ヴィラン&ピース 作:ラムレーズン
「はいはい久しぶりー、はいはいおはよー」
僕の幼馴染、煙は卒業式の日に久しぶりに学校に姿を現した。
確か前に来たのは三ヶ月以上前、ふらりと1日だけ姿を表して、周りの生徒に持て囃されながら適当に受け答えして、授業は全部居眠りした後煙のように帰ってしまった。
一時期は巻上 煙死亡説だのが流れたけど、たまに姿を見かける生徒がいたから流石に否定された。そのかわり流れたのは巻上 煙ヤクザ説……なんでも、ファミレスで怖い人たちの一団に混ざって、和気藹々と食事をしていたところを見た生徒がいるらしい。まあこっちもすぐに聞かなくなったけれど。
ただ、目の下のクマを見れば不健康な生活をしてるのはなんとなくわかった。
ボーッとそんな光景を見ていると、こちらに気づいた煙がふらりと目の前に現れた。
「久しぶり出久クン。雄英、受かった?」
「えっ、あっ、うん!」
「へー凄え。ヒーローなれちゃうじゃん」
「うん……でも、まだなれるか不安で……」
実際、無個性だった僕はある個性を手に入れて、最難関と言われる雄英のヒーロー科に合格した。
その個性はワン・フォ-・オール。トップヒーローのオールマイトの個性だ。遥か昔から聖火のように受け継がれてきた個性。それが今代は僕に渡された。
なのに、全く制御が出来なくて使うたびにボロボロになってしまう。実際、入学試験の実技もボロボロの死に体で通過したわけだし……
急に不安になって俯いていると、急に頭を掴まれて視界を引き上げさせられた。冷たくて小さくて力強い、煙の手だ。
彼女は灰色の瞳で僕を見つめながら口を開く。
「大事なのは信じて向かうことだよ、イズクくん。向かっていればいつか必ず着くものだろう?」
「……うん!」
「それでいい。努力しろよ少年。きっと、ヒーローになれば俺と会えるからさ……」
ニヤッと力強く微笑んで、彼女は他の生徒のところへ行ってしまった。
それにしても会えるってのはどういうことなんだろうか。ヒーローのサポート系の職業に就くってことだろうか?
なんとか聞き返す暇もなくチャイムが鳴って、体育館へ移動した。
♤♠︎♤
「そんでね、幼馴染が2人ヒーロー科に入ったの。向こうが順当にヒーローになって、俺が
「巻上、聞いてるから黙れ……」
「えー! なにそれ! 治崎くん絶対女の子にモテないでしょ! はいどうてーい!」
「分解するぞお前」
「はい必死になるとこが童貞くさいー!」
即座に体を煙にして治崎くんの個性の"分解"の方を避ける。これ気体になって避けないと言葉通り塵にされちゃうんだよね。とんでもない強個性持ちめ。羨ましい。
「ねえちょっと! こんな可愛い女の子バラバラにしようとかわけわかんないんですけど!?」
「可愛い……女の子……?」
「はいキョロキョロしなーい! あなたの目の前! 幸福の青い鳥は家にいるよー!」
「……ハッ」
「鼻で笑いやがった……許せねぇ……」
さて、今俺はお得意様の死穢八斎會の若頭くんと仲良くお喋りしていた。依頼の報酬を受け取った後、図々しく屋敷に残って治崎くんを弄り倒しているのだ。事あるごとにバラバラにしようとしてくるけど俺の個性ならほぼ無効化だし問題ないね。
「そんでさー治崎くん。エリちゃんはどーなの?」
「悪くはない。最近は抵抗することも少なくなってきた」
あくまでも無機質に返す治崎くん。情とかそういうのないタイプの人間だなぁ……
「まあ俺は正義なんてどうでもいいけどね。でも優秀な道具は使い潰すよりも綺麗に磨いて可愛がった方がいいのよ?」
「余計なお世話だ」
「あっはー! 非合理な奴だ! んじゃ、俺はそろそろ行くよ。またのご利用をー!」
「まあ待て」
と、私を引き止める治崎くん。珍しいこともあるもんだ。
「なあにぃ? もうちょい美少女を堪能したくなった〜? いいよ〜?」
「抜かせ、顔も見たくない……仕事だよ。調子に乗ってる新参者の鼻っ柱を叩き折ってこい」
「へぇ……いいじゃない、俺に任せなよ。詳細を聞いても?」
◇◆◇
「連合ねぇ……」
我が麗しの
煙になったまま上空から観察していると、なるほど流石は雄英の金の卵達! 災害救助訓練用のドームで校舎との連絡を封じられ、ワープ系の個性でバラバラにされ、多数の
と、思ったけれど、先生らしき男、確か抹消ヒーローイレイザーヘッドとか言う奴だ。そのイレイザーヘッドが脳剥き出しの怪物と戦い始めてからは様子が違う。どうやらアレが連合の切り札らしい。
そして一先ずの王将と金角は体中にちょん切られた手をつけた男と、その隣の黒い霧の男。俺の勧誘の時にも見た奴らだ。確か名前は死柄木と黒霧だっけか?
「そんじゃ、俺の出番かなって」
丁度窮地らしい時に、怪物と先生の間に割って入り人型に戻る。
両陣営が驚愕の目で俺を見つめる中、煙を固めて怪物の全身を包み込んでやる。
「チッ……お前も
「その個性! お前はシガレットか……どうして
ほぼ同時に発せられた死柄木と先生の言葉。
依頼主の名前を出していいか聞いてないしどこまで説明するかなぁ。
「簡単な話、悪にも派閥がある訳よ。だからさぁ、
こんなところで十分かな? 殺しはできればくらいのレベルだったけど、俺は勤勉な仕事人だから命も狙っておいてやろう。
「社会不適合者ァ? おいおい、同じ穴の狢の癖に、ムカつくこと言うんじゃねえよ。悲しくなっちまうだろ?」
「俺がお前らと同類なんて、死んでも認めねえよ。お前らの目指すのは転覆、俺が目指すのは
「じゃあまずはこれを殺してみるんだな! 脳無、こいつからやれ!」
死柄木の指示で固めた煙に包まれた怪物が飛び出そうとするが、一向に出てくる気配はない。それもそうだ。どんな怪力であっても、力でコレを壊せる筈がないんだから。
「クソッ! なんで……!!」
「柔らかいってことはダイヤモンドよりも硬いってことなんだぜ、覚えておけよ新人。ついでに今の会話で、あいつがコレくらいの時間なら首締めで気絶はしないってこともわかった。その上口から煙を侵入させて臓器を探ってみてるんだが……こりゃ明らかに人の構造じゃねえよな。予想はつくがお前ら、アレをどうやって作った?」
どうやら質問に答えるつもりはないようで、死柄木は煙の繭に手で触れようとする。
「クソ……クソッ! クソッ! 先生からこんなことは聞いてねえぞ! 早く出てこ───」
「馬鹿が。触らせる訳ねえだろうが」
しかしその手を手首から地面に縫い止め、もう片方の手も体に縛り付けて拘束する。
「それの力でも剥がれないもんを態々触りにいくってことは、お前の個性でなんとかできるってことだろ? 無効化か、液状化か、あるいは崩壊とかか?」
最後の一つで死柄木の表情が明らかに変わる。それはもう、手で目元を隠されててもわかるくらいには。こうしてみると初々しくて可愛いもんだなぁ。
「素人丸出しだぜお前ら。敵に晒す情報が多すぎる」
「クソ! ガキの癖にデカい口叩きやがって! 黒霧!」
「まあ聞いとけよ。その癖でこんな頭数揃えてんだから、新人なりに何かデカい後ろ盾があるんだろ? 俺が知る限り、今活動してる連中でお前らを雇いたがるような奴はいねぇ筈だ。そうなると昔は随分と目立ってて、しかし今は何かの理由で大人しくしてる奴。考えられる理由としては怪我や老いによる引退、後は投獄か? しかしお前みたいな馬鹿を先生って呼ばせて従えてるとこから考えると、弱くなってる奴じゃありえねえから投獄。その上今回の目的はオールマイトの殺害。アレはみんな邪魔に思ってるだろうが、『あわよくば死ね』じゃなくて『俺らが殺す』ってのは滅多にねえ、因縁でもあるんじゃねえかな? ほうら、俺みたいに頭のキレる奴だとこんなとこまで考えられちまうんだぜ?」
余裕そうに高説を垂れてやったが、どうやら図星のようで。冷静そうに見えた黒霧の方にも動作から動揺の色が見えた。
「ってか、聞けって言ったのは俺なんだけどさ、
「クッ! あなたには少し黙っていただきます!」
ここまで言ってようやく動き始める黒霧。ワープ能力のある黒い霧を広げてくるが、煙をぶつけて吹き散らしてしまう。本当に、ここまでお粗末な連中だとは思わなかった。
「ほら、イレイザーヘッド。俺が今言ったこと覚えてる? 生きて帰らせてあげるから、その後は国家権力使ってちゃんと調べてくれよ?」
「わざわざ
「あっそ、それくらい優秀なら、安心してあの馬鹿どもを任せられる。緑谷と爆豪って言うんだけどちゃんとやれてる? いい奴らなんだけど、オタクと不良の対極みたいな奴らだから心配なのよ。良くしてあげてね?」
「お前ッ……あいつらの……?」
「幼馴染!」
「よそ見している余裕があるのですか!」
「あるんだよ、強いから」
再び襲いかかる霧を押し返し、効くかはわからないが拘束しようと試みた時、どっからか飛んできた出久クンが黒霧に殴りかかる。避けられてしまったが、随分な威力だ。拳圧だけでその辺の木を揺らし、周りの雑魚どもを吹き飛ばしてしまった。
反動か何かで右腕がボロボロになった彼は、素直に称賛する俺に振り向きながら口を開く。
「煙! 君がどうしてここにいるんだ!? それにそのタバコは!?」
「えー? 実は俺がプロヒーローだからかなぁ? 後は……実は20歳でしたー、とか?」
「小さい頃から一緒だったのに何その薄っぺらい嘘!?」
「そうだぞおいクソ女ァ! 正直に答えやがれ!!」
「うっげぇ!? かっちゃんも来るのぉ? やめてよ、俺お前らに同時に詰められるのマジで苦手なんだよぉ……」
「うるせえ! どうでもいいから早くしろ!」
かっちゃん、爆豪克己くんの個性は爆発。名前の通りに両の手の平を爆発させることができる。それを利用して吹っ飛んでくるかっちゃんだけど、その勢いのままに煙で包んで、そのまま転がしてやる。
ついでに燃え切ったタバコを捨て、新しいのに火をつけておく。
「今のでわかったでしょ? こう言うことだよ」
「煙……まさか……」
「そのまさかー! 俺は巻上 煙、またの名をシガレット。天地に悪名轟かす、耳に聞こえし凶悪
一気に驚愕とビビリの顔になる緑谷クンと、死柄木に霧をまとわせ始める黒霧。使い物にならないと判断されたのか、怪物は置いてけぼりだ。
「いいよお、今は逃してあげる。次会った時にまだその態度だったら殺すから」
「抜かせクソガキィ! お前だけは絶対に殺してやる!」
「楽しみにしてるよぉ〜」
馬鹿どもが手も足も出ずに、残った尻尾すら巻いて逃げ出したんだから、依頼は完了かな?
全く楽な仕事だぜ!
「んじゃ、出口あっちでしょ? イレイザーの目に映んないとこまで行って帰るから、送ってってよ」
「悪いけど……煙、今の君を逃すわけにはいかない」
いつのまにか決意のこもった顔つきになり、俺を睨みつける緑谷くん。
「おいクソ女ァ! 絶対にぶっ殺してやるからなぁ!」
「良くわからないが……
「ケロッ、助太刀するわよ」
弱めの拘束から抜け出したかっちゃんに、紅白饅頭みたいなカラーリングの男子、カエルっぽい女子。他にも赤いツンツン髪とか、おっぽが生えてる奴とか、毒々しい肌色の奴とか盛りだくさん。
しかも見るだけで個性を消すイレイザーヘッドがいるんだから、いざとなったら煙に溶けて退散は無理と来た。
「はぁ……マジかよ有精卵ども。覚悟あるじゃねえか……」
毒づきながら煙を吐いた。
第二ラウンドの開幕ってわけだ。