異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
「んで、そこの超絶ロリ美少女は誰だ?」
いろいろと立て続けに起こって混乱している中、十六夜がレティシアを指しながら言う。
「あ、はい、彼女は以前のコミュニティの仲間でレティシア様です。レティシア様、彼らが新しいコミュニティの仲間です」
十六夜、飛鳥、耀、椿姫のそれぞれが自己紹介をする。
「よろしく、と言いたいところではあるんだが、まずは謝らないとな。すまない。神格を倒したというお前たちの力を試したかったのだ」
「奴は何者なんだ?」
「わからない。突然現れたかと思えば、
箱庭の為、同族すら殺し生きながらえるその精神は素晴らしく、弱りきり今は己のことが大事だというのに考えるのは仲間のこと。そんなお前の輝きが俺は愛おしい。ゆえに、俺がなんとかしてやる。お前の思い、断じて無駄になどさせんよ。
と言って、ここまで連れてきて、あんなことをしたのだ」
「そうですか」
何か情報がわかればいいと思ったが、そうはいかない。それでもここに生きて戻ってきてくれただけでもうれしいと思う黒ウサギであったが、
「ですが、なぜ、彼に頼ったのです。いえ、なぜ、そこまで
「…………ああ、これを見た方が早いだろう」
そう言って金と紅と黒のコントラストのギフトカードを取り出す。
「なんだそれ?」
「ええとですね、これはギフトカードと言って、ギフトを収納したり、自分のギフトを知ることができるカードでございますよ。
本当なら、昨日のうちに白夜叉様にどうにかできないかお願いしにいきたかったのですけれど、ギフトゲームのせいで行けませんでしたからね」
「つまりは、お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「肩たたき券?」
「違います! って、最後のは明らかに違いますよね、椿姫さん?! ――って、これは!?」
ふっとギフトカードをみて、黒ウサギは愕然とする。残っているギフトは闇の賜物といくつかの武具のギフトだけであった。
「鬼種も神格もなくなっています?!」
「ああ、奪われた。つまり、今の私は少しばかり丈夫な人間と変わらんということだ。それに――ガフッ!」
刹那、レティシアが血を吐く。
「レティシア様!?」
「構わん。どうにも、何やら死病すらうつされたらしくてな。この通りだ」
「おい、黒ウサギ、とりあえず中入って話そうぜ、そっちの方がそっちのロリにも良いだろ」
「はい、十六夜さんの言うとおりです。とりあえず、お屋敷に入ってから――」
それから屋敷に戻り、レティシアの話を聞いた。
その話は十六夜たちにしてみれば信じられないような話ではあったが、それは黒ウサギにしても同じであったらしい。
ギフトどころか神格を奪い何らかの死病を移すであろうギフトを持った男。危険極まりない
己の事。己に移された死病のこと。それはどのような治療のギフトでも治すことはできないという。奪われた神格のせいだろうとレティシアは言っていた。相手の格が上がったせいで、ここにある治療のギフトでは格が足りないのだという。
他にも、他にも――。
そうやって、語られた話は恐ろしいものであった。ただ、核心に触れた部分は1つもない。どれもこれも表面的なものばかりであった。
「すまないな、敵の首領の名でも覚えていればよかったのだが、すまない。死病のせいで朦朧としていて覚えていないのだ、こほ――すまない」
「いえ、そんなに謝らないでください」
「そうです。僕らはレティシアが帰ってきただけで嬉しいよ」
「とりあえず危険な輩がいることがわかっただけでも幸いです。ジン坊ちゃん、私たちは明日、白夜叉様にこのことを報告しに行きます」
「わかったよ黒ウサギ」
「十六夜さんたちにもついてきてもらいますが、良いですか?」
「別にいいぜ」
「構わないわ」
「オーケー」
「…………(こくり)」
「では、今日は一先ずこのくらいにして寝ましょう。みなさん疲れていると思いますから」
黒ウサギの言葉で一先ずはお開きとなる。まだわからないこと、考えなければならないことは多い。甘粕正彦という男の事。レティシアが語った、ギフトを奪う男と、悪魔のこと。
だが、ひとまずは明日だ。ひとまず試練とも呼べる夜は終わったのだ。今は眠らなければならない。明日もまた生きるために。
一人、また一人と自分の部屋に戻って行く。十六夜ですら何も言わず部屋に戻っていた。最後に残ったのは椿姫とレティシアだった。
「…………」
「どうした?」
無言で見つめてくる椿姫にレティシアが聞く。しばしの無言のあと、彼女は何も言うことはなく、レティシアを正面から抱きしめて、抱きかかえる。
「お、おい」
レティシアが何を言おうとも椿姫は何も言わない。ただ強く幼児が寝るときに持つ熊や兎のぬいぐるみのように抱きしめて、椿姫は己の部屋にレティシアを連れてくる。
そして、そのままベッドにもぐりこんだ。それでもレティシアを椿姫が放すことはない。このまま寝ろということらしいが、何が目的なのかレティシアにはわからない。
答えは非常に単純で、一人で眠れないからだ。レティシアが来る前は黒ウサギを抱きかかえて寝ようとしたが、どうにも色々と大きすぎるという黒ウサギが聞いたら怒りそうな理由で色々と
もしく、レティシアに同じ匂いを感じたからなのかもしれない。同族殺しの魔王に。たった一人きりになった少女という姿に自分と同じものを感じたのかもしれない。
「すぅ、すぅ」
そんなことを言う気もなければ、既に眠ってしまった彼女に聞くことすらできない。ただ、不思議とレティシアは悪い気はしていなかった。
誰かと共に寝るなど久しぶりのことだ。人肌の温かさが、こんなにも心地よいものだったのかと思う。
「なんなのだ、お前は」
言葉に反してどこか呆れたような、どこか笑っているような。そんな声でレティシアは呟く。本当に悪い気はしない。
コミュニティが負けたあの日以来、初めて感じた気分だった。良く眠れるかもしれない。それにようやく帰ってきたのだと、実感しながら、目を閉じようとした、そのとき、
「さんたまりあ うらうらのーべす
さんただーじんみちびし うらうらのーべす
おおぉぅ、あんめい――ぐろおおりああああす」
楽しそうな蝿声が耳に響き渡った。
「――!?」
羽音が響く。羽音が響く。
それは幾千、幾億の蟲の合唱だった。耳障りで、不快で、不愉快な蟲たちの合唱。腐臭がする。汚臭がする。爛れた臭いが漂ってくる。目に映るのは蝿だ。ありとあらゆる種類の蝿が部屋を飛び回っている。飛び回っているだけではない、這いずっている。百足、蜚蠊、蜘蛛。ありとあらゆる害虫が身体の上を這いずっている。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、ありとあらゆる感覚器官が嫌悪感を、不快感を出力し、空間が穢れていくのを教えくれる。
常人であれば悲鳴の一つでも上げるだろうが、生憎とレティシアはそこらの婦女子とは異なる上、そんなことをしようもならばその瞬間にその穴に蟲が殺到し、内側から食い破られることは目に見えている。
実際そうならなくともそんな蟲共の海の中で口など開けられるはずもない。目ですら開けたくないのだから。
あの悪魔がそこにいた。
「あんめいぞ、まりあ。
ごきげんうるわしゅう、お姫様。楽しい時は、過ごせたかい? 仲間との再会、感動、嬉しさ、安堵。そして、希望。
ああ、憐れなレティシア。このまま本当に自分は助かる、だなんて、思っちゃあいないよねえ。お姫様は、攫われてなんぼじゃないか」
「貴様――!」
杭が飛ぶ。反射的な行動で放ったが、判断は間違いではないだろう。あのまま近づかれていれば己はもちろんの事、椿姫まで巻き込みかねない。いや、既に巻き込んでしまっているのは確実だ。
ほとんど密着するようにして眠っているのだから。
「ああ、痛い、痛い」
だが、反射的に放った杭は効果を発揮しなかった。貫通し、相手の頭を砕いたはずが、砕けていない。蟲が集まれば元に戻る。
効果が本当にないのかはわからないが、表面的にはまったくの無意味であった。
「いきなり頭を吹っ飛ばすなんて、酷いじゃないか。僕の顔が台無しになったらどうしてくれるんだい?」
「鏡をみてからいうんだな」
「ふむ、それもそうだね。でも、それを言うなら、君の方だよ。全身にゴキブリを張り付けただけの服だなんて、大事なところなんて丸見えで、すごく、そそるよ。
ああっと、僕には、僕のまりあがいるんだ。それに、君はタイプじゃない。もうすこし、ぼん、きゅ、ぼんの方が好みだなー」
「ふざけている場合か。さっさとしろ、貴様の趣味に付き合っている暇はない」
暗がりから現れるのは神格を奪った男。そして、死病を押し付けてきた男だ。今だからこそわかるが、あの死病、ギフトで抑えてはいるのがやっとの死病は、あの男にとっては数十倍も希釈したものに過ぎないということが。
「セージ、セェェジ。言ったじゃないか、早漏は嫌われるって。これだから、せっかちはいけない。これも演出さ。純度の高い絶望は、希望のあとにこそあるんだから。しっかりと、整えないと」
「なら早くしろ。屑どもに来られても面倒だ」
「了解」
「き、さまら――」
「おっと、ごめんねえ。放っておいちゃってさあ。セージ、せっかちだからねえ。
じゃあ、さっさと、本題に入っちゃおう。なんと、キミ、箱庭の外に売られることになったよ。ワーワー、パチパチ」
「――――」
絶句する。言葉がでなかった。ただ、何よりも恐怖に震えた。
それは、まさに絶望への片道切符。今のレティシアは少し丈夫なだけの人間と変わりないものだ。吸血鬼という種族の残滓として吸血によるエネルギーの補給と日光への弱点はある。
なにせ、もともとそういうのに弱いからこそ、吸血鬼になりたいという渇望なのから。つまり、生き地獄だ、箱庭の外にでるということは。
売られるということは、更に誰かに所有されるということであり、つまりはそういうことだ。外に出られず、永劫、なぶられ続ける愛玩奴隷の完成だ。
「じゃ、そういうことで、セェェジー。逃げられないようにやっちゃって」
「ふん」
セージと呼ばれた男、柊聖十郎が無造作にレティシアを睨みつける。それだけで、レティシアの身体は石となっていく。
それが何のギフトであるか、気が付く前に、想ったことはただ一つだった。
――やめてくれ
また、ここから離れるのも、一人になるもの嫌だ。
だが、その願いは届かない。遥かな絶望の中で、思うことは仲間のことだった。
「あんめいぞ、ぐろおおりああああす!」
あとにはただ、蝿声だけが響いていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――チク・タク
――チク・タク
「――さて」
男は言った。
それは奇妙な仮面を被った男であった。
道化の如き姿であるが、一世代前の西洋貴族のようでもある。
奇妙な人物。
仮面と服装は彼をそう思わせる。
彼は決して自らを口にしない。見たままを口にせよと戯けて言う。容姿通りに、奇妙な男であった。
男の名はとある世界の極東の小さな島国に伝わる神なる獣の名。それがこの男のかつての名であった。
しかし、今その名前はない。その自分は既に砕けてしまっているから。彼の地、彼の街で。あるいは
――もっとも。
――彼に名前がなくとも問題はあるまい。
――彼にとっては名など幾つもあるさほど意味のないものであるし。
――かつても、名を知る者は決して多くはなかったのだから。
例えば――
魔王連盟と呼ばれるようになる魔王のコミュニティの重鎮であるとか、特殊な“瞳”を持つ者たちの群体コミュニティの幹部であるとか、生と死の境界に顕現する大悪魔とその騎士であるとか、名と旗を奪われ散り散りになったかつての英傑たちであるとか。
あるいは――
殺人さえ厭わぬ犯罪組織の重鎮であるとか。闇深くで蠢く結社の頭脳であるとか。
人はその仮面の名を呼ぶ。
即ち、『バロン』と。 もしくは、『バロン・ミュンヒハウゼン』と。
ただ、不用意にその名前を呼んではならない。
命が惜しければ。
彼の仮面の奥を想像してはならない。
命が惜しければ。
あらゆる虚構を吐き出すというその男は、 静かなる部屋の中で誰かに語り掛ける。
小さな部屋。ソファー以外には調度品は何もない。壁に囲まれた部屋。
暗がりの密室。結界ともいうか。あるいは封印とも。
男の格好とは不釣り合いな普通の部屋だ。100の血濡れの眼が、見つめるだけのただ普通の部屋だ。
静謐なる内向の間と人は呼ぶ。
かつて栄華を極めたコミュニティあるいは未知なる結末を求める男、あるいは、輝きを愛する男の余技にて作られた部屋。
己が全てを見つめるというその部屋で男は眼前の誰かに語るのだ。
「さて。吾輩はここに宣言するでしょう」
――余計なる観測の開始と。
――無意なる認識の開始を。
――そして、異なる物語の幕開けを。
「これは、可能性の中にしか存在しえない儚き幻想に御座います。
しかし、あらゆる可能性はそこに確かに存在するのです。
これはそんな可能性の一つ。新たな役者を交えての回転悲劇で御座います」
男の声には笑みが含まれている。
対する眼前の者は無言。
「既に幕は上がっております。
主演は舞台に上がり、序章は終わり、第一幕も中盤を過ぎ、終幕へと向かいつつあります。
懸念すべきは、相対する役者の程度でございましょうが、これは、我々の求めるものではありませんので問題はないでしょう。
記憶すら、我らの手中にあるのですから」
空虚な部屋に男の声が響く。
対する眼前の者はやはり無言のまま。いや、微かに笑っているのか。
「成る程。
そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう」
対する男は高らかに宣言する。
「さあ、我らが愛してやまない人間と下賤なる修羅神仏、悪魔の皆様。どうか御笑覧あれ。
――全ては、ここから始まるのです」
感想にテンション上がってかきあげました。
上げて、落とすのが一番簡単に絶望を与えることができるって、神野さん言ってた。
というわけで、上げて落とすを実行中。レティシアにとって仲間との再会ほど嬉しいものはないでしょうから、そこに付け込んで神野さんのダイレクトアタック。
基本セットの親友セージとともに物語を演出中です。
あと、真面目に主人公たち書かないとなと思ってます。そろそろ神野さんたちもくどいし、こやつらばっかで原作主人公たちの活躍がない。
まあ、これでペルセウス戦へのフラグが立ちましたから、大丈夫のはずです。
セージが石化のギフト使えてるので、ペルセウスがどうなっているのか、わかる人にはわかるんじゃないですかね。
ぶっちゃけると全員逆十字の磔状態。
難易度は原作なんて比じゃないくらい上がっております。
そして、久しぶりに登場のミュンヒハウゼン彼は彼で単独行動中。ときどき、変な部屋で誰かにかたってます。
次回は白夜叉を出す予定です。感想などがあれば更新が早くなるかもしれません。
また、質問も受け付けております。
では、また次回。