trance(状態)
《一時的な神がかり状態》
ホントは化学でいうトランスはまた別の意味なんだけど、この意味にものすんごい衝撃を受けた
本文修正(6/7)
理性を失い、凶暴化したラビの唸り声が場を支配する。
そんな中、ただ一人だけはやる気というか使命感に溢れていた。
「行くぞ、夜々! 吹鳴二十ーーぐっ!」
魔術を発動しかけたところで何故かロキに体当たりされ、雷真がゴロゴロと無様に地面を転がる。
「っ......なにしやがる!」
「こっちの台詞だ。部外者が出しゃばるな」
が、ロキは大して気にした様子を見せず、それどころかむしろそう言い放った。
そのままケルビムに指示を出そうとするロキだが、雷真もやられっぱなしは嫌なのか体当たりしかえす。
が、やはり怪我人だからか雷真の力は弱く、それはロキをよろめかせるだけに終わった。
「なにをする」
「こっちの台詞だ! なにをする気だよお前は!」
「貴様はバカか。ラビを止めるに決まっているだろ」
「バカはお前だ。お前が攻撃するとその分フレイの命が縮むんだよ!」
「貴様はなにもわかっていない。バカは黙って俺のやることを見ていろ」
「お前が見てろ」
「いいや、貴様だ」
そんなくだらない言い争いに腹を立て、俺は思わず叫ぶ。
「んなこたこのことが終わってからにしやがれバカ! お前らがそんなことしてるうちにフレイの命が削れてんだぞ! 早く助けてやれよ!」
「ふんっ、貴様に言われなくてもそうする」
「わかってる!」
俺の声に2人が同時に反論し、雷真が走り出しながら夜々に指示を出してラビを抑え込む。
ロキもまた同じようにケルビムに指示を出し、雷真に襲い掛かる高音圧の攻撃をその身で守ってくれていた。
「......あいつら仲が良いんだか悪いんだか見当もつかねぇな......」
その様子に思わず呟いている間にも雷真が倒れ伏すフレイを抱きかかえ、ここからじゃ暗くてなにも見えなかったがフレイの意識を奪う。
すると同時にラビが気を失い、膨張した筋肉が急速に縮んでいった。
「やった、終わった......ッ?!」
嬉しさのあまり声が漏れたその直後。
ラビのいたるところから血が噴き出し、肉片が飛び散った。
☆
夜風が俺の服越しに肌を撫でる。
そこにはかすかに血の臭いが混ざっていて、それがこの場で起きた2つの出来事を現実だと知らしめていた。
「......なぁ、アジーン」
今日は珍しく頭の上ではなく、右肩に留まっているアジーンに呼び掛ける。
「ん?」
「俺、夜会やめようかと思う」
「急にどうした」
「なんか、さ。フレイとロキを見てるだけでもこんなドロドロしたのが背景にあってさ、遊びでやっちゃいけないような気がしてきたんだ」
「怖気付いたのか」
「まぁ......そういうことになんのかな。暇潰しで勝ち進んで、真剣にやってる奴の想いを踏み躙るの、怖いんだ」
「私はどちらでも構わない。お前の好きなようにしろ」
「ごめんな、アジーン」
「......」
それ以上アジーンはなにも喋ってくれず、自然と沈黙が辺りを支配する。
「ーー医務室、行こうか」
その言葉にアジーンが右肩から離れ、パタパタと翼を動かし始める。
俺は踵を返して夜会の舞台を後にし、廊下を渡って医務室前に来ると壁に凭れながら座り込んだ。
「雷真!」
ほとんど無音の中、やがてガチャリと扉が開き俺は反射的に立ち上がる。
「フレイとラビは?」
「2人とも大丈夫だ。ラビのほうは硝子さんが手当てしてくれたし、フレイのほうも医務室の先生が手当てしてくれたよ。今は2人とも眠ってる」
「花柳斎か......」
やはりいろりや夜々、小紫をあれほどまでに人と区別のつかない
性格は気に食わないが、そんなレベルの人間が手を加えてくれたなら安心出来る。
「リュウは寮に戻らないのか?」
「いや、フレイが目を覚ますまでここにいる」
「そうか」
それを最後に、雷真と夜々の足音がだんだんと小さくなる。
俺は一度その場に座り込むがすぐに立ち上がり、目の前にある扉に手を掛ける。
「......」
病人がいる部屋に入っていいものか一瞬悩んだが結局中に入り、横たわるラビの前で胡座を掻いた。
同室にフレイはいないので、他のところで眠っているのだろう。
「早く目を覚ませよ。フレイが起きたときに元気な顔見せてやろうぜ、な?」
頭を静かに撫でながら、ラビに話しかける。
そのうちに瞼が重くなってきて、俺は睡魔に身を委ねた。
☆
「リュウ......」
不意に名前を呼ばれ、寝ぼけ眼のまま声のした方を見る。
と、そこにはフレイが立っており途端に目が覚めた。
「フレイ......! もう起き上がって大丈夫なのか?」
「うん......大丈夫。ありがと」
「よかった......」
「心配かけてごめんね......?」
言いながらフレイが横に座る。
「気にすんなよ。それに......俺はなに一つお前にしてやれなかった。ラビが暴走したときも、ラビがロキを押し倒したときも、なにもかもだ。ロキと雷真が全部担ってくれたんだ、俺はなにもしてない」
「でも......ラビのこと見ててくれた。私はそれだけで十分だよ」
「......ありがとなーーさてと」
小さく意気込み、俺はグッと立ち上がる。
「雷真に知らせてくるよ。あいつにもちゃんと知らせてやらないと」
「うん」
「ロキにも知らせとくか?」
「ううん、大丈夫」
「そか。じゃ、また後でな」
微笑みながら手をひらひらと振り、俺は部屋を出て寮へと戻る。
途中時計で時刻を確認してみたが、フレイが来るまでの間寝ていたというのにも関わらずあまり時間が経っていないことに気が付いた。
雷真が死にかけたり、ラビが暴走したりと現実味のないことが多過ぎて疲れたんだろう。
やがて姿を現した寮はなんだか懐かしい気がして、ほんの少しだけ心が落ち着く。
「雷真」
そのままいつも通りに自室の扉を開け、彼の名を呼ぶ。
雷真はとても落ち着かない表情を浮かべていたが、俺を見るとそれはすぐに消えた。
「フレイが目を覚ました」
「わざわざ知らせに来てくれたのか?」
「あぁ、なんたってお前とロキが助けたんだからな。知らせないわけにはいかねぇだろ」
「すまない」
そう言って雷真が部屋から出て行く。
1人取り残された俺は久しぶりにベッドに寝転び、仰向けで天井を見上げる。
その隣にアジーンが着地し、体を丸めて寝る態勢を取る。
「......フレイの元へは」
「ん?」
「フレイの元へは戻らないのか?」
珍しくアジーンからそんな風に切り出され、俺は驚きつつも生返事を返す。
「あー、うん......後で戻るよ。今はちょっと、1人でこうしてたい」
「リュウ......?」
なにか勘付いたらしいアジーンが不安気に俺の名を呼ぶが、俺はクスリと笑いながら否定の言葉を口にする。
「大丈夫、アジーンが心配するほどのことじゃねーよ」
「そうか......」
そう言ってアジーンが口を閉ざす。
だが、それはアジーンを心配させたくないだけで俺は自分に違和感を覚えていた。
何と言うか、胸の奥がじわじわする......そんな感覚がしていた。
「......ん」
瞳を閉じて精神を落ち着かせているとその感覚はゆっくりとだが確実に消え、俺は起き上がり伸びをして体を伸ばす。
「お待たせ、んじゃ行こうか」
「あぁ」
アジーンの返事を聞き、俺らは寮を出る。
そのまま一直線に医務室へと向かうが、その廊下で窓越しに空を眺めているシャルがいた。
「シャル?」
俺の声にシャルが気が付く。
「リュウ......」
「こんなとこでなにしてんだ?」
「......なんでもないわ」
俺の問いに、しかしシャルは首を振り視線を元に戻してしまう。
なんとなくそんな気がして、先に医務室を覗いてみると中はやはりと言うか静かに寝息を立てるラビのみだった。
「嘘つくなよ。なんで雷真とフレイがいねぇんだ」
「......バカはバカらしくそれなりの行動を起こしてるわよ。それも現在進行形でね」
思わず頭の中にハテナが浮かび上がるが、すぐに消滅し別のことが浮かび上がってくる。
「は? ーーまさか」
「そのまさかよ」
シャルに肯定され、謎の笑みが零れる。
「......フハハ、あんにゃろ、俺にはやめとけ言ったのにフレイの家族を拉致しに行ったのか?」
「ちょ、ちょっと。大丈夫なの? なんか顔が引き攣ってるわよ......?」
「あぁ、大丈夫。雷真を一発殴れば戻るから」
「そ、そう......」
「んで? なんでシャルは行かなかったんだよ」
「わ、私は別に.......リュウもどうせ行くんでしょう?」
なんとなく誤魔化された気がしたが、とりあえず問われている内容に頷く。
「まぁな。雷真が言ってたんだ、ヨミ達自身を作った人間が20年前魔王の座に手を掛けた男だって。ここで
「フレイならキンバリー先生と一緒よ。って言っても、そのキンバリー先生がバカを連れ戻しに行っちゃったわけだけど」
「じゃあフレイは雷真達とおんなじとこにいんのか?」
「えぇ。そういうことになるわね」
「ありがと、助かったよーーアジーン」
「あぁ」
アジーンの返事を待たずに俺は走り出し、ふと気が付いてシャルの姿が見えなくなる角の手前で止まって声を張り上げた。
「一緒に来なくて平気か?!」
すると僅かな躊躇いの後、
「......私も行っていいの?」
そんな許可を請うような声が聞こえクスリと笑えてきてしまう。
「行こうぜ。バカ殴りにさ」
手を差し出し、シャルがわざわざ走ってまでそれを掴んだのを見て俺らは走り出した。
☆
彼女の視界の中で、倒すべき敵だと認識していた相手が、憎まれているとずっと思っていた弟が、自分のためだけに“お養父様”と呼んでいた人に傷付けられていく。
「っ......」
その度に彼女の心にはトゲが刺さり、抉れ、削れ、目を逸らしたくても2人のことが気になって逸らせず、口元を覆うだけに留まってしまう。
「ふん、苛立たしいものだな、飼い犬に手をかまれるというのは」
地面に倒れ伏す2人......雷真とロキを見下しながらこの事柄の発端であるブロンソンが吐き捨てる。
「黙れ......この外道が......グッ!」
ロキは必死に悪態をつくが直後力強くブロンソンの足の下に置かれる。
「お前は最も完成した個体だったんだがな......わざわざ新大陸にまで赴きつまらない小細工までしたというのに、残念だよーールシファー、ついでだ。2人とも始末しろ」
「がはっ!」
ブロンソンが最後の一発にロキを強く踏みつけ、ある程度離れたところでルシファーと呼ばれた、ケルビムと同型機の金色の自動人形に指示を出す。
「っ......もうやめて!」
彼女......フレイはその言葉に最悪の結果を想像してしまい、耐え切れなくなって物陰から飛び出す。
「フレイ......!」
その傍でブロンソンを捕らえる隙を伺っていたキンバリーが小声でフレイの名を呼ぶが彼女には届かなかった。
「フレイ......?!」
「......あんたがなんでこんなとこにいる」
自身の背後で驚く声が聞こえてくるが、フレイは口元をギュッと結びブロンソンただ1人を見つめる。
「ククッ、素晴らしい姉弟愛だな。どちらにせよお前達はもう出来損ないの部類なんだ。養父の義理で一緒に送ってやる。まずはお前からだ、フレイ」
ブロンソンの背後にルシファーがサッと位置につく。
ケルビムとはまた違った、鳥の羽根を彷彿とさせる短剣がフレイの元へ一直線に向かう。
あまりの恐ろしさにギュッと目を閉ざしてしまう。
「フレイ!!」
「っ! フレイ!!」
雷真とロキ、2人が自身の名前を呼ぶ声が聞こえてくるが、どういうわけかいつまでたっても意識は立たれなかった。
「ーーへへっ、間一髪ってヤツか?」
そのことに疑問を覚え恐る恐る目を開けてみると、目の前には口端から血が零れ、薄ら笑いを浮かべるリュウがいた。
前話でのお気に入り登録ありがとうございました
(結局原作なしで2巻の話が終わりそうだ......)