異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ    作:三代目盲打ちテイク

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――南区画の箱庭7759175外門“アンダーウッド”

 

 そこはなによりも美しい場所だ。巨躯の水樹を中心として町には翠色の水晶で作られた水路が広がっている。

 大瀑布が立てる水音はまさしく生命の鼓動そのもの。何よりも圧倒的であり、それでいてこの場に調和していて不快感などは感じず涼しさと生命の力強さを感じさせる。

 

「すごいね」

「ええ、本当」

 

 その水源である巨躯の水樹を見上げて耀と飛鳥が呟いた。大口を開けてなどとみすぼらしいマネを晒すことはなかったものの気分はまさに田舎から都会に出てきたおのぼりさんだ。

 なんとも可愛らしいな、と黒ウサギは笑顔。ただ内心は少しばかり暗く、一緒に来れなかった十六夜と椿姫を想う。

 

 今度は全員で来ようと心に決めて、今は主催者に会いに行くことにする。今回の収穫祭の主催者は龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・クリフ)とそれに連なる連盟。

 これだけの規模の収穫祭を起こせる程度には大きな力を持つコミュニティだ。

 

「ふふ、お二人とも、そんなに上ばかり見ていては転びますよ」

「大丈夫、ちゃんと気は使ってる」

「うっ、こういう時、私のギフトって役に立たないのよね」

 

 まさか奇械を出すわけにも行くまい。彼の視界を使えば飛鳥とても上を見ながら前を見るという芸当ができないわけでもないが、そんなことの為に出しては力の無駄というものだろう。

 あれをここで出すとまずい(・・・)。あれは全てを自殺させるそういう力を持っている。ゆえに、悪性腫瘍。

 

 病みではあれど、飛鳥の意志に従ってくれるものの見ていて気分が良いものではないだろう。捻じれた腕は常に首を絞め続けているという図は。

 そもそもそういう問題でもなくここで使うのがまずいのだ。ここに眠る存在を彼女は見つけていた。このところそういう感覚が拡張されているような気がする。

 

 常日頃から働くというものでもないが、それでもこの地に立った瞬間から気が付いた。何かが眠っていることに。

 それを起こしてはならない。

 命が惜しければ。

 

 そんな致命的な気配。ゆえに、この場ではあまりイクシオンを使うつもりはなかった。その代りとなるギフトは一応持っている。

 未だ、自らの本質を受けれることは出来がたいが、それでも受け入れる努力はしようとしているのだ。それが祖母との約束でもある。

 

 祖父は適当にやれやと無責任であったが、それでも一応ある程度の護身術くらいは教えてもらえた。まあ、使う機会がないような物凄い狭い範囲の土地殺しの術。

 そんな外法だ。使う機会があったらあったで怖いものだ。と、そこまで考えて、

 

「そう言えば春日部さんは、新しいギフトを手に入れたのよね?」

 

 そう言えばと思い出す。

 

「うん、そうだよ?」

「まだ、それについて詳しく聞いてなかったわね」

 

 名前くらいは聞いた。豊穣なる大地の母(Genome tree of)産み落とす幻獣の牙(the Gaia)。一瞬で、あの枯れた大地をなんとかしたあのギフトは凄まじい力であった。

 

「うーん、私も詳しくは聞いてないけど、なんでもこの箱庭に充ちてるものを使って使う技的な?」

「あ、やはりそうなのでございますか?」

 

 それに反応したのは黒ウサギ。

 

「知っているの黒ウサギ?」

「YES! 知っているでございますよ。星辰光(アステリズム)と呼ばれるギフト体系ですね。今は見えませんが太陽の主権を持つとある御方が開催しているゲームでしか得られないものでございます。

 能力強化とあわせて異能を得られるギフトのはず。高位ギフトのはずなのでよく手に入れられましたね」

「うん、なんかそこらへんにいた凄い人と勝負してね」

 

 そんな女子トークからはぶられているジン君はというと、

 

「みなさん、そろそろですよ」

 

 そろそろ到着するので全員を此方へと引き戻す。

 街中を歩いている間に、収穫祭の会場へと続く回廊へとやってきた。ここから先はアンダーウッドの中核をなす地下都市となる。

 

 未だにここは前夜祭ではあるが、出店や展示物は既に数多く出展している。天然の自然から生み出される光とは違い、様々なギフトで生み出された人工の光が輝く地下都市はまるで宝石箱のようでもあった。

 螺旋状に形作られた地下都市はそこまで深くはないものの、壁沿いに造られている都市の広さで言えば、地下とは思えないほど広い。

 

 この地下都市、ノーネーム一行はこの中腹部分を目指していた。エレベーターを使ってそこまで上るとそこにいたのは、綺麗な女だった。

 サンドラに似た赤い髪をくくり上げて燕尾服を着ている褐色の肌をした男装の麗人。女ですらほれぼれとするような女は、一行を見ると頭を下げる。

 

「ようこそいらっしゃいました。ノーネームの方々。私はサラ=ドルトレイク、『一本角』の頭を拝命している者です」

 

 そう丁寧な物腰で彼女は言った。

 

「ドルトレイク? サンドラさんの?」

「はい、姉となるでしょう」

 

 似てはいるが、似てないとはこれいかに。

 

「長旅お疲れ様です。何分人手が足りにもので迎えにも行けず申し訳ありません。本来ならばウィル・オ・ウィスプの代表もお招きしていたのですが」

 

 前回の魔王騒動の際に参謀とメンバーを失ったウィル・オ・ウィスプは今回は不参加だった。それは黒ウサギたちにしても不本意なことだった。

 

「仕方ありません。あの様な事があったのですから」

「聞き及んでいます。ともあれ、まずはこちらへ。ゆっくり話をしましょう」

 

 そうやって彼らは奥へと案内されるのであった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

――諦めない。

 

 諦めるものか。そう不退転の意思がある。このような理不尽に対面した際にどうするかなど決まっていた。己の全霊を賭けて立ち向かう。

 父もまた、理不尽に遭遇した際諦めなかった。祖父でさえ死病に侵されていながらも生を諦めなかった。ゆえに、自身も父のように、祖父のように立ち向かう。

 

 尊敬する男たちの背を見て、彼らの行為が無駄ではないと証明するために。この程度の理不尽で諦めてなるものか。

 

「俺は諦めない! できる、できないじゃねえ。やるんだよ!」

 

 諦めずにその手を伸ばす。その思いに夢は、その歯車を回し駆動する。

 

遠津祖神(とおつみおやのかみ)代々(よよ)祖霊神達(おやたち)の御前、また親族家族(うからやから)霊祖神(みたま)の御前に、謹み敬(いやまい)もまおす」

 

――破段・顕象――

 

「破軍星――十六夜ノ月」

 

 夢が駆動する。それはただ一つ、十六夜だけの夢。高資質に彩られた二つの夢が最高純度で駆動する。曰く、理不尽を、不合理を、不条理を許さぬ。

 つまりは、夢の否定。解法の崩と創法の界によってなされた一つの夢が駆動する。二つの夢を掛け合わせた五常楽・破ノ段。

 

 創界を成し、その中にいる者全て夢を否定する。駆動する夢を失くし、そこにあるのはただ己のみ。夢や神気などそこにはなくただあるのは人のみ。

 我も人、彼も人。ゆえに、夢などという理不尽、不合理、不条理を使わずに立ち向かえ。己の力のみによって立つ漢の夢。

 

 例外ではない。創界を成す十六夜すらも夢の恩恵を失うということ。創界を成すことはできるが、それ以外の力は使えない。

 夢などなくとも、人は立ち向かえるのだと証明するために。

 

「ごはっ!? こ、これは、貴様ァ! なに、をしたアアア」

 

 病魔に侵された男が慟哭する。夢でしか生きれぬ男。しかし、男として立ったのだ。前に。ならば対等。病? なんだそれはそんなことどうでもいいだろう。

 誰であれ前に立つならば平等だ。そこに上も下もなく、人は平等である。ゆえに躊躇いなく拳を前へ。握りしめた拳をただ突きだす。

 

「ご、ハァ!?」

 

 連続で放たれるのはただの拳。しかし、男には避けることすらできない。ただただ黒く染まった穢れた血潮を吐くだけ。

 ただ風が凪いだだけで男の骨は砕ける。拳が当たれば血管が破裂し、内臓が軋み淀みうねり機能を失っていく。

 

 男に抵抗などできはしない。半死半生の男だろうが十六夜は手加減などしない。目の前に立ったのならばそれは対等であるから。

 上も下もなく、あるのは単純に相手への尊敬の念だ。その資質、そのうちに抱えたものゆえに前に立つのは常に父親ただ一人。

 

 しかし、ここでは前に立つ者がいる。だからこそ、彼らを尊重し敬い忘れない。始めて出会った平等な相手ゆえに。

 そうして、呆気なく幽鬼の男は倒れ伏す。もとより夢で支えていた命であるがゆえに。そして、消え失せた。

 

「しかし、この夢、地力で勝らねば勝ちはないだろう」

 

 そこに迫る鋭い剣閃。大気を空間すら刺し貫く刺突。辛うじて躱すも貫いた大気が頬を斬り裂く。そこにあるのは積み上げてきた年月の差。

 

「だろうな!」

 

 そんなことくらいはわかっている。そして、地力がこの場で最も劣る者であることも自覚している。だが、だからどうした。

 そんな理不尽など殴り飛ばせ。やれないじゃない、やるんだよ。

 

「こんなところで、止まってられないんだよ俺は!」

 

 死ねない。未だ、父には孝を返しておらず、母は目を離すと心配だ。できは良いくせにどこかズレたあの母親から目を離すわけにはいかない。

 ゆえに、ここで止まれる道理はなく。そもそもこんなところで死ぬ理不尽など認めないと夢は駆動している。

 

「――っ!」

 

 放たれる拳、蹴り。それは先ほどまで素人のものだったのが今はどうだ。洗練されている。急速に。突きは剣の腹を正確に叩いて逸らす。

 そして、引き戻す隙に懐へ。服の襟をつかみ、インファイト。剣の間合いの内側へ。そのままその涼しい顔面を殴り続ける。

 

 相手もまた同じく殴り合いとなる。あとはもはや根性勝負だった。そして、根性ならば誰にも負けないのが十六夜だ。

 また、それだけでなく、定まらぬ無色の宇宙がそこにはある。

 

「なる、ほど。これほど、か」

 

 関心したのはその資質の高さ、それとその先にある宇宙にだろう。執事はそのまま粒子となって消えて行った。

 従者の消滅と共に主もまた消え失せる。

 

「舐めるなよ人間風情が!」

 

 強大な手が唸る。それは三千人もの人間を接続して作られた究極の超獣。それは夢などではなく、禁忌により製造された狂気。

 魔性の全て。冥府魔道に堕ちた人の業。それは獣性を投影した概念的な夢の像ではなく、現実的な物理的存在であり解法の類すら通じない。

 

 本来、バラバラ死体の集合でしかないそれらが黄金瞳の力により一つの生命体として駆動している。全長数十メートルを優に超えるその巨体は絶叫だけでも砲撃並みの破壊をまき散らし、巨腕は一撃であらゆるものを粉砕する。

 これが人の究極とでも言わんばかりに。ただ一人の男の狂気(理想)が駆動する。

 

 こんなものまともになぐり合えるわけがないだろう。だが、それでもだ。拳を握る。諦めない。寄って立つ夢はそう言っている。

 結果、殴り飛ばす。

 

「ナ、ニィイイイイイ!?」

 

 外れている者だからこそ、資格を持つ。この邯鄲はそういう邯鄲。ゆえに、資格を持つ者の強さが、そこにある。

 急速に覚醒していく天稟は凄まじく、“それ”と共に彼の中に眠る資質もまた目覚めている。初めから外れているこの少年の拳は今のこの場において全てを打ち崩す。

 

「見とるか大将。こいつは、とんだ鬼子じゃ。鬼才、いや、そんなもんじゃないでよ。まったく無色のくせしてとんだ奴じゃ」

 

 そう言いながら男は自分で消え失せた。最初からやる気などなかったかのように。

 

「はあ」

 

 こうして、全ては終わった。いや、始まったのだ。

 




とりあえず、こんな感じになりました。

十六夜の破段は、こんなもんです。夢の否定。というか特殊能力の否定というか。まあ、地力勝負に持ち込む破段です。
一度発動してしまえば制限時間まで発動した本人ですら夢が使えなくなると言う謎仕様。

それでも太極無形な十六夜君の地力なら勝てるという。まあ、邯鄲に入った時点で格の概念が解消されるという設定なので、そこまで圧倒的なことは出来ないんですが、ここから階層を経るごとに格を手に入れていく感じような修業場と邯鄲は化しております。

次の相手、さて、ボスラッシュときたら、次はあの人でしょう。あの大馬鹿野郎に登場願いましょう。
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