TS転生幼女、精霊の大地にて躍進す   作:まほさん

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秤にかける
第十五話 森へ


 1

 

 籠代のスライムをマリィシアに渡し、身綺麗にしてすっきりしたその翌日。

 女村長宅からの朝食の差し入れに腹をくちくしたのち、雷と旭日は森に分け入った。

 二人は足の長さが違うため、旭日の慎重な歩調に合わせても、雷はやや早歩きになる。

 旭日の慎重さは突然の不意打ちを警戒してのものというよりも、魔物をうっかり見逃さないためのもののように見受けられ、余裕と落ち着きがある。同行者の存在と、ゴブリンと一人で対峙してきた男への安心感で、雷の気はどことなく緩む。

 

「村長の飯、何か特別な物がはいってるってわけじゃなさそうなのに、やたら美味いよな」

 

 主食は黒っぽい麦粥だが、以前食べたことがあるオートミールよりもずっと好みで食べやすい味だった。スープは塩気は薄いが野菜と肉のうまみが濃くきき丁度いい塩梅の味になっていて、飽きが来ない。正直おかわりをしたかった。殻をむいたナッツ系の実に軽く塩を振ったものも、シンプルに美味い。

 

 雷は緊張を抱きつつも、美味な食事がもたらす幸せの余韻に浸りながら言った。

 

「それな。なんかスキルが関係してるらしいぞ。『精霊の贈り物』にもあっただろ、料理スキル」

 

 雷の無駄口を咎めず、旭日は雑談に付き合う。

 

「そういえば、あったな。ゲームではステータス上げるドーピングに必須だった」

 

 『精霊の贈り物』は魔法によるバフとアイテムによるバフの重ねがけが可能なので、一定時間ステータスを増強してくれる料理は序盤から終盤まで重宝するのだ。

 攻略サイトでは料理スキルは縛りプレイなどの理由がなければ取得するように勧められる。スキルを使って料理を作っているうちに、スキルレベルは自然とぐんぐん上がる。プレイスタイルによっては一番最初にスキルレベルマックスになるときもあるという。そのぐらい頻繁に使用するスキルだった。

 

「ドーピング云々がなくても、この世界で生きるにも必須みたいだぞ。料理スキルがない状態で調理するとな、飯が不味いんだ」

 

 旭日はおもしがるように言う。

 

「ええ? なんだそれ」

 

 かつがれているのかとおもい、雷はあからさまに疑う胡乱な声をあげる。

 

「嘘だと思うか? ここでは常識みたいたぞ。個人の腕そのものの技量もさることながら、スキル持ちが料理すると精霊がなんやかんやして、飯が美味くなるし、ステータスが一時上昇する効果がつくらしい。ま、ステータスの上昇が精霊のおかげっていうのはゲームのフレーバーテキストと同じだな」

 

「はいそうですかと普通はいきなりは信じられないだろ。まあ、でもこんな非現実的な世界だしな。そういうことも起こるんだろうな。

 物理法則みたいなのじゃなくて、でたらめなゲーム法則に縛られてるみたいな感じなのか? スキルがないと飯を作っても不味くなるって、ちょっと理不尽すぎね?」

 

 旭日の丁寧な返答に、どうやら嘘ではないことを感じ取り、雷は疑問を口にする。

 

「そこは前提が違うんだよ。スキルがないと料理が不味くなるんじゃなくて、スキルがあるから、飯が美味くなる。

 普通の主婦くらいの腕じゃ、調味料と時間をどれだけ使っても、どうにもできないくらいに素材が美味くねーんだよ。

 肉や魚は普通なんだが、……むしろ美味いな。日干しの海水魚とか、釣りたての淡水魚とか。俺が焼いても普通に美味い。酒があったら最高にあう味だった。

 けど、野菜とか植物関係の味がいまいちなんだ。日本で食べてた野菜と比べて、かなり青臭くて苦味が強いぞ、一度雷も生野菜食べてみろよ。子供じゃなくても野菜が嫌いになる味をしてるから。

 それをどれだけでも食えそうな美味いもんにしちまうんだから、スキルっていうもんはすげーよ」

 

 旭日の説明に思い当たることがあった雷は納得する。

 

「森で食ったものの味が相当なもんだったけど、もしかしたら普通はスキルで料理しなきゃ食えないもんなのかな。山の中で人の手が入ってないせいだからと思ったんだけど」

 

「だと思うぜ。ふつうのきのこなんかも魔物由来じゃないやつを除くと、スキルなしが調理するとエグい味になるらしい」

 

「きのこなんて最高の出汁になるだろ。はあ、不思議だな。というか、魔物由来のきのこはスキルなしが調理しても美味い味になるのか?」

 

「らしいぞぉ?。純粋な植物系統の食べ物の味は自然で育った山菜だろうがひとの手で育てた野菜だろうが、そのまま食べると味が悪い。けど、食べられる植物系の魔物から採れるものとなると、味はいいらしい。まだ食える野菜の魔物に会ったことはないけど、いつか食べ比べしてみたいな」

 

 まだ実際に見たことのない未知の魔物に対して楽しそうに笑う旭日。

 

「魔物……魔物も食えるのか……」

 

(二足歩行の大根の魔物とか、躍る人参とか、回転するきのことか、いろいろいたな。そういえば、ドロップアイテムは野菜だったな。食べるのか、食べられるんだな。ゲームでは食材アイテムだったもんな。え、現実でも食べるのか。俺が食べるのか)

 

 未知の食の異文化にやっと慣れ始めている雷に対して、積極的といえばいいのか前向きといえばいいのかそういうものを食べることに躊躇いがない旭日。それにすこしだけ雷は遠い目になる。

 

 冷静になって考えれば、いや、冷静にならなくても魔物を食すことに抵抗はあるが。

 

(ま、美味くて毒がなければ問題ないな)

 

 鼠だって食べれるのだしと、飢餓に鍛えられたメンタルによってその抵抗を雷は押し流した。

 

 2

 

「そういや、飯食ったあとのステータス確認したことあるか?」

「いいや」

 

 問いかけに首を振ると、「せっかくだから手帳を確認してみろ」と旭日に促される。

 

「見ろって言われても、邪魔になると思ったから持ってきてない」

 

 告げると、旭日はにやりと笑い、得意げな顔になる。

 

「探してみろ、あるから」

「あるって、そんなわけ……ある」

 

 雷は訝しげな顔をしながら、刻印(ルーン)を描いた石を詰めた袋に手をやる。そうすると、袋の布越しに石ではない感触が指先に返ってきた。恐々と手を突っ込むと、絶対に家においてきたはずの黒い手帳があった。なんだこれは、と雷は汗を滲ませ驚愕する。

 

「ゲームでもある絶対に捨てられない重要アイテムみたいな扱いなんじゃねーかなって思う。俺も家に置いてきたはずの手帳があって一回びびったからな」

 

 旭日は戸惑う雷にけらけらと笑ってみせた。

 

「うわ。なんだこれ、怖……」

 

 表情を強張らせながら、雷は指先でつまむように黒表紙の手帳を取り出す。

 魔法が使えて魔物が出る世界で、原理のわからないことにとやかく言っても無駄なのかもしれないが、ないはずのものがあるというのは単純にぞっとする。

 

 ステータスを見るよう勧められたこともあり、雷は中を見る。

 

(あれ、経験値100溜まってるな。あ、体や服洗うのにスライム倒したからか)

 

 魔物を倒したというよりも日常生活のひとつであったから、経験値がはいるということが頭から抜け切っていた。

 ちょうどぴったりレベルアップできるだけの経験値がたまっていて、雷は思いがけず嬉しくなる。自身の迂闊で気付かなかっただけのことでもあるが、戦闘に始まるまえに気づいたのだから問題ないだろう。

 

 ステータスの攻撃力の数値の脇に括弧付きで1が加算されている。それを確かめつつ、刻印騎士(ルーンナイト)に100ポイントを割り振ってレベルを上げた。

 

「攻撃力が1だけ上がってたな。あと、レベルを上げられる状態になってたからレベルアップした」

 

 レベルアップによって魔力が3上昇し、それ以外の項目が全て1だけ上昇する。全項目が上がると気分がいい。雷は自然と得意げになる。

 

「へえ、どれどれ」

 

 旭日は巨体をまるくかがめて雷の持つ手帳をのぞきこむ。

 

「魔力がやたら高いな」

 

 感心されるように旭日はいうが、雷の気は重くなって否定的に肩をすくめる。

 

「むしろ目立って高いのが魔力だけなのがな」

 

「魔法系ならそんなもんだろ」

 

 不満げに顔を顰める雷に、慰めるでもなくごく当然のことのように旭日はいう。気にすることか? と旭日は不思議そうにしている。

 

「魔法系だからっていってもなあ、攻撃魔法が使えれば数値を活かせたんだろうけど」

 

 森で遭難している最中、何度となく思ったことをまた蒸し返して雷は嘆息した。支援系の魔法使いというのは、ゲームではいいが現実では扱いにくくなかろうか。

 

「お前も椎名さんみたいにサポート系だもんな。いいだろうが、回復系。RPGには必須じゃん。それに、攻撃魔法が必要ならこれから覚えればいいだろうし」 

 

「これから、そうだな覚えたいな。でも、どうやって覚えるんだろうな。ゲームでは魔法はアイテムやクエストで習得できたけど、この世界だと本で勉強すればいいのか、誰かに習うのか……」

 

 ゲームでは画面越しにコマンドひとつで解決できたことが、架空の世界が現実となった今では実際に努力しなければならない予感がして、雷は今から気が遠くなる。

 

「そこらへんの情報収集も追々していかねーとな。楽しみだ」

 

 肩が落ちている旭日と違って、わからないことを既知にしていくこと期待している旭日の声はやけに明るかった。

 

 3

 

 遭遇した黒い小犬の群れを、旭日はこともなげに蹴り殺した。

 傍目には足を振っただけのようにも見えるのに、耳障りなくらいに骨を盛大に粉砕させ容易く内臓を潰し、たちまちのうちに命を奪った。

 

「武器すら使ってない……」

 

 雷は目をまるめながらその光景を見つめていた。

 巨躯から放たれる理不尽な一蹴に、雷は引き気味になる。一匹相手に手こずっていた雷とは雲泥の差だ。いや、ここまでくるともはや比べるのすらおこがましい。

 

「剣を叩き落とすのよりも楽だし、(はえ)ーだろ」

 

 歯を見せて豪快に笑う旭日に、さすが物理において最高のスペックを持つ種族だと雷は感心する。

 旭日は火力特化で紙装甲の踊り子(ダンサー)職業(クラス)と生産職の鍛治士(ブラックスミス)を取得している。旭日の選んだ竜人種族は物理攻撃と防御、体力に優れた種族だ。踊り子(ダンサー)は種族持ち前の攻撃力の長所を更に活かし、なおかつ防御力を低下させるデメリットを竜人なら補って余りあるから相性がいい。

 

「頼もしい限りだ」

 

 雷は心胆がじわじわと灼かれる羨ましさに駆られながらも、旭日の実力に感心する。彼が味方だとおもえば、非常に心強いのは確かなのだ。

 

 森の中を進んでいると、今度は毒鼠にでくわした。滑り光る頭が赤い鼠は、暴食ネズミと同じぐらいの大きさだが動きはより早い。毒鼠は雷たちの姿を認めるやいなや、数で襲いかかってくる。

 雷は固唾を呑みながら身構えた。何があってもいいように、解毒魔法が即座に使えるように心構える。

 対して旭日は抜き払った剣をたずさえて悠々と鼠を迎え撃った。今まで毒を警戒して戦いを避け続け、毒鼠とは初戦であったはずだ。しかし旭日は慣れない相手でてこずるなどという無様を見せることはいっさいなく、的確に鼠を潰していく。

 

「意外とあっけねーもんだな」

 

 撃ち漏らした一匹に体当たりをされたが、旭日は微動だにせずそれも潰した。拍子抜けした表情で旭日は得物を鞘に戻す。

 

「旭日がレベルのわりに強すぎるんじゃないか」

 

 雷は念の為に解毒魔法をかけてやる。

 

「そりゃ、職業(クラス)構成と種族と才能ガチャ、かなり時間かけてキャラクリエイトしたからな。でも、俺が強すぎるってことはねーと思うぜ。竜人の物理特化はこんなもんだろ。

 ここらの魔物が弱すぎるだけだろ」

 

 鼻にかけることなく旭日はあっけらかんといってのけた。

 

「弱すぎって……いや、まあ。旭日にとってはそうなんだろうな」

 

 ここで僻んでも仕方ない。雷はため息をのみこむ。

 

「おーおー。自分がうっかり弱いキャラ作っちまったからって俺に僻むなよ」

「僻んでない。いや、僻んでるけど、気づいてても図星指すなよこういうのはさあ!」

 

 からかってくる旭日に雷はたまらず声を張り上げた。

 その直後、背後で草木をかき分ける音がした。

 

「おっと。雷が騒ぐから魔物に気付かれて奇襲かけにきたな」

「俺のせいかよ! くそ、悪かったな! てか、楽しそうにいうな!」

 

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