異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
「さって、ちょっくら行くかね」
黒ウサギについて都市まで行くとき、最後列を歩いていた十六夜は肩をまわしながらそんなことを呟く。このまま大人しくついていくのもいいが、異世界なのである。完全無欠の異世界。
そんな場所でじっとしていられるほど十六夜は大人しくはなかった。そのため、気が付かれないように最後尾にいるのだから。
だが、軽く踏み出そうとして、身体が動かないことに気が付く。杭で身体を地面に固定されてるような不快感に囚われる。
「どこ、行くの」
「これがお前の力か?」
椿姫が妙にゴツイ篭手のような手袋に覆われた左手を十六夜に向けていた。言動からして椿姫がやったことに間違いはないらしい。
振りほどこうとしても振りほどけないことに十六夜は感心する。今まで自分を縛れるものなどなかったし、縛られても引きちぎれる自信があった。
なにより、逆廻十六夜という存在は、
「どこ、行くの?」
十六夜がそんな思考を一瞬で済ませたところで椿姫は同じことを聞いてくる。どこか鬼気迫る様子すらある。
十六夜は、軽く降参だ、と手をあげるように肩を竦めて、
「ちょっくら世界の果てに行こうと思ってな。一緒に来るか?」
まあ、そこにはついて来れたらなという言葉が入るのだが、ともかくそう聞いた。
「…………(こくり)」
彼女が頷いた途端、杭が引き抜かれたように身体が動くようになる。
「さて、行きますかっと」
と十六夜は地面を蹴る。人間は重力を振りきれないという言葉に全力で無視して軽々と木々を飛び越えて行く。
おっと、やりすぎたか? と十六夜は思ったが、背後を見れば、同じように飛び上ってくる彼女が見えた。どうやらかなり高い身体能力も持っているらしい。
「わひゃあああああ!? ちょ、ちょっと、おまちおおおおお!? 尻尾は、尻尾は駄目ですおおおおおおわっひゃああああ!?」
「ちょ、ちょっとおおおおお!?」
「うん、なかなか楽しいかも」
ついでに耀や飛鳥、果ては黒ウサギすら抱えて十六夜についていこうとしていた。
そこにはやはり鬼気としたものが感じられる。一人になりたくないというか、あるいは、置いていかれるのが嫌とでもいうような子供の如き“寂しい”という感情が感じられる。
どちらかと言えば呪いじみたそれがどうやら力の源泉であるらしい。
「まあ、いいか」
そんなことはいいか、と十六夜はそう断じる。なんにせよ事情は人それぞれなのだ。ゆえに、
「ついてこられるならついてきてみやがれ」
現状の焦点は椿姫が付いてこられるかである。異世界に来て最初の力比べではないにせよ、なんとも楽しくなりそうであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数十分後、椿姫はこの世の終わりのような顔で項垂れていた。
十六夜との追いかけっこを行って、椿姫が一瞬、森にいた幻獣に気を取られている隙にまんまと先行されてしまい、更に椿姫の限界によってすっかり森の中で迷子と相成ってしまったのだ。
「うええええええん――――」
しかもその当の本人はマジ泣きの真っ最中。
『あああ、済まないお嬢さん。私が貴女の前を通ったばかりに』
現在、それを見かねた、気を取られることになった原因である一角獣のユニコーンに慰められている。しかも別にユニコーンは悪くない。
「あああもう、どうしてこう次から次へと」
そして、次から次へと噴出する問題に頭の痛くなってくる黒ウサギ。
「まあまあ、落ち着きなさいよ黒ウサギ。楽しかったじゃない。あまりいらいらしてると禿るわよ」
「他人にあんな風に運ばれるのけっこう新鮮だった。楽しまないとはげるはげる」
「はげません!」
もうこんな問題児嫌だ、と思うものの今一番の問題は十六夜である。迷ったと言っているが、黒ウサギがいる限り箱庭に戻るのは問題ない。
こんなところをうろついていれば強力なギフトを持った幻獣などにギフトゲームを挑まれそうだが、それも黒ウサギがいることによって挑まれることはない。
腐っても――別に腐ってはいないが――箱庭の貴族と謳われる月のうさぎの末裔なのだ。それくらいのネームバリューはある。
ゆえに、現状もっとも不味い状況であるのは十六夜なのだ。なにせ、これから先、十六夜が向かったあの辺りには特定の神仏がゲームテリトリーにしているのだ。
下手な神仏にゲームでも挑まれようものならばおわりだ。未だ十六夜たちの実力は知れないが、異世界から召喚されたニュービーが神仏のゲームをクリアできるとは思えない。
「もう、御三方ともかく私から離れないでついてきてくださいまし。どうやら十六夜さんはこの先にいるようです」
ともかく急いで十六夜の下に行こうと三人に言おうとして振り返ると、
「おー、おー!」
『ふう、ようやく泣き止んでくれたか』
「あら、なかなかよさそうじゃない。ユニコーン、さん、でしたっけ、よろしければ私も乗せてくださる?」
「私も、私も」
ユニコーンに乗る椿姫に、それに群がる飛鳥と耀。黒ウサギの話など聞いていないことは一目瞭然だった。
流石の黒ウサギもキレた。
「なあにをやっていらっしゃいますかあああああ!!!」
すぱーん、とハリセンの良い音が響く。
「良いですか、御三方。ここは危険なのです。ですから、急いで十六夜さんを連れて帰らないといけないのですよ!」
「あら、ユニコーンさんから聞いたのだけれど、あなたがいる限りそうとは限らないのでしょう? それに、勝手に出て行ったのよ? それくらいの責任は自分でとれるでしょ」
「ユニコーンと友達になりたかったのに」
「いたい、ぐす」
「い・いから、行くのですよ!」
有無を言わせぬ様子で、ずんずんと進む黒ウサギ、いの一番に続くのは置いて行かれたくないという椿姫で、その危なっかしげな足取りに飛鳥が心配しながらついていき、耀はユニコーンとの別れを惜しみつつ森を抜けて、水辺へと出た。
同時に地響きが鳴り響く。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時間は少々戻り、一転、十六夜はというと。
「ついて来れなかったか。まあ、いいか。それよりてめえが水神ってわけか」
十六夜が前にしているのは、世界の果ての断崖絶壁に存在する箱庭を八つに分かつ大河の終着点。つまりはトリトニスの大滝である。
その目の前にいるのは身の丈三十尺は超えるだろう巨躯の大蛇であった。
水神。古来より水の神は蛇か龍である。水神の象徴として河童、蛇、龍などがあり、これらは水神の神使とされたり、神そのものとされたりする。
ゆえに現在十六夜の目の前にいる大蛇は水神としては一般的であると言える。そのため、その神格は与えられたものとはいえど低くはない。
法を流れ出させる神格ではなく、法そのものになる神格であるため、世界に影響はないが、強度という面においては遥かに高い。
前者もまた違う意味合いにおいて非常に厄介であり、真に神足りえるのは前者である。
ただ、どちらにせよ神格とは絶対者足りえることだけは確かである。
『ほう、珍しい小僧だ。いかにも、と名乗りたいところではあるが、私は水神の眷属である蛇神にすぎん
よ。それで、如何様だ小僧?』
「ハッ、なに、ちょっくら世界の果てを目指してただけだ」
『ほう、ますますもって奇特な小僧じゃ。じゃがしかしな、ここは私のテリトリーなのだ。易々と通してしまっては沽券にかかわる』
「だろうな」
さて、どうくる。と十六夜は蛇神の言葉を待つ。ただあまり期待はできないだろうと
『さあ、小僧試練を選ぶがよい』
「実に素敵な言葉をありがとう。じゃあ、
地を蹴る、蹴った地面が陥没するほどの力で。砲弾の如き速度にて、地を蹴った十六夜の身体は蛇神へと突撃する。
普通であれば無謀な突撃だと断じることができるだろう。ただの人間が神格に勝負を真正面から挑むとは蟻が人間に挑むのとそう変わりはない。
なにせ、神格とは人の形をした宇宙と言っても障りないのだから。実際、厳密に言えば違うのだが、人の形をした宇宙に何をしても無駄であることはわかるだろう。
つまりはそういうことだ。普通ならば砕けるのは十六夜の方。砕けずとも吹き飛ぶのは十六夜の方なのだ。いかに人を超えた力があろうとも、それは変わることのない摂理なのだから。
『な……ん、だと……』
だが、結果は蛇神が殴り飛ばされる。その拳のあまりの威力に轟音を響かせて倒れて巨大な水柱を立てるに至るほどに。
「見つけましたよ、って何をしいらっしゃいますかこの問題児様はあああああああ!?」
と、その時にようやく黒ウサギたちが到着する。
「なんだ、けっこう早かったな」
「早かったな、じゃないですよ! いったいこれは、どういう状況なのですか!?」
「なんか、偉そうに試練を選べるかって上から目線で素敵な御言葉をいただいてしまいましてねえ、だから、俺を試せるか試したってわけだ。まあ、見てのとおり結果は残念なことになったわけだが」
後ろに倒れている蛇神を指さす。
『貴様……、付けあがるな人間! 我がこの程度のことで倒れるか!! さあ、試練を選べ! 力、知恵、勇気のいずれかだ。』
蛇神が起き上がり、神としての矜持として試練を課す。
だが、その眼は明らかに怒りに燃えていた。事情を知り由もない黒ウサギたちだが、原因はわかる。というより原因は十六夜の先の言葉が全て物語っている。
ゆえに、怒りのままに突っ込んでこなかったことに感心しつつも売った喧嘩を相手は買った。だからこそ、十六夜が拳を握る。選ぶ気などないが、選ぶ試練など決まっている。
そんな十六夜を飛鳥が止める。
「あら、十六夜君。あなた、自分ひとりだけ楽しむつもり?」
「あ? なんだよお嬢様、まさかお嬢様もやりたいってのか?」
「当然、あなたひとりにこんな楽しそうなことさせるわけないでしょう?」
「同じく。私もやってみたい」
「…………?」
「ちょちょ、ちょっと、みなさん、今はそれどころじゃ!」
良いから黙ってろと三人の問題児は一喝。椿姫は綺麗な水辺で遊んでいる。
「退く気はねえってか?」
「当然」
「……オーケー、じゃあ、三人でそれぞれやることにしようぜ。俺は力だ」
「いいわ。じゃあ、私は知恵ね」
「勇気、わかった」
そういうわけで、それぞれ受ける試練が決まる。
感想をいただけたことが嬉しくてその勢いで完成させました。
しかし、どうしてこうなった、というくらいに展開が変わってしまいました。
試練三人でやることになっちゃった。どうしよう全然試練とか考えてないやどうしよう(おい
勇気はまあ、どうにでもなるし、力は原作通りでも構わない、しかし知恵はどうしたものか。
何か良い試練とか賞品であるギフトの案があればぜひとも提案ください。お願いします。
。
まあ、最悪さっさと蛇神様を隷属させちゃってもいいわけなんですけどね(悪い顔)。
で、我らがオリ主椿姫ちゃんですが、彼女は基本誰かの助けがないと生きていけない人種です。
はっきり言って子供ですね、箱庭生活で少しは成長するといいなあ。そして、早く彼女の戦闘に持っていきたい。早く詠唱を使いたい。
形成でもいいから。
まあ、とりあえず序盤の外道さんが出てくるまで待ちましょう。
ちなみのこの世界のギフト=永劫破壊的な補助輪であると考えておいてください。
では、また次回。感想や評価などを頂ければ更新が早くなるかもしれません。