「やっと一区切りついたー!」
そんな情けない声が、どこまでも真っ白な空間......天界に響く。
人が1日に死ぬ数は、決して少なくはない。
どんな死因にせよ、ここへと来た者達の生歴を確認し、転生場所へと向かわせるためのルートを定めるのが神の役割。
たまにイタズラで本来通るべきルートをすっ飛ばし自力で転生させることもあるが、それも許容範囲内。
そんな一見簡単そうな役割だが、1つ......それもかなり手間のかかる作業がある。
それは『どの魂がどんな生歴によりどちらのルートを通って転生したのか』という報告書を作らなければいけないことだ。
要約すると5W1Hに沿った一連の流れを紙に記すだけなのだが、これが意外に面倒臭い。
それが厚さ1m分の書くべき紙があるとさすがに萎えるというものである。
別段サボっていたから、ツケが回ってきたとかそういうことではない。
それほど人が死んでいるということだ。
当然、人の死はリアルタイムなので報告書を書いている途中で来客もあり、その度に0.09mm≒0.1cmずつ加算されていく。
そんな報告書をようやく半分ほど書き終えたのだから、神と言えど情けない声が出ても仕方が無いだろう。
「今日はなんだか少なめだな......ま、少ないに越したことはないんだけど」
ちなみに、出来上がった報告書は全て日付別のファイルに保存され、転生された人物が再びここに来れば自動的に『書くべき報告書』の束の一番下に追加され徐々に更新されていく。
それはある意味便利だが、仕事が知らぬ間に増えていくそんな便利さはいらないと常々思う現在の神に間違いはないのだろう。
「お主はまた情けない声を......」
そんなところへ、1人しかいないはずの空間にシワがれた第3者の声が届き神は仰向けのまま“あっ”と声を上げる。
「先代の爺ちゃん!」
「先代様と呼べと何度言えばわかる、この若造が」
「いて」
額を2本指で小突かれた神は一気に起き上がり、声のしたほうを振り向く。
そこには白の装束を見事に着こなし、髭や頭髪なども真っ白となった“如何にも神様という雰囲気”を纏った老人......先代がいた。
先代の神とは名前の通り、彼の前に神の役を務めていた者のことだ。
そもそも、神とは天界に来た1人の死者が先代の神によって選ばれ、生と肉体を得ることで受け継がれていく一種の職業のようなもの。
元が死者であり、場所もまた天界ということで転職も退職も出来ない一直線の道だが、その道ゆえに多少のイタズラも許容範囲内なのだ。
それにしても......なるほど、確かに先代と見比べてしまえば転生される前のリュウが抱いた感想も納得が出来る。
もし『どちらが神様でしょうか?』ゲームをしたならば実際のところ2人とも神なので正解はないが、初見なら必ず先代のほうだと答えるのが目に見えるほど、現在の神に神々しさは皆無だった。
「で、何しに来たわけ? 俺がサボってんのを注意しにきたとかじゃないよな?」
そんな風貌に沿ってか、いまどきの言葉で先代に問いかける現在の神。
「まぁそれもあるがな。それはオマケじゃ」
「オマケ?」
「うむ。お主、以前に月影竜......いや、今はリュウ・ヴォルフィードか。そういう者をイタズラで転生させたことがあっただろう?」
その言葉に、神の表情が一気に険しくなる。
「まさか......」
呟くなり、自身の眼前を1本の指で切る神。
するとそこからD-カウンターと呼ばれる、それぞれカタチも大きさも違う3つの六角形を三角形のように並べた1つのカウンターが出現した。
それが中心部なのだろう、3つの中で一番大きい正六角形には煮えたぎる血のような赤が一色、まるで心臓が鼓動するかのような動きを見せ、オマケ程度にくっつく残り2つの六角形はどこか横に長く、95.78%という数値が刻まれていた。
「なっ......?! なんでもうここまで侵食が進んでやがる!!」
その顔を驚愕の色に染め、神は無意識のうちに先代を見やった。
先代は、不測の事態に焦る神の様子を見て苦笑し“その様子じゃとお主、自身の役目にばかり気を取られておったな?”と揚げ足を取った。
「あ、う、うっせぇよ! しょうがねぇだろ、まだこの役目に慣れてねぇんだ!!」
「言い訳じゃの。お主、ここに来てからもうどれほど経った?」
「うっ......500年ちょい......」
「はぁ......どうやらワシの目が間違っていたようじゃのぅ......500年も経っておれば、大抵の者が役目に慣れ、ある程度の自由が確保出来たというのに......」
「わかった、わかったから!! 俺が悪かった!! だからそれ以上言うな!!」
言いながら、口を塞ごうと迫る神に先代はどこから取り出したのか定番の杖で彼の顎を押さえ込んでいた。
すっかり普段の神の調子に戻ったところで、先代は話を一気に戻す。
「うむ、もう良さそうじゃの」
「あ? 良さそうって、なにが?」
「さて、それが一気に上昇した原因のことだが......本来の主がD-ダイブを使えば、当然ドラゴンの力はその体に強く馴染み侵食を促そうとする......と言えば、どういうことかわかるな?」
「ーー!! そういう、ことか」
「おそらく、彼はもう持たぬであろう。竜が孵化するその前に......全てが手遅れになる前に、お主が彼を助けてやれ。その間の業務は、ワシが代わりにやっておく」
「先代の爺ちゃん......!!」
「だから先代様と呼べと何度も言っておるだろうが」
相変わらずの呼称に、先代はやはり神の額を小突くが、神は今それどころではない。
痛がることも突っ込むこともせず、一応形だけと言われて着ていた白の装束から一瞬にしてヴァルプルギス王立機巧学院の男子学生の服装となり、どこかへ走り出したかと思うと姿を消す。
その途中、再び自身の眼前を指1本で切る動きをしたところを見ると現在彼......リュウ・ヴォルフィードがどんな状況下に置かれ、周りがどのように動いているのかを確認したのだろう。
「叶うならば、このまま彼が平和に暮らせるようになることを......」
先代の呟きは、真っ白でどこまでも終わりのないような空間に反響することもなく静かに消えていった。
☆
目が覚めると、辺りは薄暗く、手足にジャラジャラと重たい金属の拘束具が装着され磔にされていた。
わぉ、なんか投獄された人みたい。
ちょっと楽しい。
「目が覚めたかね、リュウ」
「あ、キンバリー先生」
ふと声のしたほうを見てみると、普段の白衣から一転黒のローブを羽織ったキンバリー教授がいらっしゃった。
この場所といい、彼女の着ている服といい、なんだか面倒事に巻き込まれている......らしい。
「あの......先生には生徒を監禁する趣味でもーーひっ?!」
とりあえず状況がわからないのでからかってみたら、俺の右頬スレスレに小さなナイフが風を切りながら壁に突き刺さった。
首は固定されてないようなので、恐る恐る振り向けばやはりナイフがビィィィンと震えている。
「貴様、最後のことをどれだけ覚えている?」
よくこういうからかいをすると大抵は満面の笑みでナイフを投げてきそうなものだが、彼女はただ無表情にナイフを投げ、そして本題に映ってしまった。
......うん、絶対に彼女にしたくないタイプだ、俺的に。
「最後のこと? ーーひぁっ?!」
質問の意図がわからず問い返しただけなのに、今度は左頬スレスレにナイフが飛んできた。
俺には質問すら許されてねぇのかよ!!
「答えろ」
「......」
どうやら俺には、彼女の質問に答えるという選択肢しか残されていないらしい。
仕方なく俺は“最後のこと”という単語から必死に連想ゲームをし、そしてようやくそれが“気に失うまでのことなのかな?”と結びついた。
「......そうだ。雷真が、夜々が家出したから探すのを手伝ってくれって言われて、クルーエルに内緒で医学部の外に出たんだ。そこである程度の作戦とか立ててたら、前にも聞いたような質問をしてくるもんだから、それを指摘したんだよ。そしたら、いきなり雷真にライダーキックをされーーッ!! なんだよ、ちゃんと答えてーー〜〜っっ!!」
話している途中でいきなりナイフを投げられ、糾弾したら更にもう1本飛んできた。
わけがわからないよ/人◕ ‿‿ ◕人\
とか思っていると
「ライダーキックとは?」
あぁ、そこか、と納得した。
ライダーキックは、ニーナならわかるかもしれないけれど元からこっちの人間にはわかりっこねぇわな。
つか、無意識にライダーキックって言ってる俺って一体なんなの......。
「まぁ......つまり飛び蹴りです、はい」
「ふむ......それで?」
つまり続きを言えと。
やりづれぇ......。
「いや、飛び蹴り食らって木に激突して、なにすんだって雷真見たら雷真じゃなくて知らねぇ男だった。向こうは俺のこと知ってるみたいだったけど」
「他は?」
「特にないっす。そいつと一言二言交わしてたら急に体が熱くなって、知らんうちに意識持ってかれた」
こんなこと洗いざらい喋っていいのかな......とちょっと不安になりながら、俺は話し終える。
するとキンバリー教授は小さく相槌を打つと、クルリと踵を返す。
......え?
「ちょっ、キンバリー先生?!」
「貴様には当分、ここにいてもらう。私以外にも何人か来て、いくつか質問するだろうから嘘偽りなく答えろ。いいな?」
「別に構わないけど、これどんなプレイなの? ーーッ!! あぁ、もう、ナイフ投げるのやめてもらえません?! 命マジで縮むんですけど!!」
「貴様がふざけるからだ」
「俺のせいかよ、状況わかんねぇんだから仕方なくね!?」
「普通に聞けばいいだろう?」
「それ俺に求めちゃダメだろ......」
「ならばとっとと限界まで寿命を縮めてしまえ」
「ひでぇな!! ーー......マジかよ」
そう突っ込んだところで、計5本のナイフが一気に抜けた。
糸や紐かなんかがついていたんだろうが、辺りが薄暗い分なにも見えず故にトリックかなと思ってしまう。
が、キンバリー教授がやるとトリックでもなんでもなくただの脅迫にしか認識出来ない俺はなにも間違ってないよな?
「とにかく、そういうことだから下手に暴れるなよ。でなきゃ
そう言ってキンバリー教授は姿を消してしまった。
「当分このまんま、か......俺、なんも悪いことしてねぇのになんで尋問なんかやらされるんだろ......」
どうせ1人しかいないので思ったことをそのまま呟くが、やはり1人な分余計にボッチ感が増して俺は目を閉じた。
......現状磔にされてる俺なわけだが、一応首を垂らせば眠れる分、ある意味ですごい特技持ってるよな。
学年集会とかでも体操座りのまま寝てたし。
天界での会話は完全に文字稼ぎです、はい
とはいえ、ちゃんと内容に触れてるからそこ注意
キンバリーがリュウを呼ぶときって、貴様でいいのかな?
雷真のことは
シャルのことは
だからきっと、リュウでも登録コードだと思うんだけどリュウの登録コード、この小説で書いてなかったんだよねー(´・ω・`)
何度見直してもないんだから、たぶんそうなんだろうなぁ......
まぁ貴様でいっか、ないもんはないんだから仕方ないよね(白目