異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
問題児一行は『ノーネーム』の居住区画の門前へとやってきた。すっかりと遅くなってしまったために、予定を全て明日に繰り上げて、とりあえず本拠にだけやってきたのだ。
そして、絶句することとなる。夕暮れ時であるが、その光景はどこまでもどこまでも見渡すことができた。まるで、目に焼き付けろとでもいうかのように。
それは一面の廃墟。
整備されていたであろう街路はボロボロの上に砂を被り、木造の建築物は軒並み朽ち果てて潰れ、街路樹は枯れたまま放置されている。
大地は枯れ果て、生命の欠片も感じられない。
「…………おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは────今から何百年前の話だ?」
十六夜の疑問はもっともだった。
これは数年いなかっただけで出来上がる光景ではない。
「僅か三年前でございます」
そんな常識に喧嘩を売った存在が
箱庭の魔王。それを一概に定義することは非常に難しい。何を魔王とするか。その根拠は善悪ではないためだ。
善悪などそれらすべては人の主観であり、神は全能たりえないがゆえに善悪を決めることなどできはなしない。
そもそも、その善悪二元論を定めた神は既にこの世界のどこにも存在せず、欠片の残滓がとある場所に残るだけなのだ。
そんなもので魔王は定義されてない。ならば、箱庭の魔王とは何か。この箱庭の法下における絶対権限を有する者。そして、それにより他者を害する者をこそ魔王と呼ぶ。
他者への害は魔王個人以外の全他者の意識によって決まる。即ち、普遍的無意識における多数派によって魔王と認められた者こそが魔王。
つまり、魔王とは魔王であるからこそ魔王なのだ。
その魔王の実力の一端が、目の前に広がっている。
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。
流石の十六夜ですら冷や汗を流す。それもそうだ。彼をして、ありえない光景が広がっていたのだから。
「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
更に周囲を見渡して、飛鳥と耀、白雪姫も廃屋を見て複雑そうな表情を浮かべ感想を述べる。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
「聞いてはいたが、酷い有様だ。水気の一切がない。生命の始まりたる水の一切が感じられないなど、異常を通り越してなんといってもよいのやらだ」
「……………………」
三人の感想は十六夜の声より重く感じられた。椿姫は何を思ったのか、黙りこくっている。ただ、その瞳は目の前の光景から離れない。いつになくその表情からは真剣さが感じられた。
ぽつり、ぽつりと黒ウサギは言う。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
「「「…………」」」
複雑な表情を浮かべる飛鳥と耀。わかってはいたがいざきいてみるとむごい物だと思う白雪姫。
しかし他二人は違った。
十六夜は笑う。目を爛々と輝かせて。ただただ面白いと快楽のままに笑う。
「魔王───か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
「…………」
椿姫は終始黙ったままであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その夜、水樹と白雪姫による水源の復活によりノーネームの水事情が解決し、風呂に入り寝静まった頃。椿姫が一人で風呂に入れないや一人で寝たくないなど色々と問題もあったが、とりあえずは――黒ウサギに丸投げすることで――解決し誰も彼もが寝静まった頃。十六夜とジンがコミュニティについて話し合っていた頃、ノーネームの居住区を大震が揺らす。
「うきゃあああ!? ななな、なんですかあ!? まさか、十六夜さんがまた何かやらかしたんですか!? ――って、あだだだだ! 耳は、耳はやめてくださいいい!」
「俺じゃねえよ」
「まったく、何よ人がせっかく寝ていたというのに侵入してきた不届きものは」
「一人、広場にいる」
「なんなんでしょうか」
「やれやれ、まったく、お前たちはこういう面倒事でも呼び込む星の下にでも生まれたのか」
飛び起きた十六夜、黒ウサギ、飛鳥、耀、椿姫、ジン、白雪姫の七人は即座に広場まで駆ける。大震の原因はそこにいることがわかったからだ。なぜならば、そこから強大な気配がしていたから。
そこにいたのは一人の男だった。軍帽に大外套を翻す男。大正時代の軍人然とした恰好をした男であるが、それが放つ気配は極大だ。気配のみで起こした大震など冗談だろうと思ってしまう。
「誰ですか、ここは我々ノーネームの本拠です。何か用ですか」
「これはこれは、お出迎え痛み入る」
その名を十六夜は知っている。史実において、陸軍憲兵大尉時代に甘粕事件を起こしたことで有名だ。知っている者は知っている。
だが、目の前の男が、それと同じ男だとは到底思えない。冷や汗が止まらない。これは不味い。この男は不味いと本能が警鐘を鳴らす。
そして、それは事実であった。
「俺は、かつて敗北した。ああ、あの負けは素晴らしかった。俺の憧れたあの男は見事に俺の
同じでなくてもいい。あれはあの男だけのものならばそれもまたよし。俺のぱらいぞが気に入らないのならば見せてくれ。お前の楽園を」
甘粕が何を言っているのかノーネームにはわからない。だが、この男が尋常でないことが分かる。
「さて、今日はとある少女の頼みでお前たちを試すためにやってきた。お前たちの輝き、彼女に見せてやれ」
男が手を天高く掲げて、叫ぶ。
「リトルボォォォイ!」
それは第二次大戦において、使用され日本国に多大な傷跡を残した兵器。アメリカが開発したウラン型原子爆弾。
如何なるギフトで作り出したのかはわからないが、あれが内包した威力を十六夜は知っている。ゆえに、身体は勝手に動いていた。
第三宇宙速度の跳躍。本気も本気。世界すら割りかねない勢いで地面を蹴り穿ち前へと跳躍くし、原爆が爆裂する数瞬の間でそれを第三宇宙速度で天高く投げ飛ばす。
だが、第三宇宙速度と言えども、限界はある。何よりも箱庭の中には天幕がある。ゆえに、天幕に阻まれる形でそれは爆発する。
直撃という直撃は避けたところで、それに意味は成さない。もともと上空約600mで爆発してなお焼失面積13,200,000m²、死者118,661人、負傷者82,807人、全焼全壊計61,820棟の被害をもたらした爆弾だ。
つまり、熱波、放射線、衝撃波が降り注ぐことになる。十六夜ならばまだ耐えられるだろう。だが、他の者は難しいはずだ。
如何な十六夜であろうとも衝撃波や放射線を殴り飛ばすことなど不可能。上空に投げられただけマシだと言える。
直撃していれば文字通り、十六夜だろうがなんだろうが跡形も残らなかったはずだからだ。
そんな十六夜以外が全滅しかねない中で、その
「みんなと一緒なら、楽しい時を分かち合うことが出来る
Tra voi saprò dividere,Il tempo mio giocondo
楽しみの他は、この世は愚かなことで溢れてるから
Ciò che non è piacer,Tutto è follia nel mondo
楽しみ、儚く去る、愛の喜びとて
Godiam, fugace e rapido,È il gaudio dell'amore
咲いては散る花のように
È un fior che nasce e muore
二度とは望めない
Né più si può goder
だからこそ楽しもう、焼け付くような言葉が誘うままに
Godiam c'invita un fervido Accento lusinghier
Briah―
自由へと落下する椿の華
Sempre libera――folleggiar di gioia」
それはひとりになりたくないという願いだった。ここにいてほしい。そう言う願いが溢れ出す。つまりは、対象の固定化。それが彼女の願い。
直後、直撃する衝撃。全てを焼き尽くす熱波に、全てを破壊する衝撃波、そして、全てを侵食する放射線が降り注ぐ。
何もかもが終わる。そう思われた。だが、
「なんだと?」
全員無事だった。被害はない。建物や地面は抉れてはいるが、全員
それを成したのが誰かは一目瞭然、
「誰も、いかせない。一人ぼっちは嫌だ。皆、一緒にいるのがいい。皆を愛しているから」
左腕を中心に突き刺さった釘型の槍を携えた椿姫。それを甘粕へ向ける。
「だから、そんなことしないで。私はあなたも
「ならば、これはどうだ、ツァ――」
「やらせるかよ!」
「やらせない!」
二発目など御免こうむると十六夜と耀が地を蹴る。何が何だかわからないのは同じであるが、それよりまずは目の前の脅威を退けるのが先。
渾身をもって甘粕をなぐりつける。第三宇宙速度にて放たれた十六夜の拳と、ギフトによって放たれた耀の蹴りは甘粕と捉える。
「ぐっ――良いぞ。お前たちの輝きは素晴らしい」
十六夜の拳と耀の蹴りによって開いた距離。それを詰める間は甘粕にとって絶好のチャンスだった。
「ロッズ・フロォム・ゴォォォッド!!!」
その名の通り、それは神の杖だった。アメリカ軍が核兵器に代わる戦略兵器として計画している事実上の軍事衛星であり、タングステン・チタン・ウランからなる全長6.1m、直径30cm、重量100kgの合金の金属棒に小型推進ロケットを取り付け、高度1,000kmの低軌道上に配備された宇宙プラットホームから発射し、地上へ投下するというもの。
単純な効果範囲や放射能による汚染を考えれば先のリトルボーイの方が被害は上だろうが、直上から放たれ、視認など到底不可能な速度で迫るそれを防げる者などいはなしない。威力もまたしかりだ。星が協力する一撃。
つまりは、星の一撃に他ならないそれ。
「上だ!」
「やらせない!」
「やらせるわけないでしょう! 水樹!」
「まずは受け止めるのが先か」
水樹と白雪姫の大量の水が壁となり十六夜の言葉に従って天を覆う。無論、神の杖がその程度で防げるわけもないが、足りない分は椿姫の創造がそれを受け止める。
全てが消え失せる危機に、椿姫の渇望は際限なく高まり、より一層愛しいものを固定化する。
結果、受けきる。神の杖を受けきることに成功した。
「レティシアよ、お前の仲間は素晴らしいぞ。これを防いだとあれば、少しは安心できるのではないか?」
「…………」
あまりの事態に絶句しているレティシア。神野に放り出された後、どうにかこうにか戻ってきた時に、甘粕と出会い、連れてきてもらい、彼らを試すまでは良かった。
それがいつの間にかこのような事態だ。意味がわからないにもほどがある。
そんなレティシアを放って甘粕は続ける。
「さあ、帰るが良い。仲間の下へ。これがお前の望みなのだろう?
では、また会おうノーネーム。今度は、試しではなく、勇気をもって、俺にお前たちの輝きをみせてくれ」
そして、甘粕が消えて、あとには多大な爪痕が残った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
深海のような深き場所。ある意味でそこは礼拝堂であった。ただし、ただの礼拝堂ではない。和洋折衷というように、ありとあらゆる宗派が混じり合い、元がなんだったかすら不鮮明に混沌としている。
かつてはカクレと呼ばれたキリシタンたちの礼拝堂であった場所。キリシタンを排斥する動きによって、カクレざるえなかった彼らによって変化させられた神々たちのなれの果てがここだった。
立ち寄りがたい場所だ。神聖な場所ではあるが、それと同時に深い恨みに淀んだ場所だった。誰かと話をする場所でも祈りをささげるような場所でもない。そんなことは断じて言えない場所だった。
そんな場所で神野は己の親友たる柊聖十郎と話をしていた。
「どうだいセージ、箱庭は」
「ふん、悪くはない。だが、良いというほどでもない」
「そうかい? 僕としては、結構、気に入ってるんだけどねえ。なにせ、ここには面白い奴らが多いからね」
「役にも立たん屑どもだ。それで、甘粕、貴様、今までどこでなにをしていた」
暗闇から甘粕が現れる。
「なに、少しばかり約束を果たして来ただけだ」
「ああ、あのコミュニティか」
「面白かったぞ。お前の息子のように大成するやもしれん」
「ふん」
聖十郎は甘粕の言葉に忌々しげに鼻を鳴らす。
「それで、次は何をする気だ」
「合コンだ」
「イェーい! せってぃんぐは上々ですよ」
「うむ、行くぞ、我が楽園、ねこみみ、いぬみみの園に向けてへ、進軍セリ」
消える甘粕と神野。聖十郎だけが取り残されるのであった。
感想にテンションあがってかきあげてしまいましたが、どうしてこうなったのか私でもわかりません。
気が付いたら甘粕が出て来てリトルボーイしてました。ノリと勢いに任せた結果がこれです。
そして、最後はシリアスに耐えきれなくなってしまった結果です。
実際は甘粕はリトルボーイで済ませる気でした。ノーネームの実力を見るだけでしたので。
ですが、無傷で防がれた上に、立ち向かってきて、ツァーリ・ボンバーを出す前に防がれて楽しくなってきたので神の杖ブッパです。
そのうち魔を断つ剣とか出してきそうです。確か神属性あったはずですし。
まあ、椿姫の創造が出せたので良しとしましょう。
ガルド? たぶん逆さ磔状態だと思います。そのおかげでノーネームは名声は得られません。
甘粕と神野と聖十郎のせいでノーネームは常にハードモード。いいね、楽しくなってきました。
あと、よくわからない電波を受信した結果のおまけ
「愛を語るか。ならば、この程度の愛を示してして見せろ!
私は全てを愛している
終段、顕正――
愛すべからざる、黄金の獣《ラインハルト・ハイドリヒ》」
甘粕がやらかした神々の黄昏で呼び出した神々は流出獣殿レベルだと聞いた時には既に頭の中で甘粕がやらかしてました。
ネタ終段。出ることはないと思うのでご安心を。
では、また次回。感想などがあれば嬉しくなって、更新が早くなるかもしれません。