異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
「まあ、そういうわけで今の俺があるわけだな」
そう言って十六夜は過去語りを締めくくった。
「なんとまあ、色々とあれだな」
「ヤハハ、そう言われるとは思ってたぜ」
「それで? その二人にはどうやって勝ったのだ?」
「ん? そりゃ、まあ俺の主張をぶつけて? いや、死んだらなんか戻されて勝てるまでひたすらぼこぼこにされた。まあ、その後も大概酷かったんだがそれでもなんとか最下層まで行って」
信じられないという思いがあった。あの十六夜がぼこぼこにされたというのが信じられない。
「ヤハハ、俺も若かったんだぜ?」
「今も十分若いだろう主殿」
「ヤハハ、そうだった。まあ、俺の過去なんてそんなもんさ」
軽く言うが十分凄まじいことをしていると言える。幼少期からおかしな世界で戦うなど常人ではどうやっても不可能なことだ。
そこはやはり十六夜というべきなのだろう。
「それじゃあ、次はお前の番だぜお姫さま?」
「どうしても?」
「おう、俺が話したんだ。お前の過去話話せる奴でいいから聞かせてくれよ。此処に来る前に何をやっていたのかをな」
「……わかった」
ゆっくりと彼女は語る。これはとある男との思い出の日々。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――同一時刻。
――状況最悪。
アンダーウッドの炎に包まれていた。それがただ一度の攻撃で起きたことだと信じられるだろうか。ただの一度。防いだと思った攻撃。それが終わりではなかった。不可視の神の一撃は全てを焼き尽くす。
本来ならば時代を支えるはずの炎の
「――――」
世界が血で染まっている。地獄とはかくあるべきだとでも言わんばかりに。此処こそが地獄、これこそが地獄絵図。
悲鳴を上げて逃げ惑う人、人、人。それを牙が、爪が引き裂く。地獄の使徒あり。全てを地獄へと誘う使徒あり。巨人、あり。
全ての阿鼻叫喚、全ての絶望を混ぜ込んだ魔女の窯の底。ぐつぐつと煮えたぎる窯の底ゆえに逃げ場など
建物が倒壊する。そのたびに悲鳴が上がり、紅い華が咲く。死骸は例外なく炎に包まれて燃えている。油分が大気を汚染し、燃える死骸は酷い瘴気を撒き散らす。
肌に張り付くのは死体から出た魂の如き瘴気。生者を呑み込む死者の手招き。お前も来い、お前も来い。そう絶望の中で死者が叫んでいる。
さながら、それは地獄の窯の中のような光景だった。現実ではありえない、駆逐されたような光景。だが、それは確かに現実だった。
右を見ても、左を見ても、炎が燃えている。燃えていない場所ないし死骸がない場所もない。死体の博覧会会場と言われても信じられることが出来そうなくらい石畳の上は赤く染まっている。
しかも、現在進行形で死体が増えていっているというのだから恐ろしい。おおよそ考えらえる以上に絶望に薪がくべられている。
「あ、ああ」
その中でジン=ラッセルはただ深く絶望していた。綺麗だった街並みは一瞬にしてぼろぼろと化した。ただ一筋の光と魔震が街を引き裂いたのだ。
それでも生きているのはひとえに幸運だったからだろうか。ともかくとして生きている。いいや、守られたのだ。
「あ、飛鳥さん!」
目の前には倒れた少女ただ一人。弱い己をかばったのだ。全身が酷く焼けている。死んでいないのが奇跡の状態。
「ああ、ジン君無事、みたい、ね」
それでなおジンを心配する飛鳥。イクシオンは使えなかった。殺せない相手に対して即死の一撃も自死の両腕も使えない。
だからこそ、こうなった。己の持てる技量にて死にかけ、アンダーウッドの大樹によって再生されかけていた地脈を手繰り寄せてそれで防いだのだ。
だが、それが限度。
それでもジンが無事ならばやるだけのことはやれたのだろう。
「は、はい!」
ジンは自らを呪う。何もできない。ジン=ラッセルには何もできないのだ。そう痛感した。そう痛感させられた。
だからこそ、ジン=ラッセルはこの場を離れることを選択した。何をするにも体勢を整える。それが純粋な恐怖から来る判断だとしても。間違いではない。
その小さな身で飛鳥を抱えて走る。その時に何かを踏む。それは人だったものの眼球だった。全身を嫌悪感が駆け巡る。
「あああ、あああ――!」
声にならない悲鳴を上げた。既に精神は限界。それでも走る。肉体もまた過剰酷使によって筋繊維が一本、また一本と千切れていく音が聞こえている。それでも走る。
足だけは止めない。生きたい。生きたい、生きたい。生きて、勝つのだ。それは人間の純粋な本能。生存本能。種の保存として、己の保存としての当たり前。そして、ジン=ラッセルの意志。
しかし、純粋であるがゆえに運命は彼を逃しはしない。
「――――っ!?」
目の前に炎に四方を囲まれたそこに少年と少女。子供二人。幻想種の二人。倒れた少女を抱える少年。それはまだ、生きている。それと目が合ってしまった。
「あ――」
重ねて言う。運命は彼を逃しはしない。そもそも誰も彼もをここから逃すことを運命は許していないのだ。
他に交じるものなどない欲求、想いを運命は聞き届ける。そもそもこの状況にして混じるものなどある方がおかしいのだ。願いはどこまでも届く。
ゆえに、それが純粋であればあるほど呼び寄せてしまうのだ。さあ、絶望しろ。それこそが望むものであり、それを乗り越えるお前たちを見たいのだ。
至るは破滅への道。
「
呼び寄せる極大の邪神。
「六算祓エヤ、滅・滅・滅・滅、亡・亡・亡ォォォ!」
求める。求める。求める。
唱える真言は、その願いの全て。
病を癒やせ、その原因を祓え、御仏の慈悲を垂れろ。
つまり、病の癒しを求めている。
――癒せ、癒せ、癒せ。
更に重ねよう。運命は、誰も、逃しは、しない。
「あ。あああああ」
突如飛来する魔震と炎の一撃。莫大な熱量が爆ぜ、魔震の一撃が大地を抉り割る。絶望の劫火。肉をあぶる火も意に介さず。
咄嗟に、ジンは子供二人と飛鳥をかばうようにする。結果、己の肉を炎があぶる。限度を超えた激痛を脳は認識すらできない。
事態は一向に好転の兆しを見せず。地獄を創りだした者の首魁の手によって更なる地獄へと加速度的に落ちていくのだ。
落ちてくるのは焼死体であった炭と魔震に砕かれた血しぶき骨、肉。極大の極限の焔によって一瞬にして炭化してそれらはさながら花吹雪のように舞い散る。
もはや目の前にあるのは死ただ一つ。ここまでジンや飛鳥、ただの子供二人が生き残っていること自体が奇跡に近い。
逃げろ、逃げろ、逃げろ。ジンの本能が逃げろと叫ぶ。逃げろ。とにかく本能がここから逃げることを叫び続ける。
だが、断言する。不能、不可能。いかに不退転の決意を示そうとも、逃げようにも力がなければ意味がない。力がなければ何も守れないのだ。
ただかの竜頭が降れるだけで全てが飛び散り砕け散って行く。ああ、無情。何者を救うために命を賭けるもまだ足りぬ。
意志、覚悟、根性。そんなものが通じるのは小説の中だけの話だ。現実問題、それではどうにもできない事態が必ず存在する。
その時頼れるのは地力だけ。積み上げた自らの力のみ。ゆえに、力の足りぬ者は死ぬ。呆気なく、何の感慨もなく無残に死ぬだけだ。
しかし、ある意味でそれは幸運なのかもしれない。死ねるのだ。恐怖を長く感じることがないのだから。
一度屈してしまった膝はもはや立ち上がることなどない。地面についた膝は張り付いたかのように動いてはくれない。
せめてもの慰めは、最後の最期で子供の盾のような格好で死ねるという自己満足が存在するくらい。ああ、なんと矮小な。
そんな卑小で矮小な身でよく魔王を倒すと吐いたものだ。自虐、自嘲。ああ、内心の草原を既に走馬が駆け巡っている。
「そこまでです!」
その瞬間、爆音とともに紫電が爆ぜる。
「黒ウサギ!」
救済の輝き。されど、堕ちた神に通ずるはずなく。招来された神に通ずるはずもなく。
「ジン、ぼっちゃん、逃げてください」
されど立つことは忘れない。かつて人の為に焔の中にて自らを焼いたのだ。未だ、半身が焼けただけ。まだ半身がぐちゃぐちゃになっただけだ。
ならばまだ戦える。月の兎の献身はこの程度ではない。ただ一つ全身から血を流しながらそれでもなおこの少女は立ち続けている。
「逃げて!」
黒ウサギが立ちふさがる。
「無理だ」
それは微かな、されど絶対の希望。
閃光が煌(きら)めく。
それはいつか見た輝き。遠き空にて遍(あまねく)く煌めく紫電の輝き。
だが、それでは足りないのだ。ああ、まさしく。あれこそが希望の光なのは間違いない。その姿、まさしく不動にして絶対の盾。全身に傷を負いながらも敵を見据える姿はまさに英雄そのもの。
だが、それでは足りないのだ。絶対的に足りない。黒ウサギだけでは足りない。
「大丈夫だよ、私もいるから」
大地が隆起しその牙を叩き付ける。
「耀さん!」
大地からあふれ出る百鬼夜行を斬り裂いて現れる人獣。その身を自らの血で赤く染めながらも立ちふさがる姿は流石としか言いようがない。
その身に星辰光の反動を受けているというのにただこの少女は気合いと根性でこの場に立っているのだ。
しかし、それでもジンの心をしめる不安は消えてはくれない。この状況。どうあがいたところで二人では無理だ。
二柱の神に加えて、そうここには二柱いる。メジェドのほかにもう一柱。どこからともなく現れた魔震を手繰る龍の荒御霊が。
それから逃げるように現れる魑魅魍魎の類。ひき殺しかねない勢いでにげるそれらもまた脅威でしかない。
着実に確実に削られていく二人。足手まといがいるからこそ、どうあがいたところでまけなのだと言われているような気がした。
「……ああ、本当、ゆっくり休めもしないのね」
「あ、飛鳥さん! 動いちゃ!」
「黙ってて」
自らのギフトカードから取り出したるは数千本の短刀。即ち金気。それらすべてを放る。あとは特殊な札を用いて即興ながらもこれで完成。
土行を通じ、相生導く金気の楔。五行太極を通じて陰気を操る業が、ここに成る。祖父から教わった一時的な龍脈殺しの外法。
「あ? アアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ」
苦しみ悶える龍神。これは当然のこと。霊道を断ち切り、気を乱すと言う均衡の崩壊。ここはそういうことがやりやすい土地なのだ。
地脈に干渉しやすく加工しやすい風に
土地を枯らして災禍を招く外法ゆえもっとも忌み嫌った術法。だが、ここで使わなくていつ使うのだ。祖父から聞いたもっとも憐れな龍神に対して使うならば今だ。
見ろ、絶叫をあげる龍神を。効果は絶大。如何に強大な存在だろうとも、地脈が機能不全になれば知覚というセンサーをかき乱されたも同じ。
だからこそ、見失う。今、この場にいる
そして、飛鳥はそれに満足しない。
「龍 穴 向──尋龍点穴。
虫共、道を開けなさい!!」
龍脈から霊気が噴き出す。地の間欠泉は強引に百鬼夜行を引き裂き、巨人すら薙ぎ払う。
神を敬う忠によってそれは神すらも押しとどめる。
更にはこの地に入っていた時から敷設しておいた地形を利用した霊的防御の展開。別段備えていたわけではないものの、飛鳥はこの地に入った時から感じていた神に対する一応の保険として敷設していた陣。
それ今、この場における彼らの命を長引かせる。
「――――」
だが、それがどうしたというのだ。百鬼夜行を退けたところで、もう一柱。目くらまししたところで魔震の被害が消えたわけではない。
不可視の神の熱線は容赦なく降り注いでいる。
人間がこんなどうしようもない化け物に勝てるはずがないだろう。勝てるのは、物語の主人公のような英雄だけだ。
そう、英雄とは常に最後に現れる。屍山血河の最奥で積み上げられた死骸の舞台の上で初めて英雄は踊れるのだ。
だからこそ、それは今だ。今、語り部となる存在がいる。英雄を英雄として語る存在がいて、そして守るべき小さな命がある。
ならばこそ今だ。英雄の誕生劇、屍山血河の舞台は完成した。さあ、今こそ、英雄譚の最終幕が始まる。悲劇の最期を痛烈な希望が照らす。
英雄の誕生。極大の絶望を払い英雄となるべく運命づけられた男が今戦場にて運命と相対する。
「そこまでだぜ」
不可視の何かを殴り飛ばす轟音と共にそれは舞い降りる。それは微かな、されど絶対の希望。
「大丈夫。わたしが皆を抱きしめるから」
誰もどこにもいかせないただ一つの
ああ、まさしく。あれこそが希望の光であった。その姿、まさしく不動にして絶対の盾。背を向け敵を見据える姿はまさに英雄そのもの。
この劫火の中、この戦場の中。未だ無傷、汚れ一つない学生服とコートを翻して、二人の英雄がここに現れる。
すなわち、逆廻十六夜と桜茉椿姫。ノーネームを代表する最強の二人が今ここに、舞台へと上がる。
やばい、やっといてなんですがやりすぎたとかそんなもんじゃねえw。
なんだ、これもうね、過去話書こうと思ったらこんなドシリアスだよ。
前にシルヴァリオヴェンデッタの体験版に触発されて書いたお話を改変して使って見ましたが、いやあ、空亡とメジェドは強敵ですね(絶句)。
まあ、椿姫ちゃん来たし、大丈夫、大丈夫。
しかし、飛鳥は働き過ぎでしょ。流石、あれの孫に設定しただけはある。
三章とか四章は耀のターンかなと思ってたのに飛鳥の方が仕事してるなあ。まあ、まだまだこれからこれから。
だって、地獄はまだまだ続きますもん。
でも、その前に椿姫ちゃんの過去編かなあ。どうしようか悩むところではありますが、とにかく次回も甘粕方式、つまりノリと勢いで書くのでどうかよろしくお願いします。
いつになるかは未定ですが。
では、また次回。