TS転生幼女、精霊の大地にて躍進す   作:まほさん

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当面の目標
幕間 別れ


 社員旅行で乗っていたバスで事故が起きた。

 隣に座る女の子を庇ってから後の記憶がない。次に目がさめたのは病院で、旭日はドラマで見たことがあるような生命維持装置につながれていることに気づいた。

 かたわらでは妹と両親が泣いていて、必死に自分の名前を呼んでいた。

 呼びかけにこたえてやらなければと思う。

 思いはするのだがびっくりするほど体がいうことを聞かない。

 

 ごめんな。

 

 それがどういうことなのか旭日はあっさりと気付き、ただただ心の中で家族にあやまった。

 お兄ちゃん、なんて何年ぶりいらいに聞く呼称。三十もすぎたおばさんが、甘ったれたみたいな呼び方するなよ、なんて苦笑じみておもう。両親に似たとびきりの美人だったのは数年前までの話で、いまや年齢が顔に出たただのおばさんなんだぞ、と軽口を叩いてやりたい。

 ぐるぐると言葉がめぐるばかりで、唇はうまく動かなかったわけだが。 

 

 三十五年分の家族との思い出が胸の中にぶりかえる。

 それが幸せな記憶であればあるほど、家族に申し訳なかった。

 彼らは、泣くだろう。

 自分は、大切な家族を泣かせてしまうのだろう。

 

「ありがとう」

 

 あいしている、はなんとなくおかしい。

 両親と妹に告げるのは面映いせりふだ。この言葉だって、なんとかしぼり出したものだ。うっかりごめんなさいを遺言にしたら、家族だって後味が悪かろう。

 

 自分が結婚していて、嫁や子供がいれば愛しているの言葉がふさわしかっただろうが、あいにく旭日は独身だった。

 モデルじみた容姿抜群の父と母の間に生まれただけあって見た目でもてはやされたが、結婚したいと思える女性についぞ出会えることはなかった。

 

 出会おうとしないだけ、と義兄に言われたことを思いだす。

 耳に痛い言葉だった。

 会社の上司でもあり、同じバスに乗っていた。

 あのひとは果たして無事だろうか。

 

 助けた女の子は、無事だろうか。

 

 無事であってほしいと思う。そして、旭日が死んだことを気に病んでほしくないと思う。

 

 自分のような犠牲者はひとりでもすくないほうがいい。

 残された誰かが泣くのは、すくないほうが絶対にいい。

 

 もう、自分がこうやってものを考えていられる時間はすくないことに気づいた。

 体の境界線がわからなくなり、どろどろと全身が眠気の中にとけていく気がする。

 

 

 最後に、旭日は祈る。

 神様、もし本当にいるのなら、聞いてください。

 

 

 

 家族が、幸せになりますように。

 残してしまったひとたちの悲しみが、すこしでも早く終わりますように。

 

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