宿題やる気が起きん!!
*本文の訂正(4/3)
午後の授業が全て終わって講堂前。
俺は雷真と一緒に風紀委主幹のフェリクスを待っていた。
夜々やアジーンには予め俺らの怒られるところを見て欲しくないと言って先に寮に帰らせている。
「......なぁ、雷真。俺達、怒られるのかな」
「......」
ぼそりと雷真に尋ねてみるが、雷真は何も答えてくれなかった。
「......はぁ」
思わず溜め息が零れる。
雷真は編入初日からシャルに挑み、加えて今日は
そして俺はそんな優等生に喧嘩腰で話し掛けてしまった。
......なんかもう編入していきなり問題起こしちゃった時点で、今から案内されるところって言ったら生徒会室みたいなところしか思い浮かばないよ?(´・ω・`)
そんなことを思っているとあのモヤシ男......もといフェリクスサマが。
「待たせたね。さ、行こうか、二人とも」
「「はい......」」
俺らは
☆
そうして案内された場所は、案の定生徒会室みたいなところーー風紀委の専用スペースだった。
風紀委の専用スペースは中央講堂の二階に作られたエリアで、主幹が使う執務室、風紀委の待機場所、集会所の三部屋からなっているようだった。
「ソファへどうぞ。少し散らかってるかもしれないが気にしないでくれ」
そのうちの一つ、執務室のドアを開けてフェリクスが中へ招き入れる。
俺は雷真と顔を見合わせ、言われたとおり中にあるソファへと腰掛けた。
「そう固くならないでくれ。確かに君達は編入早々問題を起こして本来なら罰則を与えないといけないんだけど、今回ばかりは特別だよ」
フェリクスが言いながら俺や雷真の向かいに腰を下ろす傍ら、肩まで伸びたピンク色の髪の毛が印象的なメガネの女子生徒がフェリクスを含める3人分のお茶を給仕する。
「ありがとう、リズ。わざわざ悪かったね、仕事に戻ってくれ」
「はい」
リズと呼ばれたその女子生徒は返事をするとトレーを片付けて執務室を出て行った。
「彼女は僕のお目付役でね。主幹補佐を勤めてくれているリゼット・ノルデンだ。恐らく、君達にこれから関わってもらう事件で大いに役立ってくれるはずだよ」
「は......? 事件?」
唐突に切り出された話題に、俺はつい聞き返してしまう。
フェリクスはお茶を一口、口の中に含んでから話し出した。
「今この学院では一つ大きな問題が起きていてね、それを解決して欲しいんだよ。そうすれば君達の今回の行いには目を瞑ろう......それだけじゃない、夜会の
ミスター・アカバネ。君にとって参加資格は喉から手が出るほど欲しいものじゃないのかな? そうでなければ編入早々
「......つまり資格をやるから騒ぎを起こすなって言いたいんだろ、あんたは」
ここに来て初めて雷真が口を開く。
俺は雷真を見てみると、彼は苦笑しているようだった。
「お察しの通り。まぁどちらにせよ、君達にこの件を断る権利はないわけだけど......」
(うっわ。嫌な性格だな、こいつ)
フェリクスの言葉に俺はつい不愉快な気持ちを覚え、そう思ってしまう。
見た目モヤシのくせに、的確に弱みを突いて自分の有利な方へと事を運んでいく......早くもこいつのことが嫌いになりそうだった。
「さて、前置きはここまでにしよう。今日君達を呼んだのはさっきも話した通り、ある事件を解決して欲しいからなんだ」
そう言って、またフェリクスがお茶を一口飲む。
「俺達は主になにをすればいい?」
どこか焦らされてるような感覚に、俺より先に雷真が口を開いた。
「人形使いをひとり、倒してもらいたい」
「人形使いをひとり? そんな簡単なことで事件が解決すんのかよ?」
「ただの人形使いじゃないさーー何体もの
「なんだよ、それ......」
「嘘だろ......」
その言葉に、俺らはそれぞれ言葉を失う。
自動人形の要と言って真っ先に思い浮かぶのはイブの心臓だ。
それを喰らっているということはその自動人形は破壊されたと捉えて間違いないんだろう。
なんだか面倒な展開の予感にソファにもたれ掛かり、辺りの床に視線を移したとき一枚の紙に乗せられた幾つかの写真が興味を引いた。
写真の中にいる自動人形の全てがぐったりと背後の壁にもたれ掛かったり、地面に寝転んだりしている。
加えてそれらには共通して、本来イブの心臓があるべき部分にぽっかりと穴が空いていた。
「もしかして、部屋の中に散らかってる紙ってみんなその事件に纏わるものなのか?」
俺はその紙を手に取ってフェリクスに尋ねると、彼もまた床に散らばっている紙の一つを手に取って机に置いた。
「そう。今まで警備と協力をしたり独自の捜査をしてきた結果だよ。とはいえ、わかったのはその化け物が
そこでふとフェリクスの前に置かれていた通信機からブツリと音がなり、少しくぐもった誰かの声が聞こえてきた。
フェリクスは失礼、と一言断ってから席を立ち、執務室の扉の前で通信機の呼出に対応してしまう。
そうして振り向いたフェリクスの表情は苦々しいものだった。
「リズからだったよーー技術科裏の木立ちで早速喰われた人形が見つかったらしい。行こう、雷真、リュウ。食べ残しが見られるよ」
☆
喰われた自動人形があるという技術科校舎に続く細い一本道では早くも野次馬でいっぱいだった。
その中に混じってシグムントを頭の上に乗せたシャルがいる。
「よう、シャル。シグムントも」
雷真が気安くそう声をかけたが、シャルの視線はその後ろのフェリクスに向けられていた。
「君もきていたのかい、シャル」
「騒ぎになっていたから......」
俯きがちに答えるシャル。
なんだか邪魔者のような気がした俺は一人雷真やフェリクスから離れ、とっとと野次馬を掻き分けて実物を見に行った。
「リュウさんですね、フェリクスから話は聞いています。こちらへどうぞ」
『Keep Out』の板がぶら下げられたロープをくぐり抜けた先、俺達よりも前に来ていた風紀委に案内され『それ』を見せられる。
「うっわ、写真で見たよりもひでぇな......」
上半身と下半身が、少し離れて転がっている。
断面からのぞく傷跡からはギアやコードがはみ出し、顔面は被害者が特定しにくいほど潰されていた。
加えて辺りには血ー自動人形だからオイルかーが飛び散っており、さながら殺人現場だ。
事前にフェリクスが言っていたとおり、やはり心臓のあるべき場所はぽっかりと穴が空いている。
それも酷く滑らかで、まるで舐め溶かされたキャンディのようだった。
「雷真、こっちへ」
ふと背後からフェリクスの声が聞こえ、振り向くと彼は雷真をこちらへ手招きしていた。
「うっ......」
シャルも一緒らしく、そんな呻き声が聞こえてくる。
雷真もまた、思わずといった様子で顔をしかめていた。
そうしてしばらく喰われた自動人形を吟味したあと、雷真がフェリクスに視線を向ける。
「確かどのケースも全部心臓部分がないんだったよな? 今回も心臓部分だけがないってことは敵の手口は必ず心臓部ーー魔術回路の一部を消滅させてるってことでいいのか?」
「あぁ。その見解で間違いないよ」
雷真の推察にわずかばかり感動を覚えつつ、俺は疑問を口にする。
「なぁ、フェリクス。さっき喰われた人形が見つかったって言ってたけどよ。こいつらの心臓ってみんな
「それはあくまで僕らの見立てだから。魔術喰いだって、被害者の心臓部分が舐め溶かされてるような感じだからそう名付けただけのことだし」
「ふぅん」
「リズ。どうだった、調査の結果は?」
フェリクスが、いつの間にか隣に来ていたリゼットにそう尋ねる。
リゼットは手元のバインダーに挟まれた紙を一枚めくってフェリクスの問いに答えた。
「残念ながらまだ大したことは......ですが、この自動人形と人形使いは現状と他生徒からの証言からおそらく鉄球使いの自動人形ーー貴方が昨日退けた人形だと思われます」
雷真をちらりと見ながら、リゼットが言い終える。
俺はつい雷真が退けた人形という言葉に引っかかった。
「退けたって......雷真、昨日はシャルに挑戦しただけじゃなくて他の
「いや、俺がシャルに挑戦してるところを十人がかりで邪魔してきたんだ。そいつらを退けたまでさ」
「なにしてんだか......」
聞いてて頭が痛くなる。
「そうだろ、シャルーー」
ふと雷真の言葉が途切れ、俺はとっさにそちらを見てしまう。
シャルは唇を引き結び、肩をわななかせて虚空を睨みつけていた。
明らかに様子がおかしい。
「どうしたんだ、お前」
俺が呼び掛けるよりも先に雷真が呼び掛ける。
が、シャルは返事もせずにきびすを返し、どこかへ行こうとした。
雷真もまた様子がおかしいことに気付いたんだろう、遠ざかるシャルの腕を掴み引き止める。
「おい、ちょっと待てよ」
「離して。離しなさい!」
「お前、何か妙なこと考えてるだろ。闇雲に動いてもロクなことにはーー」
「シグムント!」
雷真の言葉を遮るようにしてシャルが叫ぶ。
直後、シグムントが牙をむき、雷真の手をがぶりっと噛み付いた。
「い......ってぇ!!」
「大丈夫か、雷真!」
俺は慌てて雷真の元に寄ると、彼の手は少し血が滲み出ていた。
「ちょっと待ってろ」
「これくらい平気だ」
「舐めてかかるとそのうち腐るぞ。自動人形だったから良かったけど、これ普通に犬とかだったら狂犬病とかにも成り兼ねないんだからな」
「ーー行っちまった......」
雷真がシャルの向かった先を見て呟く。
俺もそちらに視線を向けてみるが、すでにシャルの背中は見えなくなっていた。
「彼女はああ見えて直情径行だからね。じっとしていられなくなったんだろう。かく言う僕も、はらわたが煮えくり返る思いさ」
横合いからフェリクスが取り成すように言う。
だがその瞳には鋭い光が宿されていた。
「いいからこっち見てろ」
俺はかぶりを振り、そう言って雷真の手に視線を戻す。
ここに来る前に予め持ってきておいたショルダーバッグから水の入ったペットボトルを取り出し、雷真の傷口を水で洗い流してから小さなラップで巻く。
「はい、終わり」
最後にみっともなくないようにガーゼでラップを固定し、雷真の肩を叩く。
前世で、テレビで紹介していた湿潤治療とか言う傷跡の残らない治し方らしい。
「ありがとな、リュウ」
「おうよ」
「今日のところはお開きにしよう。僕は仕事をしなくちゃならない。そっちでも独自に捜査をお願いするよ」
「あぁ」
「わかってるよ」
フェリクスの言葉に俺らはそう返事をし、寮に帰ることにした。
空はすでに日が傾き、ほんのりと紫がかっていた。
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