今回も変わらずグダグダだから!
〜編集記録〜
サブタイトル、内容共に変更(10/18)
一言プラス(11/4)
救助用に開けられた入り口を手前に、ぞろぞろと出てきた雷真と学院長、学院長の護衛をしていたらしいマグナスを警備や風紀委らが向かえる。
空は今だに太陽が支配しているが、時間でいえば午後3時を過ぎた頃だった。
「雷真!」
警備の波を掻き分け、夜々が雷真の胸の中に飛び込む。
「ご無事だったんですね......! よかったです......夜々は、夜々はずっと心配で......!」
「......悪かった。だからそんなに泣くな、俺は平気だ」
「はい......」
しくしくと泣く夜々の頭を撫で、そこでようやく雷真から離れる夜々。
「ほら、夜々。ここじゃ周りの邪魔になるから寮へ戻るぞ」
その言葉と共に歩き出した雷真に、夜々が大人しくとてとてと追いかけ始める。
隣へ並んだとき、夜々が口を開いた。
「あの、雷真......」
「どうした、夜々?」
「その......大丈夫、でしたか......?」
「俺は平気だって、さっき言ったーー」
「いえ......そのことではなく」
珍しく首を振りながら主の言葉を遮った夜々に雷真は思わず足を止めてしまう。
それに釣られて止まった夜々は、ある程度小さくなった人影のうち1人を指し示した。
「あぁ、あいつか.....」
「はい......何事もなくて安心でしたが、まさか一緒でしたなんて......」
「学院長の護衛だったらしい。......正直、あんな化け物に護衛なんているのか疑問だったがな」
「え?」
「学院長は化け物だ、目の前にあいつがいたってのに......たった一言で動けなかった」
「雷真......」
その呟きを最後に雷真が再び歩き出し、それに夜々がついていく。
ふとなにかを思い出したかのように雷真が夜々を見る。
「どうかしましたか、雷真?」
「まだ時間はあるし、リュウの見舞いに行くぞ」
「あ、はい」
くるりと踵を返し、医学部に向かう雷真を夜々が追いかける。
「なんだ、また怪我でもしたのか? 下から二番目」
医学部の校舎へと踏み入れてすぐクルーエルに呼び止められ、雷真は足を止める。
クルーエルの表情は、どこかニヤついたものが浮かんでいた。
「言っとくがベッドは空いてないぞ、前の崩落で負傷した奴らで埋まってるからな」
「勝手に言っててくれ。例え怪我をしたとしてもこんなとこで大人しく寝てられるほど俺は悠長に構えてなんかいられない」
「じゃあここへなにしに来た。こう見えて一応忙しいんだがな」
そう言うクルーエルの手には医療関係の機材が持たれていた。
「リュウ・ヴォルフィードってやつを知らないか? 式典に護衛で参加してたらしいんだが」
「あぁ? そんなやつ、ここにはいないぞ」
「なんだって?」
その言葉に雷真は思わず顔をしかめてしまう。
「式典に参加してたんだろ? なら風紀委の誰かに聞けばいい」
それだけ言い残すとクルーエルは早足で姿を消してしまった。
忙しい、というのは本当らしい。
「どうしますか、雷真? 行きます?」
「いや......ここにいないならさすがに寮へ戻ってるだろ」
そうして医学部を出、トータス寮の自室へと戻った雷真と夜々はやはり広く感じる部屋に思わず立ち止まってしまう。
「ーーいませんね、リュウさん」
「......はぁ。医学部のほうにもいなかったし、戻らないなら戻らないで無事の伝言くらい置いてからにしろっての」
ベッドに腰掛けながら言った雷真の言葉に、夜々はふと嫌な予感を覚えた。
「もしかして、リュウさんもなにかの事件に巻き込まれているのでは......」
「夜々?」
「あ、いえ......ほとんど直感のようなものですし、気にしないでください」
雷真に変な心配をさせたくなくて微笑みながら言った夜々だったが、彼女自身が一番割り切れていなかった。
夜々が
禁忌人形は生体機巧......生物の肉体が使われている人形のことを一般的に指すものであり、ならばその異変を夜々だけが察知するはずがないからだ。
その異変とはなにかーー初めてアジーンと出会ったあのとき自動人形とは思えない途方もない魔力を感じたのだ。
それも、本物の生き物だと錯覚するほどに......。
列車騒動が終わってからというもののリュウや雷真がそれについて話す様子はなかったが、それ以降彼女の脳裏には一つの不安が付いて離れなかった。
『いつかなんらかの事件に巻き込まれる、もしくはそれを引き起こす当事者となるのでは?』
と。
(考え過ぎ、ですよね)
頭を振ることでそれを払い、夜々は雷真と共になにかをするわけでもなく時間を過ごしていく。
そうして少しずつ日が傾き始めた頃に彼女は時計をちらりと見た。
「そろそろ行きませんか、雷真? 夜会のお時間も近いですし」
「あぁ、そうだな」
雷真が起き上がるのをサポートしつつ、チャックを下げようとして頭を叩かれながら夜々は彼と自室を出た。
だが。
「リュウ......?! それにアンリまで......!」
「リュウ、さん......?!」
その先にいたのは、ボロボロのリュウとそんな彼を支えるアンリだった。
☆
学院長共々、雷真が地下へと落下して小1時間。
崩落地のそばで泣き崩れていたアンリを発見したリュウは彼女を連れてあの場所へと戻ってきていた。
夜会執行部の置かれる部屋へとリュウが先行して扉を開ける。
次いでオドオドとしながらアンリが中へ入ったのを見てから扉を閉め、彼女の手を握ったままセドリックを振り向いた。
「連れてきたよ」
リュウの言葉に、セドリックが作業を中断してこちらを振り向く。
彼の目がアンリに向かれた途端、リュウは握る彼女の手に力が篭ったのをはっきりと感じた。
「仕事が早いね、リュウはーーやぁ、アンリ。久しぶりだね。一応シンに見張りをしてもらっていたけど、どうしてそんなにツマらない行動ばっかりしようとするんだい?」
ツマらない行動、というのは自殺行為のことだ。
最初からリュウがこの件に絡んでいれば簡単にわかることだったが、今のリュウにはそれがなにを指すのかわからなかった。
「......」
「前から気にはなってたんだ。君という引き立て役がいるからこそ、主役であるシャルロットがあんなにも苦しんでくれる。だと言うのに、君が死んだらなにもかも台無しじゃないか」
「っ......私がいるから......」
言いながらさらに握る力を込めるアンリにリュウはそっとそれを握り返す。
が、リュウ自身も握り返す手に力がこもっていた。
理解してしまったのだ、“ツマらない行動”というのがどんなことなのかを。
「まぁ君が死んだところで新しく作れば問題はないんだけどね。作り物と本物とじゃ、臨場感が違うから出来るだけ本物がいいんだ」
「ッ!!」
セドリックの言葉にプツンとキレたリュウはアンリの手を離し、人の動きとは思えないソレで彼の胸倉を掴み上げる。
「君というヤツは、人の命をなんだと思ってる......!」
「僕自身も脇役の一人だという自覚はあるよ。主人公がいて、主人公の大切な人がいて、それを陥れようとする悪者がいる......舞台の役者は揃ってるけれど、それだけじゃ面白くないからね。僕は人の不幸が見られればそれで満足なんだ。人の命なんか知ったことじゃない」
「っ......!!」
怒りで震える拳を顔面に叩きつけようとするが、済んでのところでピタリと止めそのまま胸倉からも手を離す。
「怖気づいたのかい?」
ニヤリと笑みを浮かべるセドリックを一瞥して、今だに拳を握ったままリュウは踵を返す。
「アンリ、行こう。こんなヤツに従う必要なんかどこにもない」
去り際に放たれたその言葉に、セドリックは“へぇ”と意味ありげに呟いた。
「あれをばら撒いてもいいんだ? 君にとって、すごく困るものだと思うんだけど」
「......」
その言葉にリュウは足を止め、一度目を閉じて深呼吸をしてからセドリックに向き直った。
「......あれをばら撒きたかったらばら撒けばいいよ。元より先のことさえ気にしなければあんなものどうだってよかったんだ。おれにはもう関係ない」
リュウの言葉に一瞬彼は沈黙するもすぐに吹き出し、腹を抱えて忍び笑いをし始める。
「いいね、最高だよリュウ」
「......? なにが言いたい?」
「まさかあの写真が本物だと思ってるわけ? だとしたら傑作だね。僕がなにを好きなのか、さっき言わなかったかい?」
「......偽物、ってことか」
「そう、それなのに必死に食いかかってきたり我慢しながら僕の言うことを聞いてる様なんて面白くてたまらなかったよ」
「......君は人として最低だ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「......」
これ以上話すことはない......そんな意思表示のようにリュウはアンリの手を握って部屋から出ようとする。
「アンリを連れてどこに行こうって言うんだい?」
「君には関係ないよーー行こう、アンリ」
去り際に問われた内容について、振り向かずに切り捨てたリュウはそのまま部屋を出た。
☆
「あ、あの......これからどこに行くのですか?」
部屋から足を止めることなく外へと出たところでアンリが声を上げる。
リュウは足を止めて振り向くと、アンリに問いで返した。
「アンリは、これからどうしたい?」
「......」
そんな風に返されるとは思っていなかったのだろう、俯きそのまま固まってしまう。
リュウはそれを急かすこともなければ特に声を掛けることもなく、彼女が自分から話し出すまで見守った。
「......私がいるせいでみんなが苦しむなら、私なんかいなくなればいいって思ってました。それは今でも変わりません......でも、私が今更いなくなったところでお姉さまが起こしてしまったことはもう取り返しがつきません......だったらせめて、お母さまとお姉さまとーー家族みんなとまた昔のように静かに暮らしたいです......」
「......そっか」
リュウの言葉に、驚いたアンリがとっさに顔を上げる。
「え?」
「でも、全てが思い通りに行くわけじゃないってことだけは頭の中に入れておいて」
「......はい」
「よし、とはいえおれも次期に追われる身になるだろうからね。とりあえずトータス寮へ行こう」
「トータス寮......ですか?」
「うん。ホントはシャルを直接止めに行きたいんだけど、きみはセドリックに無理やり連れて来られたんだろ? そうなるとここじゃ自由に動けないからね。それに、雷真なら事情を説明すれば匿ってもらえる」
本当は彼らを巻き込みたくなかったが、こうなった今ではそれ以上に巻き込まないよう最大限配慮するしかない。
小さく頷いたアンリを見て早速歩き出したリュウはふと手を握られる感覚に足を止めて振り向く。
と、アンリが握っているのが視界に映りリュウはクスリと笑いながらも彼女を引っ張りながら再び歩き出した。