)

 振り上げられた拳。打撃が来る。そう思いガードしようとするも、針孔を通すが如き精度にて放たれた拳は十六夜の腹を撃ち貫く。

 

「カッ――!」

 

 練度が違う。圧倒的な練度で放たれた拳はたとえ楯法で強化していようともそれを撃ち貫く。

 

「休む暇はないぞ、少年! 詠から破に上がれないならここで潔く死がいい。そちらの方が幸せだろう」

「っ――!」

 

 そう休む暇はない。放たれる剣閃。その鋭さはなによりも鋭い。右のサーベルから放たれる剣戦は速く鋭い。

 反撃をしようとしても避けられ、そこにカウンターで一撃をもらう。そも、攻めようとするには手が足りない。力が足りない。

 

 敵が入れ替わり立ち代わりで十六夜の目の前に立ち、その行動を潰す。

 

「おい、屑。あまり俺の手を煩わせるな」

 

 放たれる熱線。躱せばそこに悪魔がいる。

 

「あはははは」

 

 蝿声を撒き散らし、それは糞まみれの槍を放つ。

 

「この!」

 

 このままでは負ける。今、ここで生きていることこそが最上の奇跡。そんなもの長続きなどするはずがないだろう。

 そもそも、敵は未だ本気ですらないのだ。だからこそ、武器がいる。

 

 武器だ。創法にて創形する。それくらいは出来る。問題はタイミングと何を創りだすかだ。現代に生きる十六夜が武器として扱えるものなどこの拳くらい。

 ならばそれを強化すればいいのかと言えば違うと答えざるを得ない。なぜならば、拳において強化などメリケンサックくらいしか思いつかない。あとはボクシングのグローブ。

 

 鉄製にでもすれば強いだろうが、そんな紛い物がこの場で通用するなどありえない。ならばこそ、真に武器がいる。

 頭に浮かぶのは刀やナイフなどの刀剣類。それも良いだろう。あるいは銃。夢の中ならば敵を追い続ける銃なんてものを創形することが出来る。

 

 しかし、そんな子供だましではダメだ。そんな武器ではない己の手足の延長上として、この場をしのぐための武器を作る必要がある。

 ならばなんだ。

 

 剣山が生え、極められた拳が襲い、影の一撃が振るわれる。剣閃が翻り、圧倒的な力と数の暴力が襲い魔人と悪魔の一撃が虚空を斬り裂く。

 それらすべてを嘲笑い廃神がその激震を引き起こし夢を割る。世界が壊れゆくかの如き衝撃ではあったが、今だ十六夜は健在。

 

 単純に運というわけでもなくただ極限の集中と己の才がその結果を搾り出す。諦めない強い意志と、父母から受け継いだ仁の心。

 諦めない。孝を成す為にも。だからこそ、今だ。全ての攻撃が集中した今、この瞬間こそが勝機。片手間などなく全ての夢をただ武器を創ることに傾ける。

 

 紡ぐのはただ二つの(武装)

 

 その結果は――

 

「おおおおおおぉぉおぉおおお!!!」

 

 十六夜、生存。

 

 凌いだ。

 

 剣閃を斬り裂き、打撃を受け止め引き寄せ奔流をせき止める。その手にある二つの武装。右手に鋭い刀を。左手には旋棍(トンファー)を。

 攻撃と防御。二つを兼ね揃えた。今、ここに十六夜という少年は攻めへと転じる。

 

 身を低く、放たれる剣雨を旋棍を回転させることで弾き返す。己の意思に従うように旋棍は回る回る。同時に右の刀は迫る拳を斬り裂いた。

 身体が動く。そこに宿る意志、あるいは記憶かもしれない。それが十六夜に教えてくれる。こう使うのだと。両親の如く優しく、厳しく。

 

 いいや、教えられていたことをまるで思い出しているかのようだ。戦の空気に己が順応するにつれて夢は駆動し、身体は動く。

 放たれる銃撃。画一された実力。今更そんなものが通用するはずもない。三千の兵団。それらすべてを薙ぎ払い切り飛ばす。

 

「その程度で良い気になるなよムシケラが」

 

 放たれる熱線。それを切り裂き病みの男へと接近する。

 

「おおおお!」

 

 振るう刀。男は無論、その程度躱すまでもないと受け止める。見えない壁。防がれたとわかるや否や跳躍。

 背後に迫る気配のないそれに旋棍を引っ掛け投げるように剣雨への盾とする。突き刺さる剣雨。見えない何かが現れ、そこに刀を這わせた。

 

 それを足場に着地。目の前にいるのは夜叉面の女。

 

「おらあああああ!!」

 

 渾身の一撃。斬撃が大気すら斬り裂く。それと同時に走る激震。悪魔の笑いが木霊する。極黒の大穴が地面を穿ち激震が大地を割る。それによって一撃が避けられた。だが、追撃はしない。

 余裕がないのは変わらない。戦えている事実は、単純に相手が本気でないことと自分の資質が破格であるからと気が付き始めた。

 

 だからこそ、欲は出さない。

 

「それでこそだ。だが、まだまだ軽い」

 

 放たれる剣閃。鋭く流麗に流れるような剣の舞。それを剣では受けず左手の旋棍で受ける。剣の腕は相手の方が上、ゆえに剣で受けるという愚は犯さない。

 そこで、感じるのは違和感だった。軽い。動きがおかしい。攻撃しているのに聞いていない。己の一撃は確実に強化されている。

 

 だが、それがどうしたとばかりに。まるで羽毛にでも撫でられたかのように男には届かない。そして、ただ息を吹きかけられただけで吹き飛ばされる。

 

「そういうことか」

 

 戦の中で急速に磨かれていく心眼が捉えたのは相手の夢。

 

 軽い、軽い、軽い。

 百合香お嬢様への愛情以外、この世の全てが総じて羽毛の如く軽い。ゆえに、この夢は軽くする。己の周囲の全てを軽く。

 

 事実軽いのだ。ただ一つの思い以外、この世に見える全て、己の背負うものに比べたら軽い。軽すぎるぞ。

 まるで羽毛だ。羽毛が何をしたところで人に危害を加えることなどできはしない。攻撃をしたいのならば、それ以上の重さ()を示して見せろ。

 

 そう言わんばかりに鋭い突きが放たれる。対して軽くされた十六夜はそれを受けるだけで吹き飛ぶ。

 

「ぐっ!」

「ほうれ、坊主、もっと気張らんかい! お前の戦の真はどんなもだら!!!」

「ぐはっ!」

 

 高資質の環境操作によって放たれる雹の雨。

 

「そんなものか貴様! 我が子らを殺した罪はこんなものではないぞ!」

「ぐはっ!」

 

 赤い死神がその強大なまでの力と巨体でもって全霊の一撃を叩き込む。

 臓物が潰れ、骨が砕け血反吐を吐くも、それでも今だ十六夜は生きていた。それでもこのままでは死ぬことにかわりはない。

 

 なんという理不尽。この世の尺図。圧倒的な理不尽にさらされた時人の選択肢は単純だ。諦めないか、諦めるか。

 ただそれのみ。

 

――諦める

――諦めない

 

 選ぶものなど決まっていた。

 




またも、書けてしまったので投稿。

しかし、あれだ。うん、ごめん、十六夜君。まさかこんなことになるとは思いもしなかったんだ。
まさかのボスラッシュ。本編四四八ですらこんなことにはならなかった全ボス対面の一対六という超絶ボスラッシュでございます。

十歳児やることじゃねえなとか言いつつ書いてしまった。というわけでちゃっちゃと破段顕正してもらおう。
こんな理不尽をぶち破るそれが十六夜君の破段になると、いいなあ。あまり考えてはないのだけれど。

でも、ここ乗り越えてもまだ第五層、六層、七層が舞ってるんだよなあ。次で馬鹿、両親、獣殿……うん、これは酷い。

そして、万仙陣PV2でなんだか南天ちゃんがいろいろと言っていたので、うちのセージさんが奮起したらしいです。

セーゾ「何を言っている屑が。この俺が百年前、貴様らに敗れた頃と同じだと思ったか阿呆め。俺の敗因はただ一つだ。盧生などという下らぬ物に縋ったことだ。ああ、忌々しい。盧生などと言うものが至高の座だと思ってしまった自分が愚かしいわ虫唾が走る」

あかん、こんなんなったら誰も勝てなくなるw。

というわけで次回もゆっくりお待ちください。
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